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1 変わり果てた夫
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「何故お前みたいな女と結婚しなければならないんだ……」
「……」
結婚式の夜、夫婦の寝室で夫となった人は憎々しげに私を見つめてそう言った。
何故そこまで恨まれなければならないのか。
心当たりが無いわけでは無かった。
いや、むしろこうなるのはある程度予想がついていた。
――だって彼には、他に愛する人がいたから。
「いいか、私がお前を愛することは絶対に無い」
「はい、旦那様」
ただ頷くことしか出来なかった。
(一体どうしてこんなことになってしまったのかしら……)
元々私たちの婚約は政略的に結ばれたものだった。
決して愛し合っていたわけでは無かったが、それでも仲は良好のように思えた。
――彼女が彼の前に現れる、あの日までは。
「キャロラインを苦しめたお前を受け入れるなんて到底出来ないからな」
「……」
それだけ言うと、彼は上着を羽織って私に指一本触れること無く部屋から出て行った。
最低限の義務さえ果たさないつもりらしい。
「ハァ……」
一人になった部屋で思わずため息が漏れた。
キャロラインとは夫の愛する人の名前であり、現王太子妃でもある。
――キャロライン・リヒテル男爵令嬢
その名を聞いただけで貴族令嬢たちは眉をひそめるだろう。
私たちの通っていた学園で男爵令嬢キャロラインはとても有名な人物だった。
リヒテル男爵家の庶子であり、多くの高位貴族の令息を虜にした女。
私の夫であるアーノルドもそのうちの一人だった。
突如として学園に現れた彼女は、その愛らしい容姿で瞬く間に第一王子と公爵家の嫡男、騎士団長の息子と宰相の息子、そして王子の婚約者の弟である公爵令息までもを骨抜きにしてみせた。
当然、彼らには高位貴族の婚約者の令嬢がいたがそんなのはお構いなしだ。
学内では平然と行動を共にし、令嬢たちの注意にも全く聞く耳を持たなかった。
むしろ注意をした側が悪者扱いされてしまうという異例の事態にまでなったほどだ。
アーノルドが変わったのは彼女に出会ってからだった。
『いい加減にしてくれ!何故こうも彼女にキツく当たる必要があるんだ!』
『お前が裏で彼女にしていること、私が知らないとでも思ったか!』
『婚約者だからといって調子に乗るな!私が愛しているのはキャロラインだけだからな!』
かつて優しかったアーノルドは私を見るたびに罵詈雑言を浴びせるようになった。
それは他の婚約者の令嬢たちも同じだったようで、彼女の扱いに困り果てていた。
――そんな中で事件は起きた。
卒業パーティーで第一王子が婚約者である公爵令嬢に婚約破棄を言い渡したのだ。
それと同時にキャロラインを王太子妃にするということも。
ありもしない嫌がらせの罪を追及された公爵令嬢は最終的に修道院送りとなり、公爵家は償いとしてキャロラインを養女として迎え入れた。
それがここに至るまでの経緯だ。
第一王子の婚約者だったビアンカ様が婚約破棄される頃には既に私とアーノルドの仲は冷え切っていた。
それでもここまで冷遇されるとは予想外だったが。
(ビアンカ様をお守り出来なかったから……天罰が下ったのかしら……)
修道院へ送られた彼女の安否が気になって仕方が無かった。
ビアンカ様は美しく高潔で、身分を笠に着ることも無い優しい方だった。
そんな彼女が嫌がらせなどするはずが無い。
そんなことは分かっていたが、ただの侯爵家の令嬢である私が王家の決定に異を唱えることなど出来るわけがなかった。
そうして私はアーノルドと結婚した。
(私は……一生お飾りの妻として生きていくしかないのね……)
自分の人生にこれほど絶望したのは初めてだった。
「……」
結婚式の夜、夫婦の寝室で夫となった人は憎々しげに私を見つめてそう言った。
何故そこまで恨まれなければならないのか。
心当たりが無いわけでは無かった。
いや、むしろこうなるのはある程度予想がついていた。
――だって彼には、他に愛する人がいたから。
「いいか、私がお前を愛することは絶対に無い」
「はい、旦那様」
ただ頷くことしか出来なかった。
(一体どうしてこんなことになってしまったのかしら……)
元々私たちの婚約は政略的に結ばれたものだった。
決して愛し合っていたわけでは無かったが、それでも仲は良好のように思えた。
――彼女が彼の前に現れる、あの日までは。
「キャロラインを苦しめたお前を受け入れるなんて到底出来ないからな」
「……」
それだけ言うと、彼は上着を羽織って私に指一本触れること無く部屋から出て行った。
最低限の義務さえ果たさないつもりらしい。
「ハァ……」
一人になった部屋で思わずため息が漏れた。
キャロラインとは夫の愛する人の名前であり、現王太子妃でもある。
――キャロライン・リヒテル男爵令嬢
その名を聞いただけで貴族令嬢たちは眉をひそめるだろう。
私たちの通っていた学園で男爵令嬢キャロラインはとても有名な人物だった。
リヒテル男爵家の庶子であり、多くの高位貴族の令息を虜にした女。
私の夫であるアーノルドもそのうちの一人だった。
突如として学園に現れた彼女は、その愛らしい容姿で瞬く間に第一王子と公爵家の嫡男、騎士団長の息子と宰相の息子、そして王子の婚約者の弟である公爵令息までもを骨抜きにしてみせた。
当然、彼らには高位貴族の婚約者の令嬢がいたがそんなのはお構いなしだ。
学内では平然と行動を共にし、令嬢たちの注意にも全く聞く耳を持たなかった。
むしろ注意をした側が悪者扱いされてしまうという異例の事態にまでなったほどだ。
アーノルドが変わったのは彼女に出会ってからだった。
『いい加減にしてくれ!何故こうも彼女にキツく当たる必要があるんだ!』
『お前が裏で彼女にしていること、私が知らないとでも思ったか!』
『婚約者だからといって調子に乗るな!私が愛しているのはキャロラインだけだからな!』
かつて優しかったアーノルドは私を見るたびに罵詈雑言を浴びせるようになった。
それは他の婚約者の令嬢たちも同じだったようで、彼女の扱いに困り果てていた。
――そんな中で事件は起きた。
卒業パーティーで第一王子が婚約者である公爵令嬢に婚約破棄を言い渡したのだ。
それと同時にキャロラインを王太子妃にするということも。
ありもしない嫌がらせの罪を追及された公爵令嬢は最終的に修道院送りとなり、公爵家は償いとしてキャロラインを養女として迎え入れた。
それがここに至るまでの経緯だ。
第一王子の婚約者だったビアンカ様が婚約破棄される頃には既に私とアーノルドの仲は冷え切っていた。
それでもここまで冷遇されるとは予想外だったが。
(ビアンカ様をお守り出来なかったから……天罰が下ったのかしら……)
修道院へ送られた彼女の安否が気になって仕方が無かった。
ビアンカ様は美しく高潔で、身分を笠に着ることも無い優しい方だった。
そんな彼女が嫌がらせなどするはずが無い。
そんなことは分かっていたが、ただの侯爵家の令嬢である私が王家の決定に異を唱えることなど出来るわけがなかった。
そうして私はアーノルドと結婚した。
(私は……一生お飾りの妻として生きていくしかないのね……)
自分の人生にこれほど絶望したのは初めてだった。
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