婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの

文字の大きさ
9 / 37

9 第二王子

「二人とも、座ってくれ」
「はい、殿下」


中に入り、私たちは第二王子殿下の正面に二人並んで座った。


「突然のことでしたのに……快諾してくださってありがとうございます」
「気にしないでくれ、近頃の彼らには私も思うところがあったのは事実だから」


彼はそう言って柔らかく微笑んだ。


――第二王子グレイ


第一王子ナイゼルの腹違いの兄弟であり、学園では私たちの一つ下の学年にいた方だ。
あまり話したことは無いが兄であるナイゼルと違い、穏やかで優秀な方だと聞いている。
その正反対な性格のせいか、兄弟仲はあまり良くないという噂が立っていた。


(……まぁ、本当はもっと深い事情があるのだけれど)


グレイの母親は既に亡くなっている。
彼の母は国王陛下の幼い頃からの許嫁である高位貴族の令嬢だった。
しかし、国王は貴族たちの通う学園で子爵家の令嬢だった現王妃と恋に落ちてしまった。


(誰かさんとそっくりね、血は争えないということかしら)


王命によって決められた婚約を破棄するわけにはいかず、王は学園卒業後にグレイの母親とそのまま結婚した。
しかし現王妃を諦めることが出来なかった王は異例の速さで彼女を側妃にしたのだ。
それからは側妃を寵愛し、王妃を蔑ろにした。
その結果、側妃に先に子供が産まれ、その一年後に王妃も懐妊。


それが第一王子ナイゼルと第二王子グレイだった。
その後王妃は病にかかり、幼いグレイを残して亡くなってしまった。
正妃が亡くなった後、王は当然のように愛する側妃を王妃とした。


このような経緯で生まれた二人が仲の良い兄弟になんてなれるはずが無かった。


(ナイゼル殿下がああなったのはある意味あの二人のせいでもあるのよね)


王太子は幼い頃から夢見がちなところがあった。
自分も父のように愛する人と結婚するのだとよく語っていたという話をビアンカ様から聞いたことがある。
それで彼女との婚約を破棄し、愛するキャロラインを選んだのだろう。
当然、王子としてあるまじき行為だ。


「第二王子殿下、私たちの夫が今とんでもないことになっていまして」
「そうだな、貴族の男が愛人を囲うのは珍しいことではない。しかし、女が妊娠したときに厄介なことになるだろう」


既にルーナから話を聞いていたのか、彼が眉をひそめた。


「その通りです、誰の子かも分からない子供が産まれたら大変なことになりますわ」
「侯爵夫人の言う通りだ……どうすべきか……」


殿下が分かりやすく頭を抱えた。
そんな彼に、ルーナがある提案をした。


「厚かましいようですが、殿下から苦言を呈することは出来ないのでしょうか?」
「彼らは兄上の側近だからな。昔から私をあまり良く思っていない。私の言うことは聞き入れないだろう」
「そうですか……」


彼女はガックリと肩を落とした。


(その通りだわ……アーノルドはグレイ殿下の忠告なんて聞き入れないはず)


アーノルドは第二王子殿下のことを昔から嫌っていた。
自分より優秀な殿下を妬んでか、王太子と一緒になって彼を愚弄したりもしていたのだ。
今思えば、何故あんな人を好きになっていたのか分からない。


「対策を考える必要がありますね」
「ああ」


二人の会話が一度止まったのを確認した私は、間に割って入った。


「それと……殿下にもう一つ頼みがございます」
「何だ?」


殿下の視線がルーナから私に向けられた。


「――修道院へ送られたビアンカ様を王都へ戻したいのです」
「ビアンカを……」


ビアンカ様の名前を出した途端、彼の目が変わった。
何とも言えない複雑な表情だ。


(あら?王子殿下、もしかして……)


殿下はしばらくじっと黙り込むと、何かを決意したかのように顔を上げた。


「そうだな、彼女のことは私も気にかかっていた。尽力しよう」


その言葉に、私とルーナは顔を見合わせて笑った。


「感謝します、殿下!」
「ありがとうございます!」





あなたにおすすめの小説

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

始まりはよくある婚約破棄のように

喜楽直人
恋愛
「ミリア・ファネス公爵令嬢! 婚約者として10年も長きに渡り傍にいたが、もう我慢ならない! 父上に何度も相談した。母上からも考え直せと言われた。しかし、僕はもう決めたんだ。ミリア、キミとの婚約は今日で終わりだ!」 学園の卒業パーティで、第二王子がその婚約者の名前を呼んで叫び、周囲は固唾を呑んでその成り行きを見守った。 ポンコツ王子から一方的な溺愛を受ける真面目令嬢が涙目になりながらも立ち向い、けれども少しずつ絆されていくお話。 第一章「婚約者編」 第二章「お見合い編(過去)」 第三章「結婚編」 第四章「出産・育児編」 第五章「ミリアの知らないオレファンの過去編」連載開始

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」 「はあ?」 初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた? 脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ? なろう様でも公開中です。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

【完結】冤罪で殺された王太子の婚約者は100年後に生まれ変わりました。今世では愛し愛される相手を見つけたいと思っています。

金峯蓮華
恋愛
どうやら私は階段から突き落とされ落下する間に前世の記憶を思い出していたらしい。 前世は冤罪を着せられて殺害されたのだった。それにしても酷い。その後あの国はどうなったのだろう? 私の願い通り滅びたのだろうか? 前世で冤罪を着せられ殺害された王太子の婚約者だった令嬢が生まれ変わった今世で愛し愛される相手とめぐりあい幸せになるお話。 緩い世界観の緩いお話しです。 ご都合主義です。 *タイトル変更しました。すみません。

今日は私の結婚式

豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。 彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。

婚約者は王女殿下のほうがお好きなようなので、私はお手紙を書くことにしました。

豆狸
恋愛
「リュドミーラ嬢、お前との婚約解消するってよ」 なろう様でも公開中です。

【完結】元お義父様が謝りに来ました。 「婚約破棄にした息子を許して欲しい」って…。

BBやっこ
恋愛
婚約はお父様の親友同士の約束だった。 だから、生まれた時から婚約者だったし。成長を共にしたようなもの。仲もほどほどに良かった。そんな私達も学園に入学して、色んな人と交流する中。彼は変わったわ。 女学生と腕を組んでいたという、噂とか。婚約破棄、婚約者はにないと言っている。噂よね? けど、噂が本当ではなくても、真にうけて行動する人もいる。やり方は選べた筈なのに。