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23 エイミーの焦り
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(今頃ヴォーチェ公爵家へ行って全てを知っている頃かしら……)
王宮から戻った私は、自室で第二王子殿下が来るのを待っていた。
ナイゼル王子は愛した女の本性を知ってさぞ驚いていることだろう。
彼らにとってキャロラインは決して女神などでは無かった。
(これで全てが上手くいくと良いけれど……)
そんなことを考えながらじっとしていると、外が騒がしいことに気が付いた。
(……何の騒ぎかしら?)
気になった私は部屋を出て下の階へと降りた。
そのままエントランスまで行くと、見覚えのある女が髪を振り乱して暴れていた。
「いけません!ここをどこだと思っているのですか!」
「放しなさい!私はここの当主の愛人よ!!!このことがアーノルドにバレたらアンタたち全員ただでは済まないわよ!!!」
(あれは……)
私の存在に気付いた女はこちらを見て怒鳴った。
「ちょっとアンタ!!!どういうことよ!!!」
「……エイミー?」
アーノルドたちの愛人となったエイミーだった。
侍女の制止を振り切り、ズカズカとこちらへ歩いてくる彼女は前と違って随分と焦っているように見える。
「アンタ、アーノルドに何か言ったんでしょう!!!」
「……何の話かしら?」
エイミーの焦りのわけを知ってはいるものの、あえてとぼけることにした。
首をきょとんとかしげると、彼女は顔を真っ赤にして怒鳴り付けた。
「あれだけ私を愛していたアーノルドたちが突然別邸へ来なくなったのよ!!!アンタが何か言ったんでしょう!?」
「……」
彼女の予想は当たっている。
アーノルドたちがエイミーの元へ行かなくなるように裏で手を回したのは私だった。
しかし、今これをバラすわけにはいかない。
知っていながらもあえて知らないフリをした。
「まぁ……それは気の毒なこと……」
「ふざけんじゃないわよ!!!どういうことか説明しなさいよ!!!」
「説明しろと言われても、ねぇ……」
少し前まではあれほど余裕ぶっていたというのに、情けない。
「一人だけならまだしも、全員が来なくなるだなんて!アンタ何かしたんでしょ!」
「身に覚えが無いわね」
「嘘をつかないで!」
(正確には何かしたのは私ではなくてキャロラインよ)
おそらく彼女は何一つ知らないのだろう。
自分が何故アーノルドたちに愛されていたのか、彼らが本当に見ていたのは誰だったかという事実を。
少し可哀相にも思えるが、同情は出来ない。
だって彼女は――
「貴方、どうしてそんなに焦っているの?別に捨てられたところで死ぬわけでもないのに……」
「そりゃ焦るわよ!!!」
エイミーがアーノルドたちの庇護の下贅沢三昧の暮らしを送っていたことは知っている。
元々浪費癖があったようだが、愛人になってからはそれがさらに激しくなったようだ。
彼女は二度と平民の暮らしには戻れないだろう。
つまり、エイミーにとってアーノルドたちに捨てられるということは死刑宣告も同然だった。
「私がアーノルドに何か言ったところで意味は無いわ。知ってるでしょ?私たちは普通の夫婦ではないの。彼は私の忠告なんて聞き入れないわ」
「それなら一体誰が……」
エイミーが俯いた。
少し前までは私を嘲笑っていたというのに、今では彼女の方がずっと惨めだ。
「さぁ?他に良い女を見つけたからそっちに行ったのではなくて?」
「そんなことあるはずないわ!!!だってみんなあれだけ私のことを愛してくれて……」
(その愛は偽りのものなのよ)
アーノルドたちはいつだってエイミーにキャロラインを重ねていた。
彼らにとってエイミーはキャロラインの偽物であり、まがい物。
本物が戻ってこれば彼女は用済みなのである。
そのことをこれからしっかりと分かってもらわなければならない。
私は駆け付けた公爵邸の騎士にエイミーの捕縛を命じた。
「この者を別邸まで送ってさしあげて」
「はい、奥様」
私の命を受けた騎士がエイミーの腕を強く掴んだ。
「ちょっとやめて!放して!アーノルドに会わせてよ!」
エイミーは暴れながらも騎士によって呆気なく外へ連れ出された。
じっとその様子を見ていた使用人たちには仕事場へ戻るようにと指示した。
エントランスに残された私は、一人ニヤリと笑みを浮かべた。
(ふふ、計画は順調に進んでいるようね)
王宮から戻った私は、自室で第二王子殿下が来るのを待っていた。
ナイゼル王子は愛した女の本性を知ってさぞ驚いていることだろう。
彼らにとってキャロラインは決して女神などでは無かった。
(これで全てが上手くいくと良いけれど……)
そんなことを考えながらじっとしていると、外が騒がしいことに気が付いた。
(……何の騒ぎかしら?)
気になった私は部屋を出て下の階へと降りた。
そのままエントランスまで行くと、見覚えのある女が髪を振り乱して暴れていた。
「いけません!ここをどこだと思っているのですか!」
「放しなさい!私はここの当主の愛人よ!!!このことがアーノルドにバレたらアンタたち全員ただでは済まないわよ!!!」
(あれは……)
私の存在に気付いた女はこちらを見て怒鳴った。
「ちょっとアンタ!!!どういうことよ!!!」
「……エイミー?」
アーノルドたちの愛人となったエイミーだった。
侍女の制止を振り切り、ズカズカとこちらへ歩いてくる彼女は前と違って随分と焦っているように見える。
「アンタ、アーノルドに何か言ったんでしょう!!!」
「……何の話かしら?」
エイミーの焦りのわけを知ってはいるものの、あえてとぼけることにした。
首をきょとんとかしげると、彼女は顔を真っ赤にして怒鳴り付けた。
「あれだけ私を愛していたアーノルドたちが突然別邸へ来なくなったのよ!!!アンタが何か言ったんでしょう!?」
「……」
彼女の予想は当たっている。
アーノルドたちがエイミーの元へ行かなくなるように裏で手を回したのは私だった。
しかし、今これをバラすわけにはいかない。
知っていながらもあえて知らないフリをした。
「まぁ……それは気の毒なこと……」
「ふざけんじゃないわよ!!!どういうことか説明しなさいよ!!!」
「説明しろと言われても、ねぇ……」
少し前まではあれほど余裕ぶっていたというのに、情けない。
「一人だけならまだしも、全員が来なくなるだなんて!アンタ何かしたんでしょ!」
「身に覚えが無いわね」
「嘘をつかないで!」
(正確には何かしたのは私ではなくてキャロラインよ)
おそらく彼女は何一つ知らないのだろう。
自分が何故アーノルドたちに愛されていたのか、彼らが本当に見ていたのは誰だったかという事実を。
少し可哀相にも思えるが、同情は出来ない。
だって彼女は――
「貴方、どうしてそんなに焦っているの?別に捨てられたところで死ぬわけでもないのに……」
「そりゃ焦るわよ!!!」
エイミーがアーノルドたちの庇護の下贅沢三昧の暮らしを送っていたことは知っている。
元々浪費癖があったようだが、愛人になってからはそれがさらに激しくなったようだ。
彼女は二度と平民の暮らしには戻れないだろう。
つまり、エイミーにとってアーノルドたちに捨てられるということは死刑宣告も同然だった。
「私がアーノルドに何か言ったところで意味は無いわ。知ってるでしょ?私たちは普通の夫婦ではないの。彼は私の忠告なんて聞き入れないわ」
「それなら一体誰が……」
エイミーが俯いた。
少し前までは私を嘲笑っていたというのに、今では彼女の方がずっと惨めだ。
「さぁ?他に良い女を見つけたからそっちに行ったのではなくて?」
「そんなことあるはずないわ!!!だってみんなあれだけ私のことを愛してくれて……」
(その愛は偽りのものなのよ)
アーノルドたちはいつだってエイミーにキャロラインを重ねていた。
彼らにとってエイミーはキャロラインの偽物であり、まがい物。
本物が戻ってこれば彼女は用済みなのである。
そのことをこれからしっかりと分かってもらわなければならない。
私は駆け付けた公爵邸の騎士にエイミーの捕縛を命じた。
「この者を別邸まで送ってさしあげて」
「はい、奥様」
私の命を受けた騎士がエイミーの腕を強く掴んだ。
「ちょっとやめて!放して!アーノルドに会わせてよ!」
エイミーは暴れながらも騎士によって呆気なく外へ連れ出された。
じっとその様子を見ていた使用人たちには仕事場へ戻るようにと指示した。
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