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一章

予期せぬ再会

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(どこに行こうかな……)


私はミリアと一緒に王都の街を歩いていた。


ちなみに私とミリアは今事前に用意しておいた平民の服に身を包んでいる。
普段着として着ているドレスは歩きにくいし、何より私が貴族だとバレるわけにはいかないからだ。


(もしバレたら犯罪者集団に狙われてしまうかもしれないしね……)


王都は他の町に比べると人が多く発展しているが、治安はハッキリ言ってかなり悪い。
暴漢に人攫い。
気が付いたら物が無くなっていたとか、王都ではよくある話だ。


だからこそ貴族がお忍びで訪れるときは必ず平民のふりをするのだ。
それでも貴族特有のオーラがあって結局周りからバレてしまう者もいるらしいが。


そんなことを考えながらも私たちは王都の街を歩き続ける。


「……」


(懐かしいなぁ……)


幼い頃、ここに来たときと同じで本当に華やかで自由な町だ。
たくさんの店が立ち並び、平民の子供たちが通りで遊んでいる。
ここにいると何だか自分まで自由になれたかのような気分になる。


(…………そんなわけがないのにね)


今世でも私は色々なものに縛られている。
現に私が王太子の婚約者であることもそのうちも一つだ。
王太子の婚約者、つまり未来の王妃だ。
貴族令嬢なら誰もが憧れる地位だろうが今の私にとってはただの足枷でしかない。
自分を最も縛り付けているもの。


そして、こんなことを思っている私は本当に王妃に相応しくないなとも思う。
私は、本当に王妃になりたい人がなるべきだと考えている。
その方が殿下にとっても国民にとってもいいはずだ。


そこまで考えてハッとなった。


(…………!私ったら、何を考えているの。せっかく王都に来たのだから考えるのはやめにしましょう)


私はそう思い、後ろを歩いていたミリアに声をかけた。


「ミリア、私お腹が空いたわ」
「セシリア様、少し前に朝食を食べたばかりではないですか」


ミリアのその言葉に私はギクリとした。
前世では気付かなかったがどうやら私はかなり食いしん坊だったらしい。


「も、もう消化しちゃったの!」


私は慌ててそう言った。
ミリアはそんな私を見てクスクスと笑っている。


「そうですか、では王都で有名なお店でご飯を食べましょうか」
「有名なお店?」
「はい、ここから少し歩いたところにあるんですよ」
「へぇ~ミリア、王都について詳しいのね」
「まぁ、たまに行きますからね」


そのまま私は先を歩くミリアについて行った。


ミリアが私を連れて来たのは本当にすぐ近くにある古びたお店だった。


「セシリア様、ここがそのお店です」


ミリアが店の方を指差した。


「ここがそのお店なのね……かなり古いけれど大丈夫かしら?」
「全然大丈夫ですよ!王都ではわりと有名なお店ですから」


ミリアは私の問いに笑顔で答えた。
ミリアはこの店のことをよく知っているようだった。
何度か来たことがあるのだろうか。


(…………そこまで言うなら入ってみよう)


不安を感じながらも私はミリアと一緒に店内へと入っていく。
驚くことに、中は思ったよりも綺麗だった。


「中は意外と綺麗なのね」
「はい、そうなんですよ!素敵な内観でしょう?」


私たちが席に座ると奥から店の人が出てくる。


「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」


私はメニュー表に目を通した。
たしかにどれも美味しそうである。


(何を頼もうかな……あっ、このランチセット美味しそう!)


「セシリア様、我慢してください。ここで食べすぎると他のお店に行けなくなりますよ?」
「むうぅ……」


ミリアに心の中を読まれて行動を阻止された。
本当に彼女には敵わない。


「セシリア様、軽めのものにしましょうか」
「……分かったわ」


私は渋々ミリアの提案に頷いた。


「それでは、このサンドイッチを一つお願いします」
「かしこまりました」


注文を受けた店の人は奥へと入っていく。


しばらくしてサンドイッチがテーブルに運ばれてくる。
私とミリア二人で一つだ。


(すぐに食べ終わってしまいそう)


私は食べたいものを頼めなかったことを不満に思いながらもサンドイッチを口に運ぶ。


「美味しい……」


サンドイッチを一口食べてみて驚いた。
ミリアの言った通り本当に美味しかったからだ。
これなら公爵邸のシェフにも負けないだろう。


(こんなに美味しいお店があっただなんて!今度またここに来よう)


今世では自由に生きると決めている。
どうせなら好きなことをたくさんしたい。
美味しいものもたくさん食べたい。


私のその言葉を聞いたミリアが笑顔になる。


「お口に合って何よりです」
「ええ、本当に美味しいわ。ありがとう、ミリア」


結局、二人で一つと言いながらサンドイッチは私がほとんど食べてしまった。


サンドイッチを食べ終えた私たちは代金を払って店を出た。
私とミリアは再び王都の街を歩いていた。


「なかなか美味しかったわ」
「ふふ。セシリア様一人でほとんど平らげてましたもんね」
「もう、うるさいわね」


そんなことを口にしながら、二人で笑い合った。


ああ、こんな楽しい日々が続けばいいのになと思う。
本当は結婚なんてしたくない。
公爵邸の優しい使用人達とずっと公爵邸で暮らしていたい。


私はそんなことを考えながら王都の町を見渡してみる。


(今はこんな風になっているのね……)


前に来たときとは少し違うような気がする。
それでもここが本当に素敵な場所であることはたしかだが。


(……………ん?誰だろうあれ……)


そこで私は王都の町の中にいたフードをかぶっている少年に目を惹かれた。
どこかで見たことがあるような、無いような、そんな感じがした。
自分でも何故だか分からない。


(……………まさか、そんなはずないわよね)


背丈や後ろ姿が私のよく知るある人と似ていた。


「…………………ッ!!!」


その人物の顔を見た瞬間、私の体は動かなくなった。
いるはずのない人物がそこにいたからだ。


その人物は私と目が合うと忌々しそうにこちらを見た。
この視線は初めてではなかった。
前世で何度も何度も向けられた目。
この目を向けられるたびに苦しくて悲しくて仕方がなかった。


(どうしてなの……どうして……ここに……)












殿下がいるの――!?



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