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一章
誕生日
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「お嬢様!十四歳の誕生日おめでとうございます!」
フォンド侯爵夫人とのお茶会から数日経ったある日のことだった。
公爵邸の使用人たちが明るい笑顔で部屋にいた私に対して言った。
「ありがとう、みんな」
そう、今日は私の十四歳の誕生日である。
前世では誕生日などろくに祝ってもらったことがなかった。
お父様はいつも帰ってこないし、殿下からの贈り物も無かった。
使用人たちに関しては、最初の頃は祝おうとしてくれていたみたいだが私が勉強が忙しいと断って以来ずっとしていなかった。
私は去年ミリアに言われるまでこの日が自分の誕生日であるということにすら気付いていなかった。
普通なら、公爵令嬢が誕生日を迎えた際には邸にたくさんの貴族を招待し、盛大な誕生会を開くものだが私はそんなこと望んでいない。
私にとっては使用人や友人たちが祝ってくれるだけで十分だった。
(…………誕生日を祝われるなんて、そんな日が来るとは思わなかったわ)
殿下やお父様が私の誕生日を祝ってくれたことは無い。
だけどこうして祝われるとやはり嬉しいし、とても気持ちがいいものだ。
「お嬢様、これは私からのプレゼントです!」
「ちょっと!私が先にお嬢様に渡すのよ!」
「お嬢様、私からのも受け取ってください!」
公爵邸の使用人たちは我先にと私にプレゼントを渡そうとする。
(す、すごい戦いね……)
目の前では物凄い戦いが繰り広げられていた。
「ありがとう、みんな。もう、ちゃんと全員分受け取るから喧嘩しないで」
私は使用人からのプレゼントを一つずつしっかりと受け取っていく。
綺麗にラッピングされた箱。何が入っているのか楽しみだ。
彼らは私が何を好むのかをよく知っている。
去年も私の欲しいものを見事に当ててきたのだ。
(………まぁ、ミリアたちからなら中身が何だろうと嬉しいけどね)
すると、最後にプレゼントを渡した使用人が私に言った。
「お嬢様、今年もご友人たちからのプレゼントが届いていますよ」
「あら、そうなの?楽しみだわ!」
去年もマリアンヌ様たちは私の誕生日にプレゼントをくれた。
初めてそれを見たときはかなり驚いたものだ。
友人の誕生日にプレゼントを贈るのは当然のことだが、そんな経験など一度も無かった私は泣きそうになってしまった。
(………まさか誕生日に泣くとは思わなかったけどね)
前世でよく流した涙とは違う涙。
嬉しくて泣いてしまうことなど初めてだ。
「これはフォンド侯爵家のマリアンヌ様からで……こっちはコール伯爵家の…………って、あれ?」
私宛てに贈られたプレゼントを分けていた使用人が一つの箱を手に動きを止めた。
「どうかしたの?」
私は使用人に尋ねた。
「この箱……………一体誰からだろう?」
そう言いながら送り主を確認した使用人がひどく驚いた顔をした。
「お嬢様……………これ、王太子殿下からですよ!!!」
(…………………え?)
一瞬聞き間違いかと思った。
私は王太子殿下に贈り物をされたことは一度も無い。
本当なら、婚約者の誕生日にプレゼントを贈らないなどありえないことだが彼の方が身分は上なので誰も何も言えないのだ。
去年も前世と同じで王太子殿下からのプレゼントは無かった。
だから今年もきっと来ないのだろうと思っていた。
それなのに――
(嘘でしょう……?急にどうして……?)
私はにわかには信じられず、使用人に尋ねた。
「えーと……何かの間違いではなくて?」
使用人は私の問いに対して首をぶんぶんと横に振って言った。
「いえ、間違いなく王太子殿下からです。王家の紋章も入っていますし」
「な、なんですって――!?」
使用人が指差した箇所にはたしかにオルレリアン王家の紋章が入っていた。
それが意味するのはただ一つ。
その箱は正真正銘殿下からの贈り物だということだ。
それを聞いた周りの使用人たちは口々に言う。
「……王太子殿下からだって?今まで一度もお嬢様に誕生日の贈り物をしてこなかったくせに急に何故……!」
「まさか、今さらお嬢様と仲良くしようとしているのかしら?」
「あんなに酷い態度を取っていたくせに、図々しいわ!」
どうやらフルール公爵邸の使用人たちはみんな王太子殿下が嫌いなようだ。
今までは私が殿下に恋をしていたからあまり堂々と言えなかったのだろう。
心の中では私に冷たく接する殿下を良く思っていなかったらしい。
(……まぁ、実際それぐらい酷い態度だものね)
私は前世であんな目に遭わされているのだから殿下を庇うつもりは毛頭ない。
しかし、このままでは埒が明かない。
「まぁまぁ、みんな落ち着いて。とりあえず箱を開けてみましょう」
私はみんなを落ち着かせ、箱の中身を見てみることにした。
私の言葉に使用人たちの視線が一斉に手元の箱に集まった。
私は綺麗にラッピングされた箱のリボンを丁寧にほどいていく。
(……何が入ってるんだろう)
殿下からの初めての贈り物なので少しだけドキドキしていた。
「これは……」
箱の中に入っていたのは髪飾りだった。
中心には大きな青い宝石が埋め込まれている。
一体いくらするのだろうかと思ってしまうほどに大きな宝石だ。
(この宝石、なんだか殿下の瞳みたい……)
髪飾りに埋め込まれている青い宝石は、殿下の瞳の色に似ていた。
私はそのことに気付いて困惑した。
婚約者に自分の瞳の色と同じ色の物を贈るというのはよくあることだが、私と殿下はそのようなことをするほど仲が良いわけではない。
大体殿下は私を嫌っている。
「……殿下は何を考えているのでしょうか」
髪飾りを見てそう言ったのはミリアだ。
彼女は髪飾りを訝しげに見つめている。
周りにいた使用人たちもミリアに同調した。
「そうです!こんな婚約者に対して贈るようなものをお嬢様にプレゼントするなんて!」
(いや、私は一応婚約者なのだけれど……)
「お嬢様は俺のものだっていうアピールがしたいんですかね?」
(いや、殿下はそんなこと考えないと思う……)
使用人たちは王太子殿下をかなり警戒しているようだ。
本音を言えば私も彼らと同じ気持ちだが、贈り物をもらっておいて着けないというのは失礼にあたる。
(…………相手が貴族なら適当に理由をつけて逃げられるけれど、王子ならそうもいかないわね)
「これは次の殿下とのお茶会の日に着けていくことにするわ」
私はそう言って髪飾りを箱に閉まい、机の上に置いた。
今世の殿下の様子には困惑してばかりだ。
「さて、次は……」
次のプレゼントを開封しようとしたそのとき、部屋の扉が勢いよく開かれた。
「お嬢様!大変です!」
そう言って入ってきたのは数分前に部屋を出て行った侍女だった。
彼女はかなり焦った顔をしていた。
「そんなに慌ててどうかしたの?何かトラブル?」
私が尋ねると、彼女は真剣な顔で言った。
「………………旦那様が、お帰りになられました!!!」
その言葉に、部屋中がシーンとなる。
私はというと、頭が真っ白になった。
(………………え?………………………う、嘘でしょう!?!?!?)
フォンド侯爵夫人とのお茶会から数日経ったある日のことだった。
公爵邸の使用人たちが明るい笑顔で部屋にいた私に対して言った。
「ありがとう、みんな」
そう、今日は私の十四歳の誕生日である。
前世では誕生日などろくに祝ってもらったことがなかった。
お父様はいつも帰ってこないし、殿下からの贈り物も無かった。
使用人たちに関しては、最初の頃は祝おうとしてくれていたみたいだが私が勉強が忙しいと断って以来ずっとしていなかった。
私は去年ミリアに言われるまでこの日が自分の誕生日であるということにすら気付いていなかった。
普通なら、公爵令嬢が誕生日を迎えた際には邸にたくさんの貴族を招待し、盛大な誕生会を開くものだが私はそんなこと望んでいない。
私にとっては使用人や友人たちが祝ってくれるだけで十分だった。
(…………誕生日を祝われるなんて、そんな日が来るとは思わなかったわ)
殿下やお父様が私の誕生日を祝ってくれたことは無い。
だけどこうして祝われるとやはり嬉しいし、とても気持ちがいいものだ。
「お嬢様、これは私からのプレゼントです!」
「ちょっと!私が先にお嬢様に渡すのよ!」
「お嬢様、私からのも受け取ってください!」
公爵邸の使用人たちは我先にと私にプレゼントを渡そうとする。
(す、すごい戦いね……)
目の前では物凄い戦いが繰り広げられていた。
「ありがとう、みんな。もう、ちゃんと全員分受け取るから喧嘩しないで」
私は使用人からのプレゼントを一つずつしっかりと受け取っていく。
綺麗にラッピングされた箱。何が入っているのか楽しみだ。
彼らは私が何を好むのかをよく知っている。
去年も私の欲しいものを見事に当ててきたのだ。
(………まぁ、ミリアたちからなら中身が何だろうと嬉しいけどね)
すると、最後にプレゼントを渡した使用人が私に言った。
「お嬢様、今年もご友人たちからのプレゼントが届いていますよ」
「あら、そうなの?楽しみだわ!」
去年もマリアンヌ様たちは私の誕生日にプレゼントをくれた。
初めてそれを見たときはかなり驚いたものだ。
友人の誕生日にプレゼントを贈るのは当然のことだが、そんな経験など一度も無かった私は泣きそうになってしまった。
(………まさか誕生日に泣くとは思わなかったけどね)
前世でよく流した涙とは違う涙。
嬉しくて泣いてしまうことなど初めてだ。
「これはフォンド侯爵家のマリアンヌ様からで……こっちはコール伯爵家の…………って、あれ?」
私宛てに贈られたプレゼントを分けていた使用人が一つの箱を手に動きを止めた。
「どうかしたの?」
私は使用人に尋ねた。
「この箱……………一体誰からだろう?」
そう言いながら送り主を確認した使用人がひどく驚いた顔をした。
「お嬢様……………これ、王太子殿下からですよ!!!」
(…………………え?)
一瞬聞き間違いかと思った。
私は王太子殿下に贈り物をされたことは一度も無い。
本当なら、婚約者の誕生日にプレゼントを贈らないなどありえないことだが彼の方が身分は上なので誰も何も言えないのだ。
去年も前世と同じで王太子殿下からのプレゼントは無かった。
だから今年もきっと来ないのだろうと思っていた。
それなのに――
(嘘でしょう……?急にどうして……?)
私はにわかには信じられず、使用人に尋ねた。
「えーと……何かの間違いではなくて?」
使用人は私の問いに対して首をぶんぶんと横に振って言った。
「いえ、間違いなく王太子殿下からです。王家の紋章も入っていますし」
「な、なんですって――!?」
使用人が指差した箇所にはたしかにオルレリアン王家の紋章が入っていた。
それが意味するのはただ一つ。
その箱は正真正銘殿下からの贈り物だということだ。
それを聞いた周りの使用人たちは口々に言う。
「……王太子殿下からだって?今まで一度もお嬢様に誕生日の贈り物をしてこなかったくせに急に何故……!」
「まさか、今さらお嬢様と仲良くしようとしているのかしら?」
「あんなに酷い態度を取っていたくせに、図々しいわ!」
どうやらフルール公爵邸の使用人たちはみんな王太子殿下が嫌いなようだ。
今までは私が殿下に恋をしていたからあまり堂々と言えなかったのだろう。
心の中では私に冷たく接する殿下を良く思っていなかったらしい。
(……まぁ、実際それぐらい酷い態度だものね)
私は前世であんな目に遭わされているのだから殿下を庇うつもりは毛頭ない。
しかし、このままでは埒が明かない。
「まぁまぁ、みんな落ち着いて。とりあえず箱を開けてみましょう」
私はみんなを落ち着かせ、箱の中身を見てみることにした。
私の言葉に使用人たちの視線が一斉に手元の箱に集まった。
私は綺麗にラッピングされた箱のリボンを丁寧にほどいていく。
(……何が入ってるんだろう)
殿下からの初めての贈り物なので少しだけドキドキしていた。
「これは……」
箱の中に入っていたのは髪飾りだった。
中心には大きな青い宝石が埋め込まれている。
一体いくらするのだろうかと思ってしまうほどに大きな宝石だ。
(この宝石、なんだか殿下の瞳みたい……)
髪飾りに埋め込まれている青い宝石は、殿下の瞳の色に似ていた。
私はそのことに気付いて困惑した。
婚約者に自分の瞳の色と同じ色の物を贈るというのはよくあることだが、私と殿下はそのようなことをするほど仲が良いわけではない。
大体殿下は私を嫌っている。
「……殿下は何を考えているのでしょうか」
髪飾りを見てそう言ったのはミリアだ。
彼女は髪飾りを訝しげに見つめている。
周りにいた使用人たちもミリアに同調した。
「そうです!こんな婚約者に対して贈るようなものをお嬢様にプレゼントするなんて!」
(いや、私は一応婚約者なのだけれど……)
「お嬢様は俺のものだっていうアピールがしたいんですかね?」
(いや、殿下はそんなこと考えないと思う……)
使用人たちは王太子殿下をかなり警戒しているようだ。
本音を言えば私も彼らと同じ気持ちだが、贈り物をもらっておいて着けないというのは失礼にあたる。
(…………相手が貴族なら適当に理由をつけて逃げられるけれど、王子ならそうもいかないわね)
「これは次の殿下とのお茶会の日に着けていくことにするわ」
私はそう言って髪飾りを箱に閉まい、机の上に置いた。
今世の殿下の様子には困惑してばかりだ。
「さて、次は……」
次のプレゼントを開封しようとしたそのとき、部屋の扉が勢いよく開かれた。
「お嬢様!大変です!」
そう言って入ってきたのは数分前に部屋を出て行った侍女だった。
彼女はかなり焦った顔をしていた。
「そんなに慌ててどうかしたの?何かトラブル?」
私が尋ねると、彼女は真剣な顔で言った。
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