36 / 127
一章
心境の変化
しおりを挟む
その翌日。
「これは……一体何の……」
朝一番、私は目の前にあるリボンが掛けられた小さな箱を見て目をパチクリさせた。
これはついさっき侍女であるミリアから受け取ったものだ。
私宛てに贈り物が届いていたようなのである。
ただそれだけなら、これほどまでに驚きはしない。
私が驚きを隠せなかったのは、贈り物の差出人が国王陛下だったからである。
(どうして私にプレゼントを……?)
前世でもこんなことは一度も無かった。
不思議に思いながらも、私は慎重に箱にかけられたリボンを解いた。
警戒心を強めながら、そっと箱を開けていく。
中から出てきたのはブレスレットだった。
「……」
国王陛下から贈られたブレスレットは異色な輝きを放っていた。
美しい紫色であったが、今の私にとっては何故かそれが禍々しいもののように感じた。
贈られたブレスレットに手を触れると、何故だか変な感覚に陥った。
(この感じは一体何……?何だか気持ち悪いわ……)
私はブレスレットを一旦机の上に置き、同封されていた手紙に目を通した。
国王陛下が直接書いたのであろう文が目に入った。
『昨日は驚かせて悪かったな。
これはせめてものお詫びだ。
また今度もう一度お茶会に誘わせてくれ。
君は将来私の娘になるのだから。
アルベルト』
アルベルトとは国王陛下の名前である。
一見、息子の婚約者を気遣う優しい義父のように見える文章だ。
しかしその手紙を見た私は、妙な気味の悪さを感じた。
「……」
私はすぐに陛下から貰ったブレスレットを箱に閉まってドレスルームの一番奥に押し込んだ。
以前の私ならきっとありがたく着けていただろう。
しかし今の私には、とてもじゃないがそうすることが出来なかった。
そしてこの先陛下からお茶会に誘われたとしても、きっと行くことは無いだろう。
礼儀上、お礼の手紙だけは書かなければならなかったが。
『素敵な贈り物をありがとうございます、陛下』
不思議とそれ以上の言葉は思い付かなかった。
前世では私にとって国王陛下は恩人だった。
親からも婚約者からも愛されていない私に、唯一優しくしてくれた人だったから。
だけど今は?
「……」
よく分からない。
自分があの人に対してどのような感情を抱いているのか。
――『もう父上とは茶会をするな。二人きりで会うのもダメだ』
「……!」
そこで私の頭をよぎったのは、昨日殿下に言われた言葉だった。
殿下の言うことをこんなにも素直に聞いている自分に驚いた。
少し前の私なら、殿下よりも陛下を信じていたはずだから。
(本当に、どうしちゃったんだろう……)
あのときの殿下の瞳に、嘘は無かったように思える。
前世の殿下と、今世の殿下は明らかに違う。
それはもう十分すぎるくらい分かりきっていた。
自分が何をしたいのか。
私はこのとき、どうしてもその答えを見つけることが出来なかった。
***
国王陛下とお茶会をしてから一週間が経った。
あれからというもの、何度か国王陛下からのお茶会の誘いが来たが殿下に言われた通り全て欠席した。
何の理由もなく国王の誘いを断るだなんて、本当なら下に付く者として不敬極まりないことである。
しかし、フルール公爵家は王国の中でも超が付くほどの名門だ。
いくら国王陛下とはいえ敵に回したくはないのか、特に罰せられたりはしなかった。
お父様も相変わらず私に無関心なようで、小言を言われることも無かった。
それに関してはひとまず安心だ。
(それにしても、たった一週間のうちにこんなにも招待状を送ってくるだなんて……)
本当にどうかしている。
忠告を受けたあの日から私は殿下にも陛下にも一度も会っていなかった。
私は王太子殿下の婚約者である。
王宮に行こうと思えば行ける身分ではあったが、どうも行く気にはなれなかった。
理由はただ一つ。
国王陛下にどうしても会いたくなかったから。
それは、お茶会を仮病で休んでいるという罪悪感から来るものだろうか。
それとも……
「……」
そこで私の頭の中に浮かんだのは、ある思いだった。
(グレイフォード殿下に……会いたいな……)
こんなにも不安な日は、彼に傍にいてほしかった。
いつもみたいに私の隣で軽口を叩いていてほしい。
それだけで何故だか安心出来るから。
「……!」
そこで私はハッとなった。
(私ったら、一体何考えているの!?)
私はすぐに慌ててその気持ちを脳内からかき消した。
これは抱いてはいけない思いだ。
またあのような辛い人生を歩むことになってしまうのだけは御免である。
(本当に最近の私はどうかしているみたいね……きっと部屋に引きこもりがちになっているからだわ)
そう思った私は、気分転換のために外へ出た。
「これは……一体何の……」
朝一番、私は目の前にあるリボンが掛けられた小さな箱を見て目をパチクリさせた。
これはついさっき侍女であるミリアから受け取ったものだ。
私宛てに贈り物が届いていたようなのである。
ただそれだけなら、これほどまでに驚きはしない。
私が驚きを隠せなかったのは、贈り物の差出人が国王陛下だったからである。
(どうして私にプレゼントを……?)
前世でもこんなことは一度も無かった。
不思議に思いながらも、私は慎重に箱にかけられたリボンを解いた。
警戒心を強めながら、そっと箱を開けていく。
中から出てきたのはブレスレットだった。
「……」
国王陛下から贈られたブレスレットは異色な輝きを放っていた。
美しい紫色であったが、今の私にとっては何故かそれが禍々しいもののように感じた。
贈られたブレスレットに手を触れると、何故だか変な感覚に陥った。
(この感じは一体何……?何だか気持ち悪いわ……)
私はブレスレットを一旦机の上に置き、同封されていた手紙に目を通した。
国王陛下が直接書いたのであろう文が目に入った。
『昨日は驚かせて悪かったな。
これはせめてものお詫びだ。
また今度もう一度お茶会に誘わせてくれ。
君は将来私の娘になるのだから。
アルベルト』
アルベルトとは国王陛下の名前である。
一見、息子の婚約者を気遣う優しい義父のように見える文章だ。
しかしその手紙を見た私は、妙な気味の悪さを感じた。
「……」
私はすぐに陛下から貰ったブレスレットを箱に閉まってドレスルームの一番奥に押し込んだ。
以前の私ならきっとありがたく着けていただろう。
しかし今の私には、とてもじゃないがそうすることが出来なかった。
そしてこの先陛下からお茶会に誘われたとしても、きっと行くことは無いだろう。
礼儀上、お礼の手紙だけは書かなければならなかったが。
『素敵な贈り物をありがとうございます、陛下』
不思議とそれ以上の言葉は思い付かなかった。
前世では私にとって国王陛下は恩人だった。
親からも婚約者からも愛されていない私に、唯一優しくしてくれた人だったから。
だけど今は?
「……」
よく分からない。
自分があの人に対してどのような感情を抱いているのか。
――『もう父上とは茶会をするな。二人きりで会うのもダメだ』
「……!」
そこで私の頭をよぎったのは、昨日殿下に言われた言葉だった。
殿下の言うことをこんなにも素直に聞いている自分に驚いた。
少し前の私なら、殿下よりも陛下を信じていたはずだから。
(本当に、どうしちゃったんだろう……)
あのときの殿下の瞳に、嘘は無かったように思える。
前世の殿下と、今世の殿下は明らかに違う。
それはもう十分すぎるくらい分かりきっていた。
自分が何をしたいのか。
私はこのとき、どうしてもその答えを見つけることが出来なかった。
***
国王陛下とお茶会をしてから一週間が経った。
あれからというもの、何度か国王陛下からのお茶会の誘いが来たが殿下に言われた通り全て欠席した。
何の理由もなく国王の誘いを断るだなんて、本当なら下に付く者として不敬極まりないことである。
しかし、フルール公爵家は王国の中でも超が付くほどの名門だ。
いくら国王陛下とはいえ敵に回したくはないのか、特に罰せられたりはしなかった。
お父様も相変わらず私に無関心なようで、小言を言われることも無かった。
それに関してはひとまず安心だ。
(それにしても、たった一週間のうちにこんなにも招待状を送ってくるだなんて……)
本当にどうかしている。
忠告を受けたあの日から私は殿下にも陛下にも一度も会っていなかった。
私は王太子殿下の婚約者である。
王宮に行こうと思えば行ける身分ではあったが、どうも行く気にはなれなかった。
理由はただ一つ。
国王陛下にどうしても会いたくなかったから。
それは、お茶会を仮病で休んでいるという罪悪感から来るものだろうか。
それとも……
「……」
そこで私の頭の中に浮かんだのは、ある思いだった。
(グレイフォード殿下に……会いたいな……)
こんなにも不安な日は、彼に傍にいてほしかった。
いつもみたいに私の隣で軽口を叩いていてほしい。
それだけで何故だか安心出来るから。
「……!」
そこで私はハッとなった。
(私ったら、一体何考えているの!?)
私はすぐに慌ててその気持ちを脳内からかき消した。
これは抱いてはいけない思いだ。
またあのような辛い人生を歩むことになってしまうのだけは御免である。
(本当に最近の私はどうかしているみたいね……きっと部屋に引きこもりがちになっているからだわ)
そう思った私は、気分転換のために外へ出た。
473
あなたにおすすめの小説
冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
私を見ないあなたに大嫌いを告げるまで
木蓮
恋愛
ミリアベルの婚約者カシアスは初恋の令嬢を想い続けている。
彼女を愛しながらも自分も言うことを聞く都合の良い相手として扱うカシアスに心折れたミリアベルは自分を見ない彼に別れを告げた。
「今さらあなたが私をどう思っているかなんて知りたくもない」
婚約者を信じられなかった令嬢と大切な人を失ってやっと現実が見えた令息のお話。
白い結婚を終えて自由に生きてまいります
なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。
忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。
「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」
「白い結婚ですか?」
「実は俺には……他に愛する女性がいる」
それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。
私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた
――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。
ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。
「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」
アロルド、貴方は何を言い出すの?
なにを言っているか、分かっているの?
「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」
私の答えは決まっていた。
受け入れられるはずがない。
自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。
◇◇◇
設定はゆるめです。
とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。
もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!
【完結】愛してました、たぶん
たろ
恋愛
「愛してる」
「わたしも貴方を愛しているわ」
・・・・・
「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」
「いつまで待っていればいいの?」
二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。
木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。
抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。
夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。
そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。
大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。
「愛してる」
「わたしも貴方を愛しているわ」
・・・・・
「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」
「いつまで待っていればいいの?」
二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。
木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。
抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。
夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。
そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。
大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる