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二章
ある少年との出会い 王妃エリザベスside
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彼との出会いは本当に偶然だった。
友人のいない私のすることと言えば、王宮にある庭園を散歩することくらいだった。
それも一人で。
幼い頃は母親と一緒に歩いていたが、母亡き今私の隣を歩いてくれる人は誰もいない。
(ここにいると、何だかお母様を思い浮かべてしまうのよね……)
母親との思い出が詰まった場所だった。
行くとどうしても辛い記憶が蘇ってくるが、それでもここにしか私の居場所は無かった。
王宮にいる使用人たちは令息令嬢たちと一緒で私を怖がっているようだったから。
「本当に私は……何のために生きているのかしら」
母が好きだった薔薇の花を手に取って一人ポツンと呟いた。
夢も無ければ、生きる糧になるほどの愛する人もいない。
ただお父様のために、国のために感情を殺して道具になるのだ。
(きっとお母様も私と同じ気持ちだったに違いないわ)
私の母も元はと言えばここでは無い別の国の王女だった。
十五歳の頃に父との政略結婚が決まり、十八歳でこの国に嫁いだのだという。
あんなにも冷たい父親が結婚相手だというのに、母は逃げなかった。
自分の幸せよりも国のことを考えたのだろう。
暗い顔で庭園を散歩していたそのとき、突然ガサガサという物音がした。
てっきり一人だと思っていた私はビクリとなった。
(誰かいるの……?)
音のした方を覗いてみると、ちょうどこちらを向いていた茶色の瞳と目が合った。
「!?」
慌てて物陰に隠れようとしたが、もう遅かった。
私と目の合った少年は、物珍しそうにこちらを見つめている。
(ど、どうしよう……)
王女と出会ったというのに挨拶もせず顔を凝視するなど無礼極まりない行為だが、今の私にはそれを咎める余裕すらなかった。
私と家族以外の人間と目を合わせたことなんてほとんど無い。
誰もが冷たい瞳に怖がって先に目を逸らしてしまうから。
しばらく私をじっと見つめていた彼だったが、突然ハッとなって礼を取った。
「あ!申し訳ございません!王女殿下!ご挨拶が遅れてしまいました!」
「……」
(若いわね……私と同い年くらいかしら……?)
私は彼に会ったことが無い。
生まれたときからずっとこの宮殿にいるが、初めて見る顔だ。
「――王女殿下にご挨拶申し上げます。王女宮で庭師をしているマークと申します」
「マーク……」
やはり聞いたことの無い名前だった。
新しくここに配属された庭師だろうか。
(何か……変な人ね……)
満面の笑みでこちらを見るマークに、物珍しさを覚えた。
こんな風に接してくれる人なんて、家族以外には誰もいなかった。
挨拶だけ受けたらすぐにここを去ろうと思った。
「王女殿下はよくこちらに来られるのですか?」
「え、ええ……そうね……」
しかし、マークは怖がるどころか笑顔で私に話しかけてきたのだ。
(これじゃここから立ち去れないじゃない……)
そう思っているうちにも、彼との会話は続く。
「殿下、あの花の名前を知っていますか?」
「い、いいえ……知らないわ……」
「あれはですね――」
積極的に話しかけてくる彼に押され、私はかなりの時間をそのマークという少年と過ごしてしまった。
(この後授業があってこんなことしてる場合じゃないのに……!)
心の中では彼に毒を吐いていた。
だけど、不思議だった。
何故だか、それほど嫌な気分にはならなかったのだ。
友人のいない私のすることと言えば、王宮にある庭園を散歩することくらいだった。
それも一人で。
幼い頃は母親と一緒に歩いていたが、母亡き今私の隣を歩いてくれる人は誰もいない。
(ここにいると、何だかお母様を思い浮かべてしまうのよね……)
母親との思い出が詰まった場所だった。
行くとどうしても辛い記憶が蘇ってくるが、それでもここにしか私の居場所は無かった。
王宮にいる使用人たちは令息令嬢たちと一緒で私を怖がっているようだったから。
「本当に私は……何のために生きているのかしら」
母が好きだった薔薇の花を手に取って一人ポツンと呟いた。
夢も無ければ、生きる糧になるほどの愛する人もいない。
ただお父様のために、国のために感情を殺して道具になるのだ。
(きっとお母様も私と同じ気持ちだったに違いないわ)
私の母も元はと言えばここでは無い別の国の王女だった。
十五歳の頃に父との政略結婚が決まり、十八歳でこの国に嫁いだのだという。
あんなにも冷たい父親が結婚相手だというのに、母は逃げなかった。
自分の幸せよりも国のことを考えたのだろう。
暗い顔で庭園を散歩していたそのとき、突然ガサガサという物音がした。
てっきり一人だと思っていた私はビクリとなった。
(誰かいるの……?)
音のした方を覗いてみると、ちょうどこちらを向いていた茶色の瞳と目が合った。
「!?」
慌てて物陰に隠れようとしたが、もう遅かった。
私と目の合った少年は、物珍しそうにこちらを見つめている。
(ど、どうしよう……)
王女と出会ったというのに挨拶もせず顔を凝視するなど無礼極まりない行為だが、今の私にはそれを咎める余裕すらなかった。
私と家族以外の人間と目を合わせたことなんてほとんど無い。
誰もが冷たい瞳に怖がって先に目を逸らしてしまうから。
しばらく私をじっと見つめていた彼だったが、突然ハッとなって礼を取った。
「あ!申し訳ございません!王女殿下!ご挨拶が遅れてしまいました!」
「……」
(若いわね……私と同い年くらいかしら……?)
私は彼に会ったことが無い。
生まれたときからずっとこの宮殿にいるが、初めて見る顔だ。
「――王女殿下にご挨拶申し上げます。王女宮で庭師をしているマークと申します」
「マーク……」
やはり聞いたことの無い名前だった。
新しくここに配属された庭師だろうか。
(何か……変な人ね……)
満面の笑みでこちらを見るマークに、物珍しさを覚えた。
こんな風に接してくれる人なんて、家族以外には誰もいなかった。
挨拶だけ受けたらすぐにここを去ろうと思った。
「王女殿下はよくこちらに来られるのですか?」
「え、ええ……そうね……」
しかし、マークは怖がるどころか笑顔で私に話しかけてきたのだ。
(これじゃここから立ち去れないじゃない……)
そう思っているうちにも、彼との会話は続く。
「殿下、あの花の名前を知っていますか?」
「い、いいえ……知らないわ……」
「あれはですね――」
積極的に話しかけてくる彼に押され、私はかなりの時間をそのマークという少年と過ごしてしまった。
(この後授業があってこんなことしてる場合じゃないのに……!)
心の中では彼に毒を吐いていた。
だけど、不思議だった。
何故だか、それほど嫌な気分にはならなかったのだ。
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