愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの

文字の大きさ
85 / 127
二章

閑話 公爵令嬢が死んだ後⑦―国王アルベルト編―

しおりを挟む
「そんな……冗談だろう……?」


この日、私は生きる意味を失った。


信じられない、いや、信じたくなかった。
どうか私の聞き間違いであってほしかった。


「陛下……セシリア王太子妃が自ら命を絶ってしまったそうです……」
「……!」


聞き間違いでも何でもなかった。
理解が全く追い付かない。


(セシリアが……死んだ……?)


報告に来た騎士が出て行った後、私は部屋で一人耳をつんざくような叫び声を上げた。
セシリアが亡くなったというその事実だけでも頭がおかしくなりそうだった。
いや、既におかしくなっているか。




――セシリア・フルール


フルール公爵家の一人娘であり、憎きオスカーと……私の愛するリーナが産んだ子供だった。
最初こそ、私はその存在を疎み、憎く思っていた。


リーナが他の男と子供を作ったというだけでも耐えられなかったから。
元はと言えば彼女は私のものだった。
それをオスカーが奪ったのだ。


私はオスカーを心の底から憎んでいる。
そしてあの男を選んだリーナもまた恨めしい。
当然、生まれた子供も憎悪の対象だった。


しかし、まだ幼い子供の顔を見てそんな憎しみは瞬く間に消えていった。


(何だこれは……リーナの生き写しではないか……)


二人の娘――セシリアはリーナにそっくりだった。
波打つ金髪も、宝石のように輝く緑眼も、全てが同じで。
まるで子供の頃のリーナを見ているようだった。


「……」


――欲しい。
そんな欲望を抱くまで、そう時間はかからなかった。


それからの私はリーナを失ったことで心の中にぽっかり空いた穴を埋めるかのようにセシリアに夢中になった。
どうすればあの子を手に入れられるか。


そうして思い付いたのがセシリアを自身の息子――王太子グレイフォードの婚約者にすることだった。
そうすればセシリアは自然と王宮に入ることになる。


(これでいい……作戦はきっとうまくいく……)


私は表面は義父として、セシリアに優しく接した。
都合が良かったのは王妃と王太子がセシリアをあまり良く思っていなかったこと。


愛する人が蔑ろにされているなど、普通の思考を持っている人間ならば憤慨するはずだ。
しかし、私は違う。


(ああ……セシリアには私しかいないんだな……)


そうだ、彼女に優しくするのは自分だけでいい。
他には何もいらない。
ただ私だけがいればいいのだ。


それなのに――





「……」


罪を問われたセシリアは失意のまま命を絶った。
私はもう何日も眠れていない。


こうなったのも全てグレイフォードのせいだ。
アイツがセシリアを追い詰めるから。
だからアイツは勘当して平民に……しようとしたが、王妃がそれを阻止した。


結局グレイフォードは臣籍降下という軽い処罰で終わった。


しかし、今はそんなことどうだっていい。
この憎しみを一体誰に向ければいいのか。


リーナを失い、セシリアまで私の手から離れていった。
――あぁ、お前たちは母娘揃って私から逃げるんだな。


既に気が狂っていた私の憎悪は行き場を失って徘徊した後、リーナ、そしてセシリアの二人へと向かった。
もうまともな判断など出来なくなっていた。


(私はお前たち二人が憎くてたまらない……)


今はもう、あの二人に復讐しないと気が済まなかった。
気付けば、私の体は自然と動いていた。


「リーナ……セシリア……」


――今、私もそっちへ行く。
短剣を手に取った私は、それを自身の首に向かって思い切り突き刺した。


すぐに視界が血で真っ赤に染まった。


(リーナ……セシリア……地獄でまた会おう……)








――その日、私は自室で首に短剣を刺して自ら命を絶った。







―――――――――――――――――――――


閑話を少しだけ更新して三章に入りたいと思います!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

侯爵令嬢ソフィアの結婚

今野綾
恋愛
ソフィアは希少なグリーンアイを持つヴィンセントと結婚したが、これは金が欲しいソフィアの父の思惑と高い爵位が欲しいヴィンセントの思惑が一致したからに過ぎない そもそもヴィンセントには美しい恋人がいる 美男美女と名高いヴィンセントとその恋人は身分に大きな差があるために結婚することは叶わないのだ その事をソフィアも耳にしており、この結婚が形ばかりのものであることを知っていた 結婚して早々、ソフィアは実家から連れてきた侍女夫婦とあばら家に住むように言われて… 表紙はかなさんです✨ ありがとうございます😊 2024.07.05

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。 それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。 アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。 婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】「義妹に譲れ」と言われたので、公爵家で幸せになります

恋せよ恋
恋愛
「しっかり者の姉なら、婚約者を妹に譲ってあげなさい」 「そうだよ、バネッサ。君なら、わかるだろう」 十五歳の冬。父と婚約者パトリックから放たれた無慈悲な言葉。 再婚相手の連れ子・ナタリアの図々しさに耐えてきたバネッサは、 その瞬間に決意した。 「ええ、喜んで差し上げますわ」 将来性のない男も、私を軽んじる家族も、もういらない。 跡継ぎの重責から解放されたバネッサは、その類まれなる知性を見込まれ、 王国の重鎮・ヴィンセント公爵家へ嫁ぐことに。 「私は、私を一番に愛してくれる場所で幸せになります!」 聡明すぎる令嬢による、自立と逆転のハッピーエンド。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

処理中です...