愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの

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二章

閑話 公爵令嬢が死んだ後⑧―王妃エリザベス編―

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「そんな……嘘でしょう……?」


王妃宮にて。
侍女の一人からある報告を受けた私は、動揺を隠しきれなかった。


「王太子妃が亡くなったって、本当なの……?」
「はい……バルコニーから転落して即死だったそうです」
「……」


王太子妃のセシリア――私の義理の娘でもある。
しかし、母娘らしいことなど一度もしたことが無かった。
それどころか、必要以上にキツく当たったりもしていた。
今思えば本当に最低な義母だったと思う。


(セシリア……)


彼女が死んだ今になって後悔するなど遅すぎるのは分かっている。
今になって罪悪感が私の心を蝕んでいった。


「それと、王妃陛下……」
「何かしら?」
「妃殿下は……自らバルコニーから身を投げたようです」
「え……自ら……?」


理解が追い付かなかった。
自らバルコニーから落ちるとは一体どういうことだろう。
そんなことをしたら間違いなく死んでしまうのに。


「どうして……?」
「それが……王太子殿下に愛妾の殺害未遂を疑われたようで……」
「……!!!」


王宮で息子の愛妾となったヘレイス男爵令嬢の暗殺未遂事件が起こったのは知っていた。
それほどに大事件だったし、王太子が率先して捜査をしていたから。


(グレイフォード!?貴方は……)


――何故、セシリアを信じてあげなかったの。
私は今までセシリアに優しくした覚えも無ければ、あまり関わろうともしなかった。
しかし、これだけは言える。


あの子は絶対にそんなことを企てる人間ではないということだ。
王宮では嫉妬に狂った王太子妃がやったと言われていたが、そんなのはありえないと思っていた。
セシリアに罪を被せたい誰かの仕業だろう。


「王妃陛下、大丈夫ですか……?」
「ええ、平気よ……」


よろめきそうになった私を、侍女が支えた。


「……ねぇ、少し調べてほしいことがあるのだけれど」
「はい、何でしょう」




***




数日後。
私は侍女に頼んだ調査の報告書を見て茫然としていた。


(嘘……こんな……)


そこに書かれていた事実は私にとって衝撃的なものだった。


――セシリアは公爵邸にも王宮にも居場所が無かった。
父である公爵は彼女に無関心、誕生日でさえ一人で過ごすことが多かったという。
そして王宮では王太子からの寵愛を得られず、愛妾の存在で肩身の狭い思いをしていた。


(ああ……私は……)


セシリアが王宮へ上がってからというもの、私は王妃宮に引きこもるようになったためまるで知らなかったのだ。
もちろん彼女の家の事情も。


(私は何てことをしてしまったの……!)


後悔の念がどっと押し寄せた。
自分もセシリアを追い詰めたうちの一人だったからだ。


せめて私があの子にもっと優しくしていれば。
もう少し気にかけてあげられたら。


こんな結末は迎えなかったかもしれない。


「……」


何故彼女が生きている間にそれに気付けなかったのだろう。
私は母親としても、人としても失格だ。


(ああ……ごめんなさい、セシリア……どうか……どうか安らかに眠ってちょうだい……)




***



数年後。
あれから本当に色々なことがあった。


まず王太子と愛妾についてだ。
王太子は廃嫡になり、臣籍降下することになった。
愛妾についてはあの事件の被害者でもあるため特に処分は下されなかったが、社交界に居づらくなったのか自ら修道院行きを選択した。
新しく王太子となったのは王弟殿下の長男。


それから、セシリアが亡くなってから一ヶ月も経たないうちに後を追うように国王も自決した。
王の崩御により、新しい王太子が国王に即位した。


そして、私はというと――


「……」


あの日からずっと、床に臥せっていた。
体調が優れず、おそらくもう社交界に出ることは出来ないだろう。
新たな国王にとって前王太子の母親である私の存在は邪魔でしかなかったのか、即位と共に私は離宮に移された。


だけど、別に辛くはない。
セシリアはもっと苦しい思いをして死んだはずだから。


(私ももうすぐかしら……)


愛する息子を置いて逝くのは心苦しいが、きっとあの子ならこの先も上手くやっていけるだろう。
だって私の息子は誰よりも優秀な子だもの。


――私の愛する息子、グレイフォード。
どうか、元気でね。


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