貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの

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突然の来客

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カフェを出て、公爵邸へと戻る。


クリスは急な仕事が入ったようで帰らなければいけないようだ。


「すまない。エレン・・・・。もっと一緒にいたかったんだが・・・。」


すまなそうにクリスは眉を下げた。


「気にしないで、クリス。来てくれただけで私は嬉しいのだから。」


そう言って私は微笑む。


「そうか。」


クリスは安堵したような表情を浮かべた。


「また明日も来るよ。」


「ええ、楽しみに待っているわ!」


私は笑顔でクリスを見送った。








自室に戻り、私は寝る準備をする。


「最近お嬢様が楽しそうで私も嬉しいです。」


いつの間にか部屋に入ってきていたマリーナが私に対して言った。


「あら、ありがとう。マリーナ。」


そう言うとマリーナが私にほほ笑みかけて尋ねる。


「お嬢様は、クリストファー様からの結婚の申し込みをどうなさるおつもりですか?」





(そうだ、私・・・クリスから結婚を申し込まれていたんだった・・・。)


「そ、それは・・・。」


口ごもる私を見てマリーナは話し始める。


「お嬢様、私はお嬢様の幸せを願っております。それは私だけではありません。旦那様や奥様、他の公爵邸の使用人たちもです。差し出がましいかもしれませんが・・・お嬢様はもう少し、自分のために生きてもよろしいかと思います。」


「自分のために・・・?」


「はい。クリストファー様は素敵な方です。きっとお嬢様を幸せにしてくださるでしょう。」


「そ、そうかな・・・。」


クリスが素敵なことくらい私も十分すぎるくらい分かっている。


「はい。」


マリーナはにっこり微笑むと部屋を出て行った。






ベッドの中で目を閉じている間、マリーナの言ったことが心に残った。


(自分のために・・・か。確かに今までの私はエイドリアン殿下のために生きていた。それは私が望んだことだったし、殿下のことが大好きだったから・・・。)


結局その日のうちに答えは出ず、私はそのまま眠りについた。









次の日の朝。


私は今日も会いに来てくれるクリスのためにマリーナに準備してもらっていた。


「お嬢様、今日はハーフアップにしましょうか。」


リボンを一本手に持っているマリーナがそう言う。


「うん、それでお願い。」


「かしこまりました。」


マリーナによって私の髪は美しく結われていく。


「出来ました!お嬢様、とっても美しいですわ。」


「ありがとう、マリーナ。」


(お世辞だと分かっていても嬉しい・・・。)


私がマリーナと話していると扉の外から慌ただしく足音が聞こえた。


ドンッ!


勢いよく扉を開けたのはまだ入ったばかりの侍女の一人だった。


「お嬢様、大変です!」


マリーナが眉を顰め、叱責する。


「こら、そんな風に扉を開けたらお嬢様が驚きになるでしょう!」


「す、すみません・・・。」


声を荒げるマリーナをなだめ、私は侍女に尋ねる。


「何かあったのかしら?」


侍女は慌てた様子で私に告げた。


「お嬢様・・・





エイドリアン殿下が、公爵邸にいらっしゃっています・・・!」





・・・・・・・・・・え?



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