愛する夫にもう一つの家庭があったことを知ったのは、結婚して10年目のことでした

ましゅぺちーの

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82 変えられない過去 ルーク視点

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エミリアの兄が去った後、俺は一人門の前で立ちすくんでいた。


(まさか、こんなところで正体がバレるなんてな……)


いつかは言わなければいけないと思っていた。
このままずっと隠しておくのは良くない、そんなことは分かっている。


しかし、どうしても言い出すことが出来なかった。
真実を言えばエミリアとの関係が壊れてしまうような、そんな気がして。


(だがずっと秘密にしておくわけにもいかない……)


あの男の言う通りだ。
俺には間違いなく王家の血が流れている。


しかし、第一王子として生まれ、その誕生を国民全員から祝福された兄とは違って俺は望まない子だった。
父である王が、平民で王宮の侍女として働いていた母に手を出して出来た子供。


それでも母は大切にしてくれたが、父の方は違った。
俺の存在自体が不快でたまらなかったらしく、顔を合わせれば罵詈雑言を浴びせられた。
それは義母となった王妃も同じで、汚い物を見るかのような目で俺を見ていた。


母が亡くなり、本宮へ移ってからの日々は地獄そのものだった。


(ルドウィク王弟殿下か……)


その名前で呼ばれたのは随分久しぶりだった。
もう二度と聞くことは無いと思っていたのに。


俺の名前がルークからルドウィクに変わった日。
あのときのことは今でも鮮明に思い出せた。






『……ルーク。それがお前の名前か?』
『……』


母が亡くなって数日後、王宮へ移された俺は父の前に立っていた。
血の繋がった息子に向けるとは思えないほどに冷たい目をした父が恐ろしくて、声を出せなかった。


父の眉間にしわが寄っていくのを見た侍女が、焦ったように答えた。


『は、はい……陛下……』
『……あの女が付けたのか?』
『そのようでございます……』


侍女の返事を聞いた父は数秒黙り込んだ後、さっきよりも低い声で言葉を発した。


『気に入らんな』
『……』


ただ、母が付けたというだけで気に入らないと口にする父。
父はしばらく考え込むような素振りをした後、何かを思い付いたかのように口を開いた。


『――ルドウィク。それがお前の名だ。今日からはその名で過ごせ。分かったらさっさと部屋へ連れて行け』
『はい、陛下』


まだ幼い俺は、父の言っていることの意味がよく分からなかった。


(ルドウィク……?僕はそんな名前じゃない……僕は……)


思わず反論しようとしたそのとき、背後に控えていた侍女が一刻も早く外へ連れて行こうと僕の手を掴んだ。


『行きましょう、ルドウィク殿下』


拒否権など当然無かった。
この日から、第二王子ルドウィクとしての生活が始まった。





(エミリア……)


俺はそっと目を閉じて彼女の姿を思い浮かべた。


エミリアは貴族令嬢だ。
当然、第二王子ルドウィクの良くない噂も知っているだろう。
本音を言えば、彼女がこれまで通りに接してくれなくなるのが怖かった。
人間関係でこんなにも悩んだのは初めてだ。


(だけど……)


――やはり、このまま隠し通すわけにはいかない。
俺はギュッと拳を握り締め、帰路に着いた。


明日、エミリアに全てを打ち明けることを決意したのだった。


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