6 / 32
6 義母
しおりを挟む
「大奥様、奥様がいらっしゃいました」
「――あら、遅かったわね」
部屋へ入ると、一足先に先代の公爵夫人が席に着いていた。
彼女は私を見るなり、不快そうに眉をひそめた。
「ちょっと何よ、その格好は。ブリンストン公爵家の嫁がそんなみずぼらしいドレスを着るだなんて恥ずかしいわ」
「も、申し訳ありません……」
「貴方は自分がブリンストン公爵の妻になったということを理解しているの?よくもそんな格好で外へ出られたわね」
「……」
用意したのは私ではなく、侍女だ。
私が使用人たちに冷遇されていることなど知らないのか、義母はただ私を𠮟りつけた。
チラリと部屋の隅に視線をやると、ドレスを用意した侍女がこちらを見て歪んだ笑みを浮かべていた。
「まぁいいわ、座りなさい」
「はい」
椅子に座ると、夫人が私をじっと見つめた。
意図が分からずに戸惑っていると、彼女はゆっくりと口を開いた。
「貴方を見ていると昔の私を思い出すわ。ここへ嫁いだばかりの頃の話よ……旦那様はとても優しくしてくださって……」
「は、はい……」
それから公爵夫人は長々と惚気話をし始めた。
(私が夫に冷遇されていることは薄々勘付いているでしょうに……)
嫌味を言っているつもりなのだろうか。
面倒だったが、適当に相槌を打って聞いていた。
「……と、私の話はこれくらいにして次は貴方のことを聞かせてちょうだい」
「私のこと……ですか?」
首を傾げると、公爵夫人はニッコリと笑った。
その美しい笑みは舞踏会で見かけた公爵様にそっくりだった。
「ええ、昨日初夜だったでしょう?」
「……」
初夜は行われていない。
ウィルベルトが私の部屋を訪れることは無かった。
嘘をつくわけにもいかず、私はこう言うしかなかった。
「初夜は……行っていません」
「何ですって?」
夫人の目が鋭くなった。
まずいと思い、慌てて説明を加えた。
「旦那様は昨夜部屋へいらっしゃいませんでしたので……来ないものかと思って……」
それを聞いた夫人はハァと盛大なため息をついた。
「貴族の妻の最大の役目は跡継ぎを産むことよ。それをしっかり理解しているのかしら?」
「はい、存じております」
「大体貴方に魅力が無いからウィルベルトが訪れなかったのではなくて?もっと美しくなりなさい」
「は、はい……」
(お義母様は公爵様を溺愛していらっしゃるのね……)
どう考えても非があるのはウィルベルトの方だというのに何かと彼の肩を持つようなことばかりを述べ、一切私の味方をしない。
一人息子が可愛いのは分からないことも無いが、いくら何でも異常だ。
それから夫人は自身の息子の魅力を延々と説明し始めた。
早く終わらないかと思い始めていたそのとき、扉の方から声が割って入った。
――「大奥様、奥様。旦那様がいらっしゃいました」
「あら、やっと来たのね」
「……!」
それから時間を空けずに低い声が耳に入った。
「――母上、お待たせしました」
慌てて声のした方を向くと、精悍な男性が部屋へ入って来るところだった。
近くで見るのは初めてかもしれない。
(この人が……)
――ウィルベルト・ブリントン
切れ長の青色の瞳が私を捉えた。
私はこの日、結婚してから初めて夫となる人と目を合わせた。
「――あら、遅かったわね」
部屋へ入ると、一足先に先代の公爵夫人が席に着いていた。
彼女は私を見るなり、不快そうに眉をひそめた。
「ちょっと何よ、その格好は。ブリンストン公爵家の嫁がそんなみずぼらしいドレスを着るだなんて恥ずかしいわ」
「も、申し訳ありません……」
「貴方は自分がブリンストン公爵の妻になったということを理解しているの?よくもそんな格好で外へ出られたわね」
「……」
用意したのは私ではなく、侍女だ。
私が使用人たちに冷遇されていることなど知らないのか、義母はただ私を𠮟りつけた。
チラリと部屋の隅に視線をやると、ドレスを用意した侍女がこちらを見て歪んだ笑みを浮かべていた。
「まぁいいわ、座りなさい」
「はい」
椅子に座ると、夫人が私をじっと見つめた。
意図が分からずに戸惑っていると、彼女はゆっくりと口を開いた。
「貴方を見ていると昔の私を思い出すわ。ここへ嫁いだばかりの頃の話よ……旦那様はとても優しくしてくださって……」
「は、はい……」
それから公爵夫人は長々と惚気話をし始めた。
(私が夫に冷遇されていることは薄々勘付いているでしょうに……)
嫌味を言っているつもりなのだろうか。
面倒だったが、適当に相槌を打って聞いていた。
「……と、私の話はこれくらいにして次は貴方のことを聞かせてちょうだい」
「私のこと……ですか?」
首を傾げると、公爵夫人はニッコリと笑った。
その美しい笑みは舞踏会で見かけた公爵様にそっくりだった。
「ええ、昨日初夜だったでしょう?」
「……」
初夜は行われていない。
ウィルベルトが私の部屋を訪れることは無かった。
嘘をつくわけにもいかず、私はこう言うしかなかった。
「初夜は……行っていません」
「何ですって?」
夫人の目が鋭くなった。
まずいと思い、慌てて説明を加えた。
「旦那様は昨夜部屋へいらっしゃいませんでしたので……来ないものかと思って……」
それを聞いた夫人はハァと盛大なため息をついた。
「貴族の妻の最大の役目は跡継ぎを産むことよ。それをしっかり理解しているのかしら?」
「はい、存じております」
「大体貴方に魅力が無いからウィルベルトが訪れなかったのではなくて?もっと美しくなりなさい」
「は、はい……」
(お義母様は公爵様を溺愛していらっしゃるのね……)
どう考えても非があるのはウィルベルトの方だというのに何かと彼の肩を持つようなことばかりを述べ、一切私の味方をしない。
一人息子が可愛いのは分からないことも無いが、いくら何でも異常だ。
それから夫人は自身の息子の魅力を延々と説明し始めた。
早く終わらないかと思い始めていたそのとき、扉の方から声が割って入った。
――「大奥様、奥様。旦那様がいらっしゃいました」
「あら、やっと来たのね」
「……!」
それから時間を空けずに低い声が耳に入った。
「――母上、お待たせしました」
慌てて声のした方を向くと、精悍な男性が部屋へ入って来るところだった。
近くで見るのは初めてかもしれない。
(この人が……)
――ウィルベルト・ブリントン
切れ長の青色の瞳が私を捉えた。
私はこの日、結婚してから初めて夫となる人と目を合わせた。
214
あなたにおすすめの小説
私を婚約破棄した国王が処刑されたら、新しい国王の妃になれですって? 喜んで…と言うとでも?
あんど もあ
ファンタジー
幼い頃から王子の婚約者だったアイリスは、他の女性を好きになった王子によって冤罪をかけられて、田舎で平民として生きる事に。
面倒な貴族社会から解放されて、田舎暮らしを満喫しているアイリス。
一方、貴族たちの信頼を失った王子は、国王に即位すると隣国に戦争を仕掛けて敗北。処刑される。
隣国は、アイリスを新しい国王の妃にと言い出すが、それには思惑があって…。
《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃
ぜらちん黒糖
恋愛
「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」
甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。
旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。
「それは本当に私の子供なのか?」
父の後妻に婚約者を盗られたようです。
和泉 凪紗
恋愛
男爵令嬢のアルティナは跡取り娘。素敵な婚約者もいて結婚を待ち遠しく思っている。婚約者のユーシスは最近忙しいとあまり会いに来てくれなくなってしまった。たまに届く手紙を楽しみに待つ日々だ。
そんなある日、父親に弟か妹ができたと嬉しそうに告げられる。父親と後妻の間に子供ができたらしい。
お義母様、お腹の子はいったい誰の子ですか?
許したと思っていたのかしら?──学園に精霊のアイス屋さんを開いた伯爵令嬢
nanahi
恋愛
平民のグリアに婚約者を奪われ無実の罪で学園を退学させられた伯爵令嬢のわたくしは、ちょうど一年後の今日学園にアイス屋さんを開きました。
さっそくグリアたちは店頭で接客をするわたくしを馬鹿にしに参ります。
「お前が売るアイスを私が食べるとでも?」
けれどどうしたのかしら?
買わないと言ったのに、なぜわたくしのアイスを何度も買いに来るのですか、グリア?
グリアはわたくしのアイスから離れられなくなり、自身の淑女としての仮面が日に日にはがれていきます。
大丈夫ですの、グリア?
このままではせっかくわたくしから奪い取ったロバート様に捨てられてしまいますわ……
帰ってきた兄の結婚、そして私、の話
鳴哉
恋愛
侯爵家の養女である妹 と
侯爵家の跡継ぎの兄 の話
短いのでサクッと読んでいただけると思います。
読みやすいように、5話に分けました。
毎日2回、予約投稿します。
2025.12.24
誤字修正いたしました。
ご指摘いただき、ありがとうございました。
幼馴染の許嫁は、男勝りな彼女にご執心らしい
和泉鷹央
恋愛
王国でも指折りの名家の跡取り息子にして、高名な剣士がコンスタンスの幼馴染であり許嫁。
そんな彼は数代前に没落した実家にはなかなか戻らず、地元では遊び人として名高くてコンスタンスを困らせていた。
「クレイ様はまたお戻りにならないのですか……」
「ごめんなさいね、コンスタンス。クレイが結婚の時期を遅くさせてしまって」
「いいえおば様。でも、クレイ様……他に好きな方がおられるようですが?」
「えっ……!?」
「どうやら、色町で有名な踊り子と恋をしているようなんです」
しかし、彼はそんな噂はあり得ないと叫び、相手の男勝りな踊り子も否定する。
でも、コンスタンスは見てしまった。
朝方、二人が仲睦まじくホテルから出てくる姿を……
他の投稿サイトにも掲載しています。
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳
ロミオ王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる