7 / 87
7 真実
しおりを挟む
しばらくして、フレイアの専属侍女がやってきた。
緊張しているのか身体はブルブルと震えていて顔色も悪い。
しかし、今はそんなもの気にしている場合ではなかった。
私は目の前で顔を青くしている侍女に尋ねた。
「フレイアには講師を付けたはずだろう?何故あんなに礼儀がなっていないんだ?」
「そ、それは……」
私が尋ねると侍女は言いにくそうな顔をした。
質問をしただけなのに何故こんなに怯えているのか分からない。
何か私に言えないようなことでもあるのだろうか。
「私は事実を知りたいのだ。本当のことを全て教えてくれ」
私が優しめの口調でそう言うと、侍女はようやく口を開いた。
「……フレイア様が講師の方たちを全員追い出してしまったからです」
「な、なんだと……?何故だ……?」
私は侍女の言葉に絶句した。
(フレイアが私の宛がった講師たちを追い出しただと……?)
侍女は私から気まずそうに視線を逸らして言った。
「フレイア様はマナーの授業についていけなかったようで……」
「それでも私の許可なく辞めさせるなど……!」
王が宛がった講師を追い出す権限などもちろんただの愛妾にすぎないフレイアにはない。
それにマナー講師はみな貴族のご婦人だ。
(平民が貴族を追い出すだなんて……!)
そう思ったものの、侍女が次に発した言葉で私は自分がいかに愚かなことをしたのかを思い知ることとなる。
「……フレイア様は陛下の寵愛を笠に着てマナー講師の方を追い出したのです」
「……」
(あぁ、なんてことだ……)
私は頭を抱えた。
「王宮を出て行かなければ嫌がらせを受けたと陛下に言いつけると……陛下がフレイア様を寵愛していることは貴族の間では周知の事実でしたので……」
それでマナー講師は王宮から出て行ったのか。
それなら納得だ。
誰だって国王に目を付けられたくないだろうからな。
「……そう、だったのか……」
私はガックリと項垂れた。
まさかフレイアが王宮でそんなことをしていたとは、まるで知らなかった。
「……それなら何故、私に言ってくれなかったんだ」
私はボソリと呟いた。
平民であるフレイアが貴族を脅迫するだなんてどう考えてもおかしい。
彼女たちもそれくらいは分かるはずだ。
私にそのことを言ってくれれば……
私がそんなことを考えていると、後ろにいた侍従が私に対して口を開いた。
「……失礼ですが、陛下。講師たちがそれを言ったところで陛下は信じたんでしょうか?」
「え……?」
私は侍従の方を振り返った。
侍従は真顔で私を見下ろしていた。
「何を言って……そんなの信じるに決まって……ッ!?」
信じるに決まっている。
私はそれを最後まで言い切ることが出来なかった。
確かに今の私なら彼女たちの言葉を信じていただろう。
しかし、以前の私なら……?
フランチェスカが亡くなるまでの私はフレイアに盲目的だった。
フレイアの願いは何だって叶えていたし、彼女の言うことは全て正しいのだと本気でそう思っていた。
そのとき、私の脳裏に恐ろしい記憶が浮かび上がった。
それはいつものようにフレイアの部屋で彼女と過ごしていたときのことだった。
『レオン様ぁ~!』
『何だい?フレイア』
『レオン様、私王妃様になりたいんですっ!』
『王妃に……?』
『はい!レオン様は私の願いを何だって叶えてくれますよね?』
『王妃か……分かった、貴族たちに話してみよう』
しかし、その後の会議でそのことを口にしたところ、宰相を始めとした貴族たちの猛反対にあった。
『陛下!!!どうかそれだけはおやめください!!!』
『そうです!それを認めるわけにはいきません!』
『あの方が王妃となるのならば私はこの国を出て行きます!!!』
『な……!お前たちフレイアに対して無礼だぞ!』
あのときはフレイアを王妃とすることに猛反対した貴族たちにイラついたが、今思えば彼女に王妃など務まるはずがない。
大体平民が王妃などありえない。
それを知っていたから私はフレイアを愛妾にしたのだ。
しかし、あのときはフレイアがそれを望むならばその望みを叶えてあげたいと本気でそう思っていた。
(……私は何て愚かだったのだ)
以前の自分の思考にゾッとした。
「……それでは、フレイアは普段何をして過ごしているのだ?」
私は一旦考えるのをやめて、ふと気になったことを尋ねた。
愛妾は王妃と違って公務に携わることも無い。
だからこそ気になった。
フレイアは私が執務をしている時間何をしているのだろうかと。
「市井に下りて買い物をすることが多かったかと……」
「買い物……?」
一体どんなものを買うというのか。
必要なものは王宮に全て揃っているはずだ。
「ドレスや宝石をご自身で選びたかったようです。……フレイア様は講師の方を辞めさせてからはずっと遊んでおりました」
「……」
私は言葉が出なかった。
(フレイアがマナー講師を追い出し、遊びまわっていたとは……何故私は五年もの間、それに気づかなかったのだろう?)
侍女の前だというのに、私はハァとため息をついた。
「もう下がっていい」
その一言で、侍女はすぐに部屋から出て行った。
「フレイア……」
顔色の悪い私に、侍従が呆れたかのように声を掛けた。
「何を今さら……フレイア様の本性に気づかなかったのは陛下くらいでしょう」
その声は非常に冷たかった。
心の底から私に呆れ果てているのだろう。
「……みんな知っていたのか」
「ええ、王宮にいる人間ならみんな」
(ははは、気づいていなかったのは私だけだったのか……)
本当に、私は何て愚かだったのだろう。
後悔してももう、フランチェスカは戻ってこない。
緊張しているのか身体はブルブルと震えていて顔色も悪い。
しかし、今はそんなもの気にしている場合ではなかった。
私は目の前で顔を青くしている侍女に尋ねた。
「フレイアには講師を付けたはずだろう?何故あんなに礼儀がなっていないんだ?」
「そ、それは……」
私が尋ねると侍女は言いにくそうな顔をした。
質問をしただけなのに何故こんなに怯えているのか分からない。
何か私に言えないようなことでもあるのだろうか。
「私は事実を知りたいのだ。本当のことを全て教えてくれ」
私が優しめの口調でそう言うと、侍女はようやく口を開いた。
「……フレイア様が講師の方たちを全員追い出してしまったからです」
「な、なんだと……?何故だ……?」
私は侍女の言葉に絶句した。
(フレイアが私の宛がった講師たちを追い出しただと……?)
侍女は私から気まずそうに視線を逸らして言った。
「フレイア様はマナーの授業についていけなかったようで……」
「それでも私の許可なく辞めさせるなど……!」
王が宛がった講師を追い出す権限などもちろんただの愛妾にすぎないフレイアにはない。
それにマナー講師はみな貴族のご婦人だ。
(平民が貴族を追い出すだなんて……!)
そう思ったものの、侍女が次に発した言葉で私は自分がいかに愚かなことをしたのかを思い知ることとなる。
「……フレイア様は陛下の寵愛を笠に着てマナー講師の方を追い出したのです」
「……」
(あぁ、なんてことだ……)
私は頭を抱えた。
「王宮を出て行かなければ嫌がらせを受けたと陛下に言いつけると……陛下がフレイア様を寵愛していることは貴族の間では周知の事実でしたので……」
それでマナー講師は王宮から出て行ったのか。
それなら納得だ。
誰だって国王に目を付けられたくないだろうからな。
「……そう、だったのか……」
私はガックリと項垂れた。
まさかフレイアが王宮でそんなことをしていたとは、まるで知らなかった。
「……それなら何故、私に言ってくれなかったんだ」
私はボソリと呟いた。
平民であるフレイアが貴族を脅迫するだなんてどう考えてもおかしい。
彼女たちもそれくらいは分かるはずだ。
私にそのことを言ってくれれば……
私がそんなことを考えていると、後ろにいた侍従が私に対して口を開いた。
「……失礼ですが、陛下。講師たちがそれを言ったところで陛下は信じたんでしょうか?」
「え……?」
私は侍従の方を振り返った。
侍従は真顔で私を見下ろしていた。
「何を言って……そんなの信じるに決まって……ッ!?」
信じるに決まっている。
私はそれを最後まで言い切ることが出来なかった。
確かに今の私なら彼女たちの言葉を信じていただろう。
しかし、以前の私なら……?
フランチェスカが亡くなるまでの私はフレイアに盲目的だった。
フレイアの願いは何だって叶えていたし、彼女の言うことは全て正しいのだと本気でそう思っていた。
そのとき、私の脳裏に恐ろしい記憶が浮かび上がった。
それはいつものようにフレイアの部屋で彼女と過ごしていたときのことだった。
『レオン様ぁ~!』
『何だい?フレイア』
『レオン様、私王妃様になりたいんですっ!』
『王妃に……?』
『はい!レオン様は私の願いを何だって叶えてくれますよね?』
『王妃か……分かった、貴族たちに話してみよう』
しかし、その後の会議でそのことを口にしたところ、宰相を始めとした貴族たちの猛反対にあった。
『陛下!!!どうかそれだけはおやめください!!!』
『そうです!それを認めるわけにはいきません!』
『あの方が王妃となるのならば私はこの国を出て行きます!!!』
『な……!お前たちフレイアに対して無礼だぞ!』
あのときはフレイアを王妃とすることに猛反対した貴族たちにイラついたが、今思えば彼女に王妃など務まるはずがない。
大体平民が王妃などありえない。
それを知っていたから私はフレイアを愛妾にしたのだ。
しかし、あのときはフレイアがそれを望むならばその望みを叶えてあげたいと本気でそう思っていた。
(……私は何て愚かだったのだ)
以前の自分の思考にゾッとした。
「……それでは、フレイアは普段何をして過ごしているのだ?」
私は一旦考えるのをやめて、ふと気になったことを尋ねた。
愛妾は王妃と違って公務に携わることも無い。
だからこそ気になった。
フレイアは私が執務をしている時間何をしているのだろうかと。
「市井に下りて買い物をすることが多かったかと……」
「買い物……?」
一体どんなものを買うというのか。
必要なものは王宮に全て揃っているはずだ。
「ドレスや宝石をご自身で選びたかったようです。……フレイア様は講師の方を辞めさせてからはずっと遊んでおりました」
「……」
私は言葉が出なかった。
(フレイアがマナー講師を追い出し、遊びまわっていたとは……何故私は五年もの間、それに気づかなかったのだろう?)
侍女の前だというのに、私はハァとため息をついた。
「もう下がっていい」
その一言で、侍女はすぐに部屋から出て行った。
「フレイア……」
顔色の悪い私に、侍従が呆れたかのように声を掛けた。
「何を今さら……フレイア様の本性に気づかなかったのは陛下くらいでしょう」
その声は非常に冷たかった。
心の底から私に呆れ果てているのだろう。
「……みんな知っていたのか」
「ええ、王宮にいる人間ならみんな」
(ははは、気づいていなかったのは私だけだったのか……)
本当に、私は何て愚かだったのだろう。
後悔してももう、フランチェスカは戻ってこない。
892
あなたにおすすめの小説
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
一年だけの夫婦でも私は幸せでした。
クロユキ
恋愛
騎士のブライドと結婚をしたフローズンは夫がまだ婚約者だった姉を今でも想っている事を知っていた。
フローズンとブライドは政略結婚で結婚式当日にブライドの婚約者だった姉が姿を消してしまった。
フローズンは姉が戻るまでの一年の夫婦の生活が始まった。
更新が不定期です。誤字脱字がありますが宜しくお願いします。
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる