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24 寂しさ
「……」
私は王宮に到着してすぐ自室に戻り、そのままソファにドサリと座り込んだ。
本当は仕事をするべきなのだろうが、今はそんな気分ではないし、そんなことはもうどうだってよかった。
(フランチェスカ……父上……母上……)
私の脳裏に大好きだった三人の顔が浮かぶ。
私のせいだ。
私のせいで三人は死んだんだ。
離宮を出てから私はそんなことばかりを考えていた。
私は大切な物を全て壊してしまった。
父上も母上もフランチェスカと同じように苦しみながら死んでいったのだろう。
(……本当に、私は何で生きてるんだろうな)
フランチェスカは死んだ。
父上と母上も死んだ。
それなのに、何故私は生きているのだろうか。
「…」
(……ここは何だか息が詰まる。外へ出よう)
辛いことが続いていたせいか、最近は王宮のどこにいても居心地が悪く感じた。
場所を変えれば、この気持ちも少しはマシになるだろうか。
そう思って私はゆっくりとソファから立ち上がった。
身体は驚くほど重かったが、動けないほどではない。
そして部屋の扉を開けて外に出た。
疲れているせいか、扉がいつもよりも重たく感じた。
(……………………………あそこは)
そのとき、部屋を出た私の目に入ったのはフランチェスカの部屋の扉だった。
(……)
行くつもりなど無かったのに、足が勝手に彼女の部屋へと向かっていた。
自分でも何故だかよく分からなかった。
ここはウィルベルト王国の歴代王妃たちが使ってきた部屋だ。
国王の部屋からそう遠くはない。
私の母上もここを使っていた。
私はそのまま彼女の部屋の前まで行くと、そっと扉を開けた。
ここへ来るのは二度目だ。
前にこの部屋でフランチェスカの遺体を見てからはここに来ることを避け続けていた。
あのときの記憶がフラッシュバックしそうで行くに行けなかった。
(…………何も無いな)
中は備え付けの家具以外は何も無かった。
ここはこんなにも質素だっただろうか。
とてもじゃないが王妃の部屋だとは思えなかった。
「……」
私はその部屋を見てどこか寂しさを感じた。
前に来たときはもっと色々とあったはずだ。
全て片付けられてしまったのだろう。
今はもう彼女がここに住んでいたという痕跡すら見当たらない。
私はそのまま部屋に足を踏み入れた。
暗くシーンとした部屋に私の足音だけが響く。
何となくクローゼットや引き出しを開けてみたりするが、やはり中は空っぽだった。
(本当に……何も無い……のか……)
私は何もないことを確認した後、部屋を出ようとした。
しかし、引き返す途中である物を見つけた。
(…………何であれがここにあるんだ?)
私の視線の先にあったのは机の上に置かれた毒の小瓶だった。
おそらくフランチェスカが飲んだのと同じ物だろう。
騎士が片付けるのを忘れたのだろうか。
何故か机の上に放置されていた。
(………あれを見ていると何だか気分が悪くなる)
私は騎士に渡そうと思い、小瓶を懐に閉まった。
そして今度こそ、部屋を出た。
「あ……」
部屋を出た先で、意外な人物と出会った。
「君は……」
「陛下……」
私の目の前に現れたのはフランチェスカの侍女のリリアンだった。
「……陛下、何故ここにいらっしゃるのですか?」
「……」
彼女は鋭い声で私に尋ねた。
「質問に答えてください。陛下、何故ここにいらっしゃるのでしょうか?」
「……来てはいけなかったか」
「いえ、ただ今さらフランチェスカ様のお部屋に何の用があるのかなと思っただけです」
侍女はトゲのある言い方でそう言った。
「……」
私は彼女の質問に上手く答えられなかったため、二人の間を沈黙が流れた。
侍女は私の方をじっと見つめている。
私が喋るのを待っているのだろう。
「……この部屋は、何だか寂しいな」
「……当然です。もう誰も住んでいないのですから」
”もう誰も住んでいない”
侍女のその言葉に寂しさがこみ上げてくる。
今度は私の方から彼女に尋ねた。
「君は……何をしにここへ……?」
「掃除です。この先この部屋を使う方が現れるかもしれませんから」
「……」
きっと彼女は私がすぐにフレイアを王妃に迎えると思っているのだろう。
そんなつもりは到底無いが、今までの私の行動からしてそう思われるのも無理はない。
侍女は一瞬視線をフランチェスカの部屋に移して悲しげな表情を浮かべた。
そしてすぐに私に視線を戻すと、じっと目を合わせて口を開いた。
「陛下、もうこの部屋には来ないでください」
「……」
「先王陛下と先代王妃陛下がお亡くなりになられたそうですね。こんなことをしている場合ではないのでは?」
「……」
「陛下が何故ここに来られたのかは私には分かりません。ですが、これだけは言っておきます」
「……」
「――ここに来ても、もうフランチェスカ様はいませんよ」
「……!」
侍女はそれだけ言うと、立ちすくんでいた私の横を通り過ぎて部屋へ入って行く。
彼女の発した言葉が私の心にグサリと刺さった。
(……分かっている。……そんなのは分かっているんだ)
彼女がもういないことを知っている。
だけど、私は――
どうしても、彼女を思い出さずにはいられなかった。
今まで辛いときはいつだって彼女がいたから。
悩んでいる私の隣に座って優しい言葉で慰めてくれた。
私の背中をさする温かい手の感触を未だに覚えている。
そうだ、こんな夜はいつも彼女が私を元気づけてくれた。
だからここへ来てしまったのだろうか。
(はは……愚かだな……本当に……)
私は心の中で自分の愚かさを嘲笑った。
「――いい加減前に進まれてください、陛下」
侍女がすれ違いざまに何かを言ったような気がしたが、このときの私の耳には何も入らなかった。
私は王宮に到着してすぐ自室に戻り、そのままソファにドサリと座り込んだ。
本当は仕事をするべきなのだろうが、今はそんな気分ではないし、そんなことはもうどうだってよかった。
(フランチェスカ……父上……母上……)
私の脳裏に大好きだった三人の顔が浮かぶ。
私のせいだ。
私のせいで三人は死んだんだ。
離宮を出てから私はそんなことばかりを考えていた。
私は大切な物を全て壊してしまった。
父上も母上もフランチェスカと同じように苦しみながら死んでいったのだろう。
(……本当に、私は何で生きてるんだろうな)
フランチェスカは死んだ。
父上と母上も死んだ。
それなのに、何故私は生きているのだろうか。
「…」
(……ここは何だか息が詰まる。外へ出よう)
辛いことが続いていたせいか、最近は王宮のどこにいても居心地が悪く感じた。
場所を変えれば、この気持ちも少しはマシになるだろうか。
そう思って私はゆっくりとソファから立ち上がった。
身体は驚くほど重かったが、動けないほどではない。
そして部屋の扉を開けて外に出た。
疲れているせいか、扉がいつもよりも重たく感じた。
(……………………………あそこは)
そのとき、部屋を出た私の目に入ったのはフランチェスカの部屋の扉だった。
(……)
行くつもりなど無かったのに、足が勝手に彼女の部屋へと向かっていた。
自分でも何故だかよく分からなかった。
ここはウィルベルト王国の歴代王妃たちが使ってきた部屋だ。
国王の部屋からそう遠くはない。
私の母上もここを使っていた。
私はそのまま彼女の部屋の前まで行くと、そっと扉を開けた。
ここへ来るのは二度目だ。
前にこの部屋でフランチェスカの遺体を見てからはここに来ることを避け続けていた。
あのときの記憶がフラッシュバックしそうで行くに行けなかった。
(…………何も無いな)
中は備え付けの家具以外は何も無かった。
ここはこんなにも質素だっただろうか。
とてもじゃないが王妃の部屋だとは思えなかった。
「……」
私はその部屋を見てどこか寂しさを感じた。
前に来たときはもっと色々とあったはずだ。
全て片付けられてしまったのだろう。
今はもう彼女がここに住んでいたという痕跡すら見当たらない。
私はそのまま部屋に足を踏み入れた。
暗くシーンとした部屋に私の足音だけが響く。
何となくクローゼットや引き出しを開けてみたりするが、やはり中は空っぽだった。
(本当に……何も無い……のか……)
私は何もないことを確認した後、部屋を出ようとした。
しかし、引き返す途中である物を見つけた。
(…………何であれがここにあるんだ?)
私の視線の先にあったのは机の上に置かれた毒の小瓶だった。
おそらくフランチェスカが飲んだのと同じ物だろう。
騎士が片付けるのを忘れたのだろうか。
何故か机の上に放置されていた。
(………あれを見ていると何だか気分が悪くなる)
私は騎士に渡そうと思い、小瓶を懐に閉まった。
そして今度こそ、部屋を出た。
「あ……」
部屋を出た先で、意外な人物と出会った。
「君は……」
「陛下……」
私の目の前に現れたのはフランチェスカの侍女のリリアンだった。
「……陛下、何故ここにいらっしゃるのですか?」
「……」
彼女は鋭い声で私に尋ねた。
「質問に答えてください。陛下、何故ここにいらっしゃるのでしょうか?」
「……来てはいけなかったか」
「いえ、ただ今さらフランチェスカ様のお部屋に何の用があるのかなと思っただけです」
侍女はトゲのある言い方でそう言った。
「……」
私は彼女の質問に上手く答えられなかったため、二人の間を沈黙が流れた。
侍女は私の方をじっと見つめている。
私が喋るのを待っているのだろう。
「……この部屋は、何だか寂しいな」
「……当然です。もう誰も住んでいないのですから」
”もう誰も住んでいない”
侍女のその言葉に寂しさがこみ上げてくる。
今度は私の方から彼女に尋ねた。
「君は……何をしにここへ……?」
「掃除です。この先この部屋を使う方が現れるかもしれませんから」
「……」
きっと彼女は私がすぐにフレイアを王妃に迎えると思っているのだろう。
そんなつもりは到底無いが、今までの私の行動からしてそう思われるのも無理はない。
侍女は一瞬視線をフランチェスカの部屋に移して悲しげな表情を浮かべた。
そしてすぐに私に視線を戻すと、じっと目を合わせて口を開いた。
「陛下、もうこの部屋には来ないでください」
「……」
「先王陛下と先代王妃陛下がお亡くなりになられたそうですね。こんなことをしている場合ではないのでは?」
「……」
「陛下が何故ここに来られたのかは私には分かりません。ですが、これだけは言っておきます」
「……」
「――ここに来ても、もうフランチェスカ様はいませんよ」
「……!」
侍女はそれだけ言うと、立ちすくんでいた私の横を通り過ぎて部屋へ入って行く。
彼女の発した言葉が私の心にグサリと刺さった。
(……分かっている。……そんなのは分かっているんだ)
彼女がもういないことを知っている。
だけど、私は――
どうしても、彼女を思い出さずにはいられなかった。
今まで辛いときはいつだって彼女がいたから。
悩んでいる私の隣に座って優しい言葉で慰めてくれた。
私の背中をさする温かい手の感触を未だに覚えている。
そうだ、こんな夜はいつも彼女が私を元気づけてくれた。
だからここへ来てしまったのだろうか。
(はは……愚かだな……本当に……)
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