51 / 87
51 閃き
今から約十年前。
とある事件が王国中を震撼させた。
それは「コンラード伯爵が王の殺害を企てた」というものだった。
驚くことに、当時の国王陛下にその証拠を提出したのはレスタリア公爵だった。
事の発端はコンラード伯爵邸にある伯爵の部屋から王殺害の計画書が見つかったことだった。
証人も次々と現れ、コンラード伯爵は王家の騎士によって捕らえられた。
その後コンラード伯爵は全ての罪を白日の下に晒された後に処刑され、伯爵家は取り潰しとなった。
これが、コンラード伯爵家が取り潰しになった経緯である。
これだけ聞くとレスタリア公爵が王を守った英雄のように見えるかもしれない。
しかしあの男が王を守るなどありえない。
むしろ王を攻撃しようとする側だろう。
(……レスタリア公爵は欲深い男だ。あの行動にも何か意味があるはずだ)
当時のことを考え込んでいた私にヴェロニカ公爵が声をかけた。
「陛下、コンラード伯爵の件についてですが……」
「ああ、公爵」
「もう一度念入りに調べてみたのですが、伯爵が王の殺害を企てたのは紛れもない事実かと……」
「そうか……」
「手掛かりを得られず申し訳ありません」
「いいや、かまわない。ご苦労だった」
公爵の持ってきた調査結果は私の予想通りだった。
あの父上が冤罪で処刑するだなんてそんな過ちを犯すはずがない。
それだけは私の中でハッキリとしていたからだ。
しかし、もしそうだったとしたら一つ引っ掛かることがあった。
(それなら何だ?あの男は本当にただ悪徳貴族を断罪しただけだと言うのか?)
レスタリア公爵の性格からして、それは信じがたいことだった。
「――陛下」
「……!」
そのとき、執務室の窓から中に入ってきたのは諜報員だった。
諜報員は慣れた様子で執務室の床に着地すると私の前まで来た。
「執事長の身元について分かったことがあります。あの男がペラペラと自分のことを喋ってくれたおかげで特定するのが随分簡単でしたよ」
「そうか、どうだった?」
「執事長の本当の名前はクロード。どうやらエイルは偽名だったようです」
「……偽名だと?」
「はい。彼は元々市井で暮らしていた平民で十歳で両親を殺害され、十二歳の頃にレスタリア公爵に拾われています」
「なるほどな……」
「両親を殺害されてから公爵閣下に拾われるまでの二年間はたった一人で路上生活をしていたようです」
「……」
どうやら執事長の過去は私が思っていたよりも随分と酷かったらしい。まだ幼い子供が一人でそんな境遇になったのだ。想像するだけでも胸が痛くなる。
「公爵閣下に拾われてからは公爵邸で様々な教育を施されたようですね。マナーや礼儀作法、剣術など全てです」
「……ただの執事にそこまでさせる必要があるのか?」
「それは私も思いましたが……どうやら教育はかなりスパルタだったようです。上達が遅いと体罰を受けることもあったのだとか」
「……体罰だと?」
私はその言葉に思わず眉をひそめた。
(何だそれは。私の受けた王太子教育ですらそこまで厳しくはないぞ)
私はそこで過去に受けた王太子教育を思い浮かべた。
たしかに厳しかったが、体罰などはもちろん無かった。
そんなことをすればその講師はすぐさま処刑されることになるからだ。
おそらくフランチェスカが受けた王妃教育も同じだろう。
「……」
一介の執事に何故そこまで厳しくする必要があるのだろうか。
私にはそれがどうしても分からなかった。
それ以前にまだ幼い子供に体罰など、人のすることではない。
私はそこでハァとため息をついた。
(まるでどっかの暗殺者集団みたいだな……)
一流の暗殺者集団では、暗殺者を引き入れるのではなく育て上げるのだと聞いたことがある。
行き場の無い幼い子供を組織に入れ、殺しの術を学ばせる。
幼い頃から専門的にただそれだけを学ばせることによって一流の暗殺者が出来上がるという仕組みだ。
(ん……?育て上げる……?)
私はその言葉が妙に引っ掛かった。
(もしかして……)
そして、ある一つの結論に辿り着いた。
私はすぐに椅子から立ち上がり、部屋の扉へ向かって歩き出した。
「……陛下、どちらへ行かれるのですか?」
ヴェロニカ公爵が私に尋ねた。
「取調室だ」
「も、もしかして何か分かったのですか!?」
公爵は嬉しそうにそう言いながら部屋を出た私について来た。
(……もしかしたら、執事長にとっては残酷な真実を聞くことになるかもしれないな)
私はそう思いながらも取調室へと向かった。
とある事件が王国中を震撼させた。
それは「コンラード伯爵が王の殺害を企てた」というものだった。
驚くことに、当時の国王陛下にその証拠を提出したのはレスタリア公爵だった。
事の発端はコンラード伯爵邸にある伯爵の部屋から王殺害の計画書が見つかったことだった。
証人も次々と現れ、コンラード伯爵は王家の騎士によって捕らえられた。
その後コンラード伯爵は全ての罪を白日の下に晒された後に処刑され、伯爵家は取り潰しとなった。
これが、コンラード伯爵家が取り潰しになった経緯である。
これだけ聞くとレスタリア公爵が王を守った英雄のように見えるかもしれない。
しかしあの男が王を守るなどありえない。
むしろ王を攻撃しようとする側だろう。
(……レスタリア公爵は欲深い男だ。あの行動にも何か意味があるはずだ)
当時のことを考え込んでいた私にヴェロニカ公爵が声をかけた。
「陛下、コンラード伯爵の件についてですが……」
「ああ、公爵」
「もう一度念入りに調べてみたのですが、伯爵が王の殺害を企てたのは紛れもない事実かと……」
「そうか……」
「手掛かりを得られず申し訳ありません」
「いいや、かまわない。ご苦労だった」
公爵の持ってきた調査結果は私の予想通りだった。
あの父上が冤罪で処刑するだなんてそんな過ちを犯すはずがない。
それだけは私の中でハッキリとしていたからだ。
しかし、もしそうだったとしたら一つ引っ掛かることがあった。
(それなら何だ?あの男は本当にただ悪徳貴族を断罪しただけだと言うのか?)
レスタリア公爵の性格からして、それは信じがたいことだった。
「――陛下」
「……!」
そのとき、執務室の窓から中に入ってきたのは諜報員だった。
諜報員は慣れた様子で執務室の床に着地すると私の前まで来た。
「執事長の身元について分かったことがあります。あの男がペラペラと自分のことを喋ってくれたおかげで特定するのが随分簡単でしたよ」
「そうか、どうだった?」
「執事長の本当の名前はクロード。どうやらエイルは偽名だったようです」
「……偽名だと?」
「はい。彼は元々市井で暮らしていた平民で十歳で両親を殺害され、十二歳の頃にレスタリア公爵に拾われています」
「なるほどな……」
「両親を殺害されてから公爵閣下に拾われるまでの二年間はたった一人で路上生活をしていたようです」
「……」
どうやら執事長の過去は私が思っていたよりも随分と酷かったらしい。まだ幼い子供が一人でそんな境遇になったのだ。想像するだけでも胸が痛くなる。
「公爵閣下に拾われてからは公爵邸で様々な教育を施されたようですね。マナーや礼儀作法、剣術など全てです」
「……ただの執事にそこまでさせる必要があるのか?」
「それは私も思いましたが……どうやら教育はかなりスパルタだったようです。上達が遅いと体罰を受けることもあったのだとか」
「……体罰だと?」
私はその言葉に思わず眉をひそめた。
(何だそれは。私の受けた王太子教育ですらそこまで厳しくはないぞ)
私はそこで過去に受けた王太子教育を思い浮かべた。
たしかに厳しかったが、体罰などはもちろん無かった。
そんなことをすればその講師はすぐさま処刑されることになるからだ。
おそらくフランチェスカが受けた王妃教育も同じだろう。
「……」
一介の執事に何故そこまで厳しくする必要があるのだろうか。
私にはそれがどうしても分からなかった。
それ以前にまだ幼い子供に体罰など、人のすることではない。
私はそこでハァとため息をついた。
(まるでどっかの暗殺者集団みたいだな……)
一流の暗殺者集団では、暗殺者を引き入れるのではなく育て上げるのだと聞いたことがある。
行き場の無い幼い子供を組織に入れ、殺しの術を学ばせる。
幼い頃から専門的にただそれだけを学ばせることによって一流の暗殺者が出来上がるという仕組みだ。
(ん……?育て上げる……?)
私はその言葉が妙に引っ掛かった。
(もしかして……)
そして、ある一つの結論に辿り着いた。
私はすぐに椅子から立ち上がり、部屋の扉へ向かって歩き出した。
「……陛下、どちらへ行かれるのですか?」
ヴェロニカ公爵が私に尋ねた。
「取調室だ」
「も、もしかして何か分かったのですか!?」
公爵は嬉しそうにそう言いながら部屋を出た私について来た。
(……もしかしたら、執事長にとっては残酷な真実を聞くことになるかもしれないな)
私はそう思いながらも取調室へと向かった。
あなたにおすすめの小説
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる──
侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。
だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。
アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。
そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。
「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」
これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。過激ざまぁタグあります。
4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。
白い結婚のまま、旦那様は薔薇のような美人に夢中になりました
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢リディアは、美貌で有名な侯爵レオンハルトに嫁いだ。
けれど結婚して二年、夫婦は一度も結ばれないまま――白い結婚だった。
それでも旦那様は優しかった。
冷たいわけではない。気づかいの言葉も、穏やかな笑顔もくれる。
だからリディアは、愛されてはいなくても、いつか少しは夫婦になれるのではないかと信じていた。
そんなある日、彼女は知ってしまう。
旦那様が薔薇の君と呼ばれる絶世の美女に心を奪われていることを。
彼が触れなかったのは私にだけだったのだと。
都合のいい奥方として、役に立っていたと悟る
静かに離縁を決意したリディアは、実家へ戻ったあと、女子学院で働き始める。
すると侯爵夫人時代には当たり前だった実務のすべてが、外では驚くほど必要とされていた。
感謝され、認められ、自分の足で立ち始めた彼女は、少しずつ見違えるほど美しくなっていく
王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
夫は私を愛していないそうなので、遠慮なく離婚します。今さら引き止められても遅いです
藤原遊
恋愛
王妃付き護衛騎士である夫に、「お前を愛したことはない」と告げられた。
理由は単純。
愛などなくても、仕事に支障はないからだという。
──そうですか。
それなら、こちらも遠慮する必要はありませんね。
王妃の機嫌、侍女たちとの関係、贈り物の選定。
夫が「当然のように」こなしていたそれらは、すべて私が整えていたもの。
離婚後、少しずつ歯車は狂い始める。
気づいたときにはもう遅い。
積み上げてきた信用は、静かに崩れていく。
一方で私は、王妃のもとへ。
今さら引き止められても、遅いのです。
【本編完結】初恋のその先で、私は母になる
妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
第19回恋愛小説大賞にて、奨励賞を受賞いたしました。読者の皆様のおかげです!本当ありがとうございます。
王宮で12年働き、気づけば28歳。
恋も結婚も遠いものだと思っていたオリビアの人生は、憧れの年下公爵と一夜を共にしたことで大きく動き出す。
優しく守ろうとする彼。
けれどオリビアは、誰かに選ばれるだけの人生を終わらせたいと思っていた。
揺れる想いの中で、彼女が選んだのは――
自分の足で立ち、自分の未来を選ぶこと。
これは、一人の女性が恋を通して自分を取り戻し、母として、そして一人の人間として強くなっていく物語。
※表紙画像はAI生成イラストをつかっています。
【完結】ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。