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57 薄暗い過去 クロードside
私の名前はエイル。
だけどこれは偽名だ。
本当の名前はもう思い出せない。
私は十二歳の頃にレスタリア公爵閣下に拾われた平民の男だ。
公爵閣下に拾われてからの生活は幸せ……とは決して言えないものだったが、それでも浮浪者だった頃と比べるとだいぶマシだった。
私を拾った公爵閣下は、厳しすぎる教育を私に施した。
それはどう考えても十二歳の子供が耐えられるようなものではなかった。
しかし私は少しでも出来が悪いと捨てられるかもしれないという恐怖から必死に頑張った。
またあんな地獄のような生活に戻るのだけは御免だ。
私にはもう公爵閣下以外は誰もいないのだ。
私の両親は数年前に悪徳貴族に殺された。
殺された理由は母がその貴族の妾になるのを断ったからだ。
たったそれだけの理由で両親は無惨に殺害された。
両親を殺され、帰る家も無い私はそのまま路上生活者となった。
そんなときに手を差し伸べてくれたのが公爵閣下だった。
それから私は公爵閣下に従い続けた。
私にとって閣下は主であり、大恩人でもあった。
閣下が裏で後ろ暗いことをしているのは知っていたが、それでもあの方に従い続けた。
そして私は閣下に命じられて王宮の使用人となった。
使用人としての仕事は楽なものではなかったが、公爵閣下が様々な教育を私に施してくれていたおかげで苦労はしなかった。
閣下が私を王宮に行かせた理由はただ一つ。
王家の内情を探るためだった。
しかし私はその任務にかなり手こずってしまった。
王家のことを探るのはやはり一筋縄ではいかなかった。
このときばかりは本当に捨てられてしまうのではないかと焦った。
しかし、閣下が私に言ったのは意外な言葉だった。
『………そう慌てるな。情報が得られないのなら周りからの信頼を得られるように努力しろ』
閣下は何の情報も得られない私を捨てるどころか、的確なアドバイスをしてくれたのだ。
そして私は閣下の言う通りに動いた。そうしたら執事長にまでなることが出来た。
私はそこから閣下を少しずつ盲信するようになった。
そして、ある日を境に私は閣下を神だと崇めるようになる。
私の両親を殺害したコンラード伯爵が処刑されたのだ。
何でも国王陛下の殺害を企てていたのだとか。
そしてその証拠を陛下に提出したのは閣下だった。
閣下は何の理由もなくそのようなことをする人ではない。
きっと私のためにやってくれたのだろうと思った。
その日から私は閣下に全てを捧げるようになった。
もっと閣下の役に立ちたい。
あの方の望みを叶えてさしあげたい。
そんな気持ちでいっぱいだった。
しかし、そんなある日私は突然騎士に捕らえられてしまった。
どうやら私が閣下の手の者であるということがバレたらしい。
私はその瞬間すぐに自決しようと思ったが、持っていたものを全て取り上げられそれは叶わなくなった。
それからの私は沈黙を貫いた。
自決も出来なくなってしまった今、私がやれることはそれしかなかった。
閣下のことを喋るわけにはいかない。
そう思っていたのに――
まさか取調室に国王陛下が来るとは思わなかった。
ウィルベルト王国の現国王であるレオン陛下はまだ若く、貴族たちの話によると賢王と呼ばれていた先王陛下に比べたら全てがイマイチらしい。
(……閣下の敵ではない。取るに足らない相手だ)
私はこのときまではレオン陛下に対してそう思っていた。
しかし、陛下が口にしたのは意外な言葉だった。
「――クロード」
その名前を聞いた瞬間私はドキリとした。
聞いたことがあるような、どこか懐かしい名前だ。
(違う……そんなやつは知らない……私はエイルだ……エイルなんだ……)
クロードなんてそんな人間は知らない。
知らないはずなんだ。
しかしその名前を聞いた途端頭がズキッと痛んだ。
何故だか自分でもよく分からなかった。
その後も陛下としばらくの間話し続けていたが、頭痛は酷くなるばかりで一向に治まる気配が無い。
「自分の人生に絶望し、路地裏で誰にも看取られずにひっそりと死んでいったんだ」
(……!)
それを聞いた瞬間、私の中で何かが砕け散る音がした。
私はそのとき、今までの自らの行いを酷く後悔した。
(私は何てことをしてしまったんだ……!)
私の両親を殺し、私の人生を壊した憎い相手であるコンラード伯爵。
あの男の死を願わなかった日は一日たりとも無い。
それほどに恨んでいた。
その一方で、私を拾い仇であるコンラード伯爵を断罪してくれたレスタリア公爵閣下のことは崇拝していた。
そこにどんな理由があろうともその気持ちだけは変わらなかった。
それなのに――
(私は……あの男と同じ人間に付き従っていたのか……?)
コンラード伯爵とレスタリア公爵。
殺したいほど憎い相手と大恩人。
全てが違うと思っていた。
だけど結局は……
(同じ……だった……)
それにようやく気付いたとき、私の心に残ったのは大きな絶望感だった。
私はとんでもないことをしてしまった。
誰か……誰か教えてくれ……
(――私は、これからどうすればいい……?)
だけどこれは偽名だ。
本当の名前はもう思い出せない。
私は十二歳の頃にレスタリア公爵閣下に拾われた平民の男だ。
公爵閣下に拾われてからの生活は幸せ……とは決して言えないものだったが、それでも浮浪者だった頃と比べるとだいぶマシだった。
私を拾った公爵閣下は、厳しすぎる教育を私に施した。
それはどう考えても十二歳の子供が耐えられるようなものではなかった。
しかし私は少しでも出来が悪いと捨てられるかもしれないという恐怖から必死に頑張った。
またあんな地獄のような生活に戻るのだけは御免だ。
私にはもう公爵閣下以外は誰もいないのだ。
私の両親は数年前に悪徳貴族に殺された。
殺された理由は母がその貴族の妾になるのを断ったからだ。
たったそれだけの理由で両親は無惨に殺害された。
両親を殺され、帰る家も無い私はそのまま路上生活者となった。
そんなときに手を差し伸べてくれたのが公爵閣下だった。
それから私は公爵閣下に従い続けた。
私にとって閣下は主であり、大恩人でもあった。
閣下が裏で後ろ暗いことをしているのは知っていたが、それでもあの方に従い続けた。
そして私は閣下に命じられて王宮の使用人となった。
使用人としての仕事は楽なものではなかったが、公爵閣下が様々な教育を私に施してくれていたおかげで苦労はしなかった。
閣下が私を王宮に行かせた理由はただ一つ。
王家の内情を探るためだった。
しかし私はその任務にかなり手こずってしまった。
王家のことを探るのはやはり一筋縄ではいかなかった。
このときばかりは本当に捨てられてしまうのではないかと焦った。
しかし、閣下が私に言ったのは意外な言葉だった。
『………そう慌てるな。情報が得られないのなら周りからの信頼を得られるように努力しろ』
閣下は何の情報も得られない私を捨てるどころか、的確なアドバイスをしてくれたのだ。
そして私は閣下の言う通りに動いた。そうしたら執事長にまでなることが出来た。
私はそこから閣下を少しずつ盲信するようになった。
そして、ある日を境に私は閣下を神だと崇めるようになる。
私の両親を殺害したコンラード伯爵が処刑されたのだ。
何でも国王陛下の殺害を企てていたのだとか。
そしてその証拠を陛下に提出したのは閣下だった。
閣下は何の理由もなくそのようなことをする人ではない。
きっと私のためにやってくれたのだろうと思った。
その日から私は閣下に全てを捧げるようになった。
もっと閣下の役に立ちたい。
あの方の望みを叶えてさしあげたい。
そんな気持ちでいっぱいだった。
しかし、そんなある日私は突然騎士に捕らえられてしまった。
どうやら私が閣下の手の者であるということがバレたらしい。
私はその瞬間すぐに自決しようと思ったが、持っていたものを全て取り上げられそれは叶わなくなった。
それからの私は沈黙を貫いた。
自決も出来なくなってしまった今、私がやれることはそれしかなかった。
閣下のことを喋るわけにはいかない。
そう思っていたのに――
まさか取調室に国王陛下が来るとは思わなかった。
ウィルベルト王国の現国王であるレオン陛下はまだ若く、貴族たちの話によると賢王と呼ばれていた先王陛下に比べたら全てがイマイチらしい。
(……閣下の敵ではない。取るに足らない相手だ)
私はこのときまではレオン陛下に対してそう思っていた。
しかし、陛下が口にしたのは意外な言葉だった。
「――クロード」
その名前を聞いた瞬間私はドキリとした。
聞いたことがあるような、どこか懐かしい名前だ。
(違う……そんなやつは知らない……私はエイルだ……エイルなんだ……)
クロードなんてそんな人間は知らない。
知らないはずなんだ。
しかしその名前を聞いた途端頭がズキッと痛んだ。
何故だか自分でもよく分からなかった。
その後も陛下としばらくの間話し続けていたが、頭痛は酷くなるばかりで一向に治まる気配が無い。
「自分の人生に絶望し、路地裏で誰にも看取られずにひっそりと死んでいったんだ」
(……!)
それを聞いた瞬間、私の中で何かが砕け散る音がした。
私はそのとき、今までの自らの行いを酷く後悔した。
(私は何てことをしてしまったんだ……!)
私の両親を殺し、私の人生を壊した憎い相手であるコンラード伯爵。
あの男の死を願わなかった日は一日たりとも無い。
それほどに恨んでいた。
その一方で、私を拾い仇であるコンラード伯爵を断罪してくれたレスタリア公爵閣下のことは崇拝していた。
そこにどんな理由があろうともその気持ちだけは変わらなかった。
それなのに――
(私は……あの男と同じ人間に付き従っていたのか……?)
コンラード伯爵とレスタリア公爵。
殺したいほど憎い相手と大恩人。
全てが違うと思っていた。
だけど結局は……
(同じ……だった……)
それにようやく気付いたとき、私の心に残ったのは大きな絶望感だった。
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誰か……誰か教えてくれ……
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