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63 マクシミリアンの最期
「あ……ああ……」
「ハァ……ハァ……」
レスタリア公子が食らった今の一撃は完全に致命傷だった。
もう彼は立ち上がるどころか息をすることすら出来ないだろう。
暗闇の中でも分かるほどに地面に血が広がっていく。
私は息を整えながらその光景をじっと見つめていた。
それからすぐに仰向けに倒れたレスタリア公子が持っていた剣を手から離した。
それが公子の戦意が喪失したことを示していた。
私はそんな彼にゆっくりと近付いた。
血で靴が汚れるのも気にならなかった。
「お前はここで死に、公爵家はすぐに取り潰しになるだろう」
「……」
瀕死の公子を見下ろしてそう言ったが、それを聞いても彼は表情を変えなかった。
どうやら何か思うところがあるようだ。
しばらくは黙り込んでいた彼だったが、突然笑みを浮かべたかと思うと口を開いた。
「ハハハ……流石ですね……父上が警戒するわけだ……」
「……」
そう口にした彼は酷く弱々しくて思わず同情してしまいそうなほどだった。
「最後に一つ……お聞きしたいことがあります……」
「何だ?」
息も絶え絶えにレスタリア公子は言葉を紡いだ。
「先ほど……陛下がおっしゃっていた約束とは……一体何のことですか?」
最後に聞きたいことがそれとは。
わざわざ答えてやる義務は無かったが、特に秘密にしておく必要も無かったので私は包み隠さず話した。
「約束と言っても私が一方的にしただけだがな。亡くなったフランチェスカと両親の墓の前で誓ったんだ。必ずこの国を守り抜くと」
「……」
レスタリア公子は私の話をじっと聞いていた。
私はそんな公子にハッキリと告げた。
「だから私はたとえ死んでもこの座を渡すわけにはいかない」
それを聞いた公子が息を吐きながらも何かを考え込むような素振りを見せた。
「……陛下にも……色々と……あったのですね……愚王だなんて言って……申し訳ありませんでした……」
「……」
公子が一体どのようなつもりで死の間際に謝罪をしたのかは分からない。
だがしかし、薄っすらと開かれたその瞳には先ほど見せていた私に対する怒りは消えているように思えた。
「――陛下」
「……何だ?」
もう息をしているのも辛いはずなのに、どうやら彼はまだ喋り続けるつもりらしい。
「公爵邸に行ったところで無意味です」
「……何だと?」
私はその言葉に眉をひそめた。
「本邸には何もありませんから。いくら調べても何も出てこないでしょう」
「……」
そこまで言うとレスタリア公子は口から血を吐いた。
彼の命の灯火は既に消えかかっていた。
「真実を知りたいのなら……公爵家が秘密裏に所有している別邸へ行ってください……」
「……別邸?」
そこでレスタリア公子は懐から小さな紙切れを取り出した。
公子から渡されたその紙を、私は手でしっかりと受け取った。
「そこに行けば……全て分かりますから……」
「おい、それは一体……」
どういう意味だと聞こうとしたそのとき、レスタリア公子はゆっくりと瞼を閉じた。
「……」
どうやら彼はたった今短い生涯を終えたようだった。
この男は王に剣を向けた大罪人だ。
死んで当然だったし、別に弔ってやる必要も無い。
しかし、公子の最期を見た私はどうも彼を恨む気にはなれなかった。
ヴェロニカ公爵たちから話を聞いた騎士たちがすぐにここへ訪れるだろう。
そう思った私は公子から背を向けた。
(別邸……別邸か……)
私は公子から渡された紙をじっと見つめた。
それはウィルベルト王国の地図で、ある一点に印が付けられている。
「……」
もしかしたらレスタリア公子が仕掛けた罠かもしれない。
しかし私はどうしてもそのことが気になって仕方が無かった。
結局私は剣を鞘にしまい、顔に付着していた返り血を袖で拭って駆け足でその場を後にした。
◇◆◇◆◇◆
レオンが去って数分後の路地裏。
「……」
マクシミリアンは閉じていた瞼をゆっくりと開けた。
レオンは既に随分と遠くへ行ってしまったようで路地裏には足音一つ聞こえない。
(まだ……生きていたんだな……)
そう思ったそのとき、ゴフッと口から血が噴き出た。
レオンに付けられた傷は完全に致命傷で、もう彼が助かる見込みは無かった。
マクシミリアンは倒れたまま夜空をじっと眺めていた。
何故敵である彼にそんなことを教えたのか、マクシミリアンは自分でもよく分からなかった。
彼らは従兄弟ではあったが、間違いなく敵同士だった。
しかし、レオンの放ったあの一言が彼に大きな衝撃を与えた。
『私は私の大事な者のためにその座を奪おうと思う』
それを聞いて思い出すのは尊敬する父のことだった。
誰よりも強く誰よりも優しかった父。
マクシミリアンの憧れの存在だった。
(父上……馬鹿な息子で申し訳ありません……)
そのとき、彼の目から一筋の涙が零れた。
死を間近に控えた彼の脳裏によぎったのは大切な家族との思い出だった。
もう二度と会えないのだと思うと涙が溢れてくる。
ひとしきり泣いた後、彼はレオンが去って行った方向に目を向けた。
彼はもう公爵家の秘密を知っているだろうか。
「……」
しかし、それを自身が知ることは無い。
そして今度こそは深い眠りに就けるよう、彼はゆっくりと目を閉じた。
こうしてレスタリア公爵家の長男マクシミリアンはその生涯に幕を下ろした。
自身の死がきっかけで、後にウィルベルト王国が大混乱に陥るということをもちろん彼は知らない。
「ハァ……ハァ……」
レスタリア公子が食らった今の一撃は完全に致命傷だった。
もう彼は立ち上がるどころか息をすることすら出来ないだろう。
暗闇の中でも分かるほどに地面に血が広がっていく。
私は息を整えながらその光景をじっと見つめていた。
それからすぐに仰向けに倒れたレスタリア公子が持っていた剣を手から離した。
それが公子の戦意が喪失したことを示していた。
私はそんな彼にゆっくりと近付いた。
血で靴が汚れるのも気にならなかった。
「お前はここで死に、公爵家はすぐに取り潰しになるだろう」
「……」
瀕死の公子を見下ろしてそう言ったが、それを聞いても彼は表情を変えなかった。
どうやら何か思うところがあるようだ。
しばらくは黙り込んでいた彼だったが、突然笑みを浮かべたかと思うと口を開いた。
「ハハハ……流石ですね……父上が警戒するわけだ……」
「……」
そう口にした彼は酷く弱々しくて思わず同情してしまいそうなほどだった。
「最後に一つ……お聞きしたいことがあります……」
「何だ?」
息も絶え絶えにレスタリア公子は言葉を紡いだ。
「先ほど……陛下がおっしゃっていた約束とは……一体何のことですか?」
最後に聞きたいことがそれとは。
わざわざ答えてやる義務は無かったが、特に秘密にしておく必要も無かったので私は包み隠さず話した。
「約束と言っても私が一方的にしただけだがな。亡くなったフランチェスカと両親の墓の前で誓ったんだ。必ずこの国を守り抜くと」
「……」
レスタリア公子は私の話をじっと聞いていた。
私はそんな公子にハッキリと告げた。
「だから私はたとえ死んでもこの座を渡すわけにはいかない」
それを聞いた公子が息を吐きながらも何かを考え込むような素振りを見せた。
「……陛下にも……色々と……あったのですね……愚王だなんて言って……申し訳ありませんでした……」
「……」
公子が一体どのようなつもりで死の間際に謝罪をしたのかは分からない。
だがしかし、薄っすらと開かれたその瞳には先ほど見せていた私に対する怒りは消えているように思えた。
「――陛下」
「……何だ?」
もう息をしているのも辛いはずなのに、どうやら彼はまだ喋り続けるつもりらしい。
「公爵邸に行ったところで無意味です」
「……何だと?」
私はその言葉に眉をひそめた。
「本邸には何もありませんから。いくら調べても何も出てこないでしょう」
「……」
そこまで言うとレスタリア公子は口から血を吐いた。
彼の命の灯火は既に消えかかっていた。
「真実を知りたいのなら……公爵家が秘密裏に所有している別邸へ行ってください……」
「……別邸?」
そこでレスタリア公子は懐から小さな紙切れを取り出した。
公子から渡されたその紙を、私は手でしっかりと受け取った。
「そこに行けば……全て分かりますから……」
「おい、それは一体……」
どういう意味だと聞こうとしたそのとき、レスタリア公子はゆっくりと瞼を閉じた。
「……」
どうやら彼はたった今短い生涯を終えたようだった。
この男は王に剣を向けた大罪人だ。
死んで当然だったし、別に弔ってやる必要も無い。
しかし、公子の最期を見た私はどうも彼を恨む気にはなれなかった。
ヴェロニカ公爵たちから話を聞いた騎士たちがすぐにここへ訪れるだろう。
そう思った私は公子から背を向けた。
(別邸……別邸か……)
私は公子から渡された紙をじっと見つめた。
それはウィルベルト王国の地図で、ある一点に印が付けられている。
「……」
もしかしたらレスタリア公子が仕掛けた罠かもしれない。
しかし私はどうしてもそのことが気になって仕方が無かった。
結局私は剣を鞘にしまい、顔に付着していた返り血を袖で拭って駆け足でその場を後にした。
◇◆◇◆◇◆
レオンが去って数分後の路地裏。
「……」
マクシミリアンは閉じていた瞼をゆっくりと開けた。
レオンは既に随分と遠くへ行ってしまったようで路地裏には足音一つ聞こえない。
(まだ……生きていたんだな……)
そう思ったそのとき、ゴフッと口から血が噴き出た。
レオンに付けられた傷は完全に致命傷で、もう彼が助かる見込みは無かった。
マクシミリアンは倒れたまま夜空をじっと眺めていた。
何故敵である彼にそんなことを教えたのか、マクシミリアンは自分でもよく分からなかった。
彼らは従兄弟ではあったが、間違いなく敵同士だった。
しかし、レオンの放ったあの一言が彼に大きな衝撃を与えた。
『私は私の大事な者のためにその座を奪おうと思う』
それを聞いて思い出すのは尊敬する父のことだった。
誰よりも強く誰よりも優しかった父。
マクシミリアンの憧れの存在だった。
(父上……馬鹿な息子で申し訳ありません……)
そのとき、彼の目から一筋の涙が零れた。
死を間近に控えた彼の脳裏によぎったのは大切な家族との思い出だった。
もう二度と会えないのだと思うと涙が溢れてくる。
ひとしきり泣いた後、彼はレオンが去って行った方向に目を向けた。
彼はもう公爵家の秘密を知っているだろうか。
「……」
しかし、それを自身が知ることは無い。
そして今度こそは深い眠りに就けるよう、彼はゆっくりと目を閉じた。
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