お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの

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78 立派な王に

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それから数日後。戦後処理が未だに終わっていない今、どうしても行きたい場所があった私は重鎮たちに内緒で一人王宮を抜け出していた。


そのまま私が向かったのは王都にある広場だった。
久々に来た王都はまだ復興が済んでおらず、あちこちにガレキが散乱している状態だった。
いつもは鬱陶しいほどに人で溢れ返っている広場が今日はどこか寂しく感じた。
広場にいる人々は皆一様に浮かない顔をしている。
この凄惨な現場を見ればそうなるのも当然だろう。


私が王都の中心にあるこの広場に来たのには意味があった。


「……」


そこで私は広場に供えられたたくさんの花に目をやった。
これは国民たちが今回の戦争の犠牲者たちに対して供えたものだった。
ズラリと並んだその花たちを見るたびに胸が痛くなる。
何の罪も無い人間が無慈悲に殺されたのだ。
ウィルベルト王国とローレン王国の間で起きたこの戦争はお互いに何の意味ももたらさなかった。


今の私は国王としてではなく、ウィルベルト王国に住む一人の人間としてここへ訪れていた。
ローブを深くかぶっているため私が王であると気付く者は一人もいない。
私はこの国を愛する一人の人間として彼らを弔うためにここへ来たのだ。


(……どうか、安らかに眠ってくれ)


私はそう思いながら自ら用意した花を供えて手を合わせた。
それからしばらくして何の未練も無く広場から立ち去る。


フランチェスカが亡くなり、毒から目覚めたあの日から過去は振り返らないと決めたからだ。
となると、今から私がやるべきことはただ一つだった。


(私は、何が何でもこの国を建て直さなければいけない)


――フランチェスカ、天国から見ていてくれ。


私は心の中でそう彼女に語りかけて、そのまま王宮へと戻った。






◇◆◇◆◇◆





ローレンとの戦争から十年の月日が経った。


大陸中に激震が走ったローレン王国とウィルベルト王国の戦争。
戦いを仕掛けたのはローレン側で、指揮を執ったのはウィルベルトのレスタリア公爵という何とも複雑な構図だった。


結果として、この戦いに勝利したのはウィルベルト王国だった。
圧倒的な力でウィルベルト軍の騎士たちを次々と捻じ伏せていた”狂戦士”レスタリア公爵を倒したのはウィルベルト王国の王であるレオンだった。
そして彼はそのままローレン王宮に乗り込み戦争を終わらせた。


ウィルベルト王国の若き王レオンは無事国を建て直すことに成功したのである。


そしてレオンはその日、王都の中央にある広場を訪れていた。
戦争から十年、もうすっかり街は元通りだ。


王都の広場には戦争の英雄であるレオン王の銅像が建てられていた。
レオンは自分そっくりに作られた像を見て苦笑いを浮かべた。


(……建てる必要は無いとあれほど言ったのにな)


時は五年前に遡る。
彼の侍従であるアレクがローレンとの戦争を終結させたレオンの銅像を建てようと提案したのだ。
ヴェロニカ公爵を始めとした周囲もそれに賛同した。
ただでさえ復興に金がかかっているのだからとレオンは反対したが、彼の忠臣たちが聞かなかった。
結局、レオンは彼らの圧に負けてそれを許可してしまったのである。


ウィルベルト王国ではレオンは王でありながらも、また英雄として国民たちに崇められている存在だった。


そしてその傍には女神ローラの銅像も建てられていた。


噴水は完全に破壊されていたが、不思議なことに女神の像だけは傷一つ付いていなかった。
それを知った彼は完全に元の状態に戻すように命じた。
そうした理由はただ一つ。
フランチェスカとの思い出の場所を無くしたくなかったからだ。


(フランチェスカ……私は……立派な王になれただろうか……?)


彼女との思い出が詰まったこの場所でレオンは空を見上げた。
雲一つ無い青い空。
いつ見てもフランチェスカの瞳によく似ている。


(また君に会いに行くよ。そのときは……今よりもっと良い男になって君の元へ行くから)


レオンは定期的に彼女の墓参りに行っていた。
ウィルベルト王国の英雄となった今でも彼女が彼にとって最も大切な人であるという事実は変わらなかった。


「!」


その瞬間、暖かい風が王都の広場を吹き抜けた。


そのときレオンはほんの一瞬だけ彼女の幻影を見た。
そこで見た彼女は自分を見て笑っていて。
その美しい笑みにつられて彼も笑顔になってしまう。


彼が彼女を忘れることは決して無いだろう。


――王国に、この青空が続く限りは。


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