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第13話 シアの過去②
アイリーンは子供なんて欲しくはなかったが、生まれてきた女の子は自分を超えるほどの逸材だった。
娘の才能に目を付けた彼女は、手のひらを返すようにシアを大切に育てた。
シアはそんな母親の元ですくすく育っていった。
自らが望まれない子供であったことなど、彼女は知る由もなかった。
ただただ、唯一の味方である母親を愛し続けた。
一方で、アイリーンは年を取るにつれ、自らの魔力が弱まっていくのを感じていた。
そんな彼女にとって、シアの存在は希望そのものだった。
「この子はいつかきっと私を超えるほどの魅了魔法を使えるようになるわ……」
アイリーンはそう確信していた。
彼女は魅了魔法が完全に使えなくなる前に、最後の力を振り絞り、ある人物に魔法をかけた。
「初めまして、グランダール侯爵様。アイリーンと申します」
「アイリーン……君は何て美しいんだ……まるで地上に舞い降りた女神のようだな……」
それは、まだ若きグランダール侯爵家の当主だった。
彼には妻と、ちょうどシアと同じ年頃の娘がいた。
しかし、かつて稀代の悪女と呼ばれたアイリーンにとってはそんなこと気にもならなかった。
アイリーンはグランダール侯爵に魅了魔法をかけ、シアを彼の娘だと偽った。
見事なまでに洗脳された侯爵は、何の疑いもなくアイリーンに愛を注ぎ、シアを娘として受け入れた。
「ふふふ……人間って魔族よりもずっとチョロいのね……」
侯爵からもらったドレスや宝飾品で身を固めたアイリーンは、口元に醜い笑みを浮かべながらつぶやいた。
グランダール侯爵家はリタ王国の名門侯爵家だ。
地位のある男を自らの手中に落とすのはやっぱり気持ちがいい。
彼女は昔からの趣味を人間界でもやめられなかった。
「侯爵様、私あれが欲しいわ」
「……」
今日もアイリーンはいつものように、甘ったるい声で侯爵の腕にしがみついた。
しかし、その日彼からの反応はなかった。
アイリーンの魅了魔法は見るからに弱まっていたのだ。
彼女は悔しさでグッと唇を噛んだが、何も完全に詰んだわけではなかった。
「お父様!」
「……シア」
侯爵の胸に飛び込んだシアを、彼は愛しそうに受け止めた。
シアはかつての母のように、侯爵に自分で魅了魔法をかけたようだった。
アイリーンはまだ幼いながらこの子は私にそっくりだと思った。
シアはまだ五歳にして既に母親を超えるほどの魅了魔法を操ることができた。
これほどの逸材はなかなかいない。
「お父様、ママと私のこと、捨てたりしないよね?」
「何を言っているんだ、私の家族は君たち二人だけだ。そんなことするわけがないだろう」
侯爵の言葉に、アイリーンはふぅと安堵の息を吐いた。
既に魅了魔法を使えなくなっていた彼女にとって、侯爵に捨てられるのは死を意味するからだ。
「あらやだ、侯爵様ったら。ちゃんと家に帰らないとダメですよ」
「私はここにいたい、君たちといるほうが居心地がいいんだ」
侯爵は完全にシアの魅了魔法の餌食になっていた。
彼女はシアがそのように育ったことに対して大きな喜びを感じていた。
「――そう言ってもらえて嬉しいですわ、侯爵様」
アイリーンはそう言いながら侯爵の肩に手を触れた。
彼女は気付いていなかった。
――魔王軍の手がすぐそこに迫っていることを。
娘の才能に目を付けた彼女は、手のひらを返すようにシアを大切に育てた。
シアはそんな母親の元ですくすく育っていった。
自らが望まれない子供であったことなど、彼女は知る由もなかった。
ただただ、唯一の味方である母親を愛し続けた。
一方で、アイリーンは年を取るにつれ、自らの魔力が弱まっていくのを感じていた。
そんな彼女にとって、シアの存在は希望そのものだった。
「この子はいつかきっと私を超えるほどの魅了魔法を使えるようになるわ……」
アイリーンはそう確信していた。
彼女は魅了魔法が完全に使えなくなる前に、最後の力を振り絞り、ある人物に魔法をかけた。
「初めまして、グランダール侯爵様。アイリーンと申します」
「アイリーン……君は何て美しいんだ……まるで地上に舞い降りた女神のようだな……」
それは、まだ若きグランダール侯爵家の当主だった。
彼には妻と、ちょうどシアと同じ年頃の娘がいた。
しかし、かつて稀代の悪女と呼ばれたアイリーンにとってはそんなこと気にもならなかった。
アイリーンはグランダール侯爵に魅了魔法をかけ、シアを彼の娘だと偽った。
見事なまでに洗脳された侯爵は、何の疑いもなくアイリーンに愛を注ぎ、シアを娘として受け入れた。
「ふふふ……人間って魔族よりもずっとチョロいのね……」
侯爵からもらったドレスや宝飾品で身を固めたアイリーンは、口元に醜い笑みを浮かべながらつぶやいた。
グランダール侯爵家はリタ王国の名門侯爵家だ。
地位のある男を自らの手中に落とすのはやっぱり気持ちがいい。
彼女は昔からの趣味を人間界でもやめられなかった。
「侯爵様、私あれが欲しいわ」
「……」
今日もアイリーンはいつものように、甘ったるい声で侯爵の腕にしがみついた。
しかし、その日彼からの反応はなかった。
アイリーンの魅了魔法は見るからに弱まっていたのだ。
彼女は悔しさでグッと唇を噛んだが、何も完全に詰んだわけではなかった。
「お父様!」
「……シア」
侯爵の胸に飛び込んだシアを、彼は愛しそうに受け止めた。
シアはかつての母のように、侯爵に自分で魅了魔法をかけたようだった。
アイリーンはまだ幼いながらこの子は私にそっくりだと思った。
シアはまだ五歳にして既に母親を超えるほどの魅了魔法を操ることができた。
これほどの逸材はなかなかいない。
「お父様、ママと私のこと、捨てたりしないよね?」
「何を言っているんだ、私の家族は君たち二人だけだ。そんなことするわけがないだろう」
侯爵の言葉に、アイリーンはふぅと安堵の息を吐いた。
既に魅了魔法を使えなくなっていた彼女にとって、侯爵に捨てられるのは死を意味するからだ。
「あらやだ、侯爵様ったら。ちゃんと家に帰らないとダメですよ」
「私はここにいたい、君たちといるほうが居心地がいいんだ」
侯爵は完全にシアの魅了魔法の餌食になっていた。
彼女はシアがそのように育ったことに対して大きな喜びを感じていた。
「――そう言ってもらえて嬉しいですわ、侯爵様」
アイリーンはそう言いながら侯爵の肩に手を触れた。
彼女は気付いていなかった。
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