なんだかんだで妖怪相談所はじめました(仮)

杵島玄明

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12天狗

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 訳もわからず抱えられたまま、俺が連れてこられた先は、事務所からもほど近い美容室だった。
セレブたちに人気のこの美容室は、たしか・・・予約が取れないことで有名である。
そこで俺は1秒たりとも待たされることなくセットチェアに座らされると、笑顔でやってきた男性美容師に希望を聞かれることなく、当たり前のように髪をカットされていく。

「ちょ、あのさ、俺の希望とか聞かないわけ?」
「甲斐様に伺っておりますので、ご安心を」

――いや・・・俺の髪なんですけど・・・・
 
トップの長さを切りそろえるとサイドに広めのツーブロックを、躊躇いもなく入れられる。
 最後にトップの髪を全体的に左側に流されて、あっという間に首から上だけがおしゃれボーイに仕上がった。
 セットチェアから立ち上がり振り返ると、先ほどの男性ふたりが待ち構えており、またしてもそのまま数件隣のセレクトショップへと連行される。
 もはや俺には発言権すらない。
 そこには数点の服や靴を既にチョイスしていた先ほどの女性が待ち構えており、まるで着せ替え人形のように次々と着替えさせられた。
 ここまで正味20分。
 流石尊の部下たちだ。仕事に隙がない・・・などと感心している場合ではない。
 果たして俺、安野雲志童は30分もかからずして、全身おしゃれボーイへと変身を遂げ、まるで荷物の如く事務所へと戻された。
 そんな俺を見て、真っ先に声を上げたのは、雲外姉さんだった。

「うそでしょっ!」

 善が雲外鏡に向けて得意げな笑みを浮かべている。

「な、だから言ったろ?きちんとしたら実は志童が一番いい男だって」
「ほんと・・・・いつものダメ人間で、クズで、ゴミで、虫けら以下のような志童からは想像もできなかったわ・・・・」

――雲外姉さん・・・今日も切れ味抜群ですね・・・

「本当に志童なの?おいらビックリだよ。なんか全然違う人みたいじゃん・・・今の志童なら、見かけだけはまっとうな人間に見えるよね」
「お前らなぁ・・・・」

 言いたい放題の雲外鏡とルドに、俺は苦笑いをするしかない。

「まぁ確かに・・・楓姉さんがお前で遊びたく気持ちもわかるな・・・」

 尊が満足そうに、まるで自分の生み出した作品だとでも言いたげに俺を見上げた。
ともかく、これで合コンに行かない理由がなくなってしまった。俺は大きくため息をついてソファーに倒れこんだ、その時だった。
ルドが俺の元へぴょんと移動するとそっと耳元で囁いた。

「志童・・・・なんか来たよ・・・・」
「え?」

 ソファにうつ伏せの状態からがふと顔を上げると、すぐ目の前に見知らぬ男の笑顔があった。

「ぅうわわわああぁぁぁぁぁぁ!」

 思わず叫び声を上げながら飛び上がり、ソファーの反対側まで一気に体を引く。
 突然姿を現した男に、流石の尊と善も言葉がでないらしい。
 男はそこに姿勢よく立っている。その口元には、わずかな笑みを称えている。

「えっと・・・・今日の合コンって・・・・コスプレパーティ?もう一人・・・いたっけ?」
「いや・・・そんな予定はなかったはずだけど・・・・なぁ?尊?」
「あ、あぁ・・・」

 俺たちがそう思うのも無理はなかった。
目の前の男は一見山伏のようでもあり、足には一本歯の高下駄をはいている。
 そのくせ男の俺から見ても見惚れる程のルックスだ。少し日本人離れしたような端正な顔立ちにストレートの長い髪。
 背中に見える漆黒の羽は、見事なまでに黒光りしている。
 
「えっと・・・・もしかして・・・て・・天狗さんでしょうか?」

尊と善がはっとして俺を見たあとで、男に目線をもどす。

「うそ・・・だろ・・・・」
「でも・・・その恰好・・・確かに・・・・」

唖然とする俺たちを、男はまったく気にする風もなく、バサッと翼と両手を一度大きく開いた後でゆっくりと戻してから、右手を胸に、左手を背中に回し、折り目正しく優雅にお辞儀をした。

「はじめまして。私は天狗にございます。天狗の天羽琉《あもうはく》と申します。
以後お見知りおきを・・・・」
「わぉ~!天狗ぅ!おいら、初めて会ったよ!」
「やぁ、君はすねこすりだね」
「うん、おいらルドっていうのっ」
「ルドですかぁ。素敵なお名前ですね」
「ちょ、ちょっと待っとくれ!あたしもいるよっ!」
「これは失礼を致しました。雲外鏡のお嬢様ではございませんか。相変わらずお美しいですね」
「あんたと会うのは、何百年ぶりだろうねぇ~。
あんたも変わらず、いい男じゃないかぁ~」
「おほめ頂き、痛み入ります」

 俺たち人間3人を完全に置いてけぼりにして、盛り上がる妖怪たち。
しばらく呆然としてその光景をみていたが、唐突に尊が噴き出した。
尊は自らの額に手をあて、大笑いしている。
その姿を見ていた善も笑いだした。

「おっおまえら、何笑ってんだよ」

言った俺に尊が目じりに溜まった涙を拭いながら顔を上げた。

「だってさぁ、天狗ってよりホストか執事だろ?」
「確かに!誰だよ、天狗が赤い顔にながっ鼻つけてるって言った奴は!
男の俺らから見ても、惚れ惚れする男前っぷりだよなぁ。今すぐにでも芸能界で十分やっていけるレベルのイケメンじゃねぇか」

そう言った善が立ち上がり、天狗に向かって笑みを向けた。

「俺は一ノ瀬善、フリーゲーム作ってんだ。よろしくな」

そう言って右手を出すと、天狗は躊躇なくその手をとり握手をした。

「ほう、フリーゲームとはどういったものか、大変興味があります。是非ともご教示いただきたい」

 天狗が嬉しそうに言う。
 至って自然な動作で次に立ち上がったのは尊だった。

「甲斐尊です。父の経営するホテル事業で言わば修行中の身です」

天狗はその顔に笑みを浮かべ、尊の握手にも軽快に応じる。

「ホテル・・・というのはどういったものでしょう?
いや、しかし修行とは素晴らしい。貴殿からも色々と学ばせて頂きたいものです」

 俺の事務所が、一気に上流階級の社交場に見えてきた。
笑い合う3人を雲外鏡が、ため息を漏らしながら、うっとりと見とれている。

「ねぇねぇ、天羽琉こっちは志童だよ」

天狗の服の裾をひっぱって、天狗、天羽琉の目線が俺に向けられた。

「貴方がここの主殿で間違いございませんか?」

ポカンとだらしなく口を開けていたことに気づき、あわててその佇まいを正す。ついでに涎も拭いた。

「え、えっと、そう。ここは俺の部屋・・・じゃなくて、事務所」

 まったくしまらない俺を見て、尊と善が笑いをこらえるように肩を揺らしている。

――どうせ俺は、お前らと違うよ。

「まぁまぁ、立ち話もなんですし、どうぞ、おかけください」 
「これは、かたじけない」

 尊に促された天狗が俺の隣に腰を下ろした。

「その男は安野雲志童と言って、まぁ頼りなく見えますが・・・根はいい奴ですから」

 ポカンと馬鹿面を晒す俺の代わりに、尊が至極スマートに俺の紹介をした。

「えっと・・・、あ・・・あ・・・あも・・・」
「天羽琉です」
「そうそう、天羽琉・・・・」

――呼びにくい・・・・ってか、どこまでが苗字なんだ?

 気を取り直して、隣に座る天狗を観察する。
 身長はさして変わらなく見えたが、なぜか見上げる姿勢になるのは天羽琉の姿勢がよく、俺が猫背だからだろうか・・・。

――だめだ・・・どう見てもここの主である俺の方が、気圧されている・・・ここはいっちょ、俺だってやれるんだってとこを見せなければ!

「コホン・・・」
「志童、風邪か?」
「咳払いだよ!善はちょっと黙ってろ」
「はいはい」

――まったく、これだから調子が狂う

「えっと、あもう・・・・はくって言ったっけ?どうしてここに?」
「それが・・・・」

 天羽琉は目を伏せ、寂しげに俯いた。


「実は・・・私にもよくわからないのです・・・」

 想定外の言葉に、俺たち3人は顔を見合わせた。
少なくとも、ルドや雲外姉さんがここへやってきた経緯ははっきりしていた。ルドと雲外姉さんよりも遥かに信頼できそうなこの天羽琉と名乗る天狗から、発せられた言葉にしては違和感がありすぎる。

「何か事情があるなら聞くけど?」
「あぁ、そうだね。ひとりで考えるよりも、誰かに話した方が解決策が見つかることもあるんじゃないか」

尊と善は恐らく、この天羽琉という天狗を気に入ったのだろう。確かに、この天狗からは嫌な感じが一切しない。

「そうだよな・・・・。ここには俺ら3人の他にもルドや雲外姉さんもいることだし、話してみろよ」

 天羽琉が不思議そうに俺たちを見ている。

「あのっ・・・、皆さんは、人間でしょうか?」
「は?」

 お門違いな質問に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

「天羽琉、志童も善も尊も人間だぞ。どうかしたのか?」
「あっ、あぁ、失礼いたしました。私の最後の記憶では、突然現れた人間達によって一方的に術をかけられてしまいましたので・・・貴方方のように親切な人間がいるのかと・・・・」
「術?」

 尊が眉をしかめた。

「あぁ、それなら前にルドも言ってたよな。突然現れた法師たちに封印されたって」
「おう、そうだぞ!おいら何の悪さもしてないのに、まったくひどい話だよ」

ルドは鼻筋に皺を寄せて、怒っている。確かに、ルドたちの話を聞く限り一方的に妖たちが封印されたのかもしれない。

「なぁ、詳しい話、聞かせてくれるか?」

善が言うと、天羽琉は一瞬躊躇うそぶりを見せたが、静かに頷いた。

「私はどのくらい・・・・あの暗い空間をさ迷っていたのでしょうか・・・」

 寂しげな天羽琉の目は、ここではないどこか・・・遠いところを見るようだった。

「あの空間って?」
「封印のことじゃない?」

そう言ったルドに、俺も尊も善も「あぁ~」と納得する。

「私が最後に見た景色は・・・・・こことはまるで違います」

 そう言った天羽琉の膝に、ルドがぴょんと飛び乗った。

「あのね、おいら達妖怪は、ずっと封印されてたんだよ。だからきっと、天羽琉も・・・」
「封印?」

ルドの言葉を聞いて天羽琉は、誰に言うでもなく呟いた。

「うん。えっとねぇ・・・なんていうかぁ~」

 ルドはそう言いながら、助けを求めるように振り向くと尊に視線を送る。
 こんな時、助けを求める相手が当たり前のように俺じゃないってとこが、なんとも可愛げがないが、確かにここは尊を選ぶのが正しい。
 尊は「大丈夫だ」というようにルドに向かって頷きかえすと、鞄の中からi-Padを取り出し年表を表示させ、天羽琉の前に置いた。

「天羽琉さん、これを見てください。ルドたちの話から、貴方が封印されたと思われるのはおそらくこの時代」

 そう言って、尊は年表の江戸後期を指さす。

「この時代、大政奉還が行われ日本の在り方は大きく変わります。新たな政治の中心は・・・・・」

尊はこれまでの世界の歴史を現役教師顔負けのわかり易さで説明し、更に日本における江戸から現在に至るまでを天羽琉に話して聞かせた。
天羽琉はi-Padに驚きながらも、尊の説明に相槌を打ったり、時折大きく頷いている。

「なるほど・・・・、では。
私はそれほどの長い時間を、・・・封印されていたのですね」

天羽琉の言葉から読み取れる焦燥感に、誰ひとりかける言葉もない。俺はなんとも居たたまれない気持ちで、隣の天羽琉を覗き見た。

――いくら妖怪でも・・・それが天狗であっても、そんなに長い時間を封印されていたという事実を知ればやっぱりショックだよな・・・・・。

「なるほど・・・尊様。ありがとうございます。大変によくわかりました
正直申しまして、私自身もどう封印を解いてここに来たかはわかりません・・・・・」

――だよな・・・・。うん。けど・・・、天狗とはこんなにも折り目正しいものなのだろうか。
 
俺は腕を組み頷きながら、黙って天羽琉の言葉を聞いていた・・・つもりだった。

「しかし、私がここへこうして来れたのも何かのご縁でしょう」
「うん、そうだ。縁だよなぁ・・・・」
「ぉお、志童様もそう思われますか!で、あればっ!
ここの主、志童様のお役に立つまでっ!志童殿っ、本日よりどうぞよろしくお願い致しますっ!」
「そうか、そうだよなぁ。よろしく・・・・・・って、えっ?」

 いつの間にか、心の声を実際に声にしてしまっていた俺は、なにやら取り返しのつかないことを口走ったようだ。

「志童っ!お前、懐がでかくなったじゃねぇか!」
「あぁ、俺も感心した」
「いや・・・尊・・・善・・・・これは・・・」
「志童っ、おいらも感激してるぞっ!なんだか、恰好がパリっとして男っぷりもあがったんじゃねぇか」
「ルド・・・だから、これはそのっ・・・・」
「志童様っ」
「さっさま?」

 見れば天羽琉が俺の目の前で膝立ちの恰好で、潤ませた目を一心に向けている。

「この天羽琉、お世話になるからには志童様の念願を達成すべく全力を尽くす所存っ」
「は?いや・・だから、あれはもののはずみというか・・・それに俺・・・・別に念願とかねぇし・・・・」

 たじろぐ俺を完全に無視して、尊と善が「ぉお~」と手を叩いている。ルドも柔らかな肉球を合わせている。

「よかったな、志童。天羽琉さんはしっかりしてそうだし、お前を助けてくれんじゃねぇか?」
「あぁ、優秀な秘書ができたと思えばいい」
「はぁ~~~????お前らなぁ~」

――尊と善は、完全に他人事だ!いや、むしろ、俺が困っているのを知ってて楽しんでやがる。

「じゃぁ、天羽琉さん。まず、俺から、ここで志童がやっていることを説明するよ」

 尊はi-Padに指を滑らせながら、理路整然と妖怪相談所についての説明をしはじめた。
天羽琉はひとつひとつ頷きながら、時々質問したりしている。
次に事務所の端にある机に移動して、善からネットの使い方についての講義を受けている。
 尊や善の教え方がうまいのか、はたまた天羽琉が賢いのか・・・・・天羽琉はあっという間に、妖怪相談所における仕組みと現状、そして自らの役割を理解してしまった。
と、言っても俺が決めた仕組みなど何一つなくて、ほぼ尊と善によって組み立てられたものだったりするのだが・・・。

――だめだ・・・・、今更、あれは言葉の綾だったなど言えないところまで来てしまった気がする。
 俺は大きなため息を吐き頭を抱えながら、この現状をしぶしぶ受け入れるより他なかった。それ以外の選択肢なんて、最早俺にはないのだ。

「志童、良かったね」

 俺の膝に肉球を押し付けながら、ルドがあっけらかんと笑っている。

「はぁ・・・・最近、こんなんばっかだな・・・・」
「え?なにが?志童、どうしたの?」
「いや・・・、なんでもない・・・」

 魂すら抜けかけている俺を見て、尊と善は笑った。

「おっと、もうこんな時間か・・・・」

 善が時計を見て言うと、尊も立ち上がる。
 俺は・・・・・といえば、ソファーの上で膝を抱え『行きたくない』の意思表示を全力でして見せる。そうだ、俺は行きたくないのだ。わけもわからず、着せ替え人形のようにあれこれされた挙句、妖怪が1匹増えてしまった。これ以上俺に何をさせようと言うのだ。

「天羽琉さん」

 尊が呼びかけると、天羽琉は軽く片手を胸に当てる。

「尊様、私の事は『天羽琉』で結構です」

 尊は、髪を軽く描き上げ頷いた。尊がこれをする時は、相当に相手を気に入った時だ。

「では、天羽琉、俺たちはちょっとこれから出かけなければならないんだ。
勿論、志童を連れて・・・・」
「なるほど。そうでしたか」

 尊と対峙する天羽琉はその出で立ちこそおかしいが、言葉使い、仕草にいたるまで全く尊に引け目劣らない。
 
――天狗と書いて執事?秘書?そう呼ぶんじゃねぇか?しかも、天羽琉が仕えるのなら、むしろ俺よりも尊の方が相応しんじゃないだろうか・・・

 そんなことを考えながら、いじけた視線を送っていると尊と目があった。


「ほら志童、行くぞ」
「やだ・・・・俺は行かない」
「はぁ、志童ぉ、お前って奴ぁ、ほんっとーにめんどくせぇなぁ」
「うるせ。善に言われたくねぇよ」
「仕方ない。善、そっちの腕持て」
「おう」
 いうなり、二人は俺の左右の腕をがっちりと抱え込みそのまま俺は引きずられるように事務所を出た。

「やだぁ~、行きたくない~っ、はなせぇー」

 天羽琉は姿勢を正すと「いってらっしゃませ」と軽く腰を折った。
そんな天羽琉を見て、やっぱり天狗と書いて執事と読むに違いない。などと関心している場合ではない。

「天羽琉っ!てめえっ、俺に仕えるなら、俺を助けろぉーーーーーーーー」

 尊が待たせていた車に放り込まれる様に乗せられると、事務所の玄関でにっこりと微笑んで手を振る天羽琉とルドの姿が徐々に小さくなっていった。
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