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11拉致
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泣き女の一件以来、あり得ないことに、俺の元には次々と妖怪たちが来るようになっていた。まぁ、正確には雲外鏡はこちらが呼んだわけだが―――。
ちなみに泣き女の葬式派遣の方も、順調に申し込みが来ている。が・・・、依頼の度にわざわざ俺の方から、泣き女を呼び出さなければならないという事だけは、俺の気を相変わらず重くさせている原因のひとつだ。
一方、当の泣き女の方はといえば・・・度々顔を合わせ葬儀へ行くための手配をする俺やルドにすっかり心を許したようで、困ったことに以前にもましてよく笑うようになっていた。
あいつは・・・泣き女は、笑顔こそが最も恐ろしいんだ―――っ!。
俺にとっても、ルドにとっても、泣き女の笑顔はできれば遭遇したくないものであり、世界の怖いものランキングトップ5に余裕でランクインだ。
そして今も・・・俺とルドの目の前にあるパソコンのディスプレイには、泣き女派遣依頼が新たに3件来ている。
問い合わせメールを見て大きなため息をついた俺の顔を、腕の下から潜り抜けたルドが見上げてくる。
「志童、どうしたんだ?イライってやつが来て嬉しくないのか?お金、貰えるんだろ?」
俺は視線だけでチラリとルドを見て、苦笑いする。
「おかげさんで、泣き女の派遣要請は大繁盛だよなぁ」
「なぁ志童・・・人間はお金がないと生きていけないんだろ?
志童が今、人間からお金貰えるのって泣き女が行った葬式の人たちからだけ!だよな?」
「うっ・・・」
思わず引きつった笑いでルドを見る。
「お前・・・・妖怪のくせに・・・更にいえばにゃんこのくせに・・・随分と現実主義なんだな・・・・」
「えっへん」と、ルドは胸をはる。別に褒めたわけではなかったのだけど、まぁいいとしよう。
とはいえ、ルドの言う通りなのだ。
現在俺の主な収入源は泣き女にかかっている。
泣き女は言わば、『妖怪相談所』の稼ぎ頭なのである。
頭ではわかっている。それでも怖いものは怖いのだから仕方がない。
「お前だって泣き女呼び出す時、いつも隠れてるじゃねぇかっ」
「だってさ・・・最近なんだかよく笑うし・・・・おいら、怖いもんっ」
「ばかっ、俺だって怖えぇんだよ!」
俺とルドが言い合っていると、出入り口の扉があく音がした。
「おっ、本当に喋るニャンコと戯れてるっ!善の言った通りじゃん」
そう言って笑いながらほのかなブルガリの香水の香りと共に入ってきたのは、尊だった。
「あ、尊・・・」
「あ、尊・・・じゃねぇよ。俺にもその不思議にゃんこ紹介しろよ」
尊は面白そうにルドを見ると、徐に大量の高級猫缶をテーブルの上に置いた。
どうやら早くも善からの動画付きのLINE報告がなされたようで、しゃべるにゃんこを目の当たりにしても尊は一切動じない。
「お前が尊かぁ?」
ハイテンションでそう言いながらもルドの目線は、テーブルに置かれた高級猫缶に釘付けである。
「あぁ、よろしくな。志童に困らされてないか?」
尊はは当たり前のように喋るにゃんこを秒で受け入れて、会話を楽しみだした。
――流石だ・・・。いくら善からの報告があったとはいえ、普通もう少しビビるだろう?
「なぁ尊ぉ、聞いておくれよぉ、志童ってさ、本当にこれっぽっちも外にでないんだ。おいら久々に人間の街をみたいのに、全然連れて行ってくれないんだよぉ」
「あ~、基本志童は、引きこもりだからなぁ。なぁそれよりさ、封印される前ってどんな時代だったんだ?」
どうやら尊からしたら、ルドは恐れる対象ではなく、むしろ興味を惹かれてやまない対象のようだ。
「え?封印される前?えっとねぇ、おいら達は江戸の時に封印されたんだよ。徳川って家がずっと将軍やってて、そこに座敷童もいたんだよ」
「座敷童って・・・まじかよ。じゃぁなにか?まさか徳川が250年も続いたのは座敷童のお陰ってか?」
「う~ん、そうかもね。でも、あいつあの時そろそろ出るとか出ないとか・・・・・言ってたんだよなぁ・・・・だからやっぱり、そうかも!」
尊は苦笑いした。
「まさか・・・・、大政奉還が果たされた裏に座敷童の力が働いてたとはねぇ・・・・。まだまだ俺たちは知らないことだらけってわけだな」
腕を組み何度も頷きながら、感慨深げに納得する尊は、すっかりルドとの会話を楽しんでいる。
――善といい、尊といい・・・俺か?俺がおかしいのか?変なのは俺か?
一体全体世の中、何が基準なのかと疑心暗鬼になりつつも、俺は尊の恰好がいつもと違うことに気づいた。大抵、仕事中に立ち寄る尊は高級ブランドのスーツを見事なまでにパリットと着こなしている。が、今日は違う。
「ところで尊、なんでそんな恰好してんだ?」
目の前の尊はソフトなシャツにジャケットを羽織り、白いパンツ姿だ。
普段使いのように着こなしているが、ブクッルスブラザーズの服を完璧にラフに着こなしているあたりは、流石尊である。
「は?志童、お前何言って・・・」
尊が全部言い終わらないうちに、勢いよく事務所のドアが開かれた。
「おっつぅ~!お、尊もちゃんと来てるなぁ、よしよし」
事務所の中が一気に騒がしくなる。
「あっ、善だぁ~」
ルドが嬉しそうに、善に向かってジャンプで飛びついた。
「ぉお~、ルド。元気にしてたかっ」
「うん。もっちろん。おいら、尊とも仲良くなったんだよ」
そう言って嬉しそうに善の顎に自らの頭をこすりつけた。俺が思うに、ルドは喋るということ以外はただのにゃんこである。
善はルドを抱きかかえたまま尊の隣に座ると、持っていた手提げ袋の中から煮干しの入った袋をとりだした。
「わぁ、善っ。これ、おいらにかっ?旨そうな魚だなぁ~」
「あぁ、大きくなれよぉ~」
そう言って善は、ニカッと白い歯を見せて笑うと、ルドの頭をなでた。
――なぜ尊も善も、俺への土産ではなくルドへなのか。納得いかねぇ・・・。大体大きくなるも何も、俺らよりルドはずっと年上だぞ?
「善だって?」
善の登場ですっかり賑やかになったことで、これまで寝ていた雲外姉さんが目を覚ました。
「ちょっと~、志童っ。あたしもお混ぜなさいよっ。善がみえないじゃないのっ!ぜぇーん、ぜぇーんっ」
「ぁあ~、はいはい」
最早アイドルのおっかけか、ホスト狂いの婆さんでしかないが、それは間違っても口に出すわけにはいかない。
俺は飾り棚に置いていた雲外姉さんを、テーブルに運んでやった。雲外姉さんはいつもの事ながら俺と話すときよりも数オクターブ高い声で騒ぎ散らしている。
「んまぁ~、善じゃないのぉ~。相変わらずいい男ねぇ~」
「おっ、雲外姉さんも相変わらずお綺麗で!」
「んまぁ~、善ったらホント正直者っ!志童はね、そういう気遣いが全く足りないのよ」
「へいへい。そりゃすみませんね」
――なぜ、俺への不満をサラリと言った? 雲外姉さん・・・あんたは人の本質を見極めるのが特技だろ・・・なぜ、善のたらしっぷりを責めない?
「おっ、これが噂の雲外姉さんかぁ」
善の隣で、尊が雲外姉さんの鏡面を覗き込んだ。
雲外姉さんが、にわかに飛び跳ねたかの様に見えた・・・のは、きっと気のせいじゃない。
「ちょっと~、ちょっと、ちょっと、ちょっとっ!どういうこと?色男が増えてるじゃなぁ~いっ」
尊と善の間からちょこんと顔を出したルドが、得意げに言う。
「雲外鏡のばぁちゃんっ、こっちは尊だよ。尊も志童の友達なんだ」
雲外姉さんの鏡面がゆらゆらと波打ち、そこには20歳ほどの若い女の顔が映し出された。心なしか、化粧が厚くなっている・・・。
「えっ?鏡に顔?しかもこれ・・・・青銅鏡か?」
「尊、紹介するよ。こちらは志童と愉快な仲間たちに加わった、雲外姉さんだ」
――おいおい・・・誰が愉快な仲間たちだ・・・・人をムツ〇ロウさんみたいに言うな!
「姉さん・・・・?ってわりには、随分若いみたいだけど?俺らより年下に見えね?」
――いや・・・尊・・・そこじゃないんじゃないか?
「あのね、尊ぉ、雲外鏡のばぁちゃんは”ワカヅクリ”なんだよ。志童がそう言ってた」
「あってめっ・・・ルド!ちくってんじゃねぇっ!」
「志童っ!おだまりっ」
「すっすみませーんっ!」
雲外姉さんの渇が炸裂する。
目の前で肩を震わせ、必至に笑いを堪えようとする善と尊がいる。いっそそのまま笑い死ねばいい。俺はファーの上でクッションを抱え膝を抱えたまま大きなため息をついた。
――大体こんなことになったのは、尊の提案を受け入れたからに他ならない。なのに尊は俺を労うところが、笑うなど言語道断だ!
「ところでさぁ~」
ぶつぶつと一人いじける俺に、善はかぶっていた帽子のつばを指で少し上げると、上目遣いの視線を向けた。
「お前、なんでそんな汚ねぇ恰好してんの?」
「は?」
なんのことかわからずに、俺はきょとんとした。
たしかに綺麗とは言えないが、上下のジャージは洗濯もきちんとしてあり清潔だ。
けど・・・言われてみれば尊だけじゃなく、善までもが今すぐ雑誌の表紙になれそうなほどに全身をぱりっときめている。
訳が分からずぽかんとする俺を見て、善が握った拳をぷるぷると震わせた。
「志童・・・・っ、お前いい加減にしろよっ」
「いや・・・善、落ち着け・・・俺には一体なんのことやら・・・」
俺は引きつりながら、少しずつ体を浮かしてソファーいっぱいに後づさる。
助けを求めるように尊を見るが、知らん顔で膝にルドを抱き、モフモフを堪能している。
「えぇ~と・・・・善?」
「善? じゃねーーーーっ!」
言うなり、勢いよく立ち上がった善が一気に俺に詰め寄ってきた。
「てめぇ、今日は楓姉さんがセッティングしてくれたCA合コンだろうがっ」
「あ・・・・・」
俺の背中を冷たい汗が一筋流れた。
「あの・・・・もしよければ・・・・尊と善と二人で行ってきては・・・・・」
「ダメに決まってるだろっ」
「ダメに決まってるだろっ」
善と尊の声が見事にシンクロする。
「ですよねぇ・・・・・」
と、その時俺はあることに気がついた。
「あのさ・・・そういや俺、ほら、色々あったじゃん?だから、場所とか決めてねぇし、楓に時間とか連絡してねぇし。申し訳ないけど・・・これって、今日中止じゃね?」
善が立ち上がった姿勢のまま腕を組み、氷よりも冷たい目で俺を見下ろしている。
「店は尊がリザーブした。楓姉さんには俺が、連絡した」
「さ・・・さようですか・・・・でも、ほら・・・俺、服とか買ってねぇし・・・やっぱふたりで・・・」
俺は引きつった笑顔のまま、ソファーの上で小さくなりつつも、それでもまだ、小さな抵抗をみせる。俺はこう見えて諦めない男なのだ!
「尊、頼む」
「はいよ」
――え?なんだ?何が始まるんだ?
尊は相変わらずルドのモフモフを手のひらで弄びながら片手でスマホを出すと、どこかに電話をした。
「もしもし?あぁ俺だけど。うん、よろしく~」
それだけ言って尊は電話を切った。
――なんだ・・・その怪しい電話はっ!
俺がこれだけピンチだと言うのに、ルドは尊の膝の上で気持ちよさそうに目を閉じ、雲外鏡は善と尊を見てうっとりしている。
事務所の中は、しんと静まり返っている。
そして、尊の謎の電話から待つこと30秒。
入口の扉が勢いよく開かれた。
そこに現れたのは、俺も以前に数回顔を合わせたことのある尊の部下3人だった。
女性が1人、男性が2人。
いったいこれは何が起きているのかと、口を開けてポカンとする俺の目の前に女性が迫ってくると、まるで品定めするように俺の全身を上から下まで舐めるようにチェックする。
「志童さん、失礼します」
「は?」
と俺が首を傾げるのと同時に、いつの間にか背後に控えていた男二人の腕が俺の両脇に手が入れられたかと思うと、俺の体はふわりと宙に浮いていた。
「なっなんだっ!おい、話せって!」
俺の抵抗は虚しく、漏れなく全員に無視され、気が付けば事務所のドアを出てどこかに連れてかれた。
そう、俺は拉致られたのだ!
ちなみに泣き女の葬式派遣の方も、順調に申し込みが来ている。が・・・、依頼の度にわざわざ俺の方から、泣き女を呼び出さなければならないという事だけは、俺の気を相変わらず重くさせている原因のひとつだ。
一方、当の泣き女の方はといえば・・・度々顔を合わせ葬儀へ行くための手配をする俺やルドにすっかり心を許したようで、困ったことに以前にもましてよく笑うようになっていた。
あいつは・・・泣き女は、笑顔こそが最も恐ろしいんだ―――っ!。
俺にとっても、ルドにとっても、泣き女の笑顔はできれば遭遇したくないものであり、世界の怖いものランキングトップ5に余裕でランクインだ。
そして今も・・・俺とルドの目の前にあるパソコンのディスプレイには、泣き女派遣依頼が新たに3件来ている。
問い合わせメールを見て大きなため息をついた俺の顔を、腕の下から潜り抜けたルドが見上げてくる。
「志童、どうしたんだ?イライってやつが来て嬉しくないのか?お金、貰えるんだろ?」
俺は視線だけでチラリとルドを見て、苦笑いする。
「おかげさんで、泣き女の派遣要請は大繁盛だよなぁ」
「なぁ志童・・・人間はお金がないと生きていけないんだろ?
志童が今、人間からお金貰えるのって泣き女が行った葬式の人たちからだけ!だよな?」
「うっ・・・」
思わず引きつった笑いでルドを見る。
「お前・・・・妖怪のくせに・・・更にいえばにゃんこのくせに・・・随分と現実主義なんだな・・・・」
「えっへん」と、ルドは胸をはる。別に褒めたわけではなかったのだけど、まぁいいとしよう。
とはいえ、ルドの言う通りなのだ。
現在俺の主な収入源は泣き女にかかっている。
泣き女は言わば、『妖怪相談所』の稼ぎ頭なのである。
頭ではわかっている。それでも怖いものは怖いのだから仕方がない。
「お前だって泣き女呼び出す時、いつも隠れてるじゃねぇかっ」
「だってさ・・・最近なんだかよく笑うし・・・・おいら、怖いもんっ」
「ばかっ、俺だって怖えぇんだよ!」
俺とルドが言い合っていると、出入り口の扉があく音がした。
「おっ、本当に喋るニャンコと戯れてるっ!善の言った通りじゃん」
そう言って笑いながらほのかなブルガリの香水の香りと共に入ってきたのは、尊だった。
「あ、尊・・・」
「あ、尊・・・じゃねぇよ。俺にもその不思議にゃんこ紹介しろよ」
尊は面白そうにルドを見ると、徐に大量の高級猫缶をテーブルの上に置いた。
どうやら早くも善からの動画付きのLINE報告がなされたようで、しゃべるにゃんこを目の当たりにしても尊は一切動じない。
「お前が尊かぁ?」
ハイテンションでそう言いながらもルドの目線は、テーブルに置かれた高級猫缶に釘付けである。
「あぁ、よろしくな。志童に困らされてないか?」
尊はは当たり前のように喋るにゃんこを秒で受け入れて、会話を楽しみだした。
――流石だ・・・。いくら善からの報告があったとはいえ、普通もう少しビビるだろう?
「なぁ尊ぉ、聞いておくれよぉ、志童ってさ、本当にこれっぽっちも外にでないんだ。おいら久々に人間の街をみたいのに、全然連れて行ってくれないんだよぉ」
「あ~、基本志童は、引きこもりだからなぁ。なぁそれよりさ、封印される前ってどんな時代だったんだ?」
どうやら尊からしたら、ルドは恐れる対象ではなく、むしろ興味を惹かれてやまない対象のようだ。
「え?封印される前?えっとねぇ、おいら達は江戸の時に封印されたんだよ。徳川って家がずっと将軍やってて、そこに座敷童もいたんだよ」
「座敷童って・・・まじかよ。じゃぁなにか?まさか徳川が250年も続いたのは座敷童のお陰ってか?」
「う~ん、そうかもね。でも、あいつあの時そろそろ出るとか出ないとか・・・・・言ってたんだよなぁ・・・・だからやっぱり、そうかも!」
尊は苦笑いした。
「まさか・・・・、大政奉還が果たされた裏に座敷童の力が働いてたとはねぇ・・・・。まだまだ俺たちは知らないことだらけってわけだな」
腕を組み何度も頷きながら、感慨深げに納得する尊は、すっかりルドとの会話を楽しんでいる。
――善といい、尊といい・・・俺か?俺がおかしいのか?変なのは俺か?
一体全体世の中、何が基準なのかと疑心暗鬼になりつつも、俺は尊の恰好がいつもと違うことに気づいた。大抵、仕事中に立ち寄る尊は高級ブランドのスーツを見事なまでにパリットと着こなしている。が、今日は違う。
「ところで尊、なんでそんな恰好してんだ?」
目の前の尊はソフトなシャツにジャケットを羽織り、白いパンツ姿だ。
普段使いのように着こなしているが、ブクッルスブラザーズの服を完璧にラフに着こなしているあたりは、流石尊である。
「は?志童、お前何言って・・・」
尊が全部言い終わらないうちに、勢いよく事務所のドアが開かれた。
「おっつぅ~!お、尊もちゃんと来てるなぁ、よしよし」
事務所の中が一気に騒がしくなる。
「あっ、善だぁ~」
ルドが嬉しそうに、善に向かってジャンプで飛びついた。
「ぉお~、ルド。元気にしてたかっ」
「うん。もっちろん。おいら、尊とも仲良くなったんだよ」
そう言って嬉しそうに善の顎に自らの頭をこすりつけた。俺が思うに、ルドは喋るということ以外はただのにゃんこである。
善はルドを抱きかかえたまま尊の隣に座ると、持っていた手提げ袋の中から煮干しの入った袋をとりだした。
「わぁ、善っ。これ、おいらにかっ?旨そうな魚だなぁ~」
「あぁ、大きくなれよぉ~」
そう言って善は、ニカッと白い歯を見せて笑うと、ルドの頭をなでた。
――なぜ尊も善も、俺への土産ではなくルドへなのか。納得いかねぇ・・・。大体大きくなるも何も、俺らよりルドはずっと年上だぞ?
「善だって?」
善の登場ですっかり賑やかになったことで、これまで寝ていた雲外姉さんが目を覚ました。
「ちょっと~、志童っ。あたしもお混ぜなさいよっ。善がみえないじゃないのっ!ぜぇーん、ぜぇーんっ」
「ぁあ~、はいはい」
最早アイドルのおっかけか、ホスト狂いの婆さんでしかないが、それは間違っても口に出すわけにはいかない。
俺は飾り棚に置いていた雲外姉さんを、テーブルに運んでやった。雲外姉さんはいつもの事ながら俺と話すときよりも数オクターブ高い声で騒ぎ散らしている。
「んまぁ~、善じゃないのぉ~。相変わらずいい男ねぇ~」
「おっ、雲外姉さんも相変わらずお綺麗で!」
「んまぁ~、善ったらホント正直者っ!志童はね、そういう気遣いが全く足りないのよ」
「へいへい。そりゃすみませんね」
――なぜ、俺への不満をサラリと言った? 雲外姉さん・・・あんたは人の本質を見極めるのが特技だろ・・・なぜ、善のたらしっぷりを責めない?
「おっ、これが噂の雲外姉さんかぁ」
善の隣で、尊が雲外姉さんの鏡面を覗き込んだ。
雲外姉さんが、にわかに飛び跳ねたかの様に見えた・・・のは、きっと気のせいじゃない。
「ちょっと~、ちょっと、ちょっと、ちょっとっ!どういうこと?色男が増えてるじゃなぁ~いっ」
尊と善の間からちょこんと顔を出したルドが、得意げに言う。
「雲外鏡のばぁちゃんっ、こっちは尊だよ。尊も志童の友達なんだ」
雲外姉さんの鏡面がゆらゆらと波打ち、そこには20歳ほどの若い女の顔が映し出された。心なしか、化粧が厚くなっている・・・。
「えっ?鏡に顔?しかもこれ・・・・青銅鏡か?」
「尊、紹介するよ。こちらは志童と愉快な仲間たちに加わった、雲外姉さんだ」
――おいおい・・・誰が愉快な仲間たちだ・・・・人をムツ〇ロウさんみたいに言うな!
「姉さん・・・・?ってわりには、随分若いみたいだけど?俺らより年下に見えね?」
――いや・・・尊・・・そこじゃないんじゃないか?
「あのね、尊ぉ、雲外鏡のばぁちゃんは”ワカヅクリ”なんだよ。志童がそう言ってた」
「あってめっ・・・ルド!ちくってんじゃねぇっ!」
「志童っ!おだまりっ」
「すっすみませーんっ!」
雲外姉さんの渇が炸裂する。
目の前で肩を震わせ、必至に笑いを堪えようとする善と尊がいる。いっそそのまま笑い死ねばいい。俺はファーの上でクッションを抱え膝を抱えたまま大きなため息をついた。
――大体こんなことになったのは、尊の提案を受け入れたからに他ならない。なのに尊は俺を労うところが、笑うなど言語道断だ!
「ところでさぁ~」
ぶつぶつと一人いじける俺に、善はかぶっていた帽子のつばを指で少し上げると、上目遣いの視線を向けた。
「お前、なんでそんな汚ねぇ恰好してんの?」
「は?」
なんのことかわからずに、俺はきょとんとした。
たしかに綺麗とは言えないが、上下のジャージは洗濯もきちんとしてあり清潔だ。
けど・・・言われてみれば尊だけじゃなく、善までもが今すぐ雑誌の表紙になれそうなほどに全身をぱりっときめている。
訳が分からずぽかんとする俺を見て、善が握った拳をぷるぷると震わせた。
「志童・・・・っ、お前いい加減にしろよっ」
「いや・・・善、落ち着け・・・俺には一体なんのことやら・・・」
俺は引きつりながら、少しずつ体を浮かしてソファーいっぱいに後づさる。
助けを求めるように尊を見るが、知らん顔で膝にルドを抱き、モフモフを堪能している。
「えぇ~と・・・・善?」
「善? じゃねーーーーっ!」
言うなり、勢いよく立ち上がった善が一気に俺に詰め寄ってきた。
「てめぇ、今日は楓姉さんがセッティングしてくれたCA合コンだろうがっ」
「あ・・・・・」
俺の背中を冷たい汗が一筋流れた。
「あの・・・・もしよければ・・・・尊と善と二人で行ってきては・・・・・」
「ダメに決まってるだろっ」
「ダメに決まってるだろっ」
善と尊の声が見事にシンクロする。
「ですよねぇ・・・・・」
と、その時俺はあることに気がついた。
「あのさ・・・そういや俺、ほら、色々あったじゃん?だから、場所とか決めてねぇし、楓に時間とか連絡してねぇし。申し訳ないけど・・・これって、今日中止じゃね?」
善が立ち上がった姿勢のまま腕を組み、氷よりも冷たい目で俺を見下ろしている。
「店は尊がリザーブした。楓姉さんには俺が、連絡した」
「さ・・・さようですか・・・・でも、ほら・・・俺、服とか買ってねぇし・・・やっぱふたりで・・・」
俺は引きつった笑顔のまま、ソファーの上で小さくなりつつも、それでもまだ、小さな抵抗をみせる。俺はこう見えて諦めない男なのだ!
「尊、頼む」
「はいよ」
――え?なんだ?何が始まるんだ?
尊は相変わらずルドのモフモフを手のひらで弄びながら片手でスマホを出すと、どこかに電話をした。
「もしもし?あぁ俺だけど。うん、よろしく~」
それだけ言って尊は電話を切った。
――なんだ・・・その怪しい電話はっ!
俺がこれだけピンチだと言うのに、ルドは尊の膝の上で気持ちよさそうに目を閉じ、雲外鏡は善と尊を見てうっとりしている。
事務所の中は、しんと静まり返っている。
そして、尊の謎の電話から待つこと30秒。
入口の扉が勢いよく開かれた。
そこに現れたのは、俺も以前に数回顔を合わせたことのある尊の部下3人だった。
女性が1人、男性が2人。
いったいこれは何が起きているのかと、口を開けてポカンとする俺の目の前に女性が迫ってくると、まるで品定めするように俺の全身を上から下まで舐めるようにチェックする。
「志童さん、失礼します」
「は?」
と俺が首を傾げるのと同時に、いつの間にか背後に控えていた男二人の腕が俺の両脇に手が入れられたかと思うと、俺の体はふわりと宙に浮いていた。
「なっなんだっ!おい、話せって!」
俺の抵抗は虚しく、漏れなく全員に無視され、気が付けば事務所のドアを出てどこかに連れてかれた。
そう、俺は拉致られたのだ!
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