泣き虫勇者と泣けない魔王

細川あずき

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1章-出会う

3話-三人目は薬師

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最後の一匹の毒霧蛙の頭部をグサリと刺す。
レオナとラシスはその場に倒れこんだ。
荒い息、力の入らない手。
「うぅう・・・・・・」
「レオナ、様・・・・・・くっ・・・・・・」



「うわぁぁあぁぁあああぁあんんん!こわがっだあああああぁぁあ!」
「あはははははは!久しぶりに暴れましたね!いやぁ、体が痺れて動けないですよぉ!あはははは!」
レオナは頑張った。その反動で涙が溢れ、むちゃくちゃ怖かったと叫ぶ。
一方、ラシスは気分爽快の様子だが全身が痺れているし、返り血だらけである。そしてこの笑顔である。
しかし、泣き声と笑い声がパタリと止む。
その代わりに聞こえてきたのは寝息。気付けば辺りに毒霧蛙のものとは違うガスが充満していた。
そして、木陰からこちらをのぞく人がいた。ガスマスクを着けて気絶している二人に近づく。
「・・・・・・」
細身の体で二人をひょいと持ち上げ、森の奥へ消えていった。



「っ・・・・・・ん?」
レオナは見慣れた天井を見て目を覚ます。
「あれ・・・・・・うちだ・・・・・・」
ここはレオナの寝室。
たしか毒霧蛙の退治依頼任務を引き受けて、それから・・・・・・
「・・・・・・思い出したら泣けてきた」
よほど怖かったのだ。しかし、任務は確かに達成したはずだ。なぜ寝室に?
「お目覚めですか、レオナ様」
「あっ、パイロ!」
黒髪美青年のこの人は、レオナの第二の側近であるパイロ=コーツァル。
「ラシスは?ぼくと一緒に・・・・・・」
「ラシスはすでに元気もりもりです。夕食を作っています」
パイロ=コーツァルは剣の腕は上の中だが、付与(エンチャント)の能力に長けており、その力を見込んで金剛石に任命されたのだ。
「まさか君がぼくたちを・・・・・・」
「はい。その通りです」
レオナたちを眠らせたあのガス・・・・・・パイロの力の一つだ・・・・・・
彼のスキルは『薬師』。猛毒から良薬までなんでも作れちゃう凄いヤツだ。調合が得意なので集中力や手先の器用さも半端ではない。
いざという時のため、レオナの毒耐性は彼の作る薬には反応しないようにしている。だがしかし、眠らさせれて無理矢理運ばれるとは・・・・・・
引きこもりがちだったため、軽度のコミュ障である。
「もう!来るのが遅い!何してたんだよ!ぼくたち大変だったんだからね!」
「あー、あれです。ヒーローは遅れてやってくるってヤツです」
「ヒーロー・・・・・・ね・・・・・・」
呆れたラシスはベッドから下り、キッチンへと向かう。
「あっ!レオナ様!夕食の準備、もうそろそろです!」
「ありがとうラシス」
この三人はこの家で共同生活している。
勇者ともなれば大きな屋敷に住むことが出来るが、ラシスのせめて日常だけでもゆっくり過ごしたいという要望でこの家になった。
もう夜か・・・・・・
ラシスは外に出る。
毒霧蛙がいた湖の方を見つめ、なにやら考え込んだ。
「どうなさいました?」
「ああ、昼間の毒霧蛙、妙だったんだ。異常な強さの毒を吐いた。大きなレハトル湖と言ってもあの数の毒霧蛙に行き渡る十分な魔力はどこから供給されていたのか・・・・・・って、ちょっと気になって」
フム、と顎に手を添え考えるパイロ。
「確かに、毒霧蛙は中級です。レオナ様はましてラシスまでもがあそこまで疲弊するほどではありません」
ラシスはパワー系であり、体力で右に出るものはいない。
「そう、なんか腑に落ちない・・・・・・明日もう一度レハトル湖にいってみるよ」
「水質調査なら同行いたします」
「いや、大丈夫。なにも敵と対峙する訳でもないしね。明日はラシスもパイロも休みにする」
うーん、なんともホワイトな職場・・・・・・
「怖くありませんか?」
「・・・・・・いわないで・・・・・・やせ我慢・・・・・・」
足はブルブル震えている。少しは勇者っぽい雰囲気だったかな!会話の内容は!
「うう・・・・・・怖いや・・・・・・」
「俺は明日休み貰ったんで」
逃げた!水質調査なら喜んで同行するくせに。
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