泣き虫勇者と泣けない魔王

細川あずき

文字の大きさ
7 / 7
1章-出会う

7話-中央都と薬屋

しおりを挟む
早速、国王の城へ行くために中央都へ向けて家を出る。
もちろん、ラシスやパイロも一緒だ。
「・・・・・・緊張してきた」
「何をおっしゃいます!私たちがいますよ!大丈夫です。レオナ様を侮辱する阿呆には一発くらわせます」
「ありがとうラシス・・・・・・でもくらわせなくてもいいよ・・・・・・」

レハトル湖の周辺を囲むように幾つかの小さな村があり、そのさらに北の森を抜けると栄えた街がある。そこが中央都だ。レオナ達の家はレハトル湖の南にあるので正反対であるが、なるべく中央都から遠ざかった場所に住みたいという泣き虫勇者の意見がそのまま反映されているのである。
森には多種多様な魔物が住んでいる。かと言っても、人間に危害を加えるような魔物ではないので警戒しなくても大丈夫だ。
でもまあ、レオナは泣き虫なので、
「ん?・・・・・・ひぇやあ!!」
藪から出てきたウサギに尻餅をつく始末。
「はいはーい、いきますよー」
「ひぇえぇぇ・・・・・・パイロォォォ」
側近に服を引っ張られて引きずられる勇者。面白い絵面だ。
「おのれ野ウサギ、レオナ様に無礼をはたらきおったな・・・・・・今晩はウサギのシチュー・・・・・・」
ラシスはウサギに殺意剥き出し。ウサギは怯えてしまっている。
「はいはーい、夕食は国王が用意してくれますよー」
こちらもパイロに引きずられる。







城の一室。国王の部屋だ。
「お呼びでしょうか、王」
一人の若い執事が部屋の前で王を呼ぶ。
「ああ、もうすぐ勇者一行が城に来る。今回はレオナもいるとのことだ。使いを中央都に送ってくれ」
「かしこまりました」
執事は傍にいた黒装束の女に目配せをする。その女は目配せの意味を理解し、一瞬でその場から消えた。

「おお、我が勇者レオナ・・・・・・ようやく僕の城に足を踏み入れるのか・・・・・・」







「おおぉ!来たぞ来たぞ!中央都だ!」
行き交う人々。威勢のいい商店のおじさん。笑顔の子ども達。中央の噴水広場。奥に大きな城。
「レオナ様、約束の時間までまだありますが如何いたしましょう?」
どうやら夕食と同時に会議があるようで、それにレオナ一行が参加することになっているそうだ。
「そうだな・・・・・・街の探検でもしよう!パイロ、案内してくれ」
パイロは実験材料調達のため、時々中央都に足を運んでいる。少しくらい知っているはずだ。
「ええ、構いません。俺のオススメのお店、紹介します」




連れてこられたのは薄暗い店。
「え?ここ何屋さん?」
「見ての通り、薬屋ですよ」
「なんか変な匂いします・・・・・・」
ラシスはウゲェーとしかめっ面。レオナはパイロの後ろに隠れている。
「いらっしゃい」
「ひぇぇぇぇえええ!」
突然、奥からかすれた声が聞こえた。レオナは飛び上がる。
「あ、ヨヨじい。俺です」
「あ?パイロか。なんだい、客じゃねえのかい。今日は何の用だ」
カウンターの向こうに現れたのはちっこいハゲたおじさん。
「よよよよよよヨヨじい?って、誰!」
「レオナ様、落ち着いてください。ヨヨじいは俺の薬の師匠です。これを機に紹介しようと思いまして」
唐突なカミングアウト。なんと、天才薬師騎士の師匠が現れたのだ!
「師匠!?そんなの初耳だよ!パイロに師匠がいたなんて・・・・・・」
「私も初めて知りました」
「だって誰も何も聞いてこないんですもん」
まあそうだけど!
「あ?用事が無いなら帰れ。邪魔だ」
鬼の形相。
「ひぇぇえ!いいいいい、いつもパイロにお世話になってます!どうもありがとうございます!では!」
怖い。帰りたい。
が、振り返った瞬間、パイロに捕まった。
「ヨヨじい、この人が勇者レオナ=アンノルム様です」
「何?この小僧がか?パイロよりチビじゃねえか」
あんたに言われたくない!という言葉は飲み込んだ。
ていうか何勝手に勇者って紹介してんだよ!
「ふーん、まあ、パイロが着いていくっつったヤツだから見込みはあるんだろうがよ」
まじまじとみられるレオナは涙を貯めている。
「で、用事はねえのか?」
「はい!ありません!帰ります!」
レオナが叫び、振り返った瞬間、パイロに捕まった。
「いえ、一つヨヨじいにお願いが」
「あ?」
「裏の仕事で俺達に協力して欲しいんです」
裏の仕事・・・・・・?
「・・・・・・けっ、んなことか。いいぜ、奥に来な」
「ありがとうございます」
ヨヨじいは店の奥へ姿を消した。
「パイロ、裏の仕事って何?」
「ヨヨじいは表向きは薬屋さんですが、裏では情報屋として稼いでいるんです」
「なんと」
驚きの新事実。
レオナ一行はヨヨじいに言われるがまま、店の奥へ姿を消した。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

処理中です...