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本編
05.城下町
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人が多く集まる市場。活気あふれるここは、城下町である。商売人たちが行きかう人々に、大声で声をかけたりして、非常ににぎやかな場所だ。
「すみません、おひとつくださいな」
「あいよ!」
元気のいい屋台の男に、ホットドックを頼めば、数分も待たずに出てきた。それを受け取りお金を払い、礼を言ってその場を離れる。大広場の空いているベンチに座り、ゆっくりと口に含んだ。
「……お、おぉ……。元の世界と一緒だ……」
何が、といえば、見た目形もそうだが、味も。マスターにケチャップ、パンからはみ出るほど長いウィンナーに、申し訳程度に挟まれたレタスに似た葉っぱ。ウィンナーは魔物の肉で、一般的にもよく食べられているオーク肉である。
さて、なぜ瑞姫が外出できているかといえば、ぶっちゃけお忍びだ。とはいっても、誰にも言わず出てきたわけではなく、協力者がちゃんといる。シュバルツだ。彼女がそのまま外に出てしまえば、黒髪黒目で聖女様と間違われ大騒ぎになってしまうため、変装をしなければならない。この世界の髪と瞳は黒に近い色はあっても、完全なる黒はいないのだ(ゆりあはダークブラウンだが、染めているだけらしい。そのうち黒に戻るだろう)。その変装に協力してくれたのがシュバルツで、現在、彼女の髪と瞳は異なる色になっていた。
バレッタ風の魔道具により、髪と瞳が茶色になっている。服も城下町にあった服装で、ここに溶け込んでいた。一応、シリウスには、習ったばかりのこの世界の文字で“城下町に行ってきます。護衛もついているのでご心配なく”と、侍女のエルに手紙を託してきた。
もちろん、護衛というのはシュバルツが付かせた護衛のことで、現在は瑞姫の後方にいて、気配を消してついてきている。
「おい、聞いたか。また、いなくなったってよ」
「何?今度はどこの」
彼女の近くにいる男たちが、こそこそと声を潜めて話していた。
城下町におりる際、シュバルツやエルから聞いた話だ。最近、この城下町で若い娘、または子供が忽然と姿を消すらしい。それも、近くに人がいるのにもかかわらず、目を離した一瞬で消えるというのだ。いずれも庶民や孤児院の親のいない子供たちなどで、その中には亜人族も含まれる。おそらくは人身売買、もしくは奴隷目的の人さらいだろうと見当がつけられているが、まだ見つかっていないようだ。
この世界において、奴隷は別に珍しいことではない。奴隷、という言葉だけで、あまりいいイメージはないが、この世界の奴隷はかなり待遇がいいらしい。というのも、これまた聖女が奴隷の扱いの酷さに異論を唱え、かなり改善されたからである。
以前は奴隷というだけで“人間”には見られなかった。人間以下の、家畜として見られており、奴隷という身分だけで避けられていた。人権すらない。石を投げられたり、心なき言葉を投げかけられたり、物も売ってもらえなかったり、死んでも替えはあるとばかりに、口で言うのも憚られるくらい酷かったようだ。
今は、奴隷商人が仲介人に立ち、奴隷と買う側の客との間で契約を交わすときの保証人になってくれる。そして、奴隷を買う際に、採用期間というのが設けられるようになった。それは、奴隷の主人となる人物が、奴隷に対して非道な行いをしないかどうか、奴隷自身が感じたことを、採用期間が終了したときに奴隷商人に待遇がどうだったかという報告をする。嘘はつけない。それは、採用期間のためにつけるチョーカーが証明してくれるようになっていた。そのチョーカーは、主人が奴隷に無理強いをして嘘の報告をさせないようつける。奴隷が嘘を吐くと、チョーカーから発信音が鳴る仕組みになっており、商人に知らせてくれるというものだ。これにより、嘘がつけないようになっている。そういう客には、奴隷商人は奴隷を売らない。どれだけ金を積まれたとて、奴隷の扱いが悪ければ売らない、と義務付けられているのだ。この制度を一代で築き上げた聖女には拍手を送らねばならない。
しかし、正規の奴隷商人とは違い、裏で人身売買を行う者たちがいる。どこかの国からかっさらってきた女子供を、裏で割高にして売るのだ。相手は貴族、闇ギルドなどに売られることが多いので、なかなか足がつかめないらしい。
「……こういう時に、何かに縛られていると自由に動けないな」
元の世界では、動こうと思えば自由に動けたのに。今は後見人が第一王子。さらに、自分は聖女判定を待つ身である。派手には動けない。動けないことがもどかしい。ふぅ、と小さくため息を吐いた。
はむり、とホットドッグをかじっていれば、ざわり、と空気が揺れた。なんだろう、と思い、彼女が空気の揺れをたどれば、数人を囲むように人だかりができている。
「おぉ、“紅蓮の剣”が帰ってきたんだな!」
「へえ、何か月ぶりだ?」
男たちの会話を聞くに、どうやら冒険者ギルドの冒険者らしい。“紅蓮の剣”は、有名なようだ。男三人、女二人のパーティーを組んで活動しており、この前ランクBからAに上がった、とのこと。近くでペラペラしゃべってくれるから情報が入る入る。やはり、国を知るなら国民の様子を見ることや、直接話を聞いたほうが早い。王宮は、一種の鳥かごだ。外に出なければ、情報など聞こうと思わなければ耳に入ってこないし、どこで事実が捻じ曲がるか分かったものではない。
一通り、男たちの会話を盗み聞いてから彼女は立ち上がった。本来の目的地、武器屋に行くためである。
「さて、と」
武器屋は、この王都に四ヵ所ある。冒険者ギルドの付近にある武器屋が、一番品数が多いとのこと。
実は、第三騎士団を見に行った後に、シリウスに武器を所持したい、と申し出た。元の世界での職業で持っていたので、ないと落ち着かないと。最初は瑞姫が戦えることに驚いていたが、国庫にある武器庫を見せてくれた。しかし、彼女が扱える武器はなく、それならば取り寄せる、と言ってくれたが、武器は自分で見て選ばないとだめだから、と断って、この話はいったん流れた。だが、気にし始めたら集中ができなくなってきてしまい、それなら武器屋を見たらどうか、とシュバルツが進めてくれたのだ。最初は城下町におりてもいいのか迷ったが、城下町を見たい、お金を実際使ってみる、等、実践したいこともあったのでおりることにした。要は社会勉強の一環である。
―――社会勉強の一環であるはずが、どうしてこうなったんだろうか。瑞姫が遠い目になったのは仕方ない。
「おぉ、ここだ」
そういって、彼は武器屋を前に立ち止まって瑞姫に紹介してくれた。この男、つい先ほど武器屋に来る途中で、破落戸に絡まれているところを助けたのである。助けた、と言っても、彼女が歩いていたら、典型的な“ぶつかって怪我したから慰謝料寄越せ”と、すぐ左斜め前で突如始まったのだ。いわば巻き込まれ事故である。見てしまったからには見て見ぬ振りもできず、かといって、派手にも動けずどうしようかと迷っていたら、絡まれていた男が物騒な雰囲気を醸し出し、帯剣していた剣の柄に手をかけようと動いたのが見て取れたので、これはまずい、と彼女は慌てて間に入った。
「ぶつかっただけで骨が折れるなんて、軟弱なんですね。その程度で折れる骨……。まさか、ドーピングですか?やばい薬に手を出して筋肉を手に入れたはいいけれど、代償に骨がもろくなって折れやすくなったんですか?大変。騎士呼ばなきゃ!誰か!この人やばい薬に手を付けてます!」
と、大げさな話をでっちあげ、彼女が叫んでいる間に男たちはとんずらをこいたのである。もちろん、絡まれていた男は突如間に入ってきた彼女に驚いていたが、でっちあげの言葉を聞き、男たちが逃げるさまを見て笑い出した。
こいつ・・・、と思いながら半眼になったまま男を見やれば、第一印象は誰かに似ている、である。誰だ?と思いつつ、男の格好を見れば、恐らくはお忍びで城下に来た高位な貴族、とみてとれた。城下の人達が着ている服と比べて、明らかに質が良かったし、この世界で誰かに似ている、と思うほどあまり人と接してはいない。貴族なんてワリネアやロナン、第二と第三の騎士団たちくらいである。
謝罪と感謝の言葉を言ってくる男に、適当な言葉を返しながら誰に似ているのかを考える。というか、男の顔に知っている人物たちの顔を並べていけば、あ!と声を上げそうになった。ぎりぎり、喉でとどめたが。
顔のつくり、笑い方、そして仕草、そしてなにより、物騒な雰囲気を醸し出したそれと帯剣していた剣の柄に手をかけるさまは、つい最近見た。シュバルツ、シリウス、リカルドである。シリウスたちに、これ以上兄弟はいない。シュバルツも、兄弟は兄である国王しかいない。となれば、
――――国王陛下、ツェリス・ユーリシアンその人だった。
この国の王はさぼり癖があり、目を離したすきに城下へお忍びに出かけている、と教えてくれたのはシリウスだった。髪と瞳の色がシリウス達とは違うが、瑞姫みたく魔道具で変えていればそれも納得できるのだ。まさか、と思って隠れてついてきている護衛の場所を探れば、明らかに人が増えていた。決定的である。自分もお忍びであるし、恐らく、王は自分の顔を知っているかどうかも怪しい、ということで、聞いたり、自分から申し出たりはしなかったが。
あのままではあのままでは勢い余って怪我をさせていたから、止めてくれてありがとう、という彼の言葉に、瑞姫は冷や汗をかきながらも平然とした態度を貫いた。礼がしたい、という彼に、彼辞退しようとしたが、謎の威圧感を出されて逆らったら後が怖いかも、と渋々と(なぜ礼をと言っている男に脅されている感じになっているのか甚だ疑問だが)、武器屋に行くので案内してください、と無難なお願いをしてみたら、彼はそんなことでいいのか、と驚いていた。そんなことでいいから、早く解放されたいという願いを誰か聞いてくれ、という感じである。これは、何かこの男にあったら自分の責任になるのか、と戦々恐々である。そんなこんなで、彼に武器屋まで案内してもらうということになった。
「よぉ、久しぶりだな」
がらんがらん、と勝手知ったるなんとやら、で豪快に扉を開け、レディーファースト、と彼女を先に店内へ促した。そして、自分は親しそうに武器屋の主人であろう強面の男に話しかけに行く。え、国王がこんな親しい人っていったい……、である。
しかし、そんな些細なことも武器屋に入った瞬間に飛んで行った。外から見た建物からして広いと思っていたが、どうやら奥に鍛冶をする場まで設けているらしい。ずらっと並ぶ武器たちは、圧巻だ。武器屋の中でも一番品ぞろえがいい、とシュバルツが言うはずだと納得。
「この娘が客だ」
「こりゃ……、似合わねぇ嬢ちゃんが来たもんだな」
言われると思った、と瑞姫は苦笑いだ。だが、店主は彼女を馬鹿にするでもなく、見下すわけでもなく、好きに見ろと言ってくれたので言葉に甘えさせてもらう。“チェン”と名乗った王は、彼女の武器選びが気になるようで残るらしい。ちなみに、瑞姫は“ラグ”と名乗っておいた。
様々な様々な武器が並ぶ中、彼女が扱う武器は決まっているのでそちらの一角へ向かった。槍、鉾、棍棒、および片刃剣である。
「う~……、重さが足りない……、長い……、短い……、うぅ~……」
手に取るまでもなく、見るだけであれは違う、これは違う、と漁っていく。
「妥協は許さん感じだな」
「当然です。武器は己の命を守る大事なものですからね。中途半端なものを選ぶわけにはいきません」
「……お嬢ちゃん、何のために武器を取る」
「守るためです。自分が大事なものと定めたものを、守るために」
「値段は」
「そんなもので決めるものじゃないです。守るものはお金で測れないですから。糸目はつけないです」
店主の言葉に応えながらも、武器を見つめる目は鋭く、先ほどのふんわりした雰囲気は鳴りを潜めていた。この武器屋はあたりだ。教えてくれたシュバルツには、お礼を言わなければならない。
「魔法は使えんのか?」
「……魔法だけに頼るのは嫌いです。魔封じのことも含め、対抗手段はそれだけと限定しないほうが動けます」
魔封じ。名の通り、魔力を封じる道具で、これを施されたら魔法は一切使えなくなる代物だ。魔力は生命力にも多少つながっているので、封じられると体が重くなると聞いている。まあ、彼女の場合、魔法とは違うはずなので、魔封じが効くかどうかは試さなければわからないが。万が一、ということもある。元の世界では異能封じの道具があり、体が重くなるわけではないが、つけられると魔封じと同じく異能が使えなくなる。
「私、体動かすことのほうが好きなので、いの……魔法とともに突撃してく戦闘スタイルなんですよ。武器なしでも行けますけどね。備えは多いほうがいいんです。武器を持ってれば魔法が不得意と思われ、持ってなければ魔法使いだと、勝手に勘違いしてくれると万々歳です。まあ、これは人相手で、魔物には通用しない考えですが」
敵の戦闘スタイルがわかっていたら、そのようにこちらもスタイルを変えて戦いに挑む。わからなければ、何があってもいいように万全の態勢で戦いに挑む。元の世界ではそうしてきた。だから、武器は早めに手に入れたかった。
「お嬢ちゃん、なければ打ってやろうか」
その言葉に、勢いよく振り返る。カウンターに寄りかかっていた“チェン”は、珍しいな、とこぼした。
「ふん。お前さんが連れてきたお嬢ちゃんだ。最初から何かあるとは思っとったさ。……そういやあ、知り合いなのか?こいつと」
「い、いえ……、えと、絡まれていたところを、その」
「助けてもらったんだ。俺が」
「ぶほっ!お、お前さんがか!?だはははっ、こいつ、短気だから、すーぐ抜こうとしとっただろう!」
「し、してました。街中なのにまずいと思って、とっさに……」
「変わらんなァ!」
「うるさい。愚か者だったから、ちょっと脅せばしっぽ巻いて逃げると思ったんだよ」
それにしては、殺気を帯びた雰囲気だった。言ってることに嘘はないので、ちょっとじゃなく、がっつり脅す気だったんだろう。
店主にこいこい、と手招きされてカウンターに近寄った。
「どんな武器を探している」
「できれば、リーチの長いものですけど。一番は刀ですね。こう、ちょっと曲線描いた片刃の」
「刀?……あぁ、ちょっと待ってろ。あった気がする」
「ほんとですか!?見たいです!」
「もってくらぁ」
刀、で通じることは知っていた。ここから“西”の方角にある、とある村々では使われている、と聞いている。どうやら、店頭にはおいてないらしい。通りで見まわしてもないはずだ。店主はとりに行くために奥へと行き、店頭には二人だけ。少し気まずかったが、ぽつりぽつり、と会話は続き、店主が戻ってくるまでたわいない話が続いたのだった。
「すみません、おひとつくださいな」
「あいよ!」
元気のいい屋台の男に、ホットドックを頼めば、数分も待たずに出てきた。それを受け取りお金を払い、礼を言ってその場を離れる。大広場の空いているベンチに座り、ゆっくりと口に含んだ。
「……お、おぉ……。元の世界と一緒だ……」
何が、といえば、見た目形もそうだが、味も。マスターにケチャップ、パンからはみ出るほど長いウィンナーに、申し訳程度に挟まれたレタスに似た葉っぱ。ウィンナーは魔物の肉で、一般的にもよく食べられているオーク肉である。
さて、なぜ瑞姫が外出できているかといえば、ぶっちゃけお忍びだ。とはいっても、誰にも言わず出てきたわけではなく、協力者がちゃんといる。シュバルツだ。彼女がそのまま外に出てしまえば、黒髪黒目で聖女様と間違われ大騒ぎになってしまうため、変装をしなければならない。この世界の髪と瞳は黒に近い色はあっても、完全なる黒はいないのだ(ゆりあはダークブラウンだが、染めているだけらしい。そのうち黒に戻るだろう)。その変装に協力してくれたのがシュバルツで、現在、彼女の髪と瞳は異なる色になっていた。
バレッタ風の魔道具により、髪と瞳が茶色になっている。服も城下町にあった服装で、ここに溶け込んでいた。一応、シリウスには、習ったばかりのこの世界の文字で“城下町に行ってきます。護衛もついているのでご心配なく”と、侍女のエルに手紙を託してきた。
もちろん、護衛というのはシュバルツが付かせた護衛のことで、現在は瑞姫の後方にいて、気配を消してついてきている。
「おい、聞いたか。また、いなくなったってよ」
「何?今度はどこの」
彼女の近くにいる男たちが、こそこそと声を潜めて話していた。
城下町におりる際、シュバルツやエルから聞いた話だ。最近、この城下町で若い娘、または子供が忽然と姿を消すらしい。それも、近くに人がいるのにもかかわらず、目を離した一瞬で消えるというのだ。いずれも庶民や孤児院の親のいない子供たちなどで、その中には亜人族も含まれる。おそらくは人身売買、もしくは奴隷目的の人さらいだろうと見当がつけられているが、まだ見つかっていないようだ。
この世界において、奴隷は別に珍しいことではない。奴隷、という言葉だけで、あまりいいイメージはないが、この世界の奴隷はかなり待遇がいいらしい。というのも、これまた聖女が奴隷の扱いの酷さに異論を唱え、かなり改善されたからである。
以前は奴隷というだけで“人間”には見られなかった。人間以下の、家畜として見られており、奴隷という身分だけで避けられていた。人権すらない。石を投げられたり、心なき言葉を投げかけられたり、物も売ってもらえなかったり、死んでも替えはあるとばかりに、口で言うのも憚られるくらい酷かったようだ。
今は、奴隷商人が仲介人に立ち、奴隷と買う側の客との間で契約を交わすときの保証人になってくれる。そして、奴隷を買う際に、採用期間というのが設けられるようになった。それは、奴隷の主人となる人物が、奴隷に対して非道な行いをしないかどうか、奴隷自身が感じたことを、採用期間が終了したときに奴隷商人に待遇がどうだったかという報告をする。嘘はつけない。それは、採用期間のためにつけるチョーカーが証明してくれるようになっていた。そのチョーカーは、主人が奴隷に無理強いをして嘘の報告をさせないようつける。奴隷が嘘を吐くと、チョーカーから発信音が鳴る仕組みになっており、商人に知らせてくれるというものだ。これにより、嘘がつけないようになっている。そういう客には、奴隷商人は奴隷を売らない。どれだけ金を積まれたとて、奴隷の扱いが悪ければ売らない、と義務付けられているのだ。この制度を一代で築き上げた聖女には拍手を送らねばならない。
しかし、正規の奴隷商人とは違い、裏で人身売買を行う者たちがいる。どこかの国からかっさらってきた女子供を、裏で割高にして売るのだ。相手は貴族、闇ギルドなどに売られることが多いので、なかなか足がつかめないらしい。
「……こういう時に、何かに縛られていると自由に動けないな」
元の世界では、動こうと思えば自由に動けたのに。今は後見人が第一王子。さらに、自分は聖女判定を待つ身である。派手には動けない。動けないことがもどかしい。ふぅ、と小さくため息を吐いた。
はむり、とホットドッグをかじっていれば、ざわり、と空気が揺れた。なんだろう、と思い、彼女が空気の揺れをたどれば、数人を囲むように人だかりができている。
「おぉ、“紅蓮の剣”が帰ってきたんだな!」
「へえ、何か月ぶりだ?」
男たちの会話を聞くに、どうやら冒険者ギルドの冒険者らしい。“紅蓮の剣”は、有名なようだ。男三人、女二人のパーティーを組んで活動しており、この前ランクBからAに上がった、とのこと。近くでペラペラしゃべってくれるから情報が入る入る。やはり、国を知るなら国民の様子を見ることや、直接話を聞いたほうが早い。王宮は、一種の鳥かごだ。外に出なければ、情報など聞こうと思わなければ耳に入ってこないし、どこで事実が捻じ曲がるか分かったものではない。
一通り、男たちの会話を盗み聞いてから彼女は立ち上がった。本来の目的地、武器屋に行くためである。
「さて、と」
武器屋は、この王都に四ヵ所ある。冒険者ギルドの付近にある武器屋が、一番品数が多いとのこと。
実は、第三騎士団を見に行った後に、シリウスに武器を所持したい、と申し出た。元の世界での職業で持っていたので、ないと落ち着かないと。最初は瑞姫が戦えることに驚いていたが、国庫にある武器庫を見せてくれた。しかし、彼女が扱える武器はなく、それならば取り寄せる、と言ってくれたが、武器は自分で見て選ばないとだめだから、と断って、この話はいったん流れた。だが、気にし始めたら集中ができなくなってきてしまい、それなら武器屋を見たらどうか、とシュバルツが進めてくれたのだ。最初は城下町におりてもいいのか迷ったが、城下町を見たい、お金を実際使ってみる、等、実践したいこともあったのでおりることにした。要は社会勉強の一環である。
―――社会勉強の一環であるはずが、どうしてこうなったんだろうか。瑞姫が遠い目になったのは仕方ない。
「おぉ、ここだ」
そういって、彼は武器屋を前に立ち止まって瑞姫に紹介してくれた。この男、つい先ほど武器屋に来る途中で、破落戸に絡まれているところを助けたのである。助けた、と言っても、彼女が歩いていたら、典型的な“ぶつかって怪我したから慰謝料寄越せ”と、すぐ左斜め前で突如始まったのだ。いわば巻き込まれ事故である。見てしまったからには見て見ぬ振りもできず、かといって、派手にも動けずどうしようかと迷っていたら、絡まれていた男が物騒な雰囲気を醸し出し、帯剣していた剣の柄に手をかけようと動いたのが見て取れたので、これはまずい、と彼女は慌てて間に入った。
「ぶつかっただけで骨が折れるなんて、軟弱なんですね。その程度で折れる骨……。まさか、ドーピングですか?やばい薬に手を出して筋肉を手に入れたはいいけれど、代償に骨がもろくなって折れやすくなったんですか?大変。騎士呼ばなきゃ!誰か!この人やばい薬に手を付けてます!」
と、大げさな話をでっちあげ、彼女が叫んでいる間に男たちはとんずらをこいたのである。もちろん、絡まれていた男は突如間に入ってきた彼女に驚いていたが、でっちあげの言葉を聞き、男たちが逃げるさまを見て笑い出した。
こいつ・・・、と思いながら半眼になったまま男を見やれば、第一印象は誰かに似ている、である。誰だ?と思いつつ、男の格好を見れば、恐らくはお忍びで城下に来た高位な貴族、とみてとれた。城下の人達が着ている服と比べて、明らかに質が良かったし、この世界で誰かに似ている、と思うほどあまり人と接してはいない。貴族なんてワリネアやロナン、第二と第三の騎士団たちくらいである。
謝罪と感謝の言葉を言ってくる男に、適当な言葉を返しながら誰に似ているのかを考える。というか、男の顔に知っている人物たちの顔を並べていけば、あ!と声を上げそうになった。ぎりぎり、喉でとどめたが。
顔のつくり、笑い方、そして仕草、そしてなにより、物騒な雰囲気を醸し出したそれと帯剣していた剣の柄に手をかけるさまは、つい最近見た。シュバルツ、シリウス、リカルドである。シリウスたちに、これ以上兄弟はいない。シュバルツも、兄弟は兄である国王しかいない。となれば、
――――国王陛下、ツェリス・ユーリシアンその人だった。
この国の王はさぼり癖があり、目を離したすきに城下へお忍びに出かけている、と教えてくれたのはシリウスだった。髪と瞳の色がシリウス達とは違うが、瑞姫みたく魔道具で変えていればそれも納得できるのだ。まさか、と思って隠れてついてきている護衛の場所を探れば、明らかに人が増えていた。決定的である。自分もお忍びであるし、恐らく、王は自分の顔を知っているかどうかも怪しい、ということで、聞いたり、自分から申し出たりはしなかったが。
あのままではあのままでは勢い余って怪我をさせていたから、止めてくれてありがとう、という彼の言葉に、瑞姫は冷や汗をかきながらも平然とした態度を貫いた。礼がしたい、という彼に、彼辞退しようとしたが、謎の威圧感を出されて逆らったら後が怖いかも、と渋々と(なぜ礼をと言っている男に脅されている感じになっているのか甚だ疑問だが)、武器屋に行くので案内してください、と無難なお願いをしてみたら、彼はそんなことでいいのか、と驚いていた。そんなことでいいから、早く解放されたいという願いを誰か聞いてくれ、という感じである。これは、何かこの男にあったら自分の責任になるのか、と戦々恐々である。そんなこんなで、彼に武器屋まで案内してもらうということになった。
「よぉ、久しぶりだな」
がらんがらん、と勝手知ったるなんとやら、で豪快に扉を開け、レディーファースト、と彼女を先に店内へ促した。そして、自分は親しそうに武器屋の主人であろう強面の男に話しかけに行く。え、国王がこんな親しい人っていったい……、である。
しかし、そんな些細なことも武器屋に入った瞬間に飛んで行った。外から見た建物からして広いと思っていたが、どうやら奥に鍛冶をする場まで設けているらしい。ずらっと並ぶ武器たちは、圧巻だ。武器屋の中でも一番品ぞろえがいい、とシュバルツが言うはずだと納得。
「この娘が客だ」
「こりゃ……、似合わねぇ嬢ちゃんが来たもんだな」
言われると思った、と瑞姫は苦笑いだ。だが、店主は彼女を馬鹿にするでもなく、見下すわけでもなく、好きに見ろと言ってくれたので言葉に甘えさせてもらう。“チェン”と名乗った王は、彼女の武器選びが気になるようで残るらしい。ちなみに、瑞姫は“ラグ”と名乗っておいた。
様々な様々な武器が並ぶ中、彼女が扱う武器は決まっているのでそちらの一角へ向かった。槍、鉾、棍棒、および片刃剣である。
「う~……、重さが足りない……、長い……、短い……、うぅ~……」
手に取るまでもなく、見るだけであれは違う、これは違う、と漁っていく。
「妥協は許さん感じだな」
「当然です。武器は己の命を守る大事なものですからね。中途半端なものを選ぶわけにはいきません」
「……お嬢ちゃん、何のために武器を取る」
「守るためです。自分が大事なものと定めたものを、守るために」
「値段は」
「そんなもので決めるものじゃないです。守るものはお金で測れないですから。糸目はつけないです」
店主の言葉に応えながらも、武器を見つめる目は鋭く、先ほどのふんわりした雰囲気は鳴りを潜めていた。この武器屋はあたりだ。教えてくれたシュバルツには、お礼を言わなければならない。
「魔法は使えんのか?」
「……魔法だけに頼るのは嫌いです。魔封じのことも含め、対抗手段はそれだけと限定しないほうが動けます」
魔封じ。名の通り、魔力を封じる道具で、これを施されたら魔法は一切使えなくなる代物だ。魔力は生命力にも多少つながっているので、封じられると体が重くなると聞いている。まあ、彼女の場合、魔法とは違うはずなので、魔封じが効くかどうかは試さなければわからないが。万が一、ということもある。元の世界では異能封じの道具があり、体が重くなるわけではないが、つけられると魔封じと同じく異能が使えなくなる。
「私、体動かすことのほうが好きなので、いの……魔法とともに突撃してく戦闘スタイルなんですよ。武器なしでも行けますけどね。備えは多いほうがいいんです。武器を持ってれば魔法が不得意と思われ、持ってなければ魔法使いだと、勝手に勘違いしてくれると万々歳です。まあ、これは人相手で、魔物には通用しない考えですが」
敵の戦闘スタイルがわかっていたら、そのようにこちらもスタイルを変えて戦いに挑む。わからなければ、何があってもいいように万全の態勢で戦いに挑む。元の世界ではそうしてきた。だから、武器は早めに手に入れたかった。
「お嬢ちゃん、なければ打ってやろうか」
その言葉に、勢いよく振り返る。カウンターに寄りかかっていた“チェン”は、珍しいな、とこぼした。
「ふん。お前さんが連れてきたお嬢ちゃんだ。最初から何かあるとは思っとったさ。……そういやあ、知り合いなのか?こいつと」
「い、いえ……、えと、絡まれていたところを、その」
「助けてもらったんだ。俺が」
「ぶほっ!お、お前さんがか!?だはははっ、こいつ、短気だから、すーぐ抜こうとしとっただろう!」
「し、してました。街中なのにまずいと思って、とっさに……」
「変わらんなァ!」
「うるさい。愚か者だったから、ちょっと脅せばしっぽ巻いて逃げると思ったんだよ」
それにしては、殺気を帯びた雰囲気だった。言ってることに嘘はないので、ちょっとじゃなく、がっつり脅す気だったんだろう。
店主にこいこい、と手招きされてカウンターに近寄った。
「どんな武器を探している」
「できれば、リーチの長いものですけど。一番は刀ですね。こう、ちょっと曲線描いた片刃の」
「刀?……あぁ、ちょっと待ってろ。あった気がする」
「ほんとですか!?見たいです!」
「もってくらぁ」
刀、で通じることは知っていた。ここから“西”の方角にある、とある村々では使われている、と聞いている。どうやら、店頭にはおいてないらしい。通りで見まわしてもないはずだ。店主はとりに行くために奥へと行き、店頭には二人だけ。少し気まずかったが、ぽつりぽつり、と会話は続き、店主が戻ってくるまでたわいない話が続いたのだった。
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そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。
ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。
早く穏やかに暮らしたい。
俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。
【毎日18:00更新】
※表紙画像はAIを使用しています
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
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