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本編
06.武器屋
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店主は五分もしないうちに戻ってきてくれた。その時点で、瑞姫の視線は抱えられている武器にくぎ付けである。
「うちにあるのはこんだけだな」
「刀……!」
鞘に収められている刀(まぎれもなく、日本刀である)二振りに、扇子一本、簪一本だ。扇子は見ただけで分かる、鉄扇だ。しかし、簪は……、と疑問を口にしかけ、店主に断りを入れて簪を手に取る。くるくるといろいろな角度から見たり、耳元で振ってみたり、としてみた。日本でよく見る玉簪だ。足は一本で、本体部分は黒の……おそらく漆塗りだろう。玉はメノウで、朱色である。その玉を試しにスライドさせてみれば動き、簪の足の先端から尖った針のようなものが出た。玉から手を放しても引っ込むことはなく、もう一度スライドさせれば元に戻った。ボールペンのような感じである。
「なるほど、仕込み武器……。わぁ、ここで見られるなんて……!」
「一発で見破ったのは、お嬢ちゃんが初めてだな」
「武器屋の店主さんが持ってきたのを、普通の簪だと思うほうがおかしいですよ。鉄扇もいいですね……」
簪を置き、鉄扇を手に取って開いたり閉じたりを繰り返す。驚くほど手になじんだ。そして、いよいよ刀に手を伸ばす。彼らの間合いより離れ、スラリと刀を引き抜いた。一振り目は太刀だ。
「……うわあ……!すごい……!刃文も綺麗ですね……!」
太刀であるので、刃長が二尺六寸(七六センチ)はあるし、重さもあるが問題はない。刀を鞘に戻し、次は打刀。抜いた瞬間、彼女は息をのんだ。
「えっ!逆刃刀……!?」
「お嬢ちゃん、それなんだか知ってんのか?斬れねぇ刀ってことで、店に置かないようにしてたんだがよ」
「え、あ、はい。逆刃刀は見ての通り、斬れない刀です。人を殺さず無力化する武器ですね」
通常の刀とは、刃と峰が逆になっているので、斬れない。常に峰打ちになるように作られている刀である。人を斬り殺せない、非致死性兵器だ。ただ、逆側の刃を使えばちゃんと斬れる。木刀、と一緒にはできないが、峰打ち用なので似たようなものだ。とは言っても、力加減とあたり処によっては大怪我にもできるし、力任せに振り下ろせば……、へしゃけるかぶつ斬りになるかのどちらかではあるが。刀であるので、木刀より丈夫で折れにくい。
「殺さない刀か……」
「めったに見ない刀ですよ、これ。レア中のレアですね」
元の世界でも、逆刃刀など、あることは知っていても実際見たことはなかったのだ。それが、異世界で。この逆刃刀は、とある貴族が持ち込んだもので、貴族も使えないことからタダ同然で店主に引き取ってもらったようだ。
「これ、四つとも売ってもらうことできますか」
「あぁ、いいぜ。代金はこれ一本分でいい」
「え!?」
なんと。太っ腹すぎる。
店主が言うには、元々この逆刃刀は売り物じゃないようで、刀を求めてきた彼女なら知っているかも、と思って一緒に持ってきただけだった。鉄扇と簪も、使い方がわからないとかで売り物じゃないらしい。この三つは、タダ同然で手に入れたので、店として損失はないとのことで、彼女は言葉に甘え、太刀一振り分の代金を支払い、四つの武器を手に入れた。かなり得した買い物になったのだった。
ほくほくした気分で武器屋を出れば、何やら騒がしい。チェンもそう思ったのか、いぶかしげにあたりを見回している。
「誰かー!その男止めろ!窃盗だ!」
「どけぇ!殺すぞォッ!」
ざわめきと怒号はこちらに向かって来ている。瑞姫は、思わず脱力した。あの犯人はあほなのだろうか、と。
ここは、本当に近くに冒険者ギルドが近くにある。この付近でもめ事があれば、ギルド内にいる冒険者たちが諫める役割があった。なので、この近辺は衛兵の巡回があまりない。ギルドに駆け込めば何とかなるからである。ただ、この武器屋はギルド付近と言っても、その建物より五件ほど手前にある。城下町におりるときにこの町の地図を頭に叩き込んだので、脳内で記憶のページをめくり、犯人の逃走経路を割り出す。
この城下町は、京都のように五目ではないが、それに近い形になっている。ギルドに行くまでに、脇道が二本。一本目がこの武器屋の前にある。二本目は二件先だ。おそらく、脇道に入るなら武器屋の前の道だろう。
目立つことは避けたいが、これを見逃すことはできない。今のところギルドから人が出てくる気配もないので、ここで止めねば捕まえることは難しいはずだ。
「……しっかたないな……」
「出るのか」
「冒険者は頼れなさそうなので」
それに、少し気になる妙な気配がある。
たった今買った品物は、“魔法鞄”に収納しているので、手ぶらだ。それでも問題ないだろう。人がまばらな武器屋の前で助かった。犯人が走ってくる様子がよく見える。犯人は必死の形相だが、目が脇道を向いた。やはり、ここで脇道に潜り込むつもりである。彼女は指をひょいっと動かした。とたん、犯人の足は何かに引っかかったように絡み、無様に倒れる。盗んだのであろう鞄が手から飛び出したので、水で受け止めた。痛みに悶える犯人をしり目に、彼女はゆったりとした足取りで向かい、鞄を確保。
「ふっ……、だっさ」
嘲笑った後の、一言。犯人は痛みに悶えながらも、罵声を浴びせ殺気を帯びた目で睨んできたが、痛くもかゆくもないのでスルーだ。すると、一人の男が飛び込んできた。
「それ!こっち渡してくれっ。向こうで盗まれた人が待ってるんだ!」
「なんで?」
「えっ!?え、な、なんで、って、持って行くからだろ!」
「じゃあ、この鞄の持ち主連れてきて」
「こ、こいつに、怪我させられて、動けねぇから、俺が持って行くって意味だよ!」
瑞姫は、興味なさそうにふーん、と相槌を打つ。渡せ!と喚く男。先ほどから嘘ばかりだ。最初の待ってるんだ、という言葉は本当だが、あとは全て嘘まみれ。そう、瑞姫の嘘発見器的な感が言っている。怪我させられて動けないが嘘だから、怪我してないし動ける。持って行くが嘘だから、持って行かない。総合的に考えて、犯行は複数の人間がかかわっているとわかる。
恐らく、この喚く男も仲間だ。追ってきた人間の足止めをするために、この喚く男は離れてついてきていた。しかし、瑞姫が真正面から止めたために、慌てて出てきたのだろう。鞄の持ち主はこれまた仲間の男に足止めをくらっているか、取り返してきてやるとかなんとか嘘を言って、その場に待機をさせている可能性がある。盗まれた鞄など、衛兵が来てから返してもいいし、瑞姫を持ち主のところまで案内すればいいだけだ。
「嘘つき。仲間なくせに。ねえ、窃盗グループさん?」
「な!」
「鞄の持ち主を足止めしてるのも、あなたの仲間じゃないの?」
ニィ、と口角を上げて言葉を発した彼女に、男は単純に怒りを引き出され激怒。襲い掛かってきた男を最低限の動きで避け、回し蹴りをすれば身体をくの字に曲げて地面にはいつくばっている男の上に落ちた。カエルがつぶれたような声がしたが、それもスルー。
「仲間は何人いるの。死にたくなきゃとっとと答えて」
「なんで……ヒッ!?」
ガツン、と魔法鞄から取り出した鞘に入ったままの逆刃刀を、下敷きになっているが意識のある男の目前に打ち付けた。
「あなたたちだけ捕まって、他の仲間は逃げていい思い、させたいの……?仲間は仲良く道連れでしょう?」
「ぅ、あ……!ご、五人だ……!」
仲間売りやがったこいつ。と、内心思いながらも、素直に吐いたので首筋に手刀を落として気絶させる。手刀を落とすためにしゃがみこんだ体を起こし、立ち上がれば空気が揺れて集まっていた住人たちがざっと道を開ける。モーゼの十戒みたいだった。現れたのは、大広場で見た“紅蓮の剣”の内の男二人で、一人は男を拘束していて、もう一人は恐らく鞄の持ち主である、年配の女性を連れてきてくれていた。
「おう。嬢ちゃん、こいつだな。……あぶねぇ!」
「後ろだ!」
言われるまでもなく、わかっている。立ち上がった彼女のすぐ後ろに、気配を絶っていた別の男が現れて剣を振り下ろした。しかし――
ガツンッ
その剣は、後ろを振り向かずに逆刃刀の鞘できっちり受け止められる。
「あなたが潜んでたこと、知ってるんだよね……。出てきてくれて、どうもありがとう……!」
「なっ!くそっ!」
やっぱりな、と思ったのだ。武器屋から出たときに感じた気配は、この男である。ダンッ、とヒール部分を男の足に力強く落とし、痛みで力が緩んだ剣を押し返して鳩尾にドスリ、と刀を突きたてた。とはいっても、鞘なので刺さりはしないが。意識を落とした男は彼女の足元に転がる。そして、あと一人だが。
「捕まえといたよ。こいつで最後なんだな?」
「は、離せ、離せってば……!お、俺は違うぞ!仲間なんかじゃ」
「ありがとうございます。それで最後です」
「違うって言ってんだろ!?聞けよ!」
「嘘はいけないですよ。嘘は。大人しくしないと……、潰すよ?」
ぐしゃり、と手で空中の何かを潰す仕草をすれば、瞬間に捕まった男は縮み上がってどこを!?と、男は声を荒げて発したが、瑞姫はただ、にこりと笑うだけにとどめる。聞いていた周りの男も、ヒュッ、となったとかならなかったとか。
連れてきてくれた男は、こちらも“紅蓮の剣”の仲間の一人だ。あらかじめ縛っておいてくれたらしく、男はそのまま積み重なっている仲間のところに放り投げられた。彼女の足元に転がっていた男も、そっちに放り投げられた。
「中身確認してください。たぶん、とられてはいないと思いますけど」
「ありがとう!ありがとう、助かったよ……!」
「いえ、どういたしまして」
その場で鞄の中身を確認してもらったが、やはり取られたものはなかったらしい。お礼を、というが、目の前で起こったことを見過ごせなかっただけなので、遠慮した。それでも食い下がるから、失礼だが彼女の職業を聞いたら料理屋を営んでいるという。今日は時間がないからいけないけれど、顔を出したときに一品でいいからタダにしてくれ、と頼んだらそれでいいなら、とやっと引き下がってくれた。
“紅蓮の剣”の人たちにもお礼を言えば、たいしたことはしていないから気にしなくていい、と言ってくれた。そして、衛兵が来るまで男たちを見張るのも手伝ってくれた。
そして、呼ばれてきたのが衛兵ではなく、なぜか第三騎士団が来て窃盗グループを拘束していく。
「あの、少しだけお話を伺いたいのですが、お時間よろしいですか?」
「……スウェン副団長、わかりません?」
「へ?……え、いや、私、は…………え?」
ちょっとこっちに、とこそこそ、と二人で離れ、声を潜める。
「お忍びなのですよ。ふふっ」
「……、え、えぇ!?も、もしかして、え、え!?」
「大丈夫です。シュバルツ様に協力いただいているし、護衛もちゃんとついていますので」
「そ……、しゅ、シュバルツ様、ですか……」
「お話、城に戻ってからでもいいですか?第三騎士団に行きますから」
と、彼に納得してもらった。そのあとすぐに、窃盗グループを引きずりながら騎士団は引き上げていった。あとから聞いたが、王が執務室から抜け出したので探していたらしい。ご苦労様である。すぐそこにいるのだが、瑞姫は王のことを知らないふりをしているので、告げるのもおかしなことだった。伝える言葉も持っていなかったので、そのまま見送る。
“紅蓮の剣”とも別れ、彼女はチェンのもとに戻る。
「見事だな。……が、なぜあいつらの言葉を信じた」
「あー……、私、一応これでも、嘘発見器って呼ばれてまして。嘘がわかります。とはいっても、嘘ついてるってわかるだけで、あとは勘ですけどね」
「ほぅ、便利なものだ」
そのあとも二、三言話し、チェンとも別れた。
ちなみに、彼女が戻ったらシリウスが待ち構えており、どうして自分もつれてかなかったのか、と言われ、少しのお小言をもらった。
寄った第三騎士団でも、護衛はいると言ったはずなのだが、一人で外出はやめてくれと泣きつかれたのだった。
「うちにあるのはこんだけだな」
「刀……!」
鞘に収められている刀(まぎれもなく、日本刀である)二振りに、扇子一本、簪一本だ。扇子は見ただけで分かる、鉄扇だ。しかし、簪は……、と疑問を口にしかけ、店主に断りを入れて簪を手に取る。くるくるといろいろな角度から見たり、耳元で振ってみたり、としてみた。日本でよく見る玉簪だ。足は一本で、本体部分は黒の……おそらく漆塗りだろう。玉はメノウで、朱色である。その玉を試しにスライドさせてみれば動き、簪の足の先端から尖った針のようなものが出た。玉から手を放しても引っ込むことはなく、もう一度スライドさせれば元に戻った。ボールペンのような感じである。
「なるほど、仕込み武器……。わぁ、ここで見られるなんて……!」
「一発で見破ったのは、お嬢ちゃんが初めてだな」
「武器屋の店主さんが持ってきたのを、普通の簪だと思うほうがおかしいですよ。鉄扇もいいですね……」
簪を置き、鉄扇を手に取って開いたり閉じたりを繰り返す。驚くほど手になじんだ。そして、いよいよ刀に手を伸ばす。彼らの間合いより離れ、スラリと刀を引き抜いた。一振り目は太刀だ。
「……うわあ……!すごい……!刃文も綺麗ですね……!」
太刀であるので、刃長が二尺六寸(七六センチ)はあるし、重さもあるが問題はない。刀を鞘に戻し、次は打刀。抜いた瞬間、彼女は息をのんだ。
「えっ!逆刃刀……!?」
「お嬢ちゃん、それなんだか知ってんのか?斬れねぇ刀ってことで、店に置かないようにしてたんだがよ」
「え、あ、はい。逆刃刀は見ての通り、斬れない刀です。人を殺さず無力化する武器ですね」
通常の刀とは、刃と峰が逆になっているので、斬れない。常に峰打ちになるように作られている刀である。人を斬り殺せない、非致死性兵器だ。ただ、逆側の刃を使えばちゃんと斬れる。木刀、と一緒にはできないが、峰打ち用なので似たようなものだ。とは言っても、力加減とあたり処によっては大怪我にもできるし、力任せに振り下ろせば……、へしゃけるかぶつ斬りになるかのどちらかではあるが。刀であるので、木刀より丈夫で折れにくい。
「殺さない刀か……」
「めったに見ない刀ですよ、これ。レア中のレアですね」
元の世界でも、逆刃刀など、あることは知っていても実際見たことはなかったのだ。それが、異世界で。この逆刃刀は、とある貴族が持ち込んだもので、貴族も使えないことからタダ同然で店主に引き取ってもらったようだ。
「これ、四つとも売ってもらうことできますか」
「あぁ、いいぜ。代金はこれ一本分でいい」
「え!?」
なんと。太っ腹すぎる。
店主が言うには、元々この逆刃刀は売り物じゃないようで、刀を求めてきた彼女なら知っているかも、と思って一緒に持ってきただけだった。鉄扇と簪も、使い方がわからないとかで売り物じゃないらしい。この三つは、タダ同然で手に入れたので、店として損失はないとのことで、彼女は言葉に甘え、太刀一振り分の代金を支払い、四つの武器を手に入れた。かなり得した買い物になったのだった。
ほくほくした気分で武器屋を出れば、何やら騒がしい。チェンもそう思ったのか、いぶかしげにあたりを見回している。
「誰かー!その男止めろ!窃盗だ!」
「どけぇ!殺すぞォッ!」
ざわめきと怒号はこちらに向かって来ている。瑞姫は、思わず脱力した。あの犯人はあほなのだろうか、と。
ここは、本当に近くに冒険者ギルドが近くにある。この付近でもめ事があれば、ギルド内にいる冒険者たちが諫める役割があった。なので、この近辺は衛兵の巡回があまりない。ギルドに駆け込めば何とかなるからである。ただ、この武器屋はギルド付近と言っても、その建物より五件ほど手前にある。城下町におりるときにこの町の地図を頭に叩き込んだので、脳内で記憶のページをめくり、犯人の逃走経路を割り出す。
この城下町は、京都のように五目ではないが、それに近い形になっている。ギルドに行くまでに、脇道が二本。一本目がこの武器屋の前にある。二本目は二件先だ。おそらく、脇道に入るなら武器屋の前の道だろう。
目立つことは避けたいが、これを見逃すことはできない。今のところギルドから人が出てくる気配もないので、ここで止めねば捕まえることは難しいはずだ。
「……しっかたないな……」
「出るのか」
「冒険者は頼れなさそうなので」
それに、少し気になる妙な気配がある。
たった今買った品物は、“魔法鞄”に収納しているので、手ぶらだ。それでも問題ないだろう。人がまばらな武器屋の前で助かった。犯人が走ってくる様子がよく見える。犯人は必死の形相だが、目が脇道を向いた。やはり、ここで脇道に潜り込むつもりである。彼女は指をひょいっと動かした。とたん、犯人の足は何かに引っかかったように絡み、無様に倒れる。盗んだのであろう鞄が手から飛び出したので、水で受け止めた。痛みに悶える犯人をしり目に、彼女はゆったりとした足取りで向かい、鞄を確保。
「ふっ……、だっさ」
嘲笑った後の、一言。犯人は痛みに悶えながらも、罵声を浴びせ殺気を帯びた目で睨んできたが、痛くもかゆくもないのでスルーだ。すると、一人の男が飛び込んできた。
「それ!こっち渡してくれっ。向こうで盗まれた人が待ってるんだ!」
「なんで?」
「えっ!?え、な、なんで、って、持って行くからだろ!」
「じゃあ、この鞄の持ち主連れてきて」
「こ、こいつに、怪我させられて、動けねぇから、俺が持って行くって意味だよ!」
瑞姫は、興味なさそうにふーん、と相槌を打つ。渡せ!と喚く男。先ほどから嘘ばかりだ。最初の待ってるんだ、という言葉は本当だが、あとは全て嘘まみれ。そう、瑞姫の嘘発見器的な感が言っている。怪我させられて動けないが嘘だから、怪我してないし動ける。持って行くが嘘だから、持って行かない。総合的に考えて、犯行は複数の人間がかかわっているとわかる。
恐らく、この喚く男も仲間だ。追ってきた人間の足止めをするために、この喚く男は離れてついてきていた。しかし、瑞姫が真正面から止めたために、慌てて出てきたのだろう。鞄の持ち主はこれまた仲間の男に足止めをくらっているか、取り返してきてやるとかなんとか嘘を言って、その場に待機をさせている可能性がある。盗まれた鞄など、衛兵が来てから返してもいいし、瑞姫を持ち主のところまで案内すればいいだけだ。
「嘘つき。仲間なくせに。ねえ、窃盗グループさん?」
「な!」
「鞄の持ち主を足止めしてるのも、あなたの仲間じゃないの?」
ニィ、と口角を上げて言葉を発した彼女に、男は単純に怒りを引き出され激怒。襲い掛かってきた男を最低限の動きで避け、回し蹴りをすれば身体をくの字に曲げて地面にはいつくばっている男の上に落ちた。カエルがつぶれたような声がしたが、それもスルー。
「仲間は何人いるの。死にたくなきゃとっとと答えて」
「なんで……ヒッ!?」
ガツン、と魔法鞄から取り出した鞘に入ったままの逆刃刀を、下敷きになっているが意識のある男の目前に打ち付けた。
「あなたたちだけ捕まって、他の仲間は逃げていい思い、させたいの……?仲間は仲良く道連れでしょう?」
「ぅ、あ……!ご、五人だ……!」
仲間売りやがったこいつ。と、内心思いながらも、素直に吐いたので首筋に手刀を落として気絶させる。手刀を落とすためにしゃがみこんだ体を起こし、立ち上がれば空気が揺れて集まっていた住人たちがざっと道を開ける。モーゼの十戒みたいだった。現れたのは、大広場で見た“紅蓮の剣”の内の男二人で、一人は男を拘束していて、もう一人は恐らく鞄の持ち主である、年配の女性を連れてきてくれていた。
「おう。嬢ちゃん、こいつだな。……あぶねぇ!」
「後ろだ!」
言われるまでもなく、わかっている。立ち上がった彼女のすぐ後ろに、気配を絶っていた別の男が現れて剣を振り下ろした。しかし――
ガツンッ
その剣は、後ろを振り向かずに逆刃刀の鞘できっちり受け止められる。
「あなたが潜んでたこと、知ってるんだよね……。出てきてくれて、どうもありがとう……!」
「なっ!くそっ!」
やっぱりな、と思ったのだ。武器屋から出たときに感じた気配は、この男である。ダンッ、とヒール部分を男の足に力強く落とし、痛みで力が緩んだ剣を押し返して鳩尾にドスリ、と刀を突きたてた。とはいっても、鞘なので刺さりはしないが。意識を落とした男は彼女の足元に転がる。そして、あと一人だが。
「捕まえといたよ。こいつで最後なんだな?」
「は、離せ、離せってば……!お、俺は違うぞ!仲間なんかじゃ」
「ありがとうございます。それで最後です」
「違うって言ってんだろ!?聞けよ!」
「嘘はいけないですよ。嘘は。大人しくしないと……、潰すよ?」
ぐしゃり、と手で空中の何かを潰す仕草をすれば、瞬間に捕まった男は縮み上がってどこを!?と、男は声を荒げて発したが、瑞姫はただ、にこりと笑うだけにとどめる。聞いていた周りの男も、ヒュッ、となったとかならなかったとか。
連れてきてくれた男は、こちらも“紅蓮の剣”の仲間の一人だ。あらかじめ縛っておいてくれたらしく、男はそのまま積み重なっている仲間のところに放り投げられた。彼女の足元に転がっていた男も、そっちに放り投げられた。
「中身確認してください。たぶん、とられてはいないと思いますけど」
「ありがとう!ありがとう、助かったよ……!」
「いえ、どういたしまして」
その場で鞄の中身を確認してもらったが、やはり取られたものはなかったらしい。お礼を、というが、目の前で起こったことを見過ごせなかっただけなので、遠慮した。それでも食い下がるから、失礼だが彼女の職業を聞いたら料理屋を営んでいるという。今日は時間がないからいけないけれど、顔を出したときに一品でいいからタダにしてくれ、と頼んだらそれでいいなら、とやっと引き下がってくれた。
“紅蓮の剣”の人たちにもお礼を言えば、たいしたことはしていないから気にしなくていい、と言ってくれた。そして、衛兵が来るまで男たちを見張るのも手伝ってくれた。
そして、呼ばれてきたのが衛兵ではなく、なぜか第三騎士団が来て窃盗グループを拘束していく。
「あの、少しだけお話を伺いたいのですが、お時間よろしいですか?」
「……スウェン副団長、わかりません?」
「へ?……え、いや、私、は…………え?」
ちょっとこっちに、とこそこそ、と二人で離れ、声を潜める。
「お忍びなのですよ。ふふっ」
「……、え、えぇ!?も、もしかして、え、え!?」
「大丈夫です。シュバルツ様に協力いただいているし、護衛もちゃんとついていますので」
「そ……、しゅ、シュバルツ様、ですか……」
「お話、城に戻ってからでもいいですか?第三騎士団に行きますから」
と、彼に納得してもらった。そのあとすぐに、窃盗グループを引きずりながら騎士団は引き上げていった。あとから聞いたが、王が執務室から抜け出したので探していたらしい。ご苦労様である。すぐそこにいるのだが、瑞姫は王のことを知らないふりをしているので、告げるのもおかしなことだった。伝える言葉も持っていなかったので、そのまま見送る。
“紅蓮の剣”とも別れ、彼女はチェンのもとに戻る。
「見事だな。……が、なぜあいつらの言葉を信じた」
「あー……、私、一応これでも、嘘発見器って呼ばれてまして。嘘がわかります。とはいっても、嘘ついてるってわかるだけで、あとは勘ですけどね」
「ほぅ、便利なものだ」
そのあとも二、三言話し、チェンとも別れた。
ちなみに、彼女が戻ったらシリウスが待ち構えており、どうして自分もつれてかなかったのか、と言われ、少しのお小言をもらった。
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