自由な女神様!~種族人族、職業女神が首を突っ込んだり巻き込まれたりの物語。脇に聖女を添えて~

時雨

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本編

12.護衛選びのはずが!

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 護衛の話が出て、よし見に行こう、決めたものの、時間がとれなくなった。というのも、瑞姫が多忙を極めたからだ。
 マナーに始まり、ダンス、貴族としての会話の仕方など、その他にもあるが、朝から夕方までみっちりと授業が入っていた。しかし、行かないわけにはいかないので、その合間合間に、シリウスが見繕ってくれた護衛候補六人をこそこそと見に行こうと思っている。資料には、名前と年齢、貴族か否か、ギルドランクのみが記されていた。あまり先入観を持つのはよくないから、と性格や経歴などはいらないと瑞姫が言ったためである。

 一人目は、第一騎士団のフォリア・エヴィル。エヴィル伯爵の次男。
 二人目は、同じく第一騎士団のシェリタ・ロイエン。ロイエン子爵の長男。
 三人目は、第三騎士団のワイネス・グラン。グラン士爵。
 四人目は、第四騎士団のアイル・ヴェルラルド。ヴェルラルド士爵。
 五人目は、第五騎士団第二師団のカーツ・コルメトン。鼬族でコルメトン家の五男。
 六人目は、同じく第五騎士団第四師団のメラル・バーリン。バーリン伯爵家の六男。

 全員冒険者ギルドに登録しており、B以上だそうだ。年齢は十九から二四。派閥も、メラルは保守派でフォリア、シェリタンは第一王子派である。ワイネス、アイルは元々平民だから関係ない。見事に第二王子派を省いた。よく見つけてきたと感心するばかりである。
 メイズ含め、交代を考え四人は選んでほしいらしい。一応、これはシリウスの視点で考えられているので、もしそれ以外でいいと思った騎士がいれば、一度相談してくれ、と言われている。

「……ハリボテじゃなかった」

 よかった、と瑞姫は安堵のため息をはいた。

「ふっ……、ハリボテとは、また上手く仰いますな。第二でしょう」
「おっとと……、内緒です、内緒」

 今日一日、瑞姫は休みなので、早速とばかりに第一騎士団をこっそり覗きにきていた。場所は、恐れ多くも第一騎士団団長の執務室である。そこから、訓練の様子を見ていた。第一騎士団の団長は、レイノート・ライフォエン。ライフォエン侯爵の長男であり、セイランの兄である。セイランそっくりだが、レイノートの方が口達者で、表情も柔らかい。
 第一騎士団は、見目もいいが実力も申し分ないようだ。さすが、王の護衛を務められる実力を持った者たちの集まり。エリート、と言われるだけあり、騎士の肩書きは名ばかりではなかったようである。

「女神様は、護衛に何を求めますか」
「うーん……、別に?」
「何もない、と?」

 うーん、と考えるが、何も思い浮かばない。元々、護衛はいらないと思っていたのだ。

「では、護衛を選ぶにあたって、何を条件に?」
「そうですねえ。えっと、とりあえず、私のお願いに対して、きちんと善悪判断して、悪ならきちんと悪だと言ってくれる人」
「ほぉ。まあ、確かに。イエスマンほど無能はおりますまい」
「でしょう?味方の無能ほど怖いものはないですよね」
「わかります」

 敵の有能さももちろん恐ろしい。だが、味方の無能さほど怖いものはない。戦闘中に足を引っ張られたら、負け確定である。なんとか持ちこたえたとしても、こちらの被害は甚大になる可能性さえもあるのだ。
 元の世界で、瑞姫は直接被害がなかったが、別働隊が味方に足を引っ張られて崩れたのを知っている。戦闘中で、援軍が間に合ったから突破されなかったものの、もし間に合わなかったら一体何人死んでいたことやら。
 レイノートもおそらく味方の無能さで何かあったのだろう、思い出しているのか眉間にしわが寄っていた。

「あ。……見つかっちゃった」
「あぁ、ようやく女神様の視線に気づきましたか」

 窓際に寄りかかっていたが、案外今の今まで気づかれなかった。小さく手を振って窓から離れる。

「して女神様。私と手合わせしてくださいませんか」
「……へ」
「女神様はお強いと聞いております。魔物相手に加減調節されていることも聞いておりますが、私は貴女と手合わせしたいのです」

 瑞姫をまっすぐ見つめる瞳には、好奇心が見える。それと、戦ってみたいという思いが強いのか、期待と、少し興奮しているようにも見えた。戦えて、荒事も慣れていて、しかも、思ったよりも強いらしいと言う情報に、知的好奇心が刺激されたらしい。
 ギラついているような錯覚さえ見える強いまなざしを受け、瑞姫は顔が引きつった。レイノートは見た目冷静沈着で好戦的ではなさそうなのに、実際は逆らしい。意外と好戦的で、瑞姫と手合わせする機会を狙っていたようだ。本人がそう語った。

「魔物相手もいいでしょう。ですが、人相手も熟しておくべきではないかと存じ上げます」
「うぐ……」

 いや、本当にその通りなのだが。なのだが。この男、かなり強い。それはわかる。だからといって、加減が効かないまま異能を使用した戦闘を人相手には、まだしたくない。取り返しのつかないことになれば、瑞姫は悔やむことになるのは目に見えている。やる前にぐだぐだ言うつもりはないが、こればかりは、万が一のことが頭によぎる。しかし。

「ライフォエン様」
「レイノートで結構です。敬語も必要ありません」

 さすがセイランと兄弟だ。言うことが一緒である。

「で、では、れ、れいのーと、さん。手合わせ、しましょう」

 どうせ、誰かと手合わせするつもりだった。本当なら万全に整えた状態でしたかったが、この気を逃せばいつになるかわからない。それに、ダンスやマナーばかりで体を動かしたかったというのもある。

「!本当ですか!」

 本当に嬉しそうにするものだから、そんなにやりたかったのかと瑞姫は苦笑いするしかない。仕事はいいのかと問えば、急ぎはないらしく、手合わせする時間はあるから今すぐやろう、とのことで。仕事に差し支えないのであれば、と、瑞姫は頷いて二人で移動することになった。
 二人で訓練場に降りれば、ザワリと空気が揺れる。

「団長?どうしたんですか」
「オヴェラルト、女神様に手合わせをお願いした」
「……はあ!?え、女神様と手合わせ!?って、木刀持ってる!?なんでそうなった!?」

 すっ飛んできた第一騎士団副団長、オヴェラルト・キリシュタインは貴族らしからぬ言葉で、レイノートに突っ込みをいれた。

「お願いしたら受けていただけた」
「いや、それはわかるけど、いや、そうなんだけど!え、女神様!こいつ化け物ですけど大丈夫ですか!?」
「失礼な。否定はしまいが」

 すごい言いようである。自分の上司に向かって化け物とは。しかも本人否定しない。だが、瑞姫にとっては好都合というものだ。化け物と呼ばれるなら、実力は申し分なく、多少の無茶も答えてくれそうだ。
 実は、瑞姫は知らないが、レイノートは騎士団の中でレイトラルの次に強い。騎士団総長の次ということは、二番目の実力者と言うことで。化け物並みに強いのだ。

「あら、お揃いですね。私も日本では化け物って言われてたんですよ」
「……嘘だろ……!?」

 本人はそこそこ強いと思っているが、一応、瑞姫は日本屈指の戦闘能力を誇っていたのだ。それでも、瑞姫より上はいたが。
 時間も惜しいことだし、早々に場を空けてもらう。異能の使用許可も得たので、巻き込まないために少し離れてもらった。

「最初は、私の肩慣らしに付き合ってください。犯罪者以外と普通の手合わせは、かなり久しいので」
「えぇ、もちろんです。お手合わせしていただけるだけで嬉しいので。……加減が、できるかはわかりかねますが」
「構いません。殺す気で来ていただかないと、私も本気を出せないです」
「―――、これはこれは。頼もしい限りです」

 瑞姫の煽り文句に、レイノートは“少し手加減を”と思っていたが訂正せざるを得ない。レイノートの目の前にたたずむ瑞姫は、微笑んでさえいるものの、その取り巻く空気は甘いものではない。押さえているが、うっすらと威圧感のようなものを感じ取れた。ぞくり、とレイノートの背筋に戦慄が走る。次第に二人を取り巻く空気は、殺伐としたものになっていた。
 緊張感高まる空気に瑞姫は、ぞわぞわと肌が粟立つ。己の奥底に眠っている高揚感と好戦的な部分が芽を出し始めた。ひゅんひゅん、と木刀を振るい構える。

「では、―――行きます!」

 ダッ、と地面を蹴った瑞姫は、ひとまず異能を使わずに軽い打ち合いに持ち込んだ。瑞姫の体格からは考えられないほど、打ち合うたびに木刀から重い音が響く。

「結構……っ、力業ですな……!」
「男相手に、女の腕力では到底かないませんけど、ね!」

 やはり、剣だけでは敵わないのか、瑞姫の素早さを持っても簡単にいなされ打ち返される。何度目かの鍔迫り合いで、瑞姫はレイノートの力に逆らわず、押し飛ばされるよう後退した。

「木刀の方が折れそうだな。……まあ、いいか。さて、肩慣らしは終わりです。貴方の強さに、期待します!」

 ぱしゃり、と瑞姫の足下で水がはねた。瞬間、目にもとまらぬ早さでレイノートの前に躍り出る。それでも、レイノートはそれに反応した。しかし、先ほどよりも勢いがプラスされた分、木刀が奏でる音は重い。一応、木刀には強化魔術をかけているものの、折れそうなくらいにはレイノートの手にもしびれが走った。

「なるほど……、確かに、魔物を魔石ごと粉砕するパワーですな」
「それは思い出したくない黒歴史ですね!?もう!情報の回り早すぎ!違うんです!小さかったんです!ヘッジホッグだったんです!針が堅いので、思いっきり叩き潰したらぺしゃっていったんです~!」

―――そんな簡単にいくかァ!

 瑞姫の叫びに、他の者は心の中で突っ込んだ。
 ヘッジホッグは、見た目ハリネズミなのだ。元の世界で知られるものより、一回りくらいは大きい。素早さと、鋼鉄の針を背中に持つ魔物で前衛がうかつに近づけないのだ。一歩間合いに踏み込めば、針が異常な堅さを持ち串刺しにしてこようとする。もちろん、ヘッジホッグの攻撃はそれだけではないが、それが一番厄介と言っていい。普通の剣では歯が立たず、魔法も効きにくい。弱点は柔らかい腹である。瑞姫はそれをひっくり返して仰向けにしたところを、容赦なく叩き潰したのだ。故に、素材もとれず魔石も粉砕。
 ヘッジホッグは、ランクBの強さを誇る魔物である。騎士でも、捕らえるのは難しいほど素早いのだ。しかも、挑発までしてくる、とてもウザい魔物だった。
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