自由な女神様!~種族人族、職業女神が首を突っ込んだり巻き込まれたりの物語。脇に聖女を添えて~

時雨

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本編

11.護衛は必要

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 騎士団宿舎に戻ったメイズは、団長であるソレイユ・トーリアンを訪ねた。女神とのことを報告しに来たのだ。部屋には、打ち合わせ中だったのか副団長リズノーン・スウェンと、第五騎士団団長ジークレイ・シェリトン、騎士団総長レイトラル・スモーニーも同席していた。

「……え、っと、出直してきまーす……」
「おぉ、待て待て。こっちはもう話し終わってんだ。なんだった?」

 ちょっとビビったメイズは、謝罪と共にすごすごと扉を閉めようとしたのを、レイトラルに止められる。いや、ここで話すの?ここで?じーっと、四対の目がメイズを刺していた。出て行こうとした体を根性で押しとどめ、部屋に入り直す。きっちりと扉は閉めた。上に、防音魔法をかける。

「今日俺非番で、冒険者ギルドに行ったんっすけど、女神様がお見えになったっす」
「「は?」」
「……ん?」
「え、女神様……?」

 メイズは第三騎士団であるので、聖女と女神がいることは知っていたし、顔ももちろん知っている。第三騎士団に見学しに来た瑞姫のことを、彼は覚えていたのだ。四人の様子に、そうだよな、そうなるよな、と思いつつ、今日の出来事をかいつまんで説明する。
 西の森の魔物討伐依頼を受けたら、試験官としてフリッツに捕まったこと。誰のかと思えば女神で、飛び級試験を受けるためだったこと。試験官としてついて行ったら、それがもう、女神がとても強かったこと。元の世界よりも、力が強くなっていて、加減調節をしていたこと。ついでに、初戦闘で魔石ごと魔物を粉砕したこと。商業ギルドに行って、口座開設したことも話しておく。

「で、現在女神様はランクBっす。本当ならもっと上だと思うんっすよねー。あんなにお強いなら、北の森に行くべきだったっす」
「行動力ありすぎだろ!?」

 四人とも、今の話を必死に飲み込んでいる。女神が荒事を得意としていることは、騎士団総長から各団長、副団長までしか知らない話だった。メイズも、女神が戦闘できるなど思いもしてなかったのだ。しかし、ふたを開けてみれば、え、めっちゃ強ない?と、度肝を抜かれた感じである。
 北の森は、上級者向けのシュナの森。かなり強い魔物が潜む森である。

「魔物と薬草の知識はまだ完ぺきではないっぽかったっすけど、ある程度持ってる見たいっすね。たまに、精霊に聞いてたっす」
「なる、ほど……。それは、誰かに話したか?」
「いえ。女神様が、お披露目がまだだから、それまでは黙っててくれって言われたんで。団長と副団長ならいい、と許可貰ってるっす。ちゃんと、ギルマスにもお願い、っつか、契約書のやり取りしてたっすね。あ、ギルマスには、聖女候補ってことにしてたっすよ」
「きちんとされているな……」

 契約書。紙自体に契約魔法がかかっていて、そこに書かれた内容を破ると罰則が与えられる怖い代物である。

「というか、いきなり魔物?」
「人をモルモットにしたら人として終わってるでしょ?ってめっちゃ真顔で言われたっす」

 確かに、と彼らは頷いた。

「だから、魔物を標的にして、加減調節したわけか。飛び級制度のギルドを利用すれば、試験官が最低二人つく。一人ではないから、何かあっても試験官が助けてくれるし、もし間違っていても指摘してくれる」
「自分が満足できるまでは、ギルドにも頻繁に顔を出して魔物で実験するらしいっすよ」
「お一人で、か?」
「一応、誰かは連れてってくださいとは言ったんっすけどね。どうも、今日のことは殿下にも事後報告らしいっす」
「……すげえわ」

 次も誰か連れてくとは限らない、ととれる言葉である。実際、今日は一人でギルドに顔を出したのだ。連れてかないだろうな、というのは、この場の誰もが思ったことである。しかも、殿下に事後報告とは。

「ランクBか……。Aのお前は、勝てるか?」

 ジークレイに問われ、メイズは即首を横に振った。亜人族は、総じて人間よりも力が強い。亜人族の中でもヒエラルキーはあるが、豹族はそれでも中の上あたりである。その彼が、即首を横に振ったことに、衝撃を受けた。

「絶対勝てないのが分かるっす。あ、でも……、たぶん、ですけど、魔法なしの剣だけ勝負なら、俺のほうが強い、かも?」
「疑問形なんだね」
「いや、わかんねぇっすよ、副団長。だってあの方、全力じゃなかったっす。ギルマスとも話してたっすけど、底知れないんっすよ。体力も相当あるはずっす」
「つまり……、ご自分の力をセーブしながらでも、ランクBなわけか……」

 本来の実力はいかほどか。しかし、頭を抱えながらも、いいことを聞いた、とメイズ以外は思っていた。先日、騎士団団長会議で、丁度女神の護衛をどうするか、という議題で、結論が出ないまま終わったのだ。女神のランクがBを上回るならば、生半可な団員はつけられない。そもそも、護衛がいるかどうかも意見が分かれているが。
 メイズの報告は以上らしく、誰にも話すな、と一応くぎを刺しておいた。そのメイズが、去り際に一言置いていった。

「あ、女神様、護衛はいらないって仰ったんっすけど、もし必要なら自分で選びたい、だそうっすよ」

 護衛問題が一気に解決する置き土産に、レイトラルたちはそれだ!と食いついたのだった。

 メイズの報告を受け、早速とばかりにレイトラルはシリウスに相談した。護衛を女神様ご自身に選んでいただくことはどうか、と。シリウス達も、護衛は自分で選んだので、その言葉に賛成。次の日、すぐさま朝から騎士を選んでほしい、と言ってきたのである。聖女はもうすでに決まっているらしい。

「あ~……、やっぱり、護衛はいりますか……」
「聖女につけて、あなたにつけないというのはね。まあ、一応、形だけだよ。あなたは、どうも行動力がおありだから」

 冒険者ギルドに行き、飛び級制度を受け、更に商業ギルドで口座を作ったことを事後報告すれば、ちくり、と嫌味を言われた。どうやら、シリウス的には頼ってほしかったらしい。瑞姫からしてみれば、勉強の一環で先触れを出したりしたのだが、シリウス曰く、手がかからないのはいいが、全く手がかからないのもつまらない、だそうで。あと、彼も実戦をしている彼女を見たかったらしく、ついて行きたかったとぼやかれたのは昨日の事である。無口なセイランも珍しく、見たかったのに残念です、と非常に残念そうに言われ、それが地味に心に響いたのは内緒だ。
 今、彼女の護衛は正式なものではなく、王宮内の警護をしている人員を増やしただけのようだ。

「護衛を言っても、あなたの行動を縛るものではないから。希望はある?」
「うーむむ……」

彼女の脳内は目まぐるしく回転する。

「亜人さんがいいです。あと、ギルド登録してるともっといいかな、と」
「貴族は?」
「……、……。どうせなら、セイランさんみたいな性格の方が好ましいです」
「……セイラン?これ?」
「殿下、これとはなんです。失礼な」

 亜人と言ったのは、耳と尻尾が可愛く、見ていると癒されるから。ギルド登録していれば、護衛としても一緒に活動できるから。
 セイランみたいな性格とは、無表情で無口だから静かでいい、というわけじゃなく、今みたいに主と軽口を叩ける間柄になれるし、諫言してくれるからだ。これ?と、はしたなくも指をさしていうシリウスに、すかさずセイランがその指を下ろさせる。その関係がいい。
 部下に、全肯定botイエスマンはいらないのだ。

「ほんとは、平民でもいいんですけどね。貴族だと、派閥が……」
「カグラ殿の耳にまで入っていたか……。頭が痛いな」

 平民だと、貴族のしがらみはないが、爵位もちへの対応は少し弱い。
 そして貴族だが、そう、派閥。第一王子と第二王子の派閥があるのだ。本人たちは至って仲が良く、シリウスは王太子に、リカルドは補佐に、という風に声を上げている。それにもかかわらず、派閥があった。勝手に作って勝手に盛り上がってる一部の人間だけではあるのだが。とはいっても、は第二王子の派閥だけで、第一王子の派閥は彼らを抑える役目を担っている状態だ。
 そんなこんなで、第二王子派の貴族を護衛として選ぶわけにはいかないのだ。保守派もいるのだが、それを選ぶと今度は、その保守派が第一王子派だと思われる。なんて面倒くさいのだろうか。
 セイランに、第六騎士団はどうかと問われたが、第六は女性のみの構成だ。女性だと、守らなくてはという意識が生まれてきてしまい、どっちが護衛かわからなくなりそうで、瑞姫は渋る。それに、侍女のエルが戦闘特化であるので、彼女がいれば問題ないと思っていた。シリウスに聞けば、彼女は諜報員らしい。

「……それは、聞いてもよろしかったのでしょうか……」
「言わないだろう?」
「言いませんけども」

 ちょっとこの人、自分の前では少し口が軽くないか?機密事項がちらちらと流れてくるのは、どうかと思うのだが。

「護衛かあ……どうせだったらメイズ君でもいいんだけどなあ……」
「……ちょっと、その呼び方ずるいと思うな」
「はい?」

 さっきまで機嫌よさそうににこにこしていたのに、今はむっ、と唇を尖らせる勢いである。機嫌スイッチはどこだ?

「あのねぇ……。本当なら、私があなたに敬語を使わなければならないし、呼び方だってあなたは私の事を呼び捨てでもいいくらいなのに」
「え、えぇ~……」
「自分も、セイランと呼び捨てにしていただきたいです。敬語もなしで」

 ずっと思っていたらしい。一向に距離が縮まった気がしない、と。護衛の話はどこ行った?いや、この話を解決しない限り、前には進まなさそうである。ここぞ、というところで、セイランも口をはさんできた。この主従は本当によく似ている。

「呼び捨て……、敬語なし……。ぐぐ……」
「慣れといたほうがいいと思うよ。護衛につく者達も、呼び捨てでと言うだろうしね。私もセイランも、呼び捨てにしてくれると嬉しい」

 まあ、その通りではあるのだが。そこまで言われれば、呼び捨てにしないわけにはいかない。シリウスとセイランの目は、期待の色を宿しているのだ。呼ばないわけにはいかなくなった、のだが。

「……、~~~う……、し、シリウス、と……、せい、セイラン?」

 ためにためて、名前を呼んだ瞬間。ぶわり、と彼女の顔は赤く染まる。両手で顔を覆うが、耳まで真っ赤なので隠せてない。彼女は、元の世界でも男を呼び捨てにすることなど一度もなかった。そのため、呼び捨ては慣れてない。犯罪者は男とも思ってないのでノーカンである。なんだか甘酸っぱい感じの空気になり、あてられた二人も若干顔を赤く染めてしまった。

「す、すみませんっ、男性を呼び捨てにするのは、慣れてなくて……っ」
「いや、うん……、うん」
「どうか、これからも呼び捨てでお願いします」
「セイラン、攻めるね!?」

 何度も言うが、瑞姫は美女である。そんな彼女が、男を呼び捨て慣れてない、と真っ赤な顔で言えば、いくら美女を見慣れている男でもどきり、とするだろう。シリウスもセイランも、不意打ちをくらった気分だった。しかし、それ以上に呼び捨てで呼ばれるのはいい。
 セイランに突っ込んだシリウスだが、本心は同じであるので、同意したが。瑞姫のことも名前で呼んでもらうことと、敬語は意識してなくしていくので慣れるまで待ってほしいとお願いして、その話は終了した。
 さて、話を護衛の件に戻して。

「メイズ、というのは、試験官をしてくれたという第三騎士団の団員かい?」
「あぁ、メイズ・ライナーですね。豹族の獣人です」

 さすが、元第三騎士団所属のセイラン。第三騎士団のことはよく知っている。

「そうか、じゃあまず、そのメイズ・ライナーを一人ね」
「え、いいんですか?」
「ギルドに登録しているのも条件みたいだからね。貴族からも選ぶつもりだけど。第二は……、嫌なんだね」

 第二と聞いた瞬間、頭によぎったのは前見に行った合同訓練。団員たちの態度に眉を寄せ、これはないな、と思ったものだ。それが顔に出ていたのか、シリウスが苦笑いする。
 全員がそうかと言われれば、違うだろうとは思う。だが、あれを見た後では、ちょっと、と敬遠したくなるものだ。

「あとは、何人か見繕うよ。とりあえず、本人には知らせないが、資料をあなたに渡すから見に行ってみるといい」
「わかりました。お願い、する、ね」

 さっきから噛み噛みである。とっさに返事をすると敬語になり、意識すると敬語が混じって変な言葉になるので、それに気をつけようとすれば噛む。シリウスは笑いを耐えているようだし、セイランに至っては生温い視線を寄越してくるので、瑞姫は恥ずかしくて穴があたら入りたいくらいだった。
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