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本編
10.ギルド
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女神及び、聖女のお披露目は二ヶ月後となった。諸々の準備は、聖女召喚の儀式に併せて進めていたので、ドレスの準備などの期間である。一応、聖女召喚のことは貴族には伝えられており(平民にもそれとなく伝わっている)、彼らも事前の準備をしている(はず)ので、急でも問題ないとのこと。
ただ、イレギュラーであったのが女神だ。そのため、色々細々とした箇所を少しずつ変更していて、確認に追われているとのこと。その関係で、城に出入りする貴族が増したので、瑞姫は用がない限りは部屋にこもりっきりだった。貴族たちに会うなとは言われてはないが、気分的に会うのが憚られた為、大人しくしていた。
大人しく、とはいっても、彼女たちは彼女たちでやることがある。基本的なマナーやダンスだ。平民たちに顔見せするため、パレードを行ったそのあと、貴族たちとの顔合わせ兼パーティがあるので、簡単な挨拶の仕方などを覚えなければならない。
本当は、女神である瑞姫は、このお披露目を拒否することもできた。だが、後々のことを考えて受けることにしたのである。民、特に貴族たちに顔を覚えてもらえば、聖女と間違われにくくなるだろうし、むやみに声をかけてくる者もいないはずだ。お披露目さえ終われば、あとは女神は自由なので、貴族から何かしらコンタクトがあってもいません、で通るだろうとのこと。
王都謁見があった次の日、冒険者ギルドへと足を運んだ。もちろん、ギルド登録をするためである。
そのきっかけは、強さの証明だけではなく、この世界にきちんといる、という証が欲しかったためだ。別に、有名なりたいだとか、そういう理由ではない。この世界は戸籍がなく、自分を自分と証明するには商業ギルド、又は冒険者ギルドに登録して、プレートを作ってもらう必要があった。いわば、簡単な身分証である。それに、プレートは世界共通で、門番に提示したり、手っ取り早くランク証明するのに役立つのだ。ちなみにこのプレート、血を垂らして魔力を認識させるので、本人以外は使用できない。
突然顔を出しても騒ぎになるだろう、と先触れを出したおかげで、ギルド登録の件はすんなりと話が通った。
ギルドランクは、最底辺のFからE・D・C・B・A・S・SS・SSSだ。
冒険者ギルドに初登録するとき、どんな強者でも、誰であろうが、最初は最低ランクのFになる。
しかし、力があるのに最底辺Fランクだと、どんなに強くても一つ上のDランクの依頼までしか受けられない。Cランクまでは依頼を規定の数こなせば上がっていくが、時間がかかる。だが、強さがあるのに、下でくすぶらせている時間はギルド側にないのだ。なんといったって、毎日何かしらの依頼が来る。高ランクは、受けられる人も限られてくるので、減らないのが現状だった。
ここで登場するのが、飛び級制度。試験はどのランクに飛び級するかで内容が変わるが、合格すれば一気に上に飛べる。
というわけで、瑞姫はその話に飛びつき、現在、王都から出て西にある、シャリーの森へ来ていた。中級冒険者が主に活動する、魔物の強さもそこそこな森である。
「いやあ……、聖女候補様、お強いですな」
「いや、強すぎっしょ。これ、俺いる意味あります?」
そう言ったのは、冒険者ギルドマスターの熊猫族であるフリッツと、第三騎士団の豹族のメイズ・ライナーである。
フリッツが瑞姫を聖女候補と呼んだのは、混乱させないためだ。お披露目前なので、聖女候補とした。
飛び級試験は、最低でも試験官二人は必要だ。普通なら職員で十分なのだが、聖女候補だということでギルドマスター直々に、そして、もう一人を選ぼうとしたとき、丁度受付にメイズが来たのだ。行こうとしていた西の森の魔物討伐依頼書をもって。それを見たフリッツの目は、獲物を見つけたとばかりの獰猛さを灯していた、とはメイズ談である。
メイズが第三騎士団(騎士団の中には、冒険者ギルドに登録している者も多い)に長くいることも知っていたフリッツは、彼を強制連行。というか、ここぞとばかりに権力を振りかざし、捕まえてきた。フリッツとしては、信用できる人を確保したに過ぎない。一応、聖女候補はお忍びとして、魔法具で髪と目の色を変えてきており、お披露目前で目立ちたくないとも言ったので、口が堅いものを選んだのだ。
「あ、メイズ君、あの魔物……」
「俺の獲物っすねー。ちょっと行ってきます」
「はーい」
メイズが狩りをしている間は、瑞姫は待機である。なんせ、彼は試験官なので。
「しかし、聖女候補様。どうして冒険者ギルドに?」
「まあ、簡単な話、お金は自分で稼ぐべきだと」
「確かに、依頼をこなせば金は入りますが……。国から出ておりませんか?」
確かに、瑞姫が買い物するとき、国からお金は出ている。だが、社会人としては、お金は自分で稼いだものを使いたいという意識があるのだ。
「私の感覚では、借りてるって感じですからね。パーッとお金を使うのは、やっぱり自分で苦労して稼いだお金じゃないと、気持ちよくないじゃないですか」
「聖女候補様はあれですな。感覚は庶民ですな」
「元の世界でも庶民ですよ」
それに、恐らくだが、聖女一人の予算しか組んでいないと踏んでいる。なにせ、女神はイレギュラー。お金は無限に湧き出るものじゃない。散財するつもりは毛頭ないが、国からの支援を甘んじて受け続けるつもりもなかった。というか、無一文という言葉は胸に刺さる。
「すると、もう一人の方も?」
「あー、いえ。あの子は、戦闘はできない子ですからね。恐らく登録はしないんじゃないかな、とは思いますけど……」
「なるほど」
ゆりあは、戦うなんてできません、とリカルドに言ったらしい。聖女でも登録はできるが、運動して体力をつけないことには、簡単な採取はできるだろうが、それでもやはり魔物は出るので難しいだろう。
「ふいー、終わったっすー」
難なく依頼の魔物を片付けたメイズが戻れば、また彼女の独断場である。
飛び級制度を受けようと思ったのは、自分がこの世界でどこまで通用するかを確認するためでもある。そして、もう一つ。魔物相手に実験をしたかった。
元の世界でも、強力な部類に入る能力である。一応は、能力含めた戦闘能力において、日本屈指と言ってもいいくらいには強者だった。新たな力、魔力のこともあるが、この世界に来て少し異能を使ってみたときに、元の世界よりも発動しやすく、強くなっているのでは?と感じたのだ。精霊に聞いたところ、女神の加護が作用している、とのこと。頭を抱えたのは記憶に新しい。だから彼女は、何かと戦う前に、自分の力を把握したかった。自分の力を把握していないと、やり過ぎ、または加減しすぎで戦闘に差し支えるためである。
飛び級の試験には、手練れの冒険者である試験官が職員を含め、最低でも二人つく。一人でやるつもりはなかったので、丁度いいなと思って飛びついた。
こちらの世界に来てからの、異能を使った初戦闘は、加減が効かなくて失敗した。いつも通りの感覚でやったら、魔物が小さかったというのもあるが、強すぎて魔石ごと粉砕。その時の二人の顔と言ったら、目玉が飛び出るくらいに驚いていた。そしてドン引き。人相手にやらかさなくて、本当によかったと安堵したものである。
その後は、弱すぎたりなんだりで、調節が上手くいかなかったが、後半になってようやくいつも通りに動けるようになった。
「よしよし」
「ひえー。バトルラビットを簡単にあしらっちまった……」
バトルラビット。名前の通り、戦闘特化のたれ耳ウサギである。ただし、四本ある足は体に似合わない大きさで、繰り出される蹴りや拳は、大の大人の男を簡単に吹っ飛ばせるほどに強力だ。魔物にもランクがあり、これはランクCよりのB。素早く攻撃力も高いため、Bランクなり立ての冒険者は毎度の事、このバトルラビットの被害にあうのが常である。
「よし、ここまで。判定はAでもいいが、ここはBくらいまでしかいないからな……」
「っすねー。俺も賛成っす。ここにAランクがいないのが惜しいっすけど」
「とりあえず、聖女候補様はランクB決定です」
「わーい」
試験終了。Fから一気にBランクへアップである。珍しいがいないわけじゃない。このメイズも、同じだ。
「そろそろ、街に戻りましょう。魔物の素材もついでに買い取りますし」
「俺も戻んないとな」
まだ日が出ているが、これからすぐに暗くなる。彼女としてはもう少しやりたかったが、ベテランの言うことは聞いておくべし。素直にうなずき、森を後にした。
「お二方共、今日は付き合っていただいて、ありがとうございました」
「いや、仕事ですからな。いいものも見れました」
「最初はどうなるかと思ったんっすけどね~。いやあ、め……、えっと、ミズキさんは強い。騎士団に欲しいくらいっす」
「そう?そういってくれると嬉しいです」
魔物の素材買い取りの際、瑞姫は銀行の口座を開設していなかった。……銀行である。商業ギルドが統括しているようだが、日本と同じ制度の銀行があった。口座開設をしていれば、買い取り金額を口座に入れてもらうこともできる。ギルドで発行してもらったプレートが、財布代わり。つまり、クレジットカードになるのだ。そのため、彼ら二人はそこにも付き合ってくれた。至れり尽くせりで申し訳ないが、銀行の口座開設は後見人必須。一応、シリウスが後見人で、それを示すものもあったのでそれと、ギルドマスターであるフリッツも口添えしてくれたのもあり、数日かかるであろう口座開設が数十分で終わった。商業ギルドマスターであるセレナ・アヴィンとフリッツは旧知の間柄らしく、直接会って話してくれたのもある。
「フリッツさん、何かあったら言ってください。ここまでしてもらって、恩を返さないわけにはいかないので」
「いや、ですが」
「私の肩書は、ポイしてください」
「いやできねえっしょ。つか、貴族様でも言わねぇっすよ。肩書をポイなんて」
「いいんです。今の私は、肩書を捨てたただの一般人なので!メイズ君もよ!」
「あれ、俺にも飛んできた」
「貴重なお休みを私に使ってくれたんだから、当然です」
二人からしてみれば、雲の上の人。本人がそう言っても、そうほいほい頼めない。考えておきます、と言ってくれたが、絶対に果たされないだろう言葉だ。しかし、恩を押し売りするつもりもないので、若干しょんぼりしつつも引き下がる。
その美女のしょんぼり顔が胸にキたのか、メイズは妥協案として貸しとした。
「じゃあ、貸しっつーことで」
「おま……」
「いや、だって、しょんぼり……」
「ぐ……、……そう、ですな。貸し、ということで一つ」
ぱあ、っと顔を輝かせた彼女に、う、と眩しいものを見る目で、二人は目を細めた。
フリッツとはギルド前で別れ、メイズは王宮まで彼女を送ってから帰って行った。
そして瑞姫は、若干不機嫌そうなシリウスに出迎えられることになる。
ただ、イレギュラーであったのが女神だ。そのため、色々細々とした箇所を少しずつ変更していて、確認に追われているとのこと。その関係で、城に出入りする貴族が増したので、瑞姫は用がない限りは部屋にこもりっきりだった。貴族たちに会うなとは言われてはないが、気分的に会うのが憚られた為、大人しくしていた。
大人しく、とはいっても、彼女たちは彼女たちでやることがある。基本的なマナーやダンスだ。平民たちに顔見せするため、パレードを行ったそのあと、貴族たちとの顔合わせ兼パーティがあるので、簡単な挨拶の仕方などを覚えなければならない。
本当は、女神である瑞姫は、このお披露目を拒否することもできた。だが、後々のことを考えて受けることにしたのである。民、特に貴族たちに顔を覚えてもらえば、聖女と間違われにくくなるだろうし、むやみに声をかけてくる者もいないはずだ。お披露目さえ終われば、あとは女神は自由なので、貴族から何かしらコンタクトがあってもいません、で通るだろうとのこと。
王都謁見があった次の日、冒険者ギルドへと足を運んだ。もちろん、ギルド登録をするためである。
そのきっかけは、強さの証明だけではなく、この世界にきちんといる、という証が欲しかったためだ。別に、有名なりたいだとか、そういう理由ではない。この世界は戸籍がなく、自分を自分と証明するには商業ギルド、又は冒険者ギルドに登録して、プレートを作ってもらう必要があった。いわば、簡単な身分証である。それに、プレートは世界共通で、門番に提示したり、手っ取り早くランク証明するのに役立つのだ。ちなみにこのプレート、血を垂らして魔力を認識させるので、本人以外は使用できない。
突然顔を出しても騒ぎになるだろう、と先触れを出したおかげで、ギルド登録の件はすんなりと話が通った。
ギルドランクは、最底辺のFからE・D・C・B・A・S・SS・SSSだ。
冒険者ギルドに初登録するとき、どんな強者でも、誰であろうが、最初は最低ランクのFになる。
しかし、力があるのに最底辺Fランクだと、どんなに強くても一つ上のDランクの依頼までしか受けられない。Cランクまでは依頼を規定の数こなせば上がっていくが、時間がかかる。だが、強さがあるのに、下でくすぶらせている時間はギルド側にないのだ。なんといったって、毎日何かしらの依頼が来る。高ランクは、受けられる人も限られてくるので、減らないのが現状だった。
ここで登場するのが、飛び級制度。試験はどのランクに飛び級するかで内容が変わるが、合格すれば一気に上に飛べる。
というわけで、瑞姫はその話に飛びつき、現在、王都から出て西にある、シャリーの森へ来ていた。中級冒険者が主に活動する、魔物の強さもそこそこな森である。
「いやあ……、聖女候補様、お強いですな」
「いや、強すぎっしょ。これ、俺いる意味あります?」
そう言ったのは、冒険者ギルドマスターの熊猫族であるフリッツと、第三騎士団の豹族のメイズ・ライナーである。
フリッツが瑞姫を聖女候補と呼んだのは、混乱させないためだ。お披露目前なので、聖女候補とした。
飛び級試験は、最低でも試験官二人は必要だ。普通なら職員で十分なのだが、聖女候補だということでギルドマスター直々に、そして、もう一人を選ぼうとしたとき、丁度受付にメイズが来たのだ。行こうとしていた西の森の魔物討伐依頼書をもって。それを見たフリッツの目は、獲物を見つけたとばかりの獰猛さを灯していた、とはメイズ談である。
メイズが第三騎士団(騎士団の中には、冒険者ギルドに登録している者も多い)に長くいることも知っていたフリッツは、彼を強制連行。というか、ここぞとばかりに権力を振りかざし、捕まえてきた。フリッツとしては、信用できる人を確保したに過ぎない。一応、聖女候補はお忍びとして、魔法具で髪と目の色を変えてきており、お披露目前で目立ちたくないとも言ったので、口が堅いものを選んだのだ。
「あ、メイズ君、あの魔物……」
「俺の獲物っすねー。ちょっと行ってきます」
「はーい」
メイズが狩りをしている間は、瑞姫は待機である。なんせ、彼は試験官なので。
「しかし、聖女候補様。どうして冒険者ギルドに?」
「まあ、簡単な話、お金は自分で稼ぐべきだと」
「確かに、依頼をこなせば金は入りますが……。国から出ておりませんか?」
確かに、瑞姫が買い物するとき、国からお金は出ている。だが、社会人としては、お金は自分で稼いだものを使いたいという意識があるのだ。
「私の感覚では、借りてるって感じですからね。パーッとお金を使うのは、やっぱり自分で苦労して稼いだお金じゃないと、気持ちよくないじゃないですか」
「聖女候補様はあれですな。感覚は庶民ですな」
「元の世界でも庶民ですよ」
それに、恐らくだが、聖女一人の予算しか組んでいないと踏んでいる。なにせ、女神はイレギュラー。お金は無限に湧き出るものじゃない。散財するつもりは毛頭ないが、国からの支援を甘んじて受け続けるつもりもなかった。というか、無一文という言葉は胸に刺さる。
「すると、もう一人の方も?」
「あー、いえ。あの子は、戦闘はできない子ですからね。恐らく登録はしないんじゃないかな、とは思いますけど……」
「なるほど」
ゆりあは、戦うなんてできません、とリカルドに言ったらしい。聖女でも登録はできるが、運動して体力をつけないことには、簡単な採取はできるだろうが、それでもやはり魔物は出るので難しいだろう。
「ふいー、終わったっすー」
難なく依頼の魔物を片付けたメイズが戻れば、また彼女の独断場である。
飛び級制度を受けようと思ったのは、自分がこの世界でどこまで通用するかを確認するためでもある。そして、もう一つ。魔物相手に実験をしたかった。
元の世界でも、強力な部類に入る能力である。一応は、能力含めた戦闘能力において、日本屈指と言ってもいいくらいには強者だった。新たな力、魔力のこともあるが、この世界に来て少し異能を使ってみたときに、元の世界よりも発動しやすく、強くなっているのでは?と感じたのだ。精霊に聞いたところ、女神の加護が作用している、とのこと。頭を抱えたのは記憶に新しい。だから彼女は、何かと戦う前に、自分の力を把握したかった。自分の力を把握していないと、やり過ぎ、または加減しすぎで戦闘に差し支えるためである。
飛び級の試験には、手練れの冒険者である試験官が職員を含め、最低でも二人つく。一人でやるつもりはなかったので、丁度いいなと思って飛びついた。
こちらの世界に来てからの、異能を使った初戦闘は、加減が効かなくて失敗した。いつも通りの感覚でやったら、魔物が小さかったというのもあるが、強すぎて魔石ごと粉砕。その時の二人の顔と言ったら、目玉が飛び出るくらいに驚いていた。そしてドン引き。人相手にやらかさなくて、本当によかったと安堵したものである。
その後は、弱すぎたりなんだりで、調節が上手くいかなかったが、後半になってようやくいつも通りに動けるようになった。
「よしよし」
「ひえー。バトルラビットを簡単にあしらっちまった……」
バトルラビット。名前の通り、戦闘特化のたれ耳ウサギである。ただし、四本ある足は体に似合わない大きさで、繰り出される蹴りや拳は、大の大人の男を簡単に吹っ飛ばせるほどに強力だ。魔物にもランクがあり、これはランクCよりのB。素早く攻撃力も高いため、Bランクなり立ての冒険者は毎度の事、このバトルラビットの被害にあうのが常である。
「よし、ここまで。判定はAでもいいが、ここはBくらいまでしかいないからな……」
「っすねー。俺も賛成っす。ここにAランクがいないのが惜しいっすけど」
「とりあえず、聖女候補様はランクB決定です」
「わーい」
試験終了。Fから一気にBランクへアップである。珍しいがいないわけじゃない。このメイズも、同じだ。
「そろそろ、街に戻りましょう。魔物の素材もついでに買い取りますし」
「俺も戻んないとな」
まだ日が出ているが、これからすぐに暗くなる。彼女としてはもう少しやりたかったが、ベテランの言うことは聞いておくべし。素直にうなずき、森を後にした。
「お二方共、今日は付き合っていただいて、ありがとうございました」
「いや、仕事ですからな。いいものも見れました」
「最初はどうなるかと思ったんっすけどね~。いやあ、め……、えっと、ミズキさんは強い。騎士団に欲しいくらいっす」
「そう?そういってくれると嬉しいです」
魔物の素材買い取りの際、瑞姫は銀行の口座を開設していなかった。……銀行である。商業ギルドが統括しているようだが、日本と同じ制度の銀行があった。口座開設をしていれば、買い取り金額を口座に入れてもらうこともできる。ギルドで発行してもらったプレートが、財布代わり。つまり、クレジットカードになるのだ。そのため、彼ら二人はそこにも付き合ってくれた。至れり尽くせりで申し訳ないが、銀行の口座開設は後見人必須。一応、シリウスが後見人で、それを示すものもあったのでそれと、ギルドマスターであるフリッツも口添えしてくれたのもあり、数日かかるであろう口座開設が数十分で終わった。商業ギルドマスターであるセレナ・アヴィンとフリッツは旧知の間柄らしく、直接会って話してくれたのもある。
「フリッツさん、何かあったら言ってください。ここまでしてもらって、恩を返さないわけにはいかないので」
「いや、ですが」
「私の肩書は、ポイしてください」
「いやできねえっしょ。つか、貴族様でも言わねぇっすよ。肩書をポイなんて」
「いいんです。今の私は、肩書を捨てたただの一般人なので!メイズ君もよ!」
「あれ、俺にも飛んできた」
「貴重なお休みを私に使ってくれたんだから、当然です」
二人からしてみれば、雲の上の人。本人がそう言っても、そうほいほい頼めない。考えておきます、と言ってくれたが、絶対に果たされないだろう言葉だ。しかし、恩を押し売りするつもりもないので、若干しょんぼりしつつも引き下がる。
その美女のしょんぼり顔が胸にキたのか、メイズは妥協案として貸しとした。
「じゃあ、貸しっつーことで」
「おま……」
「いや、だって、しょんぼり……」
「ぐ……、……そう、ですな。貸し、ということで一つ」
ぱあ、っと顔を輝かせた彼女に、う、と眩しいものを見る目で、二人は目を細めた。
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