自由な女神様!~種族人族、職業女神が首を突っ込んだり巻き込まれたりの物語。脇に聖女を添えて~

時雨

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本編

31.ホラー屋敷になるのは困ります。

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 と、それた話を戻し。
 魔法陣を調べた後、慎重に扉を開ける。何事もなく開いたので、部屋をのぞき込んで――――

「全員絶句しました、さすがに。一度幻かと思って閉めたんですが、もう一度開けても同じ光景だったので、さすがに引きましたね」

 そこにあったのは、異様な気配を醸し出し、黒い靄がまとわりついている数々の品。所狭しと部屋を埋め尽くし、足の踏み場もないほどの品がそこら中に転がっていたのだ。さすがのイズミルも団員たちも、こんな数は見たことなかったので、一瞬思考が停止したらしい。封印魔法が施してあったのは、これを外に出さないためだったのだと、少し後から気づいた。呼んだ神官たちも絶句した品数。神殿もこれだけの数は無理だと言う。それはそうだ。ざっと見ただけでも優に三十は超える。自分たちだけでは手を負えず、一度相談しようとなって、シリウスに話が行き、瑞姫に話が来たと。

「なるほど……。子爵自身が無事だったのは、呪いの品を一ヵ所にまとめて封印してたからなんですね」
「恐らくは、ですが」

 問題は、どこから、または、どうやってその呪いの品々を集めたのか、集まってしまったのか。もう一度子爵邸を見上げ、瑞姫はリアルホラー屋敷みたい、と呟いた。

「えっ、ホラー屋敷……?あのお化けゴーストが出てくるホラー屋敷アンデッドハウスですか?」
「それは作り物でしょ?」
「いえ、実際ありますよ、女神様」
「……まじで?」
「マジです」

 元の世界では、テーマパークとかで見かける人の手で作り上げる手作り感満載のお化け屋敷ホラーハウス。その感覚で言ったのに、この世界にはリアルであるらしい。朽ちた屋敷や建物に、いつの間にかアンデッド系モンスターが住み着いているものをそう呼ぶらしい。どこからともなく湧き出るそうだ。フォリアが言ったお化けとは、アンデッドの一種ゴーストのことを指す。

「この子爵邸は、アンデッドこそ住み着いてはいませんが、空気は出そうな感じです。早いところ対処しないと、呼び寄せるでしょう」

 イズミルがそう言った。そうなってくると、アンデッド退治も加わってくるため、早いところどうにかしたい。

「浄化すればいいんですか?呪い返しします?」
「いえ、今回は全て浄化で大丈夫ですが……。その、数が数ですので、女神様の負担にはなりませんか?」
「うーん……、私も一、二個ずつしかしたことないので……。何個かはできると思いますが……、なんにせよ、見ます」

 当然、瑞姫もそんな量の呪いの品はお目にかかったことがない。呪い返しも、一年に数回ある程度だ。それ絡みの事件も、そう頻繁に起こるわけでもない。たまに、あの人呪われてるなあ、と目につけば、さりげなく呪いをどうにかすることはあるが。そんなの一日何回も重なるなんてことはなかった。なんにせよ、アンデッドが湧き出る前になんとかせねば。

「呪いの品が置いてある部屋までご案内します。リズ副団長、あと頼むよ」
「はい、ここはお任せください」

 おや、と瑞姫は目を瞬かせた。リズノーンのことをリズ、と親しげに愛称で呼んでいる。しかし、雰囲気は甘くないので仕事中だからか?と、瑞姫は内心首をかしげた。

「親しいんですか?」
「あぁ、はい。近所の弟のようなものですね」
「そうなんですね」

 なるほど、と瑞姫は納得した。その言葉に嘘はないし、目にも甘ったるい恋愛感情の色は乗っていない。もう少し詳しく聞いてみれば、同じ区画にすんでいて、本当に言葉通り近所なんだとか。昔から親しいらしい。なんだ、とちょっと残念思った瑞姫である。

「こちらです、行きましょう」

 一歩屋敷内に踏み入れた瞬間、空気が一気にヒヤッとし、重くなった気がしたのだ。明らかに何かいそうな感じである。ちなみに、瑞姫にくっついてきていた精霊たちは、この邸に近づいた途端、すぐさま離れていった。近寄りたくないらしい。わかる。
 どんよりと重い空気の中、足早に廊下を進んで行くと、とある一室から黒い靄がにじみ出ているかのように漂っていた。そこが例の部屋というのは、一目瞭然である。

「おわかりになったかと思いますが、この部屋がそうです。ですが、宝石は、目についた物だけ別室に移動させました」

 それがこの隣の部屋だ。外に運び出さなかったのは、宝石の異能は機密事項になっているからである。ありがたい配慮だ。イズミルが隣の扉を開ければ、ローテーブルに黒い靄が少しのっかっていた。

「あれ、意外と弱そうですね?」
「えぇ、目についた物だけですが、宝石は一つ一つがそれほど強い物ではなかったようで……」

 隣から移動してみれば弱かった、ということだ。ということは、本当に強い物は、数個しかないかもしれない。見てないので憶測だが。瑞姫は躊躇なくそれに近づき、ソファに座る。よくよく宝石を観察してみれば、半分アクセサリー、半分カットされただけの状態だった。

「ほぼほぼ、浄化とか魔除けとかの意味がある宝石ですね……」
「となると、子爵は呪いを払いたかった?」
「うーん……」

 見るだけでは、それはわからない。顎に片手を置き、反対の手でカットされただけの状態の宝石を、人差し指でちょんちょんとつついていく。つつかれた順に、黒い靄が払われ浄化された。

「……うーん、これは、そこまで意味を持ってないですね。ただ手元に置いてあっただけみたいです。恐らく呪いの側に置いてあったから、呪いの強さに汚染されただけかと思います」

 カットされた状態の方は、ただ買っただけだ。子爵の想いは伝わってこなかった。ざっ、とアクセサリー以外の宝石をよける。アクセサリーの中から、使い古されているロザリオを手に取った。感じ取れた想いに、瑞姫は思わず、え、そっち?と呟いた。

「女神様?」
「あー……、うん、ちょっと待ってくださいね」

 次々とアクセサリーを手に取り、浄化させながら想いを読み取る。全て浄化し終えた瑞姫は、情報を整理するために、人差し指で自分のこめかみをトントン、と叩く。

「まず、ですね。呪われていたのは子爵じゃありません」
「子爵じゃ、ない?」
「はい。夫人の方が呪われていた、と、思います。ですが、子爵は夫人を助けようとしたわけじゃないです」
「…………」
「自分に呪いが降りかかるのが嫌だから、と言う想いでアクセサリーを渡したんです」

 整理して出た結果論は、子爵ではなく夫人の方が呪われていた、かもしれない、だ。そして、子爵も、夫人を助けようとして浄化や魔除けの意味がある宝石を渡したわけじゃなく、自分に降りかからないために渡したのだ。とんだゲス野郎である。しかし、このロザリオだけは、魔除けという意味で買ったわけじゃない。

「この、ストロベリークォーツ。大変希少ですよね、こちらでも。これは夫人の想いが一番強い物だったんですけど、たいっへん金遣いの荒い女性だったようですね。あと、かなり我が儘で横暴というか……」

 最初に手に取ったロザリオに埋め込まれた、1センチもある大きさのストロベリークォーツ。元の世界でも、ストロベリークォーツはかなり希少な宝石だった。なにしろ、標高の高い山岳地帯でのみ産出される代物だ。とれる国はいくつかあったが、山岳地帯は限定される。こちらの世界でも同じく。断片的に読み取れたのは、かなり金遣いが荒く、我が儘で横暴らしい。そして、ストロベリークォーツは、夫人が我が儘を発揮して手に入れた、と言うことだけだ。

「ミズキ様、素晴らしいです。母から聞きましたが、自分の思い通りにならないと、癇癪かんしゃくを起こすそうです。なので、社交界からはつまはじきにされていたそうですよ。子爵も、夫人の金遣いの荒さに頭を抱えていたと聞いています」
「私は社交界には出席しませんが、子爵の噂は聞いておりました。結婚を失敗した、という言葉を漏らしたらしい、ということも」

 政略結婚なのだろう。貴族にはよくあることだ。だが、相当相性が悪かったらしい。運が悪かったとしか言いようがないが。

「あと、呪いですけどね。……複数人が、別々に呪っていたような感じがします。この執念深い感じは、恐らく女性、?」
「そ、そこまでおわかりに……」
「そこまでですけどね。まあ、相当恨まれていた、?ということです」

 瑞姫がわかるのは、本当にここまでだ。疑問符がつき曖昧な言い方になるのは、絶対と言い切れないからで。経験から基づく推測にしか過ぎない。

「社交界に詳しい女性に聞いた方が良さそうですね……」

 ぽつりと呟いたイズミルに、瑞姫は同意した。女性のことは女性に聞くべし。社交界からつまはじきにされていたと言うことは、それだけ噂もあるだろうし、悪い意味で注目を浴びていたはずだ。こういうことは、男より女の方が詳しいと思う。

「さて、まだ大丈夫そうなので、隣の部屋に入りたいと思います」
「積極的ですね……」
ホラー屋敷アンデッドハウスになったら困る」
「……そうですね」

 瑞姫は宝石の異能の影響により、霊的存在そういうのを引き寄せない体質ではあるものの、アンデッドはどうかわからない。ホラーは別に嫌いじゃないが、得意というわけでもない。できれば、遭遇したくないものだ。早く終わらせたいから、積極的にもなる。大真面目に言う瑞姫に、フォリアは小さく笑って同意した。イズミルはやはりそんな二人を見て、いや、フォリアの甘ったるい眼差しを見て、この空間、甘ったるくて嫌だな、と思ったとか。

「では、女神様、お願いします」
「はーい」

 イズミルは、浄化された宝石を袋に詰めて魔法鞄マジックバッグに詰め込んだ。ここに置いておいたら、また呪いに侵されるかもしれないからである。瑞姫が立ち上がり、隣の部屋へ。相変わらず、扉からは黒い靄がにじみ出ていて嫌な感じだ。イズミルが扉を開ける直前、フォリアが瑞姫の前に庇うように立つ。扉が静かに開かれると、黒い靄があふれ出した。全員が顔をしかめる。

「これは……!本当に……、すごい数ですね……」
「だろう?」

 フォリアから驚きが伝わってきた。本当にすごい数らしい。瑞姫からはフォリアが邪魔で見えなかったので、ひょこっと脇から顔を出し、眉間にしわを寄せる。

「うーん、ごちゃごちゃ」

 フォリアの脇から、するっと通り抜けて躊躇なく部屋へ踏み入った。神官が来たときに、少しだけ片付けたのか足の踏み場はあった。数えるのが面倒になるほどあるので、数えはしないが、変な形の壺だったりお面だったり、絵画や彫刻なんかもある。ガラクタ部屋というか、手に入れた物を、後先考えずにぽいぽいぽいぽい、放り込んだ、という感じだ。
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