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本編
32.幸せを呼ぶ品は無差別テロ
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先ほどの宝石たちは、ほんの一部だったらしい。
「宝石じゃないから、物から読み取ることはできないんですけど……。なんか、おかしいな」
「なにか、とは?」
「うーん」
何かがおかしいのに、その何かがわからない。違和感が胸を占める。なんか気持ち悪いな、と思いながらも、黒い靄に手を突っ込みたくないので水を操作し、一番目についた変な壺を手繰り寄せた。一般的な丸っこい袋状の器体に、頸の部分を伴う開口部があって取っ手もついている。陶器製の壺だ。問題は、壺に描かれている模様。目なのかなんなのか、二つの丸があり、その下に口?っぽい何かがある。まるで人間の顔だ。振ってみたり逆さにしてみたりしても、何の音もしないし何も出てこないので、触れて浄化する。
「うーん、よくわからないな」
呪いを探ってみたが、周りがごちゃごちゃしていて感じ取りにくい。次は彫刻だ。今にも襲いかからんばかりの、臨場感溢れる熊。次は絵。黒い額縁に、塗りつぶしたかのように黒がぶちまけられているが、真ん中は白い丸で、星が輝いているのを表しているように感じとれる。次々と手に取り、呪いを探りつつ浄化し、し終えたやつは廊下に出していった。その間、フォリアやイズミルは、瑞姫が浄化し終えた物を外まで運ぶため、この邸に入れる団員と協力して動いていた。
「ふぇ~……、ちょっとこれ以上は無理そうかな……」
疲労を感じ、そう言って手を止めたのは、十個以上浄化した頃。それでもまだまだ呪いの品の方が多く残っている。全然減った気がしないな、と瑞姫は少しだけ遠い目をした。
「お疲れ様です、女神様」
「お疲れ様です、ミズキ様。あんまり景色が変わりませんね」
「も~、フォリアは一言余計~」
そんなことは瑞姫が一番よくわかっている。まだ量があるのを見てうんざりしていたところに、フォリアの一言がグサリ。がっくりと瑞姫はうなだれた。とりあえずこれ以上ここに留まるのはやめようとイズミルが言い、全員外に出る。呪いの品がある部屋の扉には、これ以上黒い靄が広がらないよう、イズミルが封印魔法をかけていた。
外に出て、瑞姫が浄化した元呪いの品を改めて見る。
「変な物ばっかり~」
「えぇ、本当に」
「ガラクタって感じですね」
一体何のために購入したのだろう、という物が多い。邸に飾るには、ちょっとないわ、悪趣味すぎ、な品物たち。このとき、瑞姫はもしかして、と一つの可能性が思い浮かんでいた。
「なー、副団長、これってさ……、もしや例の?」
「あぁ、そうだろうな。印も一緒だ」
代物を検品していたリズノーンと団員の会話に、瑞姫が例の?と割って入る。
「あ、はい。女神様や聖女様を召喚する前に、大捕物がありまして」
「あぁ、ネヴィン教ですか」
「それそれ」
ネヴィン教とは、女性のみで構成された宗教団体だった。過去、不幸や不運に見舞われた女性たちが集まってできたもので、最初は愚痴や慰め合いみたいな会だったようだ。それが、いつしか呪いにはまり、気に入らない者を呪う集団になっていった。最悪だったのは、呪術に適応がある女性が多かったために、ほとんどが呪いを会得できてしまったことだ。別名、毒の魔女の集いである。呪いのついた品を、幸せを呼ぶ品だと偽って販売、不幸に陥ったところを引き込み、人数を増やしていったそう。といっても、五十人にも満たなかったらしいが。呪われた人は、ネヴィン教に入門すると、解呪スキルを持つ人が少しずつ祓っていく流れである。
「あー、やっぱりその類いなんですね。悪質商法というか、この場合、霊感商法ですかね」
「お気づきでしたか」
「その可能性が高いなって。同じ印がついてましたし、宗教か何かに入門してたのかなと」
瑞姫の、もしかして、と思っていた可能性はあたったようだ。この霊感商法を使い、資金を集めていたという。
ネヴィン教の印は、バズヴ・カタが大鎌を担いでいる姿。バズヴ・カタとは大型の魔物で、ランクAに相当する見た目は灰色の鳥らしい。どことなくカラスに似ている。
このネヴィン教は、瑞姫たちが召喚される前に、全員捕まったそうだ。
「いえ、この夫妻ではなく、夫人の姉君がネヴィン教の人間でして……。恐らく、そこから流れてきたのではないか、と」
「お姉さんは結婚してたんですか?」
「はい、結婚していました」
過去形である。詳しく聞いたら、夫人の実家は子爵家だが、姉は伯爵家へ嫁いだ。順風満帆だったらしいが、ネヴィン教に目をつけられ、一転、不幸に転がり落とされた。旦那は運が悪く盗賊に襲われ崖からの転落死で、姉も呪いによって衰弱しており獄中死したようだ。姉はネヴィン教に入門したばかりで、解呪前だったらしい。
「この印がついた物は、騎士団に申し出るよう呼びかけていましたが」
「そうなんですね……」
入門した人物のリストはあったが、品物を誰に売ったか、と言うリストがないため、買ってしまった人や譲り受けてしまった人の自己申告じゃないと、回収できないらしい。
「ネヴィン教……、幸せを呼ぶ品……あ、あー、そっか、そういうことか、あー、納得」
すっきり!という顔をし、しきりに一人で頷いている瑞姫に、フォリアは説明を、と一言。
「え、あ、えっと、私、違和感を感じていたのは覚えてます?」
「おかしいな、と仰ったことですね」
「うん、それ。えっと、呪いって、ターゲットに的を絞ってかけますよね?だから、大抵の場合は、誰から誰へ、って想いの方向が決まってるんですよ」
「呪う側から、呪われる側へ、ということですね」
イズミルの補足に、こくりと一つ頷いた。
「この呪い、ターゲットがたぶんですけど、幸せな人って曖昧で、誰を呪うか定まってないんです。呪い自体は強い怨念を感じるんですけど、一つ一つは弱いから、どうしてだろうって思って」
「つまり、女神様が違和感を覚えたのは、呪う側から呪われる側への方向が定まっておらず、ターゲットも曖昧で、そのおかげか本来強い呪いになるところが、弱くなっていた、と?」
「多分ですが。あと、あそこまで呪いが広がったのは、宝石が側にあったからだと思います」
「宝石が」
宝石は、使用したらきちんと浄化してあげなくてはいけない。それなのに、呪いの品があった部屋に一緒くたにしてあり、長らくそこに置いてあったから、浄化作用が一転、浄化できなくなって呪いを拡散する器になっていた。
「さっき、夫人が呪われていたかもっていうの、訂正します。不特定多数の人間が呪いにかかるようになっていた、です。夫人はそのうちの一人だと思いますよ。少なくとも、今の時点では」
「まあ、確かに……。幸せの人が憎かった、幸せそうな人なら誰でもいい、という証言も得ていますから」
今見た品だけで言えば、無差別呪いテロのような物だ。複数の人が別々に、と感じ取れたことも納得する。呪いを施していたのが、複数いたからだ。
「夫人は、幸せだったんですかね?」
「それはわからないですけど……。まあ、幸せの定義って、人それぞれですし。少なくても、あのロザリオを手にした瞬間は幸せそうでしたよ」
夫人が幸せだったかどうかは、今はもうわからない。でも、ロザリオから読み取れた想いは、確かに幸せという感情も感じ取れた。ネヴィン教の人たちは、生きている人もまだいるらしく、もう一度確認をとってみる、とリズノーンは言った。
「女神様はすごいですね。我々は、呪いの種類までは、さっぱりで」
「まあ、普通はそうだと思いますよ。私のは、異能と、経験と、勘?」
宝石の異能が影響していることは確かである。あと、呪い関係はほぼ瑞姫のもとに回ってきたので、人よりは経験豊富だろう。なんとなく、だが、感じ取れるようになったのはそんな過程で得た勘のような物だ。だが、こちらの世界に来てよく感じ取れるようになったので、女神の加護の影響もあるのではと思っている。
あともう一つ気になることが、瑞姫にはあった。
「体調不良を訴えた方って、もしや家庭持ちとか、恋人さんがいらっしゃる方では?」
「!オイ!」
「……はっ、た、確かに……!」
それは幸せ真っ只中だろう。呪いの対象者だ。
「直接触ったりとかは?」
「していません。聞いた話では、扉開けてなんか異様だったので、直ぐ閉めたらしいです」
騎士団は、そういう類いの物に敏感になっており、例え見えなくてもなんかヤバい物、と勘が働くようだ。そう感じたら、触らないこと!と徹底しているようで、扉開けたらヤバい物の倉庫、これ触ったらヤバいやつ?多分。じゃあ、後で相談しよう、となったらしい。しかし、体調を崩してしまい相談が後回しに。イズミルが気づかなかったのは、彼は当初、その部屋からかなり離れたところを捜索していたからだった。呪いの品がある部屋は、東の一番外側の部屋。イズミルがいたのは、正反対の西。高性能な呪いレーダーなど持ち合わせていないので、気づかないのも無理はない。
「重症者はいないんですね?」
「えぇ。恐らく、呪いにあてられただけかと思います」
最初に体調を崩した者たちはこの仕事から外し、今は別の任務にあたっているそう。重症者がいなくて何よりである。
「ミズキ様、体調はよろしいのですか?」
「うん、大丈夫~。ただの疲労だよ」
「もし、思わしくなければちゃんと仰ってください。抱き上げますので」
「え!?い、いやいやいや!そこまではないから大丈夫……っ」
「そうですか?残念です」
「ざ……」
表面上は少しだけつまらなさそうに言うフォリアだが、本気で残念がっているらしい感情が伝わってきた。嘘はわかるので、全部本心で言っている。抱き上げられないのが残念です、と理解して、首をかしげた。激鈍瑞姫には、意味がさっぱりわからなかったが、ここで抱き上げられたらどうなる?と想像した途端、ぶわっ、と瑞姫の顔が赤く染まった。それはそれでとても恥ずかしい。今度は瑞姫から、恥ずかしいという感情が伝わってきて赤面しそうになるフォリアだが、それは根性でなんとか抑えつける。
「さ、ミズキ様、今日はもう戻りましょう」
「う、うう、う、ん。あの、失礼します……、ま、また明日、来ますねっ」
「あ、は、はい。あの、お待ちしております……」
甘ったるい茶番を見せられた一同は、それに一瞬反応が遅れた。涼しげな顔のフォリアと、赤い顔の瑞姫を、全員が生暖かな眼差しで見送ったのだった。
~~*~~
すみません。ストックが切れました。不定期更新になります。
番外編や登場人物などは、更新したらツイッターでお知らせします。
ちなみに、宝石も呪い云々も独自解釈、独自設定です。
「宝石じゃないから、物から読み取ることはできないんですけど……。なんか、おかしいな」
「なにか、とは?」
「うーん」
何かがおかしいのに、その何かがわからない。違和感が胸を占める。なんか気持ち悪いな、と思いながらも、黒い靄に手を突っ込みたくないので水を操作し、一番目についた変な壺を手繰り寄せた。一般的な丸っこい袋状の器体に、頸の部分を伴う開口部があって取っ手もついている。陶器製の壺だ。問題は、壺に描かれている模様。目なのかなんなのか、二つの丸があり、その下に口?っぽい何かがある。まるで人間の顔だ。振ってみたり逆さにしてみたりしても、何の音もしないし何も出てこないので、触れて浄化する。
「うーん、よくわからないな」
呪いを探ってみたが、周りがごちゃごちゃしていて感じ取りにくい。次は彫刻だ。今にも襲いかからんばかりの、臨場感溢れる熊。次は絵。黒い額縁に、塗りつぶしたかのように黒がぶちまけられているが、真ん中は白い丸で、星が輝いているのを表しているように感じとれる。次々と手に取り、呪いを探りつつ浄化し、し終えたやつは廊下に出していった。その間、フォリアやイズミルは、瑞姫が浄化し終えた物を外まで運ぶため、この邸に入れる団員と協力して動いていた。
「ふぇ~……、ちょっとこれ以上は無理そうかな……」
疲労を感じ、そう言って手を止めたのは、十個以上浄化した頃。それでもまだまだ呪いの品の方が多く残っている。全然減った気がしないな、と瑞姫は少しだけ遠い目をした。
「お疲れ様です、女神様」
「お疲れ様です、ミズキ様。あんまり景色が変わりませんね」
「も~、フォリアは一言余計~」
そんなことは瑞姫が一番よくわかっている。まだ量があるのを見てうんざりしていたところに、フォリアの一言がグサリ。がっくりと瑞姫はうなだれた。とりあえずこれ以上ここに留まるのはやめようとイズミルが言い、全員外に出る。呪いの品がある部屋の扉には、これ以上黒い靄が広がらないよう、イズミルが封印魔法をかけていた。
外に出て、瑞姫が浄化した元呪いの品を改めて見る。
「変な物ばっかり~」
「えぇ、本当に」
「ガラクタって感じですね」
一体何のために購入したのだろう、という物が多い。邸に飾るには、ちょっとないわ、悪趣味すぎ、な品物たち。このとき、瑞姫はもしかして、と一つの可能性が思い浮かんでいた。
「なー、副団長、これってさ……、もしや例の?」
「あぁ、そうだろうな。印も一緒だ」
代物を検品していたリズノーンと団員の会話に、瑞姫が例の?と割って入る。
「あ、はい。女神様や聖女様を召喚する前に、大捕物がありまして」
「あぁ、ネヴィン教ですか」
「それそれ」
ネヴィン教とは、女性のみで構成された宗教団体だった。過去、不幸や不運に見舞われた女性たちが集まってできたもので、最初は愚痴や慰め合いみたいな会だったようだ。それが、いつしか呪いにはまり、気に入らない者を呪う集団になっていった。最悪だったのは、呪術に適応がある女性が多かったために、ほとんどが呪いを会得できてしまったことだ。別名、毒の魔女の集いである。呪いのついた品を、幸せを呼ぶ品だと偽って販売、不幸に陥ったところを引き込み、人数を増やしていったそう。といっても、五十人にも満たなかったらしいが。呪われた人は、ネヴィン教に入門すると、解呪スキルを持つ人が少しずつ祓っていく流れである。
「あー、やっぱりその類いなんですね。悪質商法というか、この場合、霊感商法ですかね」
「お気づきでしたか」
「その可能性が高いなって。同じ印がついてましたし、宗教か何かに入門してたのかなと」
瑞姫の、もしかして、と思っていた可能性はあたったようだ。この霊感商法を使い、資金を集めていたという。
ネヴィン教の印は、バズヴ・カタが大鎌を担いでいる姿。バズヴ・カタとは大型の魔物で、ランクAに相当する見た目は灰色の鳥らしい。どことなくカラスに似ている。
このネヴィン教は、瑞姫たちが召喚される前に、全員捕まったそうだ。
「いえ、この夫妻ではなく、夫人の姉君がネヴィン教の人間でして……。恐らく、そこから流れてきたのではないか、と」
「お姉さんは結婚してたんですか?」
「はい、結婚していました」
過去形である。詳しく聞いたら、夫人の実家は子爵家だが、姉は伯爵家へ嫁いだ。順風満帆だったらしいが、ネヴィン教に目をつけられ、一転、不幸に転がり落とされた。旦那は運が悪く盗賊に襲われ崖からの転落死で、姉も呪いによって衰弱しており獄中死したようだ。姉はネヴィン教に入門したばかりで、解呪前だったらしい。
「この印がついた物は、騎士団に申し出るよう呼びかけていましたが」
「そうなんですね……」
入門した人物のリストはあったが、品物を誰に売ったか、と言うリストがないため、買ってしまった人や譲り受けてしまった人の自己申告じゃないと、回収できないらしい。
「ネヴィン教……、幸せを呼ぶ品……あ、あー、そっか、そういうことか、あー、納得」
すっきり!という顔をし、しきりに一人で頷いている瑞姫に、フォリアは説明を、と一言。
「え、あ、えっと、私、違和感を感じていたのは覚えてます?」
「おかしいな、と仰ったことですね」
「うん、それ。えっと、呪いって、ターゲットに的を絞ってかけますよね?だから、大抵の場合は、誰から誰へ、って想いの方向が決まってるんですよ」
「呪う側から、呪われる側へ、ということですね」
イズミルの補足に、こくりと一つ頷いた。
「この呪い、ターゲットがたぶんですけど、幸せな人って曖昧で、誰を呪うか定まってないんです。呪い自体は強い怨念を感じるんですけど、一つ一つは弱いから、どうしてだろうって思って」
「つまり、女神様が違和感を覚えたのは、呪う側から呪われる側への方向が定まっておらず、ターゲットも曖昧で、そのおかげか本来強い呪いになるところが、弱くなっていた、と?」
「多分ですが。あと、あそこまで呪いが広がったのは、宝石が側にあったからだと思います」
「宝石が」
宝石は、使用したらきちんと浄化してあげなくてはいけない。それなのに、呪いの品があった部屋に一緒くたにしてあり、長らくそこに置いてあったから、浄化作用が一転、浄化できなくなって呪いを拡散する器になっていた。
「さっき、夫人が呪われていたかもっていうの、訂正します。不特定多数の人間が呪いにかかるようになっていた、です。夫人はそのうちの一人だと思いますよ。少なくとも、今の時点では」
「まあ、確かに……。幸せの人が憎かった、幸せそうな人なら誰でもいい、という証言も得ていますから」
今見た品だけで言えば、無差別呪いテロのような物だ。複数の人が別々に、と感じ取れたことも納得する。呪いを施していたのが、複数いたからだ。
「夫人は、幸せだったんですかね?」
「それはわからないですけど……。まあ、幸せの定義って、人それぞれですし。少なくても、あのロザリオを手にした瞬間は幸せそうでしたよ」
夫人が幸せだったかどうかは、今はもうわからない。でも、ロザリオから読み取れた想いは、確かに幸せという感情も感じ取れた。ネヴィン教の人たちは、生きている人もまだいるらしく、もう一度確認をとってみる、とリズノーンは言った。
「女神様はすごいですね。我々は、呪いの種類までは、さっぱりで」
「まあ、普通はそうだと思いますよ。私のは、異能と、経験と、勘?」
宝石の異能が影響していることは確かである。あと、呪い関係はほぼ瑞姫のもとに回ってきたので、人よりは経験豊富だろう。なんとなく、だが、感じ取れるようになったのはそんな過程で得た勘のような物だ。だが、こちらの世界に来てよく感じ取れるようになったので、女神の加護の影響もあるのではと思っている。
あともう一つ気になることが、瑞姫にはあった。
「体調不良を訴えた方って、もしや家庭持ちとか、恋人さんがいらっしゃる方では?」
「!オイ!」
「……はっ、た、確かに……!」
それは幸せ真っ只中だろう。呪いの対象者だ。
「直接触ったりとかは?」
「していません。聞いた話では、扉開けてなんか異様だったので、直ぐ閉めたらしいです」
騎士団は、そういう類いの物に敏感になっており、例え見えなくてもなんかヤバい物、と勘が働くようだ。そう感じたら、触らないこと!と徹底しているようで、扉開けたらヤバい物の倉庫、これ触ったらヤバいやつ?多分。じゃあ、後で相談しよう、となったらしい。しかし、体調を崩してしまい相談が後回しに。イズミルが気づかなかったのは、彼は当初、その部屋からかなり離れたところを捜索していたからだった。呪いの品がある部屋は、東の一番外側の部屋。イズミルがいたのは、正反対の西。高性能な呪いレーダーなど持ち合わせていないので、気づかないのも無理はない。
「重症者はいないんですね?」
「えぇ。恐らく、呪いにあてられただけかと思います」
最初に体調を崩した者たちはこの仕事から外し、今は別の任務にあたっているそう。重症者がいなくて何よりである。
「ミズキ様、体調はよろしいのですか?」
「うん、大丈夫~。ただの疲労だよ」
「もし、思わしくなければちゃんと仰ってください。抱き上げますので」
「え!?い、いやいやいや!そこまではないから大丈夫……っ」
「そうですか?残念です」
「ざ……」
表面上は少しだけつまらなさそうに言うフォリアだが、本気で残念がっているらしい感情が伝わってきた。嘘はわかるので、全部本心で言っている。抱き上げられないのが残念です、と理解して、首をかしげた。激鈍瑞姫には、意味がさっぱりわからなかったが、ここで抱き上げられたらどうなる?と想像した途端、ぶわっ、と瑞姫の顔が赤く染まった。それはそれでとても恥ずかしい。今度は瑞姫から、恥ずかしいという感情が伝わってきて赤面しそうになるフォリアだが、それは根性でなんとか抑えつける。
「さ、ミズキ様、今日はもう戻りましょう」
「う、うう、う、ん。あの、失礼します……、ま、また明日、来ますねっ」
「あ、は、はい。あの、お待ちしております……」
甘ったるい茶番を見せられた一同は、それに一瞬反応が遅れた。涼しげな顔のフォリアと、赤い顔の瑞姫を、全員が生暖かな眼差しで見送ったのだった。
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すみません。ストックが切れました。不定期更新になります。
番外編や登場人物などは、更新したらツイッターでお知らせします。
ちなみに、宝石も呪い云々も独自解釈、独自設定です。
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