自由な女神様!~種族人族、職業女神が首を突っ込んだり巻き込まれたりの物語。脇に聖女を添えて~

時雨

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本編

33.贈り物に魔物の彫刻は適しません。

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 次の日。子爵邸に入ろうとした瑞姫に、団員が声をかけた。解呪スキルを持つ団員なのだが、解呪を手伝うと言って来たのである。しかし、それは瑞姫自身が固辞した。自分がこれに集中している間に、他にも呪いがないか調べて欲しかったからである。呪いのおかげで東側の捜索の手が止まってしまっているので、解呪ができる人間ができない人間に同行して仕事を進めるべきだ。もし見つけて、それが解呪できるならばその場ですればいいし、できないのであれば瑞姫のもとに持ってきてもらう作業も必要である。こういうことは、適材適所に人員を配置して、スムーズに行うべきだ。そう言ったら、イズミルが苦笑いしながら、団員たちにほらね、と言った。

「だから、女神様は我々の考え方に近いと言っただろ?」
「……本当ですね。すみませんでした」

 どうやら、瑞姫が女神であるために、一人でこの数を任せるのはどうかと思う、女神がやるなら自分たちもやるべきだ、という意見が出てきたそうで。イズミルは、瑞姫が言ったように団員を動かすつもりだったらしい。彼は、瑞姫が警察でどういうことをやっていたか、と言うのも聞いていたので同じことを言うはずだと思っていたそうだ。だから、団員たちに、瑞姫に直接聞いてみろと言い、彼らは子爵邸に現れた瑞姫に手伝うと申し出たようだ。

「女神ではあるけど、私は貴方方と変わらない人間ですからね。それに、私も元の世界ではこういう仕事もやってたから、現場のことはわかるつもりですよ。これは、私に任せてもらえますか?」
「はい、あの、お願いします」

 団員たちは、頭を下げて当初の指示に従い、動き始めた。
 そうして、瑞姫も浄化を始めたわけだが。呪いを探りながら浄化していたら、またなんか、あ、これ違う、と言う物が出てきた。

「イズミルさん、これなんか……、ちょっと違うの出てきました……?」
「え?違う、というのは……。ネヴィン教でも、移った物でもない?」
「うーん……、そうですね。まず、印がないです」
「あぁ、本当ですね」

 ネヴィン教の物は、必ずカラスに似た魔物バズヴ・カタが大鎌を担いでいる姿の印が入っている。呪いの付き方は、無差別テロ的な物で、死を願う物じゃなく、幸せ壊してやるぜ!瑞姫の感覚だがそんな感じ。移った物とは、長い間、呪いの側に置いてあったために、普通の品が呪いに汚染されてしまった物のことだ。その場合、影響された元の呪いと同じ効果を発揮する。瑞姫が手に取った物は、そのどちらでもない。

「う~ん、なんかこう……、元から曰く付きの物って感じがする」
「元から?」
「なんか、遺跡とかから発掘されたやつだとか、闇市?闇オークション?とかで取引されるような感じ?」

 元の世界でもあったが、こういう曰く付きの物はそうとは知らずに扱って、表に出てきていることもある。大抵は、遺跡とかお墓とか、そういう心霊スポット的な場所から発掘された物が多い。こういう物は、霊的存在が関わっていることの方が多く、取り憑いてやるぜ!とか、呪い殺してやるぜ!とか、また違った呪いがついている。積年の恨みが積もったやつもあるので、結構強い効力を発揮する呪詛になっていることの方が多い、と瑞姫は感じていた。これは強めである。

「まあ、どこで買ったか貰ったか、はわからないですけど、普通に売ってそうな感じもするので、知らずに普通の人が扱ってたりするかもしれませんね」

 少し怪しい花瓶だが、インテリアとして扱っていてもおかしくない品だ。
 そしてもう一つ、あれ、これもまたなんか違う。と言うのが出てきた。ネヴィン教の印も入っておらず、呪いも強い感じがするが、曰く付きのやつともまた違う。

「……これ、これは、夫人をターゲットにしてるやつですね」
「夫人を?ということは、これは個人から夫人へ、と方向が定まっている呪いですか」
「そうですね……、女性、かな。一人、だと思います」

 誰かから夫人へ、と方向が定まっており、死ねばいいのに!な感じ。そして、呪いをかけたのは一人。
 ガラスでできた、フクロウに似た動物の彫刻だ。このフクロウに似た動物、こちらの世界では魔物にあたる。しかも、ランクS寄りのA。デラ・フォレートといい、中型で鳥の魔物だ。別名、森の暗殺者。暗がりでの狩りを得意としており、森の中で夜間に一番気をつけなければいけない魔物である。夜行性なので昼間は活動してないが、かといって、昼間に眠っているわけでもない。静かに忍び寄り、静かに獲物を狩る習性だが、気性が荒く、攻撃力も高いので非常に危険だ。他の魔物や人間を見下している節があり、獲物の横取りもあるらしい。傲慢な性格をしている。

「これ……もし、贈り物だったらどうなの?」
「ないですね。魔物を模ったものなど、贈れば嫌いです、と言っているようなものですよ」
「だよね」
「しかも、デラ・フォレートですからね。傲慢だから嫌い、と言う意味になります」
「……そういう使い方されるんですね……」

 これが贈り物だとすれば、チョイスとしては最低である。比喩表現で、まるでデラ・フォレートのようだ、と使われることがある。それは傲慢で嫌な人、と言う意味だ。故に、これが贈られてきたら、お前は傲慢だから嫌い、と言われているのと同義である。他にも魔物を模った木でできた彫刻が出てきた。

「これは、ボーグ・ヌルーです。一つ目の狼で、非常に凶暴ですよ。テリトリーに踏み入れると、直ぐ襲いかかってきます」

 ボーグ・ヌルー。一つ目の狼で、群れで行動する魔物だ。ランクはS。テリトリーに入らなければ威嚇で済むのだが、一歩でも踏み入れると直ぐに襲いかかってくる。これのボスは二メートルメルンと大きめだが、他は一メートルメルン弱と普通だ。怒りっぽく非常に凶暴だ。常に怒っている表情をしている。なので、ボーグ・ヌルーみたいと比喩されると、怒りっぽい人、という意味になる。故に、贈られてきたら、お前は怒りっぽくて嫌い、になる。

「これは、ナッヴァ・ルナァですね。一角狐で、人の持ち物を奪います。群れで行動していて、数匹で人を翻弄している間に、他が持ち物を奪うのです」

 ナッヴァ・ルナァ。一角狐で、頭に一本の角を持つ非常にずる賢い狐の魔物だ。ランクは、一匹であればCになるのだが、群れだとAになる。体格は一メートルメルンもなく小さめだが、小さいからこそ素早く、人を翻弄することに長けているようでとてもウザい。しかも、角が伸び縮みするのだ。人を小馬鹿にしたような笑い声も上げ、挑発してくる。他人の物をほしがる習性もあり、手段を選ばない質なので油断していると大けがする。なので、ナッヴァ・ルナァみたいと比喩されると、強欲な人、と言う意味。贈られてきたら、お前は強欲だから嫌い、になる。

「これは、ディリセ・パルンです。双頭の蛇で、非常に厄介ですね。人の精神に干渉してくる能力を持っています」

 贈り物だと思われる品の最後の一つはガラスでできた彫刻で、ディリセ・パルンという双頭の蛇である。ランクはA。三メートルメルン強ある巨体で、人の皮膚を溶かすほどの毒を持っている。また、精神に干渉する特殊能力も持っており、主に対象の奥底にある他人に対する嫉妬や、抱いている怨恨を増幅させて堕ちたところを操ることもある。なので、ディリセ・パルンみたいと比喩されると、嫉妬深い人、と言う意味だ。贈られてきたら、お前は嫉妬深くて嫌い、になる。

「七つの大罪からとったのかな」

 傲慢な人、怒りっぽい人、強欲な人、嫉妬深い人。七つの大罪の内、傲慢、憤怒、強欲、嫉妬。モチーフにされている魔物も、梟、狼、狐、蛇。

「はい。これは、かなり前の代の聖者様ですね。最初は遊び感覚で元の世界の動物を、こちらの魔物に当てはめていたようですが、それがあまりにも的確だったため、今も使われるのです」
「へえ」

 その聖者、もしや日本人では、と内心思った瑞姫である。後から確認したら、悪魔や幻獣などとは関連付けられていなかった。
 まあ、それはおいといて。この彫刻は全て、恐らく同一人物からの贈り物か何かである。これは、相当恨まれていたとみていいだろう。

「っはー、これ、呪いが拡散したのは宝石のせいと、封印魔法が解けたからだけど、後押ししたのはこれだね……」

 封印魔法が解かれたことにより、それまでせき止められていた黒い靄が子爵邸を包み込もうとした原因。呪いが拡散するように広がったのは宝石が原因だが、それを後押ししたのはそれらが原因である。おかげで危うくアンデッドの巣窟になるところだった。

「夫人の部屋を捜索している奴らに、確認とってきます。証拠が残っているかもしれない」
「あぁ。私も子爵の執務室で捜索している奴らに、帳簿の確認をしてくる」

 イズミルとリズノーンが、慌ただしく部屋を出て行った。ほどなくして、夫人の部屋に行っていたリズノーンが戻ってきた。腕に、紙束を抱えている。

「証拠残っていました」
「早いね?」
「えぇ。いろんなところから出てきた文を、一ヵ所に固めておいてくれましたから、直ぐに見つけることができました」

 いい仕事をする団員たちである。リズノーンが持っていたのは、贈り物についていた文やカードらしきものだった。全て同一人物からのもので、贈り物に対することも書かれているそう。カードと、カードに書かれている動物……、いや、魔物の彫刻の数も一致。文には紋章も名前もついているし書いてあるので、一応紋章鑑定してから逮捕に踏み切るとのこと。証拠を隠滅しなかったことに少し疑問が残るが、それは犯人に直接聞けばいいことだ。リズノーンは、それの紋章鑑定をしてもらうため、団員に指示を出しに部屋を出て行く。また、程なくして今度は、イズミルが少し慌てた様子でやってきた。

「先ほどの花瓶の他に、曰く付きだと思われる品はございましたか?」
「あ、さっき一つ、外に持ってってもらいましたよ。よくわからない仮面でした」
「何かわかったのですか?」
「フォリア、以前不祥事を起こした商会を覚えているか」
「あぁ、アレデナ商会ですね?確か、潰れた……、まさか、曰く付きのものが?」

 アレデナ商会は、大きい商会だったのだが、麻薬やらこの曰く付きの品やらを取り扱っており、商会の人間上から下まで全員関わっていて逮捕されたらしい。継ぐ人間もいなくなったので、潰れたんだとか。

「そうなんだよ……。子爵の名前、商会の方の販売先リストに載ってなかったはずだからな……」
「矛盾してますね~。代理人が買っていたとかそんな感じですか」
「えぇ、その可能性が出てきました。調べ直しです……」

 商会の販売先リストには、子爵の名前がなく、当時は無関係だと思われて捜索の手は伸びなかったようだ。それなのに、商会の名前が何故か子爵家の帳簿から見つかったので、今から何人かの団員を城に戻させ、待機させている人間も含めてアレデナ商会の物品、顧客、販売先リストを調べなおすらしい。リストの洗い出しは大変だ。どんより、と顔を曇らせるイズミルに、頑張ってください、としか言いようがなかった。曰く付きの品があれば一ヵ所にまとめておいて欲しい、と言われたので了承する。

「あ、そうだ。子爵って、もしかして見える人、でした?」
「どうしてです?」
「いや、これだけの呪いの品、偶然一ヵ所にまとめられたとはどうにも考えづらくて……」

 浄化や魔除けの意味がある宝石を渡して自分に降りかからないようにしたり、更には封印の魔法も施していたのだ。見えていないと言われても、そっちの方が信じられない。

「それは、確かに。それを考えると……、この曰く付きのやつは、子爵が手に入れた物じゃないかもしれないですね。見えているなら、誰も欲しいと思いませんし」

 そう、イズミルの言うとおり。この黒い靄が見えており、呪いだとわかっているなら、誰も欲しいなど思わないだろう。もし曰く付きのものを買ったのが子爵であるならば、宝石を渡したりするだろうか、と言う疑問も浮かぶ。

「……子爵には、必ず口を開いてもらわねばなりませんね……」

 ふふふ、と真っ黒な笑顔を浮かべるイズミルは、鬱憤が溜まっているようだ。恐らく、あのお披露目襲撃事件から休みなく働いているのだろう。お疲れ様です。イズミルもまた、団員に指示を出してくる、と部屋を出て行った。

「……なんか、大事になってるね……」
「そうですね。私も、最初はここまで大事になるとは思いもしませんでした」

 最初は、拐かしの件だったはずなのに。呪いの品は、恐らくその拐かしの件とは関係がないだろうが。しかし、子爵は元々黒い噂があったのだ。噂の域を出ず、証拠がなかったから今まで放置状態だったが。今回の件で、証拠がずるずると引っ張り出されてきている。言い逃れはできないだろう。

「国内で収まるといいね」
「ミズキ様、それは世に言うフラグとやらでは」
「あ」

 今のなし!と叫んでももう遅い。なんとも言えない空気が流れた。

「さ、頑張ろっと」

 瑞姫は何事もなかったかのように、呪いに向き直る。フォリアは、どうか国内で収まりますように、と内心で祈ったのだった。
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