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番外編
フォリア・エヴィル(本編18~19話)4
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女神たちのお披露目の日は、あっという間にやってきた。フォリアはこの日、早朝から家に戻っている。というのも、正装に着替えるためだ。今回は先触れを出したので、執事たちは慌てなかった。
「やっぱり、いいわねえ、黒色」
うっとり、とスーラは呟いた。それに同意するように、ヴァンが頷いている。これを見ても家族が騒がないのは、主従契約を終えた直後に一度、家に帰ったからだった。そのときは、それはもうすごかった。家全体が騒がしかったのだ。さすがに侍女や侍従たちは静かだったが、髪色と瞳の変化した姿を見て目を瞠っていたのを覚えている。
家族からは根掘り葉掘り聞かれたので、一部箝口令を敷かれている事以外はありのままに答えた。惚気も交えて。それから、色移りするくらい強いのだから、恩恵もすごいはずだからと色々な事を試させられた。それはまあ、よかったと思っている。兄がすごく煩かったが。一番喜ばれたのは、蛇化ができるようになった事だ。どの獣人でもそうだが、ハーフだと獣化できる確率はかなり低い。フォリアたち兄弟は全員蛇化ができないのである。スーラは大泣きしながら喜んだ。
「さて、着替えるのだろう?」
「はい」
「くぅ~、ようやく、女神様とお会いできるのか……っ」
「帰ってきたら、どのような方だったか教えてくださいね、母上」
「えぇ、えぇ!」
フォリアの家族が何故女神の事を知っているかと言えば、事前通達があったためである。白蛇族の娘を嫁にしたことで、人族の間で流れている勘違い甚だしい汚点を拭う事に一役買ったということで、王の覚えもめでたい。しかも、政略ではなく恋愛結婚だ。実は、この王国内では白蛇族と添い遂げた人族はヴァンだけなのだ。あとは、単純にフォリアが女神の従者になったからである。
着替えを済ませ、時間ギリギリまでソワソワしながら過ごした。
(全くもって、落ち着かない……。身が入らない、というのはこういうことなのか……。はあ、早くミズキ様にお会いしたいのだが……。時間の流れが遅いな)
ようやく時間になり、スーラたちと同じ馬車に乗って、会場へ向かう。セイルは婚約者がいるので、一足先に家を出て迎えに行き、会場で落ち合う事になっている。アルラはデビュタント前なので、参加はできないから留守番だ。
会場につき、馬車から降りたときにザワリと空気が揺れ、受付を済ませて会場入りすればまた、ザワリと空気が揺れる。
「お前の髪色だな」
「でしょうね」
「堂々となさいね」
「はい」
こそこそ、と周りがなにか言っているが、ここに来ても気がはやって、全て右から左である。馴染みある人たちが挨拶に来たり、こちらから挨拶に向かったりしても、フォリアはどこか上の空でほとんど会話を聞いていなかった。というのも、魔力が繋がっているので、女神の感情が伝わってきていたのだ。
(お疲れ、というのもあるな。あとは、少しばかり緊張なさっているようだ。……はあ、近くにいたい)
こんな感じで、全ての貴族が会場入りし、王族が入場するまで上の空だった。途中、すり寄ってくるどこぞの令嬢がいたが、それは全力で回避した。
そして、王族が入場するため下げていた頭を、陛下の面を上げよ、の言葉で上げれば、うっすらと微笑みを携えた女神が堂々とした佇まいでシリウスの横に立っていた。会場のあちこちで、感嘆のため息が漏れている音がする。
(くっ……!やはり、エスコートしたかった……っ。後見人が第一王子殿下であるから、最初は仕方ないとしても!)
殺気立ちそうになりながらも我慢して女神を見続けていれば、ぱちっ、と目が合った。気のせいかと思えば、そうではない。試しに目礼すれば、女神の笑顔が深まる。瞬時にフォリアの機嫌は回復した。
(目が……目がッ……!俺に気づいてくださったのか……っ、この、貴族たちが大勢いる中で、俺に……っ)
そりゃ気づくだろう。魔力が繋がっているための高性能レーダー。ちなみに、陛下が話しているのだが全く聞いてないフォリアだった。その後の瑞姫の言葉にはしっかり耳を傾け、女神並びに聖女や陛下たちへの挨拶もダンスも終え、ようやくフォリアは自由になった女神に付き添える事になった。
(よかった……。殿下にお願いして、ミズキ様のご衣装を事前に確認することができて。合わせた衣装の作成を許可してくださって、感謝いたします)
フォリアが女神の衣装と合わせる事ができたのは、そんな背景があった。一歩間違えればストーカーだが、そんな事フォリアの頭にはない。疲れている事は感じ取れていたので、自分とのダンスが終わればそそくさとベランダの方へ誘導した。セレネイズが窓際にいて本当によかったと思う。涼んでいたのに入り口が騒がしくなったので、見に行けば、うわ、と声が漏れそうになった。社交界で問題児と名高いチェリン公爵子息がいた。後取り巻き。厄介な事になったなと思った。
「な……!白蛇なんかを、女神様が選ばれるはずがない!公爵である私を差し置いて……!ここを通せっ」
(お前は公爵子息であって公爵ではないが?……どうしてここまで馬鹿に仕上がったのだろうか)
気配で女神が後ろに来ている事はわかったが、会わせるわけにはいかない。どうしようかと思っていれば、馬鹿が地雷を踏んだ。セレネイズや周りにちらほらいる騎士団の団員たちや噂を耳にしている貴族たちが、あちゃー、と天を仰いだのが見える。
――――この馬鹿、やらかしやがったわー。いつかやると思ったけど。
とは、周りにいる者たちの心情である。
(あ……。あーあ、ミズキ様が少し怒っていらっしゃるな……。馬鹿な事を口にしたものだ。すでに、ミズキ様のあの噂は騎士団だけでなく、貴族たちに伝わっているはず。……だが、怒ってくれているのは嬉しい)
「それに、私の噂を聞いてないのです?聞いているなら、噂はほとんど事実といっておきます。フォリアは私が望みました。だから契約したのです。私が選んだ大事な従者に、白蛇なんかと、よくも。白蛇族を侮辱する方に―――」
この後も女神の言葉は続くのだが、フォリアはそれどころではなかった。
(フォリアは私が望みました?私が選んだ大事な従者?……え!?え、幻聴か?ミズキ様がっ、俺のことを、大事だと……!大事な、従者……大事な、従者ッ)
案の定、ぴしゃりと女神に反論されて、問題児は顔を真っ赤にしながらも女神に文句は言えないので、渋々と引き下がった。儚げな外見に似合わず、意外と強い口調で言葉を発したので、周りの者たちは驚いた様子だったが。フォリアは自分の世界に入っていたので、視界にも入れていなかった。大事な従者と言う言葉がぐるぐると頭の中を巡り、内心、狂喜乱舞。好き!一生ついていく!
まあそれも、女神の言葉で終わりを迎え、引き戻されたが。
(まあ、公爵だろうが、ミズキ様に権力も、力でも、勝てるとは思えないが、一応気をつけておくか……)
何度も言うが、レイノートとやり合える実力の持ち主なのだ。あれくらいの化け物を持ってこないと、力尽くでどうこうできるとは思えなかった。権力に関しては、王より上である。誰も勝てる人などいない。
そして、女神がその話題を変える。セレネイズやジークレイにパートナーはと聞いたが、その途端、ぴしりと空気が固まった。それもわかる。聖女の世界では、同性婚は認められておらず、本人もあまり好きじゃないような感じだった、と聞いていた。女神には聞いていなかったが、どうやら女神の世界では認められているようで、本人もそういうのには抵抗がないらしい。祝福します、とまで言ってのけた。
(にこにこと笑顔を見せているミズキ様かわいい……。はあ、尊い……)
そして、恋人という話題は、女神にも飛び火した。そういえばフォリアも聞いた事がなかったな、と思う。
「あら、うふふ。私、仕事仲間以外の男は信用しなかったので、いませんよ。結婚する気もないので、一生独身です」
「え、ミズキ様、ミズキ様の世界では、男女の結婚はどのような?」
「男女とも、様々だけど。かなり遅いよ。昔はここみたいに早かったけど、今は三十、四十代で結婚もないわけじゃないし。女の独身も多いね。政略結婚なんてほとんどないと思うな。ほぼ恋愛結婚だよ。離婚率も高いけど」
「そうなのですね……」
(ど、動揺してしまった。独身……そうか、結婚は考えてらっしゃらないのか……)
そしてその話題は、フォリアにも飛ぶ。
「私も、結婚は考えておりませんでしたよ。話はありましたが、気が乗らなかったのでお断りしました」
「そうなんだ」
「これからも、ありませんよ。ミズキ様一筋ですので」
「……、うん?」
わけがわからない、と首をかしげる女神に、フォリアはにっこり微笑んで口を閉じた。
(そう、一筋なのだ。ミズキ様を主君とした瞬間から、俺は、俺には、ミズキ様だけだ。この身も心も、全て捧げると誓ったのだ。ミズキ様は知らなくてもよい。こんな…………はあ、まさか、主君に恋慕するとは……)
フォリアとて、気づいたのは最近である。きっかけは、セイランの女神へ向ける視線だ。ただ、柔らかいものであって、その他の感情が乗っているようには見えなかったが。そのとき、ふ、と思ったのだ。女神の隣に他の男が立つのは嫌だ、と。最初は主君をとられるのが嫌だという思いから来る嫉妬だと思っていたのだ。主従契約を結べば、独占欲は沸くと聞いていたから、そういうものかと。しかし、これを思うのが男限定なのだ。侍女と話しているときは思わないが、シリウスや他の男たちと話しているときは、嫌だと思ってしまう。自覚したきっかけは、些細な事だった。女神がふわっと笑みを浮かべている瞬間に、好きだな、と思ったのだ。そしたら、すとん、とアレコレが腑に落ちた。男に嫉妬した事も、女神の事が好きだからした嫉妬だったのだと、理解した。自覚したあとは、女神から伝わってくる感情にいちいち反応し、こっちから伝わらないように抑え、ることをフォリアはしなかった。
(ミズキ様はその手の話題に鈍いようだ。だからこそ、隠す事はしない。今でさえ、好きだと思っているが気づいていない)
セレネイズたちは真意に気づいたようで、ジークレイの方がいいのか、とアイコンタクトをとってきたが、同じく良いのだと返した。フォリアが言わないので、彼らはひょい、と肩をすくめるだけにとどめる。
(今はいいのだ、言わなくて。その時期じゃない。……主従契約を結んだ今、俺もミズキ様も、離れる事は不可能だ。今は、とりあえず俺がミズキ様のものだ、ということが周知されれば十分だ)
まあ、その目論見はあらかた成功していると言えるが。なんせ、女神の色がフォリアの髪に移っている。縁談話も来ていたが、恐らくこれでなくなるだろう。考えなしの馬鹿じゃない限り、女神の物をとろうとは誰も思いはしないはずだ。まずは外堀から埋めていこうとするフォリアである。
(しかし、……先ほどから、感じる、この一瞬の敵意や殺意は何なんだ?)
女神もそれは気づいていたようで、一瞬のアレは陽動だろうから警戒は必要だが無視して良いと言った。
「空気がぴりついていやですねえ」
そういう女神は困った表情をしているが、目の奥は冷え切っているのがわかった。
「ミズキ様は、仕掛けてくると思われますか」
「うーん……。来そうな予感はあるけどね」
「理由を、伺っても?」
「えぇ。殿下方が、護衛以外の誰かの手渡しは絶対に受け取ろうとしてないのですよ。護衛も、離れますが、すぐ戻ってきてます。相当警戒してますね。……それでも警戒しているように見えないので、さすがとしか言い様がないです」
(それに気づくミズキ様もさすがです……!この方は、やはりかなり場数を踏まれているのか……。給仕に紛れ込んでいる護衛を見抜くとは……。本当に、この方が敵でなくてよかったと思わざるを得ないな……)
給仕の動きは、じっと見続けていないと気づかないほど些細な動きだ。女神は、会場内を見回しつつも、給仕の動きをチェックしていたらしい。しかし、一瞬の敵意や殺意は不規則で、場所も移動しているらしく一定のところにはいない。それは女神でもわからないようだった。
(まあ、確かに、一瞬でも気をそらしたら、命取りになりかねない。それに、この一瞬の殺意などは、馬鹿にされているようでイラッとする。まるで見つけてみろよと言われているみたいだ。……まさか、本当に護衛や騎士団の気をそらすための作戦なのか?)
答えは出ないため、今しばらくは様子見、と言う事でいったん話は落ち着いた。
「やっぱり、いいわねえ、黒色」
うっとり、とスーラは呟いた。それに同意するように、ヴァンが頷いている。これを見ても家族が騒がないのは、主従契約を終えた直後に一度、家に帰ったからだった。そのときは、それはもうすごかった。家全体が騒がしかったのだ。さすがに侍女や侍従たちは静かだったが、髪色と瞳の変化した姿を見て目を瞠っていたのを覚えている。
家族からは根掘り葉掘り聞かれたので、一部箝口令を敷かれている事以外はありのままに答えた。惚気も交えて。それから、色移りするくらい強いのだから、恩恵もすごいはずだからと色々な事を試させられた。それはまあ、よかったと思っている。兄がすごく煩かったが。一番喜ばれたのは、蛇化ができるようになった事だ。どの獣人でもそうだが、ハーフだと獣化できる確率はかなり低い。フォリアたち兄弟は全員蛇化ができないのである。スーラは大泣きしながら喜んだ。
「さて、着替えるのだろう?」
「はい」
「くぅ~、ようやく、女神様とお会いできるのか……っ」
「帰ってきたら、どのような方だったか教えてくださいね、母上」
「えぇ、えぇ!」
フォリアの家族が何故女神の事を知っているかと言えば、事前通達があったためである。白蛇族の娘を嫁にしたことで、人族の間で流れている勘違い甚だしい汚点を拭う事に一役買ったということで、王の覚えもめでたい。しかも、政略ではなく恋愛結婚だ。実は、この王国内では白蛇族と添い遂げた人族はヴァンだけなのだ。あとは、単純にフォリアが女神の従者になったからである。
着替えを済ませ、時間ギリギリまでソワソワしながら過ごした。
(全くもって、落ち着かない……。身が入らない、というのはこういうことなのか……。はあ、早くミズキ様にお会いしたいのだが……。時間の流れが遅いな)
ようやく時間になり、スーラたちと同じ馬車に乗って、会場へ向かう。セイルは婚約者がいるので、一足先に家を出て迎えに行き、会場で落ち合う事になっている。アルラはデビュタント前なので、参加はできないから留守番だ。
会場につき、馬車から降りたときにザワリと空気が揺れ、受付を済ませて会場入りすればまた、ザワリと空気が揺れる。
「お前の髪色だな」
「でしょうね」
「堂々となさいね」
「はい」
こそこそ、と周りがなにか言っているが、ここに来ても気がはやって、全て右から左である。馴染みある人たちが挨拶に来たり、こちらから挨拶に向かったりしても、フォリアはどこか上の空でほとんど会話を聞いていなかった。というのも、魔力が繋がっているので、女神の感情が伝わってきていたのだ。
(お疲れ、というのもあるな。あとは、少しばかり緊張なさっているようだ。……はあ、近くにいたい)
こんな感じで、全ての貴族が会場入りし、王族が入場するまで上の空だった。途中、すり寄ってくるどこぞの令嬢がいたが、それは全力で回避した。
そして、王族が入場するため下げていた頭を、陛下の面を上げよ、の言葉で上げれば、うっすらと微笑みを携えた女神が堂々とした佇まいでシリウスの横に立っていた。会場のあちこちで、感嘆のため息が漏れている音がする。
(くっ……!やはり、エスコートしたかった……っ。後見人が第一王子殿下であるから、最初は仕方ないとしても!)
殺気立ちそうになりながらも我慢して女神を見続けていれば、ぱちっ、と目が合った。気のせいかと思えば、そうではない。試しに目礼すれば、女神の笑顔が深まる。瞬時にフォリアの機嫌は回復した。
(目が……目がッ……!俺に気づいてくださったのか……っ、この、貴族たちが大勢いる中で、俺に……っ)
そりゃ気づくだろう。魔力が繋がっているための高性能レーダー。ちなみに、陛下が話しているのだが全く聞いてないフォリアだった。その後の瑞姫の言葉にはしっかり耳を傾け、女神並びに聖女や陛下たちへの挨拶もダンスも終え、ようやくフォリアは自由になった女神に付き添える事になった。
(よかった……。殿下にお願いして、ミズキ様のご衣装を事前に確認することができて。合わせた衣装の作成を許可してくださって、感謝いたします)
フォリアが女神の衣装と合わせる事ができたのは、そんな背景があった。一歩間違えればストーカーだが、そんな事フォリアの頭にはない。疲れている事は感じ取れていたので、自分とのダンスが終わればそそくさとベランダの方へ誘導した。セレネイズが窓際にいて本当によかったと思う。涼んでいたのに入り口が騒がしくなったので、見に行けば、うわ、と声が漏れそうになった。社交界で問題児と名高いチェリン公爵子息がいた。後取り巻き。厄介な事になったなと思った。
「な……!白蛇なんかを、女神様が選ばれるはずがない!公爵である私を差し置いて……!ここを通せっ」
(お前は公爵子息であって公爵ではないが?……どうしてここまで馬鹿に仕上がったのだろうか)
気配で女神が後ろに来ている事はわかったが、会わせるわけにはいかない。どうしようかと思っていれば、馬鹿が地雷を踏んだ。セレネイズや周りにちらほらいる騎士団の団員たちや噂を耳にしている貴族たちが、あちゃー、と天を仰いだのが見える。
――――この馬鹿、やらかしやがったわー。いつかやると思ったけど。
とは、周りにいる者たちの心情である。
(あ……。あーあ、ミズキ様が少し怒っていらっしゃるな……。馬鹿な事を口にしたものだ。すでに、ミズキ様のあの噂は騎士団だけでなく、貴族たちに伝わっているはず。……だが、怒ってくれているのは嬉しい)
「それに、私の噂を聞いてないのです?聞いているなら、噂はほとんど事実といっておきます。フォリアは私が望みました。だから契約したのです。私が選んだ大事な従者に、白蛇なんかと、よくも。白蛇族を侮辱する方に―――」
この後も女神の言葉は続くのだが、フォリアはそれどころではなかった。
(フォリアは私が望みました?私が選んだ大事な従者?……え!?え、幻聴か?ミズキ様がっ、俺のことを、大事だと……!大事な、従者……大事な、従者ッ)
案の定、ぴしゃりと女神に反論されて、問題児は顔を真っ赤にしながらも女神に文句は言えないので、渋々と引き下がった。儚げな外見に似合わず、意外と強い口調で言葉を発したので、周りの者たちは驚いた様子だったが。フォリアは自分の世界に入っていたので、視界にも入れていなかった。大事な従者と言う言葉がぐるぐると頭の中を巡り、内心、狂喜乱舞。好き!一生ついていく!
まあそれも、女神の言葉で終わりを迎え、引き戻されたが。
(まあ、公爵だろうが、ミズキ様に権力も、力でも、勝てるとは思えないが、一応気をつけておくか……)
何度も言うが、レイノートとやり合える実力の持ち主なのだ。あれくらいの化け物を持ってこないと、力尽くでどうこうできるとは思えなかった。権力に関しては、王より上である。誰も勝てる人などいない。
そして、女神がその話題を変える。セレネイズやジークレイにパートナーはと聞いたが、その途端、ぴしりと空気が固まった。それもわかる。聖女の世界では、同性婚は認められておらず、本人もあまり好きじゃないような感じだった、と聞いていた。女神には聞いていなかったが、どうやら女神の世界では認められているようで、本人もそういうのには抵抗がないらしい。祝福します、とまで言ってのけた。
(にこにこと笑顔を見せているミズキ様かわいい……。はあ、尊い……)
そして、恋人という話題は、女神にも飛び火した。そういえばフォリアも聞いた事がなかったな、と思う。
「あら、うふふ。私、仕事仲間以外の男は信用しなかったので、いませんよ。結婚する気もないので、一生独身です」
「え、ミズキ様、ミズキ様の世界では、男女の結婚はどのような?」
「男女とも、様々だけど。かなり遅いよ。昔はここみたいに早かったけど、今は三十、四十代で結婚もないわけじゃないし。女の独身も多いね。政略結婚なんてほとんどないと思うな。ほぼ恋愛結婚だよ。離婚率も高いけど」
「そうなのですね……」
(ど、動揺してしまった。独身……そうか、結婚は考えてらっしゃらないのか……)
そしてその話題は、フォリアにも飛ぶ。
「私も、結婚は考えておりませんでしたよ。話はありましたが、気が乗らなかったのでお断りしました」
「そうなんだ」
「これからも、ありませんよ。ミズキ様一筋ですので」
「……、うん?」
わけがわからない、と首をかしげる女神に、フォリアはにっこり微笑んで口を閉じた。
(そう、一筋なのだ。ミズキ様を主君とした瞬間から、俺は、俺には、ミズキ様だけだ。この身も心も、全て捧げると誓ったのだ。ミズキ様は知らなくてもよい。こんな…………はあ、まさか、主君に恋慕するとは……)
フォリアとて、気づいたのは最近である。きっかけは、セイランの女神へ向ける視線だ。ただ、柔らかいものであって、その他の感情が乗っているようには見えなかったが。そのとき、ふ、と思ったのだ。女神の隣に他の男が立つのは嫌だ、と。最初は主君をとられるのが嫌だという思いから来る嫉妬だと思っていたのだ。主従契約を結べば、独占欲は沸くと聞いていたから、そういうものかと。しかし、これを思うのが男限定なのだ。侍女と話しているときは思わないが、シリウスや他の男たちと話しているときは、嫌だと思ってしまう。自覚したきっかけは、些細な事だった。女神がふわっと笑みを浮かべている瞬間に、好きだな、と思ったのだ。そしたら、すとん、とアレコレが腑に落ちた。男に嫉妬した事も、女神の事が好きだからした嫉妬だったのだと、理解した。自覚したあとは、女神から伝わってくる感情にいちいち反応し、こっちから伝わらないように抑え、ることをフォリアはしなかった。
(ミズキ様はその手の話題に鈍いようだ。だからこそ、隠す事はしない。今でさえ、好きだと思っているが気づいていない)
セレネイズたちは真意に気づいたようで、ジークレイの方がいいのか、とアイコンタクトをとってきたが、同じく良いのだと返した。フォリアが言わないので、彼らはひょい、と肩をすくめるだけにとどめる。
(今はいいのだ、言わなくて。その時期じゃない。……主従契約を結んだ今、俺もミズキ様も、離れる事は不可能だ。今は、とりあえず俺がミズキ様のものだ、ということが周知されれば十分だ)
まあ、その目論見はあらかた成功していると言えるが。なんせ、女神の色がフォリアの髪に移っている。縁談話も来ていたが、恐らくこれでなくなるだろう。考えなしの馬鹿じゃない限り、女神の物をとろうとは誰も思いはしないはずだ。まずは外堀から埋めていこうとするフォリアである。
(しかし、……先ほどから、感じる、この一瞬の敵意や殺意は何なんだ?)
女神もそれは気づいていたようで、一瞬のアレは陽動だろうから警戒は必要だが無視して良いと言った。
「空気がぴりついていやですねえ」
そういう女神は困った表情をしているが、目の奥は冷え切っているのがわかった。
「ミズキ様は、仕掛けてくると思われますか」
「うーん……。来そうな予感はあるけどね」
「理由を、伺っても?」
「えぇ。殿下方が、護衛以外の誰かの手渡しは絶対に受け取ろうとしてないのですよ。護衛も、離れますが、すぐ戻ってきてます。相当警戒してますね。……それでも警戒しているように見えないので、さすがとしか言い様がないです」
(それに気づくミズキ様もさすがです……!この方は、やはりかなり場数を踏まれているのか……。給仕に紛れ込んでいる護衛を見抜くとは……。本当に、この方が敵でなくてよかったと思わざるを得ないな……)
給仕の動きは、じっと見続けていないと気づかないほど些細な動きだ。女神は、会場内を見回しつつも、給仕の動きをチェックしていたらしい。しかし、一瞬の敵意や殺意は不規則で、場所も移動しているらしく一定のところにはいない。それは女神でもわからないようだった。
(まあ、確かに、一瞬でも気をそらしたら、命取りになりかねない。それに、この一瞬の殺意などは、馬鹿にされているようでイラッとする。まるで見つけてみろよと言われているみたいだ。……まさか、本当に護衛や騎士団の気をそらすための作戦なのか?)
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