自由な女神様!~種族人族、職業女神が首を突っ込んだり巻き込まれたりの物語。脇に聖女を添えて~

時雨

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本編

37.フラグが立ったようです

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――――ざわざわ……

「えーっと、ソラーレ食堂は、っと」
「あぁ、主。あそこです。ギルドの向こう側にある食堂です」

 す、とフォリアが手で示したのは、冒険者ギルドの四つ向こう側にある建物だ。看板に、ソラーレ食堂と書かれている。
 朝から瑞姫、フォリア、モチネコは、城下町に降りていた。格好は、以前降りたときと同じ服装に、同じ茶色の髪と瞳にしている。フォリアも、今回は魔道具で変装をしており、瑞姫と同じく髪と瞳が茶色になっている。瑞姫とフォリアは、その上にプラスして認識阻害が組み込まれている眼鏡をつけていた。外套のフードを目深に被るのもいいが、二人ともそれだと怪しすぎることこの上ない。ここまで?と思うが、フォリアの方が冒険者ギルドで顔も名前も通っているらしく、そこからばれる可能性がある、とのことで。フォリアが女神の従者だという事は、平民にも噂が広まりつつあるらしい。女神とばれて騒がれたくないのだ。果たして、平民でどれだけ瑞姫の顔を覚えているかはわからないが。モチネコは、妖精族らしく姿を透明にできるので(それでも壁すり抜けは不可能)、瑞姫の肩に張り付いて乗っかっている。透明化の状態はモチネコの意思で限定的に見えるようにできるらしく、瑞姫とフォリアだけには見えている状態だ。

「いらっしゃーい!」

 扉を開ければ、元気な女性の声が飛んできた。

(あぁ、ここだここ。あの時の女性だ。うん、よかった。私が忘れてなくて)

 瑞姫の言うあの時の女性とは、一度城下にお忍びで降りたときに窃盗グループに鞄を盗まれた女性だ。あれから数ヶ月経つが、忙しすぎて時間がとれずじまいだったのだ。覚えていればいいし、覚えていなければそれでもいい。そんな気持ちでやってきた。

「おや、初めてだね?カウンターでもよければ座ってくれよ」
「はーい」

 この食堂は人気なのか、朝なのに満席に近い。丁度二人分カウンターが空いていたので、フォリアと座る。

「ね、ここの料理詳しいの?」
「えぇ、一時的にパーティー組んだ方々と、たまに食べに来ていたので。どれもおいしいですよ」
「へえ、そうなんだ」

 とは言ったものの、朝なのでそうがっつりは食べられそうにない。と、件の女性が注文は?と聞いてきた。その女性に、少し眼鏡をズリ下げつつ、覚えてますか?と聞いてみる。

「覚えて……って、あれ?」

 ぱちくり、と女性は目を瞬きさせる。

「数ヶ月前、窃盗グループの、と言えばわかりますか?」
「……あ、あー!あんたっ、あの時の!?」

 女性は大声を上げながらびしっ、と瑞姫を指すので、食堂内にいる人たちがこちらに注目した。さっ、と眼鏡を戻し、少しだけ殺気を帯びているフォリアを落ち着かせる。

「あ、ごめんごめん。あんたらもうるさくしてごめんよ!」
「なんだよ女将さん、びっくりさせんなよ~」
「悪かったってば!」

 女性が注目している人たちにひらひらと手を振って何でもないことを示せば、ほとんどが食事や雑談に戻った。

「……いや~、来ないかと思ってたよ」

 声のトーンを落としてくれる。

「すみません。忙しくて時間がなかなか……。覚えてなければそれでもよかったんですけど」
「いやいや、忘れるわけないよ!ほんとに、一品タダにするだけでいいのかい?」
「十分です」

 それも覚えているらしい。何にすると聞かれたので、無難にサンドウィッチとコーヒー、フォリアはがっつり系の肉増し野菜炒めの定食を頼んだ。

「何があったか聞きませんでしたが、窃盗グループとは?」
「あー、あのね、お披露目前に、お忍びで城下に降りたの。第三騎士団が連行してったんだけど、知らない?」
「……存じて、おります。あの、協力してくださった方は、あなただったのですね」

 当時聖女候補が、窃盗グループを無力化したというのは、騎士団内でかなり噂になったのだ。フォリアが知らないはずがない。レイノートとの手合わせのことを考えれば、それがゆりあではなく瑞姫だとわかるだろう。そして、被害を受けたのがこのソラーレ食堂の女将で、助けたのが瑞姫だというのがやりとりでわかった。

「助けた御礼を、と言われていたのに、来ることができなかった、と?」
「はは、色々重なったからね……」
「まあ、確かに……」

 お披露目前の二ヶ月間は、色々覚えることが多すぎて精神的に疲れていたので、王宮から出る気がしなかった。お披露目が終わったと同時に、冒険者ギルドに顔を出そうと思っていたのに、襲撃のおかげで今日にずれたのだ。まあ、瑞姫があちこちに顔を出し首を突っ込んだから、自業自得と言えばそうなのだが。今回もお忍びで、シリウスには文を書いて渡してもらっている。

――――王城内 シリウスの執務室

「お忍びでギルドに行ってきます……って、ミズキ……」
「女神様ってほんと、縛れる存在じゃないね~」
「というか、ミズキ様は自由な方が、色々とお持ちくださるのでは?」
「ない、とは言い切れないな」
「自由な女神様像でも造るか?」
「幸運が舞い込んできそうですね」
「あはは!女神様嫌がりそう!」

 ライハルトは正しい。瑞姫が聞いたら、全力で嫌だと叫ぶことだろう。このときは冗談でも、後々に本気で瑞姫に提案する事になろうとは、誰も思っていなかった。

――――戻ってソラーレ食堂

「なあ、その、ちょっといいか?」

 こそこそ、と周りに聞こえないボリュームで話していれば、遠慮がちに声をかけられた。

「え、私?……あ」
「げっ」
「え」

 振り向けば、見たことのある顔で。直後、珍しくフォリアの嫌そうな声が聞こえたので、そっちに顔を向けたら、いつものすん、とした表情だった。しかし、瑞姫は見た。一瞬だったが、嫌な顔をしていたのを。瑞姫が振り向くと同時に、瞬時に表情を元に戻す。顔芸か。

「あー、認識阻害か……。やっぱり、二ヶ月くらい前のお嬢さんだろ?んで、そっちは……あー、うん、そうだな、お前だな」

 この認識阻害、一つデメリットがあるとすれば、相手が自分のことを理解していると全く意味をなさない。声をかけてきた男“紅蓮の剣”のリーダーは、瑞姫のことを覚えていただけでなく、どうやらフォリアのことも知っている模様。

「あ、すまん。さっき眼鏡ずらしたときに、見えちまってな……」
「あぁ、そうなんですね。今日はお一人ですか?」
「あぁ。仲間は別行動だ」

 どうぞ、と瑞姫が隣の席を勧めれば、ありがとう、と言いながら席に着いた。瞬間、フォリアからの威圧が倍増である。

「こらこら、ご飯がおいしくなくなるから駄目だよ」
「……申し訳ありません」

 謝ってはいるが、伝わってくる感情は不満!で、瑞姫は苦笑いだ。モチネコも、声は出さないがたぶん、呆れた顔をしている。

「仲いいな。お嬢さんとどういう関係だ?」
「煩い。知らなくていい」
「……、お嬢さん、こいつこんなんだが、大丈夫か?」
「大丈夫だ」
「お前が答えるな」

 珍しフォリアが見られて面白いので、瑞姫は黙ったままだ。彼はフォリアの態度も何のその、慣れているらしい。そこから、付き合いが長くて親しいことがわかる。そこへ、はい、お待ちどー!と、元気よく女将の声が割って入る。まず瑞姫の分が来て、直ぐに後からフォリアの分が来た。手を合わせて食べ始める。モチネコのご飯は、主に空気中に漂う魔力らしい。勝手に食べるので、ほかっといても問題はない。ちなみに、人間のご飯も食べられるので、与えても問題ないそうだ。

「知り合い?」
「………………腐れ縁です」

 瑞姫がフォリアに聞けば、長い沈黙の後にぼそっと答えてくれた。めちゃくちゃ言いたくなさそうである。

「なっがい沈黙だな?どんだけ知られたくないんだ。俺とそいつは幼なじみってやつだよ」

 幼なじみ。フォリアは伯爵家次男で、と、いうことは、彼は元貴族と言うことだ。

「あ、そういえば名前名乗ってなかったな。アランだ。気づいてると思うが……、まあ、四男だからな。今は平民だ」
「そういう理由なんですね……。とりあえず、ラグと呼んでください」

 貴族だが四男で、爵位を継げないし結婚する気もないため、ほぼ自由業とも言える冒険者になった、ということだろうか。まあ、権力を振りかざす馬鹿ではなくて安心した。後でフォリアに聞こう。

「というか、お前騎士団は?今忙しいはずだろ」
「やめた」
「へ……、は?」
「あー、ごめんなさい、ちょっとここだと、企業秘密としか言えなくてですね」
「これに敬語など必要ありませんが」
「こら、フォリア」

 めっ、と言う風に瑞姫がすれば、フォリアはそっぽを向いた。子供か。

「あー、なんだ、すまん。聞いて悪かったよ。この後、どこかに行くつもりか?」
「あ、えぇ。ギルドに行って……。そういえば、最近、森に何か異変、あったりします?」
「!……なんで、お嬢さんが知ってるんだ」

 ちゃんとした答えはなかったが、驚いた反応と警戒心のにじみ出る言葉は答えのようなものである。おや、と瑞姫は目を瞬かせる。もしや、フラグ建築?いやいや、まだわからない。

「もしや、向かうおつもりですか?」
「うーん、とりあえず、情報が規制されてるみたいだから、フリッツさんに聞きに行く」
「フリッツ?ギルマスのことですか?お知り合いで?」

 フォリアには、この食堂とギルドに行くとしか言っておらず、詳しいことは話していない。とりあえず、フラグ建築してしまったかどうかの確認をしたかっただけだ。異変がなければ、そのままギルドの依頼でも受けようかと思っていた。だが、森に異変があるという情報がなぜか規制されているようだから、とりあえずギルドマスターのフリッツに聞きに行くことにした。もし原因が違っても、聞いてしまったから最後まで付き合うつもりである。

「あ、そっか、言ってないっけ?飛び級試験受けたときの、試験官の一人なの」
「それなら納得です」
「え、待て、お嬢さんが、飛び級試験……?ランクは?」
「とりあえず、Bですよ」
「び……、とり、あえず?」

 衝撃を受けたのか、二の句を継げないらしいアランに、瑞姫はにっこり笑って頷いた。
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