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本編
36.ロキの旅立ちは意外と早く
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瑞姫たちは、子爵邸から王宮に戻ってきていた。
「モーチ、モーチ」
モチネコは、瑞姫の頭の上で上機嫌に鳴いている。モチネコの大きさは、成体でも十五センチほどしかないし、そう重くもないので頭上でも問題がない。一つあるとすれば、瑞姫の頭が動かせないことだろうか。
「あぁ、それは大丈夫でしょう。モチネコ特有の力と言えばいいのでしょうか。餅のように張り付いて、頭を振ろうが傾けようが、落ちないのですよ」
と思ったが、大丈夫らしい。モチネコは滅多に人前に現れることがないので研究はほとんどされてないが、どうやら己の魔力を餅のように人の魔力にくっつけて離れないようにできるのだとか。その際、引っ張られる感じは全くない。ただ、モチネコの体を無理矢理引っ張ると、その体がみょーんと伸び、そのまま手を離すとバチン!とゴムのように戻ってきて、引っ付かれている人だけにダメージが入るようだ。痛い。モチネコのモチは、鳴き声もそうだが、餅からも来ているらしい。ちなみに、餅はちゃんとあって、餅米は亜人族と人族の大陸で造られている。
(えー、そんなの聞いたら、お餅食べたくなるんだけど……。お餅……)
モチネコが、餅にしか見えなくなってきた瑞姫だった。
「む、女神……、と、なんだ。モチネコではないか」
「あ、ロキさん?」
ばったり、とエントランスホールで鉢合わせしたのは、魔族のロキだ。その後ろには、シリウスやリカルド、ゆりあまで勢揃いしている。
「おや、ミズキたちおかえり……。え、モチネコ?初めて見たな……」
「ミズキ様、おかえり」
「ただいま~。子爵邸で会ったんだよ。ついてくるって言うから、連れてきちゃった」
「ただいま戻りました」
「モチ!モチニャー。モチモチ、ニャ~」
リラックスモードで、モチネコはぴ、と前足をあげて挨拶したようだ。
「丁度よかった、女神よ。俺はそろそろ旅に出ようと思ってな」
「え、そうなんですか?」
「うむ。子爵邸にいると言うから、顔を出しに行こうと思っていたがな」
すごいタイミングで帰ってきたようである。シリウスたちは、見送りするためにいるようだった。なら、瑞姫も、とシリウスたちと見送るために玄関まで戻る。
「入れ違いにならず、よかったです」
「そうだな。して、女神よ」
「なんですか?」
フォリアとセイランが玄関の扉を開け、出たところで立ち止まった。ロキは、瑞姫を見やってからフォリアに目を向ける。嫌な予感がしたフォリアは、さっ、と瑞姫の前に出て己の背後に庇う位置に立った。
「フッ。女神の従者は、よく勘が働く」
「渡しませんよ」
「はっはっはっ。そう怒るな。ただ、女神が俺のタイプだっただけだ。連れて行こうとは思っておらん」
「なっ……」
「へ?」
瑞姫としては、ロキとの接点は全くと言っていいほどない。襲撃の説明の日から会ってないのだ。わけがわからない。俺のタイプ、と言われるのは、元の世界でも言われてきたので、慣れてしまって照れることはもうないし、その言葉はあまり信用できないので、へー、としか返せない。外見だけを見て近寄ってくる輩が多かったので、そう言われると気持ちがスッと冷めるのだ。というか、それ以前に、どこでそうなったのか疑問が浮かぶ。と、フォリアから怒りの感情が伝わってきて、驚いて彼を見たら、剣の柄に手をかけて今にも抜きそうになっていた。後ろにいるのでフォリアの表情は見えないが、シリウスたちがあちゃー、といった感じの表情をしているのは見えた。
「こらこら、フォリア、だめだよ」
「っ、み、ミズキ様!ですがっ」
「力を抜こうね~」
「モチニャ~」
とりあえず、瑞姫はフォリアを抑えるため、抜刀せんと柄にかけている手の上から抑えるように握り込む。そうすると、フォリアの怒りが瞬時に鎮火し、たかと思えば、ピシッと固まり、別の感情が伝わってきた。動揺と羞恥と、少しの喜び?
「あ~、女神よ。それだと、いつまでたっても力が抜けぬのではないか」
「へ?」
「モチ?」
ロキの言葉に、瑞姫とモチネコは、揃って首をかしげた。瑞姫が首をかしげたにも関わらず、モチネコはぴったりと瑞姫の頭に張り付いていて落ちなかった。
瑞姫はフォリアの背後にいるので、後ろからフォリアの剣の柄に手を伸ばすには、体をつける必要がある。むにゅ、と胸を押しつけていることに気づいた瑞姫は、これか!と慌てて体を離した。
「わ、ごめんフォリア~」
「い、いえ、その……だ、いじょうぶ、です……、はい」
ぜんっぜん大丈夫に見えないのだが。フォリアから伝わってくる羞恥に、瑞姫までもが影響されうっすらと頬が色づく。二人して頬を染める様子に、ゆりあは冷めた目をしながらも、心の中で中学生か!と突っ込んだ。
「……第一王子、あの二人は、主従契約を結んでいるのだな?」
「えぇ、そうですよ」
「……契ってはおらんようだが」
「ちぎ……、あー、あの二人は……、たぶん、ミズキの方が鈍いから、フォリアが頑張って抑えているのではないかと」
「従者に同情したくなってきたな」
「はははは」
古来より、主従契約を結ぶと男女関係なく、そういう関係になりやすい。感情が伝わるので、一方が恋慕う感情を流し続ければ、いつの間にか相手も同じになっているのは、よくあることだ。一種の洗脳、と言ったら悪いが、そのようなものである。なので、夫婦になっているというのも少なくない。フォリアの場合は、あからさまに独占欲を見せているのだが、それに瑞姫が気づいているかと言えば、答えはノー。ロキはフォリアに同情した。
「まあ、なんだ。タイプとは言ったが好きになったわけではないからな。本気にするな、従者よ」
「っ、も、申し訳ありません」
「よいよい。面白いものが見られた。――――さて、俺はもう行く。ここまででよいぞ」
そう言うやいなや、ロキは背中から翼を生やす。バサリ、と広がったそれは、コウモリのような羽で、ロキの髪と同じワインレッドをもう少し暗くしたような色だ。ここから飛んでいくらしい。
「ではな。何十年後かにはなるだろうが、また来よう」
「単位がすごい……」
「モッチニャー!」
羽を羽ばたかせて飛び上がるロキに、瑞姫とモチネコ、ゆりあは手を振り、シリウスたちは頭を下げる。ロキはそれを見ると、あっさりと北の方へと飛び立っていった。それを見送り、解散、とばかりに、ゆりあはそそくさと王宮内に戻っていき、リカルドはシリウスに名残惜しそうにしながら転移で執務室に戻り、瑞姫は、シリウスに話があると言われて応接間に連れて行かれた。
「リカルドから、聖女の件は聞いたよ。止めてくれてありがとう」
「いや~、びっくりしたね、あれは」
「だろうね。どうやら、侍女たちも聖女を蔑ろにする傾向にあったらしいから、総入れ替えさせたよ」
マジか。と瑞姫は驚きで瞬きを繰り返す。護衛も、アルトス・クラインは第二騎士団に戻し、新たに護衛をつけたようだ。驚くほど仕事が早い。それで、進展があったりなかったりなんだけど、とシリウスは話題を変える。王妃の件や、拐かしの件だろう。こっちが本題のようだ。
「先に、奴隷商の双子の兄は、白と判断してすでに城下に戻っているよ。奴隷を他の商人に任せるにも、限界があるからね」
監視はしばらくつくそうだが。それは仕方がないだろう。奴隷商が潰されなかっただけでもマシだ。
「弟の方は……、俺は悪くねぇ、の一点張りでね……」
「わあ、ウザい」
「うざ……、うん、そうなんだ」
―俺は悪くねぇ!―言われたからやっただけ!―最下層にいる子供なんか、買われた方が幸せだ!―奴隷の方が待遇いいだろ!―と、そんな感じらしい。全く反省の色が見えないようだ。だがまあ、自分が関わったことは認めているので、処罰は確定している。無期限の犯罪奴隷堕ち、だそうだ。この場合、労働奴隷となり、鉱山などの労力が必要なところに送られるそう。
「襲撃してきた暗殺者ギルドだけどね、アジトはわかったものの、生きた人間はいなかったよ」
「生きた人間、は?」
騎士団がたどり着いたアジトには、悲惨な状態の死体が転がっていて、生きた人間はいなかったそうだ。げっ、と瑞姫は顔をしかめる。
「その人たちが、ナイトメアっていう証拠はあったの?」
「あぁ。あと、そこを拠点としている証拠もあったよ」
ナイトメアに所属すると、刺青を彫るようだ。一つ目の瞼が閉じている絵にナイトメアの頭文字が入っている。死体にも刺青は彫られていたし、アジト内の所々にもその印が刻まれていたようだ。あとは、飲みかけの酒やまだ食べられそうな食材、使い古された暗殺道具も見つかっているらしい。
「へえ。……逃げ足は速いなあ」
ははっ、とシリウスは笑った。全く一緒のことを言ったからだ。すでに検問を敷き、厳戒態勢にはなっているそう。国内で捕まえたいところだが、他国に入ってしまえば手出しができなくなってしまう。早々に、近隣諸国には謝罪文を送ったり警告を促してはいるそうだが。一応、国境までは王都から一週間以上かかるらしいので、まだ国内にいると踏んで捜索は続行中とのこと。
(え、まさか、フラグが本当に立っちゃった、とか?……いや、まだそうと決まったわけじゃ……)
ちょっと動揺した瑞姫である。
「何か、特徴とかある?」
「あぁ。さっきも言ったが刺青かな。頭から幹部までは、右肩に。それ以下は左肩に刺青が彫られている。頭は隻眼の男、だな。名前は知らないらしい。皆、頭と呼んでいたそうだからな」
「へえ」
(まあ、大抵灯台もと暗し的な?そこら辺の森にいたりしてね~。……まさかね)
王都の北と西、東には、広大な森がある。隠れるならうってつけだが、北にはAランク相当の、西にはBランク相当の、東にはD、C相当の魔物がうようよいるので、命の危険を冒してまで、果たしてそこに潜むかどうかを考えれば……、まあ、なくは、ない、か?もしいるのならば、東?という感じだ。ナイトメアの実力がどの程度かは知らないが。
「子爵はまだ口を開かないが、まあ、時間の問題だよ。証拠が揃っているし、元侍女もいる。あ、聞いたかい?」
「毒殺の件なら聞いたよ。すんごい恨まれてたね、夫人」
「まあ、私もつまはじきにされているというのは、母上から聞いてはいたがね。女性は恐ろしいね」
それに、瑞姫は乾いた笑いを漏らした。シリウスは、そういえば、瑞姫が怒ったところはまだ見ないな、と思ったが、同時に第一騎士団団長との手合わせを思い出し、怒らせたら物理で殴ってきそうだな、と思って考えることをやめた。物理で来られたらひとたまりもない。怒ったところ見たことないけど、怒らせないとこ、とシリウスは密かに決意した。
「で、秘密裏に動いている件だけど。包囲網は完成している。吉報を待っていて」
「うわー……、う、うん」
「モチ~……」
めっちゃ笑顔である。だが、顔に影がさしているので、超怖い。モチネコも怖かったらしく、ビクッと体を揺らし、ぶわっ、と尻尾が膨らむ。瑞姫は犯人ご愁傷様、と誰かわからない犯人に向かって心の中で手を合わせた。ちなみに、王妃はすでに歩き回れるほどに回復しているらしい。回復早くない?
「モーチ、モーチ」
モチネコは、瑞姫の頭の上で上機嫌に鳴いている。モチネコの大きさは、成体でも十五センチほどしかないし、そう重くもないので頭上でも問題がない。一つあるとすれば、瑞姫の頭が動かせないことだろうか。
「あぁ、それは大丈夫でしょう。モチネコ特有の力と言えばいいのでしょうか。餅のように張り付いて、頭を振ろうが傾けようが、落ちないのですよ」
と思ったが、大丈夫らしい。モチネコは滅多に人前に現れることがないので研究はほとんどされてないが、どうやら己の魔力を餅のように人の魔力にくっつけて離れないようにできるのだとか。その際、引っ張られる感じは全くない。ただ、モチネコの体を無理矢理引っ張ると、その体がみょーんと伸び、そのまま手を離すとバチン!とゴムのように戻ってきて、引っ付かれている人だけにダメージが入るようだ。痛い。モチネコのモチは、鳴き声もそうだが、餅からも来ているらしい。ちなみに、餅はちゃんとあって、餅米は亜人族と人族の大陸で造られている。
(えー、そんなの聞いたら、お餅食べたくなるんだけど……。お餅……)
モチネコが、餅にしか見えなくなってきた瑞姫だった。
「む、女神……、と、なんだ。モチネコではないか」
「あ、ロキさん?」
ばったり、とエントランスホールで鉢合わせしたのは、魔族のロキだ。その後ろには、シリウスやリカルド、ゆりあまで勢揃いしている。
「おや、ミズキたちおかえり……。え、モチネコ?初めて見たな……」
「ミズキ様、おかえり」
「ただいま~。子爵邸で会ったんだよ。ついてくるって言うから、連れてきちゃった」
「ただいま戻りました」
「モチ!モチニャー。モチモチ、ニャ~」
リラックスモードで、モチネコはぴ、と前足をあげて挨拶したようだ。
「丁度よかった、女神よ。俺はそろそろ旅に出ようと思ってな」
「え、そうなんですか?」
「うむ。子爵邸にいると言うから、顔を出しに行こうと思っていたがな」
すごいタイミングで帰ってきたようである。シリウスたちは、見送りするためにいるようだった。なら、瑞姫も、とシリウスたちと見送るために玄関まで戻る。
「入れ違いにならず、よかったです」
「そうだな。して、女神よ」
「なんですか?」
フォリアとセイランが玄関の扉を開け、出たところで立ち止まった。ロキは、瑞姫を見やってからフォリアに目を向ける。嫌な予感がしたフォリアは、さっ、と瑞姫の前に出て己の背後に庇う位置に立った。
「フッ。女神の従者は、よく勘が働く」
「渡しませんよ」
「はっはっはっ。そう怒るな。ただ、女神が俺のタイプだっただけだ。連れて行こうとは思っておらん」
「なっ……」
「へ?」
瑞姫としては、ロキとの接点は全くと言っていいほどない。襲撃の説明の日から会ってないのだ。わけがわからない。俺のタイプ、と言われるのは、元の世界でも言われてきたので、慣れてしまって照れることはもうないし、その言葉はあまり信用できないので、へー、としか返せない。外見だけを見て近寄ってくる輩が多かったので、そう言われると気持ちがスッと冷めるのだ。というか、それ以前に、どこでそうなったのか疑問が浮かぶ。と、フォリアから怒りの感情が伝わってきて、驚いて彼を見たら、剣の柄に手をかけて今にも抜きそうになっていた。後ろにいるのでフォリアの表情は見えないが、シリウスたちがあちゃー、といった感じの表情をしているのは見えた。
「こらこら、フォリア、だめだよ」
「っ、み、ミズキ様!ですがっ」
「力を抜こうね~」
「モチニャ~」
とりあえず、瑞姫はフォリアを抑えるため、抜刀せんと柄にかけている手の上から抑えるように握り込む。そうすると、フォリアの怒りが瞬時に鎮火し、たかと思えば、ピシッと固まり、別の感情が伝わってきた。動揺と羞恥と、少しの喜び?
「あ~、女神よ。それだと、いつまでたっても力が抜けぬのではないか」
「へ?」
「モチ?」
ロキの言葉に、瑞姫とモチネコは、揃って首をかしげた。瑞姫が首をかしげたにも関わらず、モチネコはぴったりと瑞姫の頭に張り付いていて落ちなかった。
瑞姫はフォリアの背後にいるので、後ろからフォリアの剣の柄に手を伸ばすには、体をつける必要がある。むにゅ、と胸を押しつけていることに気づいた瑞姫は、これか!と慌てて体を離した。
「わ、ごめんフォリア~」
「い、いえ、その……だ、いじょうぶ、です……、はい」
ぜんっぜん大丈夫に見えないのだが。フォリアから伝わってくる羞恥に、瑞姫までもが影響されうっすらと頬が色づく。二人して頬を染める様子に、ゆりあは冷めた目をしながらも、心の中で中学生か!と突っ込んだ。
「……第一王子、あの二人は、主従契約を結んでいるのだな?」
「えぇ、そうですよ」
「……契ってはおらんようだが」
「ちぎ……、あー、あの二人は……、たぶん、ミズキの方が鈍いから、フォリアが頑張って抑えているのではないかと」
「従者に同情したくなってきたな」
「はははは」
古来より、主従契約を結ぶと男女関係なく、そういう関係になりやすい。感情が伝わるので、一方が恋慕う感情を流し続ければ、いつの間にか相手も同じになっているのは、よくあることだ。一種の洗脳、と言ったら悪いが、そのようなものである。なので、夫婦になっているというのも少なくない。フォリアの場合は、あからさまに独占欲を見せているのだが、それに瑞姫が気づいているかと言えば、答えはノー。ロキはフォリアに同情した。
「まあ、なんだ。タイプとは言ったが好きになったわけではないからな。本気にするな、従者よ」
「っ、も、申し訳ありません」
「よいよい。面白いものが見られた。――――さて、俺はもう行く。ここまででよいぞ」
そう言うやいなや、ロキは背中から翼を生やす。バサリ、と広がったそれは、コウモリのような羽で、ロキの髪と同じワインレッドをもう少し暗くしたような色だ。ここから飛んでいくらしい。
「ではな。何十年後かにはなるだろうが、また来よう」
「単位がすごい……」
「モッチニャー!」
羽を羽ばたかせて飛び上がるロキに、瑞姫とモチネコ、ゆりあは手を振り、シリウスたちは頭を下げる。ロキはそれを見ると、あっさりと北の方へと飛び立っていった。それを見送り、解散、とばかりに、ゆりあはそそくさと王宮内に戻っていき、リカルドはシリウスに名残惜しそうにしながら転移で執務室に戻り、瑞姫は、シリウスに話があると言われて応接間に連れて行かれた。
「リカルドから、聖女の件は聞いたよ。止めてくれてありがとう」
「いや~、びっくりしたね、あれは」
「だろうね。どうやら、侍女たちも聖女を蔑ろにする傾向にあったらしいから、総入れ替えさせたよ」
マジか。と瑞姫は驚きで瞬きを繰り返す。護衛も、アルトス・クラインは第二騎士団に戻し、新たに護衛をつけたようだ。驚くほど仕事が早い。それで、進展があったりなかったりなんだけど、とシリウスは話題を変える。王妃の件や、拐かしの件だろう。こっちが本題のようだ。
「先に、奴隷商の双子の兄は、白と判断してすでに城下に戻っているよ。奴隷を他の商人に任せるにも、限界があるからね」
監視はしばらくつくそうだが。それは仕方がないだろう。奴隷商が潰されなかっただけでもマシだ。
「弟の方は……、俺は悪くねぇ、の一点張りでね……」
「わあ、ウザい」
「うざ……、うん、そうなんだ」
―俺は悪くねぇ!―言われたからやっただけ!―最下層にいる子供なんか、買われた方が幸せだ!―奴隷の方が待遇いいだろ!―と、そんな感じらしい。全く反省の色が見えないようだ。だがまあ、自分が関わったことは認めているので、処罰は確定している。無期限の犯罪奴隷堕ち、だそうだ。この場合、労働奴隷となり、鉱山などの労力が必要なところに送られるそう。
「襲撃してきた暗殺者ギルドだけどね、アジトはわかったものの、生きた人間はいなかったよ」
「生きた人間、は?」
騎士団がたどり着いたアジトには、悲惨な状態の死体が転がっていて、生きた人間はいなかったそうだ。げっ、と瑞姫は顔をしかめる。
「その人たちが、ナイトメアっていう証拠はあったの?」
「あぁ。あと、そこを拠点としている証拠もあったよ」
ナイトメアに所属すると、刺青を彫るようだ。一つ目の瞼が閉じている絵にナイトメアの頭文字が入っている。死体にも刺青は彫られていたし、アジト内の所々にもその印が刻まれていたようだ。あとは、飲みかけの酒やまだ食べられそうな食材、使い古された暗殺道具も見つかっているらしい。
「へえ。……逃げ足は速いなあ」
ははっ、とシリウスは笑った。全く一緒のことを言ったからだ。すでに検問を敷き、厳戒態勢にはなっているそう。国内で捕まえたいところだが、他国に入ってしまえば手出しができなくなってしまう。早々に、近隣諸国には謝罪文を送ったり警告を促してはいるそうだが。一応、国境までは王都から一週間以上かかるらしいので、まだ国内にいると踏んで捜索は続行中とのこと。
(え、まさか、フラグが本当に立っちゃった、とか?……いや、まだそうと決まったわけじゃ……)
ちょっと動揺した瑞姫である。
「何か、特徴とかある?」
「あぁ。さっきも言ったが刺青かな。頭から幹部までは、右肩に。それ以下は左肩に刺青が彫られている。頭は隻眼の男、だな。名前は知らないらしい。皆、頭と呼んでいたそうだからな」
「へえ」
(まあ、大抵灯台もと暗し的な?そこら辺の森にいたりしてね~。……まさかね)
王都の北と西、東には、広大な森がある。隠れるならうってつけだが、北にはAランク相当の、西にはBランク相当の、東にはD、C相当の魔物がうようよいるので、命の危険を冒してまで、果たしてそこに潜むかどうかを考えれば……、まあ、なくは、ない、か?もしいるのならば、東?という感じだ。ナイトメアの実力がどの程度かは知らないが。
「子爵はまだ口を開かないが、まあ、時間の問題だよ。証拠が揃っているし、元侍女もいる。あ、聞いたかい?」
「毒殺の件なら聞いたよ。すんごい恨まれてたね、夫人」
「まあ、私もつまはじきにされているというのは、母上から聞いてはいたがね。女性は恐ろしいね」
それに、瑞姫は乾いた笑いを漏らした。シリウスは、そういえば、瑞姫が怒ったところはまだ見ないな、と思ったが、同時に第一騎士団団長との手合わせを思い出し、怒らせたら物理で殴ってきそうだな、と思って考えることをやめた。物理で来られたらひとたまりもない。怒ったところ見たことないけど、怒らせないとこ、とシリウスは密かに決意した。
「で、秘密裏に動いている件だけど。包囲網は完成している。吉報を待っていて」
「うわー……、う、うん」
「モチ~……」
めっちゃ笑顔である。だが、顔に影がさしているので、超怖い。モチネコも怖かったらしく、ビクッと体を揺らし、ぶわっ、と尻尾が膨らむ。瑞姫は犯人ご愁傷様、と誰かわからない犯人に向かって心の中で手を合わせた。ちなみに、王妃はすでに歩き回れるほどに回復しているらしい。回復早くない?
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