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本編
39.北の森の情報
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そんな二人は、女の子がセリーナ。男の子ロイドと言う名前で、恋人同士だそうだ。二人は男が目覚めるかわからないが、時間ギリギリまでついているらしく、その部屋に残った。確かに、いつ起きるかわからないが、男に状況説明する者は必要である。
瑞姫たちは、ギルドマスターの執務室に場所を変えた。部屋には防音魔法がかけられ、机には契約書が置かれている。
「まず、この男を紹介させていただきます。副ギルドマスターで、エイバン・フォレステインです。あとは……、アランはいいな」
「あ、いや、きちんとさせてくれ。ウェルナイト公爵家四男、アラン・ウェルナイトと申します」
「フォレステイン辺境伯家五男、エイバン・フォレステインと申します」
二人とも、椅子から立ち上がり、貴族らしく礼をとった。
ウェルナイトと言えば、レスニアの家名だ。後で聞こうと思っていたが、どうやらウェルナイト公爵家の四男だったらしい。ウェルナイトと言えば宰相レスニアの顔が思い浮かぶ。青みがかった灰色の髪にシルバーの瞳。怜悧な美貌に、少し冷たい印象を受けたが。よく見れば、アランも同じ色合いである。が、体格は正反対。レスニアは、少しは動けるだろうが、根っからの文官のようで線が細い。アランはほどよい筋肉がついている。
そして、フォレステイン。西の辺境伯家だ。お披露目の時に挨拶に来たのは、フォレステイン辺境伯と長男だけだった。辺境伯は大変人柄のよい、立派な筋肉をつけた、がたいのいい老騎士だ。嫡男は次男だが、手が離せないため長男が代わりに来たのを覚えている。目の前にいるエイバンは、あまり似ていない。線が細いのと、どちらかと言えば女顔で、仕草も女性らしさがあるせいか、外見からは辺境伯の勇ましさとは無縁に見えた。唯一の共通点は、山吹色の髪だろう。
「この方は私から。此度、聖人召喚によりこの世界にご降臨なされた、女神、ミズキ・カグラ様でございます」
「「!?」」
「どうぞ、よろしく」
瑞姫は立たない。微笑みながら、眼鏡と魔道具を外し、元の色に戻す。二人に降りかかる衝撃たるや。かつてフリッツも衝撃を受けたので、二人の心情は理解できる。聖女も雲の上だが、更に上の女神がひょこっと現れたのだ。誰でもそうなる。というか、気絶しなかっただけいい。
「こちらは私の従者の、フォリア・エヴィルですよ。ギルド登録してるから、知ってますよね」
「そのはずですが」
そう言いながら、フォリアも眼鏡と魔道具を外し、本来の色に戻した。アランはフォリアだと知っていたが、髪色や瞳の変化を知らなかったので、また驚く。フリッツやエイバンは、まさかフォリアだとは思っておらず、そしてアランと同じ理由でも驚いていた。これを予測してたのか、フォリアはぱんぱん、と軽く手を叩く。
「……はっ、意識どっか飛んでた……」
「あ、危なかったわ。気絶するかと思ったわ」
「フォリアか……。主従契約だな?色移りすごいな。それほど女神様のお力が強いと言う事か……」
三者三様の反応だ。フリッツは獣人族なので、主従契約の事に詳しいらしく気づいたようだ。瑞姫が、モチネコも紹介した方がいいのかと思って透明化状態のモチネコを見れば、ふい、とそっぽを向いて尻尾を二回振る。どうやら、紹介しなくていいらしい。
「まあ、このときは、ラグと呼んでください」
魔道具をつけて、色を変える。眼鏡は外したままにした。
「う、ま、まあ、そうね……。女神様、だなんて呼んだら、すごい事になるわ」
「それは、言葉遣いも崩したままで良いって事か?」
「そうしてください」
「なら、貴女も私たちに敬語はなしよ。というか、敬語使われたらいたたまれないわ」
「う、ぜ、善処、し、する」
シリウスやリカルドたちで、年上に対して敬語なしの話し方は慣れたとは言え、初対面の人間だとまだまだ噛みそうになる。
「ま、それでこの契約書なら納得だな」
「そうね。フリッツが、以前の飛び級試験の時の事を言えなかったのもわかるわ」
二人は納得して契約書に名前を書いた。
これで、ようやく本題に入れる。
「最初は、どこかの森に異変でもあるか聞こうと思った、けど、情報規制されるような事になってるみたいなので、それを聞きに来たんです」
そうしたら、先ほどの追放劇に居合わせ、北の森で異変があるとわかった。
「えぇ、確かに、北の森で異変がありました。ですが、調査が難航しておりましてな。現在、高ランクの者たちが騎士団に協力したり、西の辺境でスタンビードの前兆があって、そちらにもとられて人手が足りない状況なのです」
「あー、闇オークションとか。スタンビードの件も聞いて、るよ」
騎士団に協力とは、拐かしの件で芋づる式に色々と判明した件だろう。未だに忙しそうにしているのは知っている。スタンビード。魔物の集団暴走である。西の辺境にはダンジョンがあり、三~五年の周期で魔物がダンジョンからあふれ出てくるのだ。その前兆があった、とは瑞姫も聞いていた。辺境伯領なので私兵もいるのだが、いかんせん、魔物の量が尋常ではない。前兆があると直ぐに報告し、第五騎士団が動く。今回は第五騎士団の第四と第五師団が動いていた。これは放っておくと、国一つ滅びた過去もあるので、無視ができない。
「それで、手の空いていた先ほどの男に依頼をしたのですが……」
呪いは瑞姫が浄化したが、いつ目覚めるかはわからない、ということだ。
「北の森を立ち入り禁止にしたのは、先ほどの二人も遭遇したアンデッドが目撃されたのです。普段は森の奥深くの暗がりに住み着いていて、手前付近にいる事などあり得ないのですが……」
北の森にダンジョンはない。スタンビードは一度も起こった事がないので、その線は薄いと思われている。のにもかかわらず、アンデッドの目撃情報。しかも強いとの事で、原因がわかるまでは立ち入り禁止になった。情報が規制されているのは、王国が慌ただしくしていて民が不安がっているのに、更に不安がらせることはないと、“強い魔物が入り込んでいるらしく、奥にいる魔物が手前に出てきているので立ち入り厳禁。退治されるまでは北の森は封鎖”となっているようだ。まあ、あながち間違ってはいない。“原因不明の異変が起きているが、調査が難航中”よりはマシである。
「いつ頃かわかります?」
「最初の目撃は、大体、一週間程前だったかと思います」
この世界で、一週間は六日だ。時間は元の世界と同じで、一日二十四時間で時分も六十進法である。一週間前は、恐らくお披露目襲撃事件とほぼ同じ頃と考えていいだろう。え、本当にフラグが……?
「なあ、異変が起こってるかもって、どうして思ったんだ?」
「そう、だね……」
これは、今立てた憶測だ、と言う前置きをする。
「暗殺者ギルド“ナイトメア”の件は聞いてますか?」
「あぁ、はい。確か王族を襲撃し、下っ端は捕まったが他はまだ逃げている。検問も強いて厳戒態勢でしたか」
「それです。私それ聞いたときに、もしかしてまだ近くにいたりして、と思ったんです。灯台もと暗し、と言うことわざもありますし」
「コトワザ……、歴代の聖人様方が、残している言葉ですね……」
そういえば、この世界にはことわざはなかった。
「灯台って、蝋燭の台のことで、そこだけは明るいけど、下は暗いし見えづらいですよね?探し物は自分の近くにあると案外気づきにくいです。つまり、探している物は意外と近くにあったっていう感じの意味になります」
「なるほど……。その近くが、森だと思われたわけですな」
「まあ、確かに、隠れるならうってつけよね。魔物の事を考えても、ありだと思うわ」
「一理あるな。仮にも暗殺者ギルドだ。どうとでもなるだろ」
うんうん、と瑞姫は頷く。森に隠れるのは、魔物の事を考えても、どちらかと言えばありだと思えたのだ。アランが言うように、仮にも暗殺者ギルドである。
「それで、いやまさかなあ、と思ったんですけど、気になるからとりあえず聞きに行こう、と思い立ちまして」
「それで俺に会って、異変があったか聞いてきたわけか」
「はい。異変がなければ、そのまま依頼を受けてもいいかなって思ってたので……、フォリアに言わなかったんだよ、ごめんね」
「それは、まあ、かまわないのですが……。いえ、でもやはり、仰っていただけると」
「うん、気をつける」
やはり従者には全部打ち明けた方が良さそうだ。少ししゅんとした感じが瑞姫の良心を刺す。置いていったときの罪悪感がよみがえった。
「まだ、思い当たる節はありそうだが?」
「あ、えぇ。えっと、アンデッドって、どこで遭遇したんですか?」
「確か……、十五分くらい歩いた頃だったと。まだ明るかったのに、とも言っていました」
まあ、それはそうだろう。瑞姫はまだ北の森に入ったことはないが、西の森でさえ、歩いて十五分程度なら日の光が木々の間からこぼれていた。
「最初何もなかったってセリーナさんたち言ってたけど、魔物に遭遇しなかったんですか?西の森でさえ、入って十分も経たずに魔物と遭遇したのに?」
「そうなのよね。そこが可笑しいのよ」
「バトルラビットがうようよいますからな」
ランクCよりのBで、戦闘特化のたれ耳ウサギである。西の森にも生息はしているが、北の森の方が数は多く、集団で行動しているときもあるのだとか。どうやら、本当に魔物との遭遇すらなかったらしい。そして、明るいところでアンデッド。
「アンデッドが自ら日の当たるところに行くかと言えば、北の森に限っては恐らくないですね。あそこは総じて、光に弱いアンデッドしかいません」
アンデッドは、光に弱い物が多いのだ。例外も一部あるが、フォリアの言ったとおり、北の森に出るアンデッドの魔物は、総じて光に弱い。木々の葉によって光が遮られている場所もあるのだが、アンデッドが出るのは森の奥深く。よっぽどの事がない限り、そこから動かないはずだ。それに、光にあたっても消滅はしないが、魔物の力自体は弱まる。そんなアンデッドが、日の当たる手前付近に出てきた挙げ句、ランクC、Bの者たちが苦戦するかと言えば、ノー、と断言はできないが考えづらい。瑞姫も、まさかな、と思った。だが、話を聞いている内に思ったのだ。そのアンデッド、人為的なものだったら?と。
「ナイトメアは逃亡の事前準備がされていた可能性があるらしいんです」
「ラグさんが言いたいのは、事前準備ができていたのなら、ほとぼりが冷めるまで隠れ過ごすのもできなくはない、ってことかしら」
「はい。暗殺者ギルドだし、闇魔法得意な人いますよね?その中に、アンデッドを召喚できる、又は、操れる人がいたなら?」
「森の奥にいても、何らおかしくない……」
「魔物除けも万能ではないですけど、そこへそういう人がもしいたなら、可能性は大だな、と」
森の奥だからこそ、貴重な薬草や、恐らく食べられる実だとかがあるはずだ。そして、事前準備をしていたなら、食べ物をそこへ運び込んでおく事も可能である。
「とは言ったものの、これは私の憶測ですからね。本当に、強い魔物が入り込んでいて、生態系が崩れそうになっているとも考えられますし」
「……、どちらにせよ、緊急には違いはありませんな」
そう。暗殺者ギルドがいようが、魔物が入り込んでいようが、北の森で異変が起こっているので緊急には変わりない。
「なので、私が今から行ってきますね」
「そうですか……は?」
「え!?い、行くって、貴女が!?」
「言うと思った」
ちょっと買い物行ってきます、みたいなノリで言われた言葉に、フリッツとエイバンは驚き、アランは薄々勘付いていたと言う顔をしている。フォリアはそうなるだろうな、と思っていたので動揺すらしてない。
「ギルマス。ラグさん、とりあえずBと聞いた。実力はそれ以上なんじゃないか?」
「う……、まあ、そう、なのだが……」
「そうなの!?」
「あぁ。あの時は西の森に行ったからな。バトルラビットですら、この方の敵ではないから……」
「もっと良い情報があります」
バトルラビットだけでも良い比較対象だが、それ以上があるというフォリア。瑞姫はそうだっけ?と思いながら次の言葉を待った。
「――――この方は、第一騎士団長と渡り合えるお方です」
ぴしり、と三人が固まった。フォリアが放った言葉はそれ以上の比較対象。瑞姫は、何故そこでレイノートさん?と思ったが、彼はランクSの魔物を倒せる実力の持ち主だ。三人は硬直が解け、顔を見合わせる。
「……、それは、確実にSなんじゃないのか?え、化け物だろあれ」
「化け物ね」
「化け物だな」
第一騎士団長は化け物、と言う認識は、ここでも流れているようで、瑞姫は苦笑いしたのだった。
~~*~~
灯台もと暗しの灯台は、岬にある灯台だと思ってました。
瑞姫たちは、ギルドマスターの執務室に場所を変えた。部屋には防音魔法がかけられ、机には契約書が置かれている。
「まず、この男を紹介させていただきます。副ギルドマスターで、エイバン・フォレステインです。あとは……、アランはいいな」
「あ、いや、きちんとさせてくれ。ウェルナイト公爵家四男、アラン・ウェルナイトと申します」
「フォレステイン辺境伯家五男、エイバン・フォレステインと申します」
二人とも、椅子から立ち上がり、貴族らしく礼をとった。
ウェルナイトと言えば、レスニアの家名だ。後で聞こうと思っていたが、どうやらウェルナイト公爵家の四男だったらしい。ウェルナイトと言えば宰相レスニアの顔が思い浮かぶ。青みがかった灰色の髪にシルバーの瞳。怜悧な美貌に、少し冷たい印象を受けたが。よく見れば、アランも同じ色合いである。が、体格は正反対。レスニアは、少しは動けるだろうが、根っからの文官のようで線が細い。アランはほどよい筋肉がついている。
そして、フォレステイン。西の辺境伯家だ。お披露目の時に挨拶に来たのは、フォレステイン辺境伯と長男だけだった。辺境伯は大変人柄のよい、立派な筋肉をつけた、がたいのいい老騎士だ。嫡男は次男だが、手が離せないため長男が代わりに来たのを覚えている。目の前にいるエイバンは、あまり似ていない。線が細いのと、どちらかと言えば女顔で、仕草も女性らしさがあるせいか、外見からは辺境伯の勇ましさとは無縁に見えた。唯一の共通点は、山吹色の髪だろう。
「この方は私から。此度、聖人召喚によりこの世界にご降臨なされた、女神、ミズキ・カグラ様でございます」
「「!?」」
「どうぞ、よろしく」
瑞姫は立たない。微笑みながら、眼鏡と魔道具を外し、元の色に戻す。二人に降りかかる衝撃たるや。かつてフリッツも衝撃を受けたので、二人の心情は理解できる。聖女も雲の上だが、更に上の女神がひょこっと現れたのだ。誰でもそうなる。というか、気絶しなかっただけいい。
「こちらは私の従者の、フォリア・エヴィルですよ。ギルド登録してるから、知ってますよね」
「そのはずですが」
そう言いながら、フォリアも眼鏡と魔道具を外し、本来の色に戻した。アランはフォリアだと知っていたが、髪色や瞳の変化を知らなかったので、また驚く。フリッツやエイバンは、まさかフォリアだとは思っておらず、そしてアランと同じ理由でも驚いていた。これを予測してたのか、フォリアはぱんぱん、と軽く手を叩く。
「……はっ、意識どっか飛んでた……」
「あ、危なかったわ。気絶するかと思ったわ」
「フォリアか……。主従契約だな?色移りすごいな。それほど女神様のお力が強いと言う事か……」
三者三様の反応だ。フリッツは獣人族なので、主従契約の事に詳しいらしく気づいたようだ。瑞姫が、モチネコも紹介した方がいいのかと思って透明化状態のモチネコを見れば、ふい、とそっぽを向いて尻尾を二回振る。どうやら、紹介しなくていいらしい。
「まあ、このときは、ラグと呼んでください」
魔道具をつけて、色を変える。眼鏡は外したままにした。
「う、ま、まあ、そうね……。女神様、だなんて呼んだら、すごい事になるわ」
「それは、言葉遣いも崩したままで良いって事か?」
「そうしてください」
「なら、貴女も私たちに敬語はなしよ。というか、敬語使われたらいたたまれないわ」
「う、ぜ、善処、し、する」
シリウスやリカルドたちで、年上に対して敬語なしの話し方は慣れたとは言え、初対面の人間だとまだまだ噛みそうになる。
「ま、それでこの契約書なら納得だな」
「そうね。フリッツが、以前の飛び級試験の時の事を言えなかったのもわかるわ」
二人は納得して契約書に名前を書いた。
これで、ようやく本題に入れる。
「最初は、どこかの森に異変でもあるか聞こうと思った、けど、情報規制されるような事になってるみたいなので、それを聞きに来たんです」
そうしたら、先ほどの追放劇に居合わせ、北の森で異変があるとわかった。
「えぇ、確かに、北の森で異変がありました。ですが、調査が難航しておりましてな。現在、高ランクの者たちが騎士団に協力したり、西の辺境でスタンビードの前兆があって、そちらにもとられて人手が足りない状況なのです」
「あー、闇オークションとか。スタンビードの件も聞いて、るよ」
騎士団に協力とは、拐かしの件で芋づる式に色々と判明した件だろう。未だに忙しそうにしているのは知っている。スタンビード。魔物の集団暴走である。西の辺境にはダンジョンがあり、三~五年の周期で魔物がダンジョンからあふれ出てくるのだ。その前兆があった、とは瑞姫も聞いていた。辺境伯領なので私兵もいるのだが、いかんせん、魔物の量が尋常ではない。前兆があると直ぐに報告し、第五騎士団が動く。今回は第五騎士団の第四と第五師団が動いていた。これは放っておくと、国一つ滅びた過去もあるので、無視ができない。
「それで、手の空いていた先ほどの男に依頼をしたのですが……」
呪いは瑞姫が浄化したが、いつ目覚めるかはわからない、ということだ。
「北の森を立ち入り禁止にしたのは、先ほどの二人も遭遇したアンデッドが目撃されたのです。普段は森の奥深くの暗がりに住み着いていて、手前付近にいる事などあり得ないのですが……」
北の森にダンジョンはない。スタンビードは一度も起こった事がないので、その線は薄いと思われている。のにもかかわらず、アンデッドの目撃情報。しかも強いとの事で、原因がわかるまでは立ち入り禁止になった。情報が規制されているのは、王国が慌ただしくしていて民が不安がっているのに、更に不安がらせることはないと、“強い魔物が入り込んでいるらしく、奥にいる魔物が手前に出てきているので立ち入り厳禁。退治されるまでは北の森は封鎖”となっているようだ。まあ、あながち間違ってはいない。“原因不明の異変が起きているが、調査が難航中”よりはマシである。
「いつ頃かわかります?」
「最初の目撃は、大体、一週間程前だったかと思います」
この世界で、一週間は六日だ。時間は元の世界と同じで、一日二十四時間で時分も六十進法である。一週間前は、恐らくお披露目襲撃事件とほぼ同じ頃と考えていいだろう。え、本当にフラグが……?
「なあ、異変が起こってるかもって、どうして思ったんだ?」
「そう、だね……」
これは、今立てた憶測だ、と言う前置きをする。
「暗殺者ギルド“ナイトメア”の件は聞いてますか?」
「あぁ、はい。確か王族を襲撃し、下っ端は捕まったが他はまだ逃げている。検問も強いて厳戒態勢でしたか」
「それです。私それ聞いたときに、もしかしてまだ近くにいたりして、と思ったんです。灯台もと暗し、と言うことわざもありますし」
「コトワザ……、歴代の聖人様方が、残している言葉ですね……」
そういえば、この世界にはことわざはなかった。
「灯台って、蝋燭の台のことで、そこだけは明るいけど、下は暗いし見えづらいですよね?探し物は自分の近くにあると案外気づきにくいです。つまり、探している物は意外と近くにあったっていう感じの意味になります」
「なるほど……。その近くが、森だと思われたわけですな」
「まあ、確かに、隠れるならうってつけよね。魔物の事を考えても、ありだと思うわ」
「一理あるな。仮にも暗殺者ギルドだ。どうとでもなるだろ」
うんうん、と瑞姫は頷く。森に隠れるのは、魔物の事を考えても、どちらかと言えばありだと思えたのだ。アランが言うように、仮にも暗殺者ギルドである。
「それで、いやまさかなあ、と思ったんですけど、気になるからとりあえず聞きに行こう、と思い立ちまして」
「それで俺に会って、異変があったか聞いてきたわけか」
「はい。異変がなければ、そのまま依頼を受けてもいいかなって思ってたので……、フォリアに言わなかったんだよ、ごめんね」
「それは、まあ、かまわないのですが……。いえ、でもやはり、仰っていただけると」
「うん、気をつける」
やはり従者には全部打ち明けた方が良さそうだ。少ししゅんとした感じが瑞姫の良心を刺す。置いていったときの罪悪感がよみがえった。
「まだ、思い当たる節はありそうだが?」
「あ、えぇ。えっと、アンデッドって、どこで遭遇したんですか?」
「確か……、十五分くらい歩いた頃だったと。まだ明るかったのに、とも言っていました」
まあ、それはそうだろう。瑞姫はまだ北の森に入ったことはないが、西の森でさえ、歩いて十五分程度なら日の光が木々の間からこぼれていた。
「最初何もなかったってセリーナさんたち言ってたけど、魔物に遭遇しなかったんですか?西の森でさえ、入って十分も経たずに魔物と遭遇したのに?」
「そうなのよね。そこが可笑しいのよ」
「バトルラビットがうようよいますからな」
ランクCよりのBで、戦闘特化のたれ耳ウサギである。西の森にも生息はしているが、北の森の方が数は多く、集団で行動しているときもあるのだとか。どうやら、本当に魔物との遭遇すらなかったらしい。そして、明るいところでアンデッド。
「アンデッドが自ら日の当たるところに行くかと言えば、北の森に限っては恐らくないですね。あそこは総じて、光に弱いアンデッドしかいません」
アンデッドは、光に弱い物が多いのだ。例外も一部あるが、フォリアの言ったとおり、北の森に出るアンデッドの魔物は、総じて光に弱い。木々の葉によって光が遮られている場所もあるのだが、アンデッドが出るのは森の奥深く。よっぽどの事がない限り、そこから動かないはずだ。それに、光にあたっても消滅はしないが、魔物の力自体は弱まる。そんなアンデッドが、日の当たる手前付近に出てきた挙げ句、ランクC、Bの者たちが苦戦するかと言えば、ノー、と断言はできないが考えづらい。瑞姫も、まさかな、と思った。だが、話を聞いている内に思ったのだ。そのアンデッド、人為的なものだったら?と。
「ナイトメアは逃亡の事前準備がされていた可能性があるらしいんです」
「ラグさんが言いたいのは、事前準備ができていたのなら、ほとぼりが冷めるまで隠れ過ごすのもできなくはない、ってことかしら」
「はい。暗殺者ギルドだし、闇魔法得意な人いますよね?その中に、アンデッドを召喚できる、又は、操れる人がいたなら?」
「森の奥にいても、何らおかしくない……」
「魔物除けも万能ではないですけど、そこへそういう人がもしいたなら、可能性は大だな、と」
森の奥だからこそ、貴重な薬草や、恐らく食べられる実だとかがあるはずだ。そして、事前準備をしていたなら、食べ物をそこへ運び込んでおく事も可能である。
「とは言ったものの、これは私の憶測ですからね。本当に、強い魔物が入り込んでいて、生態系が崩れそうになっているとも考えられますし」
「……、どちらにせよ、緊急には違いはありませんな」
そう。暗殺者ギルドがいようが、魔物が入り込んでいようが、北の森で異変が起こっているので緊急には変わりない。
「なので、私が今から行ってきますね」
「そうですか……は?」
「え!?い、行くって、貴女が!?」
「言うと思った」
ちょっと買い物行ってきます、みたいなノリで言われた言葉に、フリッツとエイバンは驚き、アランは薄々勘付いていたと言う顔をしている。フォリアはそうなるだろうな、と思っていたので動揺すらしてない。
「ギルマス。ラグさん、とりあえずBと聞いた。実力はそれ以上なんじゃないか?」
「う……、まあ、そう、なのだが……」
「そうなの!?」
「あぁ。あの時は西の森に行ったからな。バトルラビットですら、この方の敵ではないから……」
「もっと良い情報があります」
バトルラビットだけでも良い比較対象だが、それ以上があるというフォリア。瑞姫はそうだっけ?と思いながら次の言葉を待った。
「――――この方は、第一騎士団長と渡り合えるお方です」
ぴしり、と三人が固まった。フォリアが放った言葉はそれ以上の比較対象。瑞姫は、何故そこでレイノートさん?と思ったが、彼はランクSの魔物を倒せる実力の持ち主だ。三人は硬直が解け、顔を見合わせる。
「……、それは、確実にSなんじゃないのか?え、化け物だろあれ」
「化け物ね」
「化け物だな」
第一騎士団長は化け物、と言う認識は、ここでも流れているようで、瑞姫は苦笑いしたのだった。
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