自由な女神様!~種族人族、職業女神が首を突っ込んだり巻き込まれたりの物語。脇に聖女を添えて~

時雨

文字の大きさ
53 / 63
本編

41.朽ちた小屋と不快な人たち

しおりを挟む
 ずるずる、ずるずる、と引きずる音を立てながら、瑞姫たちは森の中を進む。何の音か、と思うが、なんて事はない。先ほど遭遇したキョンシーを、瑞姫の水の異能で引きずりながら引っ張っているので、地面をこする音がしているだけだ。そのキョンシーの両手両足は、がっちりと氷で固めてあり、動く事は出来ない。

「なんだか、そうしているとキョンシーも哀れね」
「一瞬だったもんな……」

 一同は哀れみの目を引きずられているキョンシーに向けた。
 瑞姫によるキョンシー捕縛作戦は、本当に一瞬だった。なんせ、空気中の水分を操り、両手両足を爪先まで覆ったかと思えば、一瞬で氷漬けにしてしまったのである。水の異能は、温度変化も可能なのだ。なので、キンキンに冷えた水や、あっつあつのお湯なんかにもできる。これは氷点下まで温度を下げるイメージをする事により、出来る技だ。何故氷で固めたかと言えば、水のままだとそれに意識を割いていなければいけない。氷であれば、溶けない限りほかっておいても問題ないからだ。

「予知能力とかはないんだよな?」
「ないね~」

(うーん。予知能力があったら、ギルドより先にシリウスに言うよね。それにしても、こういう懸念があるからギルドに行ってくる、くらいは伝えておくべきだったかな。……ま、いっか)

 キョンシーを捕縛した後、その死体を観察していれば、死体にしては状態が綺麗な事に気がついた。服は草臥れた感じだが、争ったような形跡もないし、破れたところもない。肌が見える場所に古傷はあるが、新しい傷もなさそうだった。唯一血が流れた跡があったのは、口。恐らく吐血だ。毒殺では?と意見が一致する。格好も一般人ではなく、暗殺者が好みそうだと言う事もあり、まさか、と両肩の布部分を引き裂いてみた。

「ですが……、憶測が憶測ではなくなりました」
「そうね~。私たちでは考えもしなかったわ」

 そうしたら、左肩にあった。ナイトメアに所属する者たちが掘る刺青タトゥーが。一つ目の瞼が閉じている絵にナイトメアの頭文字。指でこすっても消えないし、贋作でもない。左肩なので幹部ではないが、それでも暗殺者。硬直が解けていたら、暗殺者の動きをするキョンシーである。硬直が解ける前に捕縛出来てよかった、と一同安堵した。これにより、瑞姫の憶測が憶測ではなくなった。つまり、立派にフラグ建築してしまっていたという事だ。もちろん、“国外に及ぶ”方ではなく、“暗殺者ギルドは森に隠れている”方である。

「まあ、あたってほしくなかったけど……」

 そして今は、もっと奥に向かいながらアジトらしき物を探している最中だ。
 奥に進むにつれ、だんだんと薄暗くなって、心なしか空気もどんよりと重くなってきている。アンデッドにもちょくちょく遭遇するようになった。瑞姫にとって、キョンシーで感じた呪いっぽいけど呪いじゃない気配は、やはりアンデッド全てに当てはまると確信出来たので悪い事ではなかったが。

「ふーん、ふふーん」

 鼻歌交じりに、グールやスケルトン、ゾンビをちぎっては投げ、ちぎっては投げ……。ランクがどうとかは全く関係なく、全て一撃で倒していた。倒すというか、消滅させるというか……まあ、意味は一緒だが。試験も兼ねているので、試験官である二人は手を出さないのは当然だが、フォリアも手を出す隙がなく、静観である。

「私、アンデッドをこうも簡単に、鼻歌交じりで倒す人、見た事ないわ」
「誰だってそうじゃないか?俺も初めて見た」
「さすがミズキ様です」

 瑞姫が戦闘中は、キョンシーはフォリアの足下で押さえつけられている。何故瑞姫がいとも簡単にアンデッドを倒せるかと言えば、ひとえに宝石の異能が関係していた。水の異能でも倒せるのだが、こっちのほうが楽だったのだ。

(いやあ、まさか、宝石の浄化作用がこうも効くとはね~。楽チーン)

 アンデッドでも、どういった攻撃が効くのか実験しながらの戦闘だったが、最初に感じた呪いっぽい気配を思い出し、試しにやってみたのだ。効果抜群だった。スケルトンやゾンビなどは、元々死体であり、首をはねても心臓を狙っても動く。水の異能ですら何度か攻撃しないと倒せなかったのに、そこへ浄化作用のある宝石を付け足せば、瞬く間に消滅していくのだ。

(宝石の異能は使用しないでいられるといいな、って思ったけど、前言撤回。いや、時と場合によるけど、こういう戦闘なら、まあフォリアの前でなら使っていこう。だって楽だもん!)

 自分を宝石に見立て、殴り消滅、蹴って消滅。太刀の刃に沿って宝石で覆い、切りつければ消滅。後に、アンデッド・スレイヤーと呼ばれる事を、このときはまだ知らなかった。
 瑞姫たちは順調に奥へ奥へと進んでいった。瑞姫が倒していくので先頭に立っているが、突然ぴたり、と停止し、後ろからついてきているフォリアたちへ顔を向ける。

「なにかあるよ」

 しーっ、と唇に人差し指を当てながら小声で言うと、フォリアたちはお互い顔を見合わせた。瑞姫が木の陰に移動して様子をうかがうので、彼らも同じようにそれぞれ木の陰から瑞姫の見やる方向へ視線を向ける。

「!……朽ちた小屋……、ですか」
「人の気配は……わかりづらいけど、いる、わね」
「見張りは立ってないが……。立っていない代わりに、罠があるだろうな」

 瑞姫が見つけたのは、朽ちた小屋。少し距離があり、鬱蒼と生い茂る木々に囲まれてギリギリ見える程度だが、エイバンの言うとおりわかりづらいが人の気配がある。瑞姫の魔力感知では、小屋の中から約十人ほどのものを感じ取れた。あと、呪いの気配も感じ取れる。ここでその気配が感じ取れるという事は、元は大きいかもしれない。フォリアも呪いの気配も感じ取れたよう。しかし、人がいると言う事はわかっても、それがナイトメアだとは限らない。まあ、こんな住みづらいところにいる時点で、訳ありという解釈が出来るが。もう少し近寄ってみる事にした。ここからはキョンシーを引きずる音を立てるわけにはいかないので、フォリアが噛まれないよう抱え上げる。キョンシーはまだ死後硬直が解けていないので、騒ぐ事はない。素早く、慎重に、足音を立てず、気配も殺して。

(呪いの気配が、とっても強いな……。あの小屋の中からだという事はわかるけど、……ん?)

 ある程度のところまで近寄り、また木の陰に隠れる。小屋の全体が見えるギリギリの位置で観察していれば、小屋を囲うような一定間隔をもって、地面に描かれている魔法陣に気がついた。フォリアに目配せすれば、彼も気づいているようで頷きが返ってくる。

「魔法陣って、隠蔽したりしないの?罠だよね?」
「隠蔽しますよ。……するのですが……見えてますね」
「ね」

 二人でこそこそ、と話していれば、見えないわよ!と小さい声が飛んできた。え?と思いエイバンを見れば、隣にいるアランも見えないと首を横に振る。

「隠蔽されてるんじゃないのか?」
「魔力感知で仕掛けてある魔法陣が見えるとか?」
「魔力は感知出来るかもしれないけど、見える事はないわね」

 エイバンにバッサリ切り捨てられた。アランも首を縦に振っている。瑞姫はフォリアと思わず顔を見合わせた。

「ミズキ様、隠蔽ですよ。やはり、あのスキルが関係しているのでは?」
「!なるほど……」

 確かにそうかもしれない。瑞姫が以前、フォリアに話した真偽鑑別スキルの事である。見えるはずのものを見えないそこにあるのにないと嘘を言っている、という意味に捉えれば、見えるのではないか、という強引にこじつけたものだ。

「色々聞きたいけれど、後回しね」
「しっ」

「――――ッ!」

 小屋から、人の叫び声が聞こえる。多分何かを大声で話しているのだろうが、ここからではよく聞こえない。だが、小屋からは殺気立っているような複数の気配が、空気を震わせているように感じた。

「言い争いですね。……所々しか聞こえないのですが。しかし、この殺気は……」
「あぁ、強いな」

 フォリアは眉を寄せて一生懸命声を聞き取ろうとしているが、上手くこちらに風が流れてこず、聞き取りにくいようだ。じ、と様子をうかがっていれば、殺気が膨れ上がりそして――――

「ぎゃぁぁあああ!」

 全員が息をのむ。断末魔と共に、人が血飛沫を上げながら扉を巻き込んで飛ばされてきたのだ。そのまま地面に叩きつけられた人は、何回かバウンドし動かなくなる。ここからでも事切れているのがわかった。

「ヒャハハハハ!オレ様に逆らうからだよォッ!」

 のそり、と大柄な男が高笑いを上げながら出てきた。隻眼の男だった。手にはジャマダハルがあり、鮮血がしたたり落ちている。返り血を浴びたようで、男も服や肌が血で染まっていた。

「オーイ!駒が増えたぞォッ」
「もー、汚い体にしちゃってぇ。身体は綺麗な方が好ましいのにぃ。呪術もそこまで万能じゃないのよぉ?」

 女も出てきて、男にしなだれかかる。

「ったくよォ。毒飲んでくれりゃあ、綺麗な体のままキョンシーになれるってェのに。手間ァ、かけさせんじゃねェってーの」
「本当よねぇ。役立たずだったんだからぁ、死体では役に立ってもらわないとね~」
「頭ァ!生きた人間いなくなっちまうぜぇ!ギャハハッ」
「いーんだよォ。隠れるなら、あの人数は多いだろォ?コレですっきりしたぜェ」
「違いねぇ!」

 別の男も出てきた。

「もぅ、ちょっとは静かにしなさいよぉ。いくら罠が仕掛けてあるとはいえ~、結界はないんだからぁ」
「つか、こんなところ探しにくるんっすか?」
「さぁねえ?よぉっぽどの物好きじゃなきゃぁ、こんなところ、来たくないと思うけどぉ」

 よっぽどの物好きじゃないが、調査に来ている瑞姫たちが木や茂みに隠れている事を、彼らはまだ知らない。油断しているのか、情報をぽろぽろこぼしてくれるのは良い事だ。
 この会話でわかった事は、仲間を殺しキョンシーにしている事。女が呪術師。隠れるために人数を減らしている。地面にある魔法陣は罠で、結界はない。真偽鑑別スキルに引っかからないので、言っている事は本当である。

(全く、胸くそ悪いな。仲間殺しの上、仲間の死体を魔物にして使役して?要は、こいつらが生き残るための生け贄みたいなものじゃないの?……狂ってるわ)

 元々ここら辺は薄暗く気温が低いが、瑞姫から漂う冷ややかな空気で更に温度が低くなった。顔を伏せているのでフォリアたちにその表情は見えないが、ごっそり抜け落ちている。フォリアだけは、瑞姫から流れてくる感情が怒りである事がわかった。

(潰していいよね?別に、戻って応援呼ぶとか、来るまで待つとか、しなくて良いよね?油断してる今がチャンスでしょ)

 魔力感知でわかる人数は、死んだ一人を除いて残り九人。内三人は外に出ていて、二人は小屋の一階、残りの四人は下から気配がするので、地下だ。これまでくぐり抜けてきた修羅場で得た経験と、勘が言っている。こいつらには、勝てる。

「ねぇ、そいつ運んでよぉ。キョンシーにしちゃうからぁ」
「へいへーい」

後から出てきた男が、女の指示に従って死体に近寄っていく。それを見た瑞姫は、動いていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

幼子家精霊ノアの献身〜転生者と過ごした記憶を頼りに、家スキルで快適生活を送りたい〜

犬社護
ファンタジー
むか〜しむかし、とある山頂付近に、冤罪により断罪で断種された元王子様と、同じく断罪で国外追放された元公爵令嬢が住んでいました。2人は異世界[日本]の記憶を持っていながらも、味方からの裏切りに遭ったことで人間不信となってしまい、およそ50年間自給自足生活を続けてきましたが、ある日元王子様は寿命を迎えることとなりました。彼を深く愛していた元公爵令嬢は《自分も彼と共に天へ》と真摯に祈ったことで、神様はその願いを叶えるため、2人の住んでいた家に命を吹き込み、家精霊ノアとして誕生させました。ノアは、2人の願いを叶え丁重に葬りましたが、同時に孤独となってしまいます。家精霊の性質上、1人で生き抜くことは厳しい。そこで、ノアは下山することを決意します。 これは転生者たちと過ごした記憶と知識を糧に、家スキルを巧みに操りながら人々に善行を施し、仲間たちと共に世界に大きな変革をもたす精霊の物語。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。 何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。 カミサマの許可はもらいました。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

成瀬一
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...