自由な女神様!~種族人族、職業女神が首を突っ込んだり巻き込まれたりの物語。脇に聖女を添えて~

時雨

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本編

45.一人タイムと甘い雰囲気は一瞬

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 夕食も落ち着いてとれているので、聞けなかったことを聞いてみた。

 リネルカイトがリカルドを案内してきた理由。それは、この暗殺者ギルドの件だ。
 まず、リネルカイトは目覚めて直ぐ、フリッツに森の異変を報告。森の奥深くにある朽ちた小屋に出入りしている愚か者がいる、と。弱そうであったが、身のこなしや格好から見て恐らく暗殺者ギルドの人間。強力な魔物除けをしてあるのと、恐らくアンデッドキョンシーになりたくなかった魔物が、その近辺から逃げたのだろう、と。フリッツからの依頼は森の異変の調査。その場は攻めず、情報を持ち帰る最中にセリーナたちを助け、呪いを受けてしまった。
 それを聞いたフリッツは、瑞姫の憶測が当たっていることを確信。大急ぎで文を書き、それをリネルカイトが城に届けたそうだ。そこでも一悶着があったが、王に無事文は届けられた。

「え、陛下に直接届けられたの?」
「えぇ、特別な理由だと思いましたので。権力とコネは、使えるときに使わねば。あと、驚いたことにモチネコが協力してくれまして」

(笑顔で、さらっと利用出来る物は利用するっていった……。まあ、私もそうだから否定はしないけど)

「ミズキ様に懐いているモチネコだろう?文をくわえて城内を駆け抜け、父上の元まで届けていたぞ」
「おぉう……」

 一悶着の一部はこれらしい。確かに、普通は王に直接届けられることなどないのだが、リネルカイトは今が特別な理由だと思い、一瞬だけ肩書きの権力を使用。それと、突如現れたモチネコのおかげで届けられたらしい。王城内の人間は、女神がモチネコと行動をしている、と言う情報を把握していた(情報の周りが早すぎる)。普段姿を見せることがないモチネコが姿を現し、城内大爆走。緊急事態だと思ったそうだ。確かに緊急事態ではあるが……。どれほど大騒ぎになったのか、想像したくない瑞姫である。何故王がわかったとか、何故王の顔を知っているとか色々疑問はあるがそれは帰ってから聞くとして。現在モチネコは、シリウスのもとにいるとのこと。後で褒めてやらねば。この件はシリウスが担当だが、忙しい彼に代わりリカルドが騎士団を率いて北の森に。そして、今に至る。

「まあ、来てみたらミズキ様が全て片付けた後だったわけだが」

 ははは、と瑞姫は乾いた笑いを上げた。

「最初は砂埃で見えなかったようだが、どうやって気絶させたんだ?打撃音とうめき声だけが聞こえたとのことだが」
「え?砂埃の中に跳び込んで、跳び蹴りかましただけだよ」
「……そうか」

 結構吹っ飛んだが、骨折程度だから運が良い。内臓が傷つかなかっただけマシだろう。フォリアだけはさすがミズキ様、と言っているが、周囲が瑞姫に恐れを抱いていたのは気づかなかった。

 その後、瑞姫はそこから抜け出して、小屋の裏に来ていた。大きい石があったので、そこに腰掛けて空を仰ぎ見る。

「……星すら見えないな……」

 ランプを持ってきているので明かりはあるが、真っ暗だ。表からは音が聞こえるが、ここだけ切り取ると一人っきりの世界である。しかし、それも数秒のこと。ざっ、と後ろで砂を蹴る音がして、緩く振り向けばフォリアが立っていた。一人タイム終了のお知らせである。

「ミズキ様、お風邪を召されますよ。それと……お眠りには?」
「大丈夫。……うーん、たぶん、人が多すぎて寝られないと思うから……」

 瑞姫は、知らない気配が多いところでは目はつむるが、意識は落とせない。

「ところで、ミズキ様。第六騎士団の女性たちと夕食をお作りになっていたとき、何かありました?」
「へ?」
「いえ、いやに感情の起伏があったものですから……なにか、言われましたか?」

 急な話題変更に、瑞姫は目を丸くさせた。だが、夕食作りの時を思い出す。感情の起伏。フォリアが人気だから、手を出す馬鹿がいないとも限らないから気をつけろ、と言う忠告くらいだ。あとは、瑞姫が勝手に嫌だな、と思ったことくらいか。それを思い出し、またちょっと気持ちが沈んだ。

「いや、彼女たちと何かがあったわけじゃないんだけど……」
「ですが、何かありましたよね?お心を痛める、何かが」

 うわー、と瑞姫は半眼になる。ぐいぐい来るな、この従者。感情が伝わっているから、筒抜けなのはわかるが。

「んー……なんっていうか、フォリアは私以外の誰かの隣に立つのかなと」
「あり得ませんが」

 食い気味に否定された。なんと、それだけで心がふんわり軽くなる。

「お披露目の時にもお伝えしましたが、私は、ミズキ様一筋です」

 力強い言葉と共に、ちょっと怒った感じと、甘く温かい感じも一緒に伝わってきた。
 以前、お披露目の時にセレネイズやジークレイと話題になった結婚話を思い出す。フォリアは“これからも、ありませんよ。ミズキ様一筋ですので”と言った、あれだ。あの時は従者だからかな、とさらっと流したが、結局アレの真意は何だったのだろうか。それを聞こうかと口を開くが、フォリアの方が早かった。

「この際なので、しっかり伝えさせていただきます」

 そう言って、フォリアは瑞姫の前に片膝をつき、膝の上に置かれている瑞姫の手をとった。フォリアの真剣な瞳が瑞姫の瞳とぶつかる。

「私はあなたと出会えたことを、運命とさえ思いました。主従契約を交わし、誓ったあの言葉に嘘偽りはない。私はあなたのために生きる。この身も心も、全てミズキ様のもの。他の、誰の物にもならない。私がミズキ様以外の誰かの隣に立つことは、一生あり得ません。私の隣は、ミズキ様しか立てません。ミズキ様の席しか、空けておりません。ですので、他の誰かが何を言おうが、言われようが、手を離すことだけは、しません。絶対に、です」

 真摯な態度で、少し低い声で、普段とは違う熱がこもったような言葉が瑞姫の胸を打つ。瑞姫と同じ宝石のような瞳がランプの光を浴びて煌めき、全力で訴えてくる。目をそらすなと。嘘偽りはないと。フォリアはそう言い切り、熱のこもったひとみを下に動かした。握った手を口元まで持って行き、指先に口づける。まるで、主従契約を結んだ時の誓いをやり直しているように見え、瑞姫は目を丸めたまま動けなかった。ちゅ、とリップ音がして、はっ、と我に返る。唇は離れたが、フォリアの熱い吐息が指先に当たって、気恥ずかしい。うっすらと頬を色づかせた瑞姫に、フォリアの口元は弧を描き、瞳にはまた違う熱を孕ませていた。それがなんともいえぬ色気を醸し出しており、瑞姫の顔の熱は上昇していく。

「ですので、ミズキ様」
「っ、は、はい」

 一拍遅れて、瑞姫は返事をした。思わず敬語になる。そんな瑞姫にフォリアは、一転して顔に影を作って微笑んだ。さっ、と瑞姫の顔色が変わる。あ、これなんかヤバいやつ。

「二度と、えぇ、二度と。そのようなことは口になさらないように、お願いします、ね?」

 ランプが良い感じにフォリアを照らして顔に影を作るものだから、恐ろしい雰囲気だ。先ほどの甘い雰囲気なんか、一瞬で消し飛ぶほどである。最後の、ね?には、有無を言わさぬ力があった。圧がすごかった。返事は“はい”しか認めないと、フォリアの瞳が言っている。

「!?は、ハイッ!」

 ひぇっ、と瑞姫は肩を揺らして返事をした。フォリアはいつもの、すん、とした表情に戻ると、立ち上がる。

「ミズキ様、眠れずとも、目はつむった方がよろしいですよ。皆のもとへ」
「……いや、ここでいいよ。皆が気を遣うから」

 女神という肩書きは、厄介だ。気を遣って遠慮される。それは、あまり好きではない。フォリアは小さく息をつくと、瑞姫をひょいっと抱き上げた。

「えっ!」
「お静かに」

 フォリアはそのまま大蛇になると、瑞姫を中心に絡みつくようにとぐろを巻く。瑞姫はフォリアの胴体に寝そべるような体勢になり、地面から遠ざかった。

「この体勢ならきつくないでしょう。朝までお傍にいますから、少しはお眠りください」
「……っ、っ!」

 フォリアの顔が、すり、と瑞姫の顔にすり寄り、膝の上に落ち着く。

(いやフォリアこれ、逆効果だけど!?私が蛇好きって知ってるでしょ、ねえ?まあ?昔は蛇に包まれたいなと思ったことはあるよ?さらっと叶えられると戸惑うんだけどな?どうしよう、興奮して寝られなくなった)

 ベタベタ触ると蛇化を解かれてしまうので我慢するが、興奮で余計眠れなくなった瑞姫だった。



「ねえ?」
「なんだ」

 エイバンが下にいるアランに小声で問いかける。

「あれ、ほんっとーに、恋人同士じゃないのよね……!?」
「らしいな」
「そうなのか?しかし、ミズキ様には大分、フォリア殿の匂いが移っているが」
「主従契約は結んだが、ミズキ様が鈍感すぎて進展なしだそうだ」

 小屋の壁からのぞき見るように、下からアラン、エイバン、リネルカイト、リカルドの順で、顔だけトーテムポール風だ。フォリアの後を、離れてこっそりつけてきたのである。瑞姫とフォリアの様子は、他から見ればイチャついているようにしか見えない。

「それにしても、フォリアってハーフって聞いていたけど、蛇化出来たのね?」
「ミズキ様と主従契約を結んだ恩恵だそうだ。ミズキ様は蛇がお好きでいらっしゃるから、フォリアが蛇化出来ると知って大層喜んだと聞いている」
「そうなんですか……」
「白蛇族は、まだ受け入れられない人もいるからな……。今、城内はどうなのですか、殿下」
「面白いことになっているぞ」

 くくく、とリカルドは瑞姫に関する噂を思い出し、喉を鳴らして笑う。

「ミズキ様が、白蛇族を侮辱したらぶっ飛ばしに行くと宣言なされた。あれだけエヴィル家に嫌味を言っていた奴らが、途端大人しくなったのは笑えたな」
「ふはっ、それはそれは。よろしいことではありませんか」
「あぁ、全くだ」
「あ」
「あ、気づかれましたな」

 フォリアの顔が四人のいる方を向き、鋭い眼光を放った。やっべ、と言う顔をして、四人は素早く頭を引っ込める。

「これ以上は、覗くわけにはいかないわね」
「フォリアに噛まれたくはないしな」

「――――えぇ、噛まれても知りませんよ?」

 割り込んできた第五の存在に、四人はばっ、と後ろを振り向いた。足音も気配もなく、四人の背後にシゼルがいる。それも、とてつもなくいい笑顔で。

「し、シゼル、あの、これはだな……!」
「揃って出歯亀とは、面白いことをなされますね?さ、皆様、ここではなんですから、表へ戻りましょうね」

 言い訳をしようと口を開くが、シゼルが握っているランプの取っ手から、ミシリ、と音がして閉口した。全員シゼルについて表に戻り、その片隅で容赦ない説教を受ける。それは、見張りを省いた全員が就寝につくまで続くのだった。

 そして、翌朝。後片付けをし、小屋を出発。魔物が戻ってきているのか、道中戦闘は何回かあったものの、無事全員が北の森を抜け帰還するのだった。
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