魔輝石探索譚~大賢者を解放するため力ある魔石を探してぐるぐるしてみます~≪本編完結済み≫

3・T・Orion

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第五章 ヴェステ王国編

3.裏で動く

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「フレイ…フレイ…こんな所でうたた寝したら駄目だよ」

夜更けきらぬ宵の口、風が優しく吹き抜ける窓辺の椅子。
まるで青の間にいた時のように起き上がり手を伸ばすと、そこにリーシェが居た。

「リーシェ…」

起きて座り直し此処がエリミアでは無いと実感して夢かと思う。仄かな…でもしっかりと感触のあるリーシェが立っていた。

「疲れているのに起こしちゃったね」

涼やかで美しい顔に溢れかかる銀の髪をすらりと伸びた指でいつものように耳にかけ、子首をかしげて微笑む。
只そこに居てくれるだけで…存在を感じられるだけでフレイリアルは嬉しかった。

「リーシェ!」

立ち上がりガバリと抱きつく。
そこには確かな感触と姿がある。
銀の髪のカーテンに囲まれ、温もりある腕に包まれた空間は安心して落ち着く1つの世界の様だった。フレイは世界が此処だけでも良いのでは無いかと思ってしまう。
見上げると慈愛に満ちた灰簾魔石色した優しい瞳から溢れるような暖かな情が降り注ぎ、更なる優しさでフレイを包み込む。
この魔力の循環…思いの環は誰にも妨げる事はできない。

「遠見の鏡の魔力が満ちる頃だったから、つい使ってしまったんだ…」

「会えて嬉しい…会いに来てくれて嬉しいよ」

花咲き溢れるようにフレイリアルが微笑む。
微笑むフレイを今度はリーシェライルが力一杯抱き締める。だが実態伴うとは言え映像であり、どんなに抱き締めてもその力強さ迄は伝わらない。

「やはり本当に会いたいな…実体伴う映像でも満足できないとは思わなかったよ」

「そうだね、本当に会ったらもっとギューってしたいよね」

フレイもそう言って笑顔で返す。

「自分がどんどん欲張りになって怖いな」

「リーシェは欲張りなんかじゃないよ! もっと色々と手に入れて良いと思う」

リーシェライルの目を見て力一杯断言したフレイ。
皆の為に色々と頑張っているリーシェライルは、欲しいモノは何だって手に入れるべきだとフレイリアルは思ったのだ。
まずはリーシェに自由を…囚われず動ける自由をあげたかった。

「じゃあ、僕はフレイの全てを手に入れても良いのかな?」

「?!」

艶然と甘い瞳で視線とらえ、無敵の微笑みで篭絡する。
予想外の切り返しに真っ赤になり固まるフレイだが、無意識に真剣な思いが口から紡ぎ出される。

「私の全てをリーシェは手にしているよ…だって、リーシェは私と何時如何なる時も共に居る人だもの…」

その言葉にリーシェライルの瞳から一粒…月の光受け固まった月長魔石のような涙が頬を伝う。

「ありがとう…嬉しいよ…」

心からの笑み浮かべ清廉な瞳で見つめる。
そのまま時間の許す限り寄り添い、顔を見合わせ他愛のない話をし続けた。

「そろそろ時間が来てしまうようだね…」

残りの魔力の状態を感じ取り、リーシェが悲しげに告げる。
また暫らく会えないと思うとフレイも苦しさを感じた。
思わずフレイは衝動的に実体薄れつつあるリーシェに、初めて自ら口付けてしまった。
自分自身の予想外の行動に再度紅色に染まるフレイ。

「…!」

驚きを持ち言葉なくフレイを見つめるリーシェの口元は緩み、目を細め極上の甘い笑みを浮かべる。
そして恥じ入り顔背けるフレイを捕らえ、返礼の深き口付けを…今度はリーシェライルがフレイリアルへ捧げるのだった。
そこには永遠に繋がる魔力の環が出来上がり循環し続ける。
完全に姿消えるまで抱きしめ合う姿は既に親愛の情を越えた愛しい者同士の包容となっていた。

暫しの後、窓際の2人の姿を見かけたキミアが安全の確認に訪れたため、リーシェライルと遠見の鏡を使ったことを何処か恥じらいながら説明するフレイリアル。
キミアは目線逸らし答える。

「問題は無さそうだね…」

その表情が取り繕われたぎこちないものである事にフレイリアルは気づかなかった。
フレイとリーシェの逢瀬の様な時間を目にしたキミアの心の中に、一定以上の情が生まれつつ有ることに気付く程の余裕も経験値もフレイリアルには無かった。察してもらえる事の無い思いは再び奥底に潜って行く。

キミアはその時ついでに明日の詳細も教えてくれた。
色々細かく気遣いもしてくれる。
説明終わり退室するとき、明るくキミアがフレイに注意する。

「明日は昼ぐらいの出発だけど、ちゃんと用意しといてね! 大賢者様とお話出来て興奮して目が冴えちゃったからって寝坊しちゃダメだよ」

「いくら私だって大丈夫だよ!」

「眠れないなら子守歌でも添い寝でも何でもしてあげるよ~」

「遠慮しま~す」

その遣り取りは、何の裏の無い無邪気な仲間の会話だった…。
いよいよフレイとキミアとクリールでサルトゥスまでの道を行くことになる。



出港前の船の上、キミアは久々に子供姿だった。そして見送りに来たキミアの影武者を務める者が大人姿のキミアとなってそこにいた。

「キミアは何で今回は子供姿なの?」

「大人の姿で行くと仕事の話とか色々必要になってくるから、リャーフは特にこの姿が良いんだ」

「御屋形様、子供姿だからと言ってはめをはずしすぎないで下さい。フレイリアル様のご迷惑になってはいけませんよ」

「は~い」

本当の子供の様に教え諭されるキミア。
王宮で紹介された時は逆に子供姿だったカリマが、大人姿に変貌してキミアの影武者となり保護者のように注意する。
キミアの行動は子供その物であり、色々と冷やかしで荷物を見て回っていた。

「ご迷惑になるときは怒ってくださいね、そうしないとあの人は理解出来ないんですから…」

この主従の関係をちょっと羨ましいと思い、何だかキミアにカリマの様な人がいて良かったと思うフレイだった。

出港前3度目だと思っていた船だが、船が動き始めてフレイにとっては4度目の船の上であることを思い出す。
そしてリャーフも2度目である。

1度目と2度目の船の記憶が不快な思い出に繋がるので、頭の中から追い出したかったのかもしれない。
今更ではあるが覚悟するためにも、船の上にいる間にキミアに確認しておく。
あの2度と会いたくない男の本拠地で、なるべく関わらないためにもフレイは勇気を出して尋ねる。

「リャーフのアスマクシル商会って取引したりするの?」

「今回の商品はトンノ商会に扱ってもらうんだ。アスマクシルはリャーフの王宮とかヴェステの王宮とか、公な所との商売がほとんどだからあまり一般の商会とは取引はしないよ。サージャは親戚みたいだけどね」

「親戚?」

「五都エクシーの出身らしくて、2人とも現エリミア大賢者の縁戚らしいよ」

「そうだったんだ…」

フレイはリーシェライルが五都出身だと言うこと自体知らなかった。

『リーシェの昔の話はあまり聞いたこと無かったな…』

少しリーシェの事が出てきたため、思いを馳せているとキミアが尋ねる。

「僕はあまり直接商売に関わらないのでアスマクシルは良く知らないのだけど、何か懇意にしてるの?」

「いやっ、色々な所であまり良い噂を聞かなかったから…」

『少しだけ話を作ってしまったけど、闇石なんか扱ったり、人を捕まえて落とし入れたり、悪い商会…少なくとも悪い商会長に決まっている!』

力強く心の中で断言するフレイであった。

「商売の遣り方としては、大口顧客を確保して安泰そうだよね。でも確かに僕が聞く噂にも気持ち良いものがないからね…」


フレイとの雑談後キミアは、商会長用に用意されている部屋で若干の執務をこなすと言ってその場を離れる。

『アスマクシルか…あそこの商会長の根性と執着心は驚くべきものがあるな…巫女の影響力のせいなのかな…』

アスマクシル商会の商会長エルシニアはフレイリアルを諦めていなかった。
八方手を尽くし探し出し、神殿に連れ去る前より居場所を突き止めているようだった。

「我が手で運んでいるモノを既にご存じ…と言う事ですね」

キミアが子供姿のままナルキサ商会の最高経営責任者としてお仕事の顔で呟く。

船に乗った後、アスマクシル商会はなく…その商会長個人より申し入れがあった。破格の条件での申し入れ…わざわざ相手から好条件引っ提げて申し入れてきてた絶好の商機、商人としては見逃せない。

ナルキサ商会は善良優良な物を扱い、真っ当な道歩む商会である。
勿論、裏ではありとあらゆるモノを扱う…そして今回の取引も裏。

「買取価格は無限に出す…って、手に入るなら全て失っても良いと言うことじゃあないですか? ちょっと判断基準が理解できないや…完全に繋がりに囚われているよね」

呆れた様に独り言ちる。

『ここまでの執着あるなら実験には丁度良いかもしれないな…与えたら呪縛が解けるのか試す為の…』

そして軽く手を挙げ、潜む者を呼び寄せる。

「申し入れの返事をしてあげて下さい。金銭の条件は提示して頂いたように我が商会に帰伏…と言うことで良いでしょう。あぁ~丁度良いからインゼルで手に入れた売れ残りの人形も引き取って貰おうかな…あちらの方がそう言うの売り捌くの上手でしょ?」

一方的に話し指示していく。

「各方面で足がつかないようにして下さい。下手な恨みは買いたく無いですからね…あちらさんが失敗した時の為にも大切なことです」

ありとあらゆる可能性を検討しておく。

「ついでに餌を与えてる所を大賢者様に見てもらって、その表情を僕が観察するって言う最高に下衆な楽しみ方も出来そうだなぁ」

更なる愉しい場面を想像し、暗い思い昂りが最高潮となる。
キミア自身に出来上がりつつある繋がりが、呵責により引き裂かれるように酷く痛む気がするが我慢する。

『余計な部分は見ないようにしないと、正しいお仕事ができなくなってしまいますからね』
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