もふもふで始めるのんびり寄り道生活 便利なチートフル活用でVRMMOの世界を冒険します!

ゆるり

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11章 夏の海ではしゃいじゃお

437.はじまりの街にて

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 またダンジョンに挑むというルトたちと別れて、はじまりの街に転移!
 着いたのは西の港なんだけど……

「およ? すごく殺伐としてるね?」

 西の港(船着き場)と街の境目にバリケードが築かれてる。
 そこにはたくさんの冒険者がいて、海の方に厳しい視線を向けていた。たまに魔術や矢を放ってる人もいる。

「……あ、そっか。これ、シーズンイベントか」

 ちょっと考えてから、近くの異世界の住人NPCの冒険者たちが話していることを聞いて納得した。
 夏の時期はモンスターが海から押し寄せてくるのが恒例なんだって。
 だから、殺伐とした雰囲気だけど、わりと落ち着いて対処してるんだね。慣れてる感じ。

 その光景を眺めていたら、見慣れた姿がいることに気づいた。
 レナードさんとランドさんだ! 僕の錬金術の師匠と、馴染みの薬屋さんの店主。
 海の方を眺めて、何か話し合ってる。

 僕が向けた視線に気づいたのか、二人が振り返った。僕を見て目を丸くしてる。
 とりあえず「やっほー」と手を振って近づいてみた。

「ここで何してるのー?」
「……アイテムの不足がないか確認しに来たついでに、戦況の把握をしてるんだよ」
「俺は薬の納品に来たらコイツがいたから情報交換してたのさ」

 レナードさんが「お前こそ何してるんだ?」って言いたげな目をしてるのをスルーする。
 僕はただ転移してきたらばったりこの場面に遭遇しただけです。

 ランドさんは「アリスは子猫と散歩中だぞー。たまには会ってやってくれ」と笑っていた。
 もちろん、今度会いに行くね! また一緒にシークレットエリア散策とかしたいなぁ。

「錬金術はちゃんと使ってるのか?」
「ぎくっ……商品作りとか、がんばってるよー」

 レナードさんに言われて、ちょっと目を逸らしながら答える。
 えへへ、修行はサボってるかも。新レシピのアイテムとか、ちゃんと作って錬金術もがんばらないとなーとは思ってるんだけどね? したいことが多すぎて時間が足りないんだよぉ。

「はぁ……困ったことがあったら、聞きに来い」

 頭をポンッと叩かれた。
 叱られなくてよかったー。ちょっぴり呆れられた気がするけど、レナードさんは優しいから僕を見放さないはず!

 ランドさんはそんなレナードさんを見てククッと押し殺した笑い声をこぼす。
 なんか面白いことあった?

「ちゃんと師匠してるんだな、レナード」
「うるさい。お節介焼きのお前に言われたくない」
「俺、お節介焼きと言われるほどか?」

 レナードさんが鬱陶しそうにランドさんを見て、肩をバシッと叩く。
 ランドさんは不思議そうに首を傾げていた。
 この二人が揃ってるところ、初めて見たかも。想像以上に仲いいんだねー。

「ランドさんに色々教えてもらえて、僕はすごく助かってるよ! お節介ばんざい!」

 両手を上げて僕はニコニコと笑う。
 薬に関する情報をもらえるから、本当にランドさんにはお世話になってるもんね。レナードさんを紹介してくれたのもランドさんだし。

「そりゃ、どうも。それより、モモはここにいていいのか? 長くここに留まると、冒険者ギルドの職員に見つかって、海岸線防衛に駆り出されるぞ」
「そうなの!?」

 ランドさんが笑いながら教えてくれた情報にギョッとする。
 海岸線防衛って、強制力あるんだ? 参加するのが嫌なわけじゃないけど、今は別のことしたいなぁ。

「──じゃあ、僕、用があるから行くね!」

 ビシッと敬礼して告げる。
 用という用があるわけじゃないけど、嘘も方便ってことで。

 ランドさんとレナードさんは僕の考えなんてあっさり見抜いた様子だったけど、軽く頷いて「じゃーなー」「暇な時は工房に来るといい」と僕を見送ってくれた。

 ばいばーい、と二人に手を振って、僕は東の草原の方へ歩き始める。
 第三陣のプレイヤーさんはきっとそこに集まってると思うんだよねぇ。希少種の人たちと会えたらいいな♪

 でも、ルンルンと弾んだ足取りは、すぐにピタリと止まることになった。
 突然アナウンスが聞こえてきたんだ。

〈アイテムボックス内の【海獣の卵】が孵りそうです。確認しましょう〉

 え、ほんとに!? ついに孵るんだ。どんな子かなー。
 ワクワクしながら道の端に寄り、アイテムボックスから海獣の卵を取り出す。

「あ、殻にヒビが入ってる!」
「モモ、どうしたんだ?」

 歩き出したかと思えば、すぐに立ち止まって変な行動をしている僕を不審に思ったのか、ランドさんとレナードさんが近づいてきた。
 冒険者の集まりからはちょっと離れてるから、ここなら話していても大丈夫かな?

「モンスターの卵が孵りそうなんだー」

 上から覗き込んできたランドさんに答え、卵を見せた。
 二人とも驚いた表情になる。

「珍しいもん持ってるな?」
「これは……水属性の卵だな。ここで孵るのは不都合があるだろう。海……は、今はよくないか」

 レナードさんが卵を観察した後、海の方に視線を向けて眉を顰めた。
 その言葉を聞いて、僕はハッとする。

 そっか、水中でしか生きられないモンスターが生まれたら、ここじゃダメだよね。でも、海はシーズンイベント中で襲われてるし……どうしよう?

 むむぅ、と悩む僕を見下ろし、レナードさんが肩をすくめる。

「念の為、水槽が必要だろうな。それなら──」
「水槽? あ、それなら、僕【海の水槽】を持ってるよ!」

 リュウグウの店で購入したアイテムを思い出した。
 海水で満たされたモンスター空間で、テイムモンスターを入れられるんだ。これなら水棲のモンスターでも大丈夫なはず──と僕がホッとしたのも束の間。
 レナードさんが首を横に振ったのを見て、固まっちゃった。

「海の水槽はテイムしたモンスターを入れるものだ。生まれてから中に入れられるまでに時間がかかる。多少陸地に適応できるモンスターが生まれるなら問題ないが、完全水棲のモンスターだった場合、生まれてすぐにダメージを与えることになるぞ」
「えっ……それはダメ!」

 反射的にブンブンと首を振って答える。
 生まれたばかりの子を傷つけちゃうなんて、絶対やだ!

「へぇ、水属性の卵って大変なんだな」
「卵を保有すること自体が珍しいから、こういう悩みを持つことも滅多にないんだがな」

 物珍しげに卵を眺めているランドさんにレナードさんが答え、僕に視線を戻す。そして「工房に行こう」と提案してくれた。

「工房に?」

 きょとんと首を傾げる僕を見て、レナードさんが小さく笑う。

「【簡易水槽】がある。それを使えば、ダメージを負わせることなく、モンスターを誕生させることができるぞ」
「ほんとに!? 行く行くー! レナードさん、急いでー!」

 一気に悩み解決! そうとなったら早く行かなくちゃ。
 卵を一旦アイテムボックスにしまって、飛びながらレナードさんの背中を押して進む。

 生まれる環境を整えるまで、もうちょっと待っててね、卵ちゃん!

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