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3章 商人への道?
112.ビンゴ大会だよ!
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お腹と心が満たされたところで、ビンゴ大会の開始でーす。
一人ずつに配ったのは、誰もが一度は目にしたことがあるだろうビンゴカード。ワクワクした様子のみんなをステージ上から眺める。
あ、シェルさんが泣き止んでる。感動のあまりに、コンサート後からずっとポロポロと涙をこぼしてたんだよね。
みんなから賞賛されて泣き笑いしてたシェルさんは、すごく満足そうだったから放っといてたんだけど。シェルさんにもビンゴカードを渡しとこう。
「これからビンゴゲームするよー。景品はこれ!」
じゃーん、と指し示したら、それにあわせてルトが長テーブルに掛けていた布を取り払った。
一番最初に目を引くのは、やっぱり羽うさぎのぬいぐるみかな。
「ぬいぐるみは中・小サイズの2パターンあるよ。その他には、錬金術で作ったアイテムとか、料理詰め合わせボックスとか――」
僕が説明する声が、シーンと静まった店内によく響く。もっと喜んでくれると思ってたんだけど、そうでもない? ちょっとしょんぼり。
「……神はここにいた」
不意に誰かの呟きがやけに大きく響いた。途端に、聞き分けられないほどに重なったたくさんの声がなにかを叫ぶ。
「わわっ!? え、なに、急に……」
天を仰いでる人がいたり、涙を流して手を合わせてる人がいたり、ガッツポーズしながらくるくる回ってる人がいたり――なんかすごい興奮してる。
「こわっ。ぬいぐるみの威力すさまじい」
ルトがドン引きした表情で、布を持ってステージからおりようとした。
「待って! 僕をこのよくわかんない状況に置いてきぼりにしないで!」
「お前のファンだろ。自分で面倒見ろ」
「そんな殺生な!」
僕がルトの脚にヒシッと抱きつくと、ルトが「マジでやめろ!」と焦った声を上げた。なんだかたくさんの視線を感じる。
「俺はお前のファンを敵に回すつもりねぇんだよ!」
「なに言ってるの。僕とルトは親友。つまり、こんなことで僕のファンがルトを敵視するわけないじゃん」
途端に視線が柔らかくなった気がした。
ステージ下を見たルトが「……まぁ、それで全員が納得すんならいいや」と疲れたような顔で言う。でも、すぐに「それはそうと、離れろ」と振りほどいてくるんだから、ルトは冷たい。
「あー……ぬいぐるみは一つずつだから、二名限定の景品だぞ。己の幸運を祈れ」
ルトの宣言の後すぐに、息を呑む音が大きく響いた。
「……なんで私は幸運値にポイント全振りしてこなかったんだ!」
ファンの一人が頭を抱えて大げさに嘆くと、同感だと言う人たちの声が次々に上げられる。
SPを幸運値に全振りしたら、まともにバトルできなくなるだろうから、やめた方がいいよ?
「あのね。このビンゴゲーム、幸運値の影響を受けないようになってるから。つまり、リアルラックが大切だよ」
ビンゴの説明をしたら、また一瞬沈黙が広がる。
「私……生まれてから今まで、自分がツイてるなんて、感じたことない……!」
悲しい告白やめて? ぬいぐるみをプレゼントしたくなっちゃうよ。
「リアルラック……ふふ、それは、物欲の前に敗れ去るという定めがある……。つまり、神は仰せだ。無欲の悟りを開け、と……!」
神ってなんだろうね。変な電波受信してない?
「ぬいぐるみ欲しくない、欲しくない――ダメだ! 嘘をついても、煩悩が消えない!」
物欲を捨てるためなのかもしれないけど、欲しくないって言われちゃうと、僕がちょっぴり悲しくなっちゃうよ。
「ここはもう振り切って祈るだけ。――わたしはぬいぐるみが欲しい!」
突如立ち上がったかと思うと、天に拳を突き上げて宣言する女性に、たくさんの視線が集まった。一拍後に、喝采が起こる。
「わたしも欲しい!」
そんな言葉が次々にあふれた。
ルトが「モモは自覚なしに色んな場を阿鼻叫喚にしてるよな」と遠い目をしながら呟く。どういうこと? 危険物みたいに言わないで。
「恨みっこなしの、本気のゲームよ。――始めましょう」
重々しく呟かれた言葉の後、僕に視線が集まる。でも、ごめん。このノリよくわかんないや。
「えっと……始めるね?」
気圧されながらも、みんな納得したようだし問題ないかと思い、ビンゴマシンを取り出す。取っ手でガラガラ回すやつだよ。
回す直前になにか言うべきか考えてたら、音楽が流れ始めた。ルトが自動演奏機を付けてくれたみたい。それだけで、緊張感あふれる静けさが、少し和らいだ気がする。
「――では、最初の数字はなーにかな!」
意識的に明るい声を出して、ガラガラと回す。出た数字は1。
「1だよ~。まだ揃う人はいないだろうから、次々行くよ!」
真剣な眼差しを受けながら、ひたすらガラガラと回し、出た数字を宣言していく。そして、ついに一人の手が震えながら挙げられた。
「そ、揃いました……!」
人生で今までツイてると感じたことない、って言ってた子だ。良かったね!
ステージに近づいてきた子に拍手をしたら、遅れてみんなも拍手し始める。テーブルに突っ伏して、手だけ動かしてる人もいてちょっと怖いけど、喧嘩を売る感じじゃないから大丈夫だよね。
「おめでと~。景品はどれがいいかな?」
「ぬいぐるみ中で!」
間髪入れずに返事があった。だよね。わかってたよ。
「はい、どうぞ! たくさん可愛がってね」
「もちろんですぅ……うう、かわいい、もふもふしてるぅ……」
泣いてる。ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながら席に戻る女性に、祝福の声が溢れた。みんな欲しがってたのに、優しいねぇ。だから、みんなと過ごすの好き!
「ぬいぐるみはまだ小サイズがあるよ~。ということで、次の番号いってみよー!」
ガラガラと回す作業は続く。
これだけ喜んでもらえるなら、用意した甲斐があったね。当たった人も外れた人も、良い思い出になったらいいな。
……でも、早めにぬいぐるみを商品として売り出した方がいいかも?
一人ずつに配ったのは、誰もが一度は目にしたことがあるだろうビンゴカード。ワクワクした様子のみんなをステージ上から眺める。
あ、シェルさんが泣き止んでる。感動のあまりに、コンサート後からずっとポロポロと涙をこぼしてたんだよね。
みんなから賞賛されて泣き笑いしてたシェルさんは、すごく満足そうだったから放っといてたんだけど。シェルさんにもビンゴカードを渡しとこう。
「これからビンゴゲームするよー。景品はこれ!」
じゃーん、と指し示したら、それにあわせてルトが長テーブルに掛けていた布を取り払った。
一番最初に目を引くのは、やっぱり羽うさぎのぬいぐるみかな。
「ぬいぐるみは中・小サイズの2パターンあるよ。その他には、錬金術で作ったアイテムとか、料理詰め合わせボックスとか――」
僕が説明する声が、シーンと静まった店内によく響く。もっと喜んでくれると思ってたんだけど、そうでもない? ちょっとしょんぼり。
「……神はここにいた」
不意に誰かの呟きがやけに大きく響いた。途端に、聞き分けられないほどに重なったたくさんの声がなにかを叫ぶ。
「わわっ!? え、なに、急に……」
天を仰いでる人がいたり、涙を流して手を合わせてる人がいたり、ガッツポーズしながらくるくる回ってる人がいたり――なんかすごい興奮してる。
「こわっ。ぬいぐるみの威力すさまじい」
ルトがドン引きした表情で、布を持ってステージからおりようとした。
「待って! 僕をこのよくわかんない状況に置いてきぼりにしないで!」
「お前のファンだろ。自分で面倒見ろ」
「そんな殺生な!」
僕がルトの脚にヒシッと抱きつくと、ルトが「マジでやめろ!」と焦った声を上げた。なんだかたくさんの視線を感じる。
「俺はお前のファンを敵に回すつもりねぇんだよ!」
「なに言ってるの。僕とルトは親友。つまり、こんなことで僕のファンがルトを敵視するわけないじゃん」
途端に視線が柔らかくなった気がした。
ステージ下を見たルトが「……まぁ、それで全員が納得すんならいいや」と疲れたような顔で言う。でも、すぐに「それはそうと、離れろ」と振りほどいてくるんだから、ルトは冷たい。
「あー……ぬいぐるみは一つずつだから、二名限定の景品だぞ。己の幸運を祈れ」
ルトの宣言の後すぐに、息を呑む音が大きく響いた。
「……なんで私は幸運値にポイント全振りしてこなかったんだ!」
ファンの一人が頭を抱えて大げさに嘆くと、同感だと言う人たちの声が次々に上げられる。
SPを幸運値に全振りしたら、まともにバトルできなくなるだろうから、やめた方がいいよ?
「あのね。このビンゴゲーム、幸運値の影響を受けないようになってるから。つまり、リアルラックが大切だよ」
ビンゴの説明をしたら、また一瞬沈黙が広がる。
「私……生まれてから今まで、自分がツイてるなんて、感じたことない……!」
悲しい告白やめて? ぬいぐるみをプレゼントしたくなっちゃうよ。
「リアルラック……ふふ、それは、物欲の前に敗れ去るという定めがある……。つまり、神は仰せだ。無欲の悟りを開け、と……!」
神ってなんだろうね。変な電波受信してない?
「ぬいぐるみ欲しくない、欲しくない――ダメだ! 嘘をついても、煩悩が消えない!」
物欲を捨てるためなのかもしれないけど、欲しくないって言われちゃうと、僕がちょっぴり悲しくなっちゃうよ。
「ここはもう振り切って祈るだけ。――わたしはぬいぐるみが欲しい!」
突如立ち上がったかと思うと、天に拳を突き上げて宣言する女性に、たくさんの視線が集まった。一拍後に、喝采が起こる。
「わたしも欲しい!」
そんな言葉が次々にあふれた。
ルトが「モモは自覚なしに色んな場を阿鼻叫喚にしてるよな」と遠い目をしながら呟く。どういうこと? 危険物みたいに言わないで。
「恨みっこなしの、本気のゲームよ。――始めましょう」
重々しく呟かれた言葉の後、僕に視線が集まる。でも、ごめん。このノリよくわかんないや。
「えっと……始めるね?」
気圧されながらも、みんな納得したようだし問題ないかと思い、ビンゴマシンを取り出す。取っ手でガラガラ回すやつだよ。
回す直前になにか言うべきか考えてたら、音楽が流れ始めた。ルトが自動演奏機を付けてくれたみたい。それだけで、緊張感あふれる静けさが、少し和らいだ気がする。
「――では、最初の数字はなーにかな!」
意識的に明るい声を出して、ガラガラと回す。出た数字は1。
「1だよ~。まだ揃う人はいないだろうから、次々行くよ!」
真剣な眼差しを受けながら、ひたすらガラガラと回し、出た数字を宣言していく。そして、ついに一人の手が震えながら挙げられた。
「そ、揃いました……!」
人生で今までツイてると感じたことない、って言ってた子だ。良かったね!
ステージに近づいてきた子に拍手をしたら、遅れてみんなも拍手し始める。テーブルに突っ伏して、手だけ動かしてる人もいてちょっと怖いけど、喧嘩を売る感じじゃないから大丈夫だよね。
「おめでと~。景品はどれがいいかな?」
「ぬいぐるみ中で!」
間髪入れずに返事があった。だよね。わかってたよ。
「はい、どうぞ! たくさん可愛がってね」
「もちろんですぅ……うう、かわいい、もふもふしてるぅ……」
泣いてる。ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながら席に戻る女性に、祝福の声が溢れた。みんな欲しがってたのに、優しいねぇ。だから、みんなと過ごすの好き!
「ぬいぐるみはまだ小サイズがあるよ~。ということで、次の番号いってみよー!」
ガラガラと回す作業は続く。
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