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7章 世界が広がっていくよ
243.影響力を感じますねー
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王都の門前。
行く手を塞ぐ門衛二人が、僕たちを見下ろし微笑み掛ける。
「テイマーとテイムモンスターですね? 天兎をテイムしている人は初めて見ましたよ」
「ぶはっ」
吹き出すように笑ったのはツッキーだった。
こんなにスムーズにフラグを回収されたら、笑っちゃうのはしかたないね。僕も笑うのをこらえるの大変だよ。
「っ、ぴょんぴょん?」
「モモさん、うさぎは『ぴょん』って鳴かないです」
「え、どう鳴くの?」
普通の天兎に成り切ってちょっとからかってみようと思ったけど、失敗したらしい。タマモが抑えきれない笑みを口元に浮かべながら教えてくれた。
そういえば、野生の天兎に会った時、鳴き声は聞かなかった気がする。え、天兎って無言で会話するの? テレパシーの達人かな!?
「普通のうさぎは『ぶーぶー』とか『ぷぅ』とか鼻を鳴らすことはあるらしいですけど、天兎はどうなんでしょうね?」
ソウタが首を傾げつつ言う。
その鳴き声、鼻が詰まってるだけじゃなくて? 本当にそう鳴くの?
「……ぷぅー」
とりあえず鳴いてみた。さすがに鼻は鳴らせないから、声で表現しただけになったけど。
門衛さんたちは僕を見下ろして固まってる。
そういえば、僕が話してるの聞かれてたかも。今さら普通の天兎のフリは無理だった?
「あれ、さっきしゃべって……いや、幻聴? そういえば、人慣れしたテイムモンスターは、マスター以外とも意思疎通できるようになるとか、聞いたことがあるような……?」
門衛さんがめっちゃ混乱してる。手をワタワタと動かして、考え込んだり、納得したり忙しい。見てると楽しいなぁ。ムギが下を向いて「くふっ」と笑ってた。
「……いや、いやいやいや! 意思疎通っていうか、今さっき普通にしゃべってたよ! お前、これ、からかわれてるだけだって!」
もう一人の門衛さんが、相方の頭をバシッと叩いて正気に戻した後、大きくため息をついた。遊びはここまでみたいだね。
「こんにちはー、僕、異世界からの旅人のモモです! 種族は天兎だよ。おしゃべり上手だと思う!」
「俺は月狼のツッキーだぜ! よろしくな☆ あ、もちろん、俺もしゃべれるぞ。異世界ってところの生まれらしいからな」
「あたいは丸猫のムギにゃ。よろしくにゃー」
「僕は絹銀鼠のソウタです。あの……僕の仲間がご迷惑おかけしました?」
ソウタが一番大人な挨拶をしてる気がする。遊びに走っちゃってごめんねー。でも、門衛さんのオーバーリアクション楽しかった!
「ウチは昨日も王都に来てたで。そんで、この子らは、テイムモンスターじゃなくて友だちな。ウチ、スカウトやし」
「私はタマモです。職業は体術士で、今日初めて王都に来ました! あ、モモさんたちはテイムモンスターじゃなくて、友だちです。さらに言うなら、モモさんは私が信仰してる方で――」
タマモがもふもふ教のことを説明し始めた。門衛さんは目を白黒させて、たぶん話についていけてない。タマモ、そういうところあるよねー。
「ま、待って、うん、君がその天兎のこと好きなのは十分伝わった。でも、それを聞くの、俺たちの仕事じゃないんで、勘弁して!」
門衛さんが音を上げるなんて珍しい光景を見ちゃったぞ。タマモの熱意って気圧されるもんね。僕も門衛さんの気持ちわかるー。
「……あわよくば、王都でのもふもふ教の勢力拡大ができないかと思ったんですが」
「タマモ、ステイ」
「はい!」
残念そうなタマモを反射的に制止したら、嬉しそうな声で返事をして僕をじっと見つめてきた。
ワンちゃんみたいだなぁ。キツネって犬の仲間だったかも? それならしかたないかー。
「モモ、ちょっと現実逃避してるやろ」
「タマモがもふもふ教にかける熱意がちょっと怖いんだもん」
「わかるけど、今さらやな。他人の迷惑になってないんやから受け入れた方がいいで」
ユリ、諦めたらそこで試合終了なんだよ……? いや、全然試合なんてしてないんだけど。
「現在進行系で他人の迷惑になってる気がするけどにゃ」
「ハッ……門衛さんたち、ごめんね!」
僕たちの会話についていけなくて、ぽかーんとしてる門衛さんたちに、さすがに謝る。遊びも度が過ぎれば嫌がらせになっちゃうから気をつけなきゃ。
「あ、いえ、えっと……みなさん、王都に入るんですよね?」
いろいろ気になることがある様子だったけど、門衛さんたちは職務を全うすることを優先したようだ。
「入りたいです!」
「一応身分証の確認をさせてください」
「はーい、どうぞ!」
それぞれ冒険者ギルドのカードを見せる。ユリは一度王都に入ってるから、もう身分証の確認は必要ないんだって。
「天兎のモモさん。――ん、そういえば、どこかで聞いたことがあるような……?」
「おっと、僕、有名人? あ、人じゃなかった。有名兎かな!」
僕の言葉も耳に入っていない様子で、門衛さんがうーんと唸りながら記憶を辿ってる。いったいどういう情報で記憶されてるんだろう?
「おい、なんか問題ある天兎なのか?」
「えっと……――あ、そうだ! もふもふ可愛い神アイドル!」
「は?」
思い出した、と表情を輝かせる門衛さんを、相方の人がスンッとした表情で見据える。
僕はどんな噂が門衛さんに届いたのかわかったけど、その言葉を初めて聞いた人は『コイツ頭おかしくなったのか?』って思っても不思議じゃないよね。
「歌って踊れる神アイドルの天兎って噂を聞いたんだよ! スゲー、王都に来たんだ? なぁ、ここでもライブする?」
「おい、仕事中だぞ」
同僚に注意されながらも期待に満ちた表情を崩さない潜在的ファンに、僕が伝えるべき言葉は一つだけだろう。
「もちろん、ここに僕のライブを望んでくれる人がいるならね!」
渾身のキラッとしたウインクを門衛さんにプレゼント。アイドルとして百点満点の答えになったはず。
「おお! さすが神!」
門衛さんが嬉しそうにはしゃいだ。
新たなもふもふ教の加入者ゲットかな?
行く手を塞ぐ門衛二人が、僕たちを見下ろし微笑み掛ける。
「テイマーとテイムモンスターですね? 天兎をテイムしている人は初めて見ましたよ」
「ぶはっ」
吹き出すように笑ったのはツッキーだった。
こんなにスムーズにフラグを回収されたら、笑っちゃうのはしかたないね。僕も笑うのをこらえるの大変だよ。
「っ、ぴょんぴょん?」
「モモさん、うさぎは『ぴょん』って鳴かないです」
「え、どう鳴くの?」
普通の天兎に成り切ってちょっとからかってみようと思ったけど、失敗したらしい。タマモが抑えきれない笑みを口元に浮かべながら教えてくれた。
そういえば、野生の天兎に会った時、鳴き声は聞かなかった気がする。え、天兎って無言で会話するの? テレパシーの達人かな!?
「普通のうさぎは『ぶーぶー』とか『ぷぅ』とか鼻を鳴らすことはあるらしいですけど、天兎はどうなんでしょうね?」
ソウタが首を傾げつつ言う。
その鳴き声、鼻が詰まってるだけじゃなくて? 本当にそう鳴くの?
「……ぷぅー」
とりあえず鳴いてみた。さすがに鼻は鳴らせないから、声で表現しただけになったけど。
門衛さんたちは僕を見下ろして固まってる。
そういえば、僕が話してるの聞かれてたかも。今さら普通の天兎のフリは無理だった?
「あれ、さっきしゃべって……いや、幻聴? そういえば、人慣れしたテイムモンスターは、マスター以外とも意思疎通できるようになるとか、聞いたことがあるような……?」
門衛さんがめっちゃ混乱してる。手をワタワタと動かして、考え込んだり、納得したり忙しい。見てると楽しいなぁ。ムギが下を向いて「くふっ」と笑ってた。
「……いや、いやいやいや! 意思疎通っていうか、今さっき普通にしゃべってたよ! お前、これ、からかわれてるだけだって!」
もう一人の門衛さんが、相方の頭をバシッと叩いて正気に戻した後、大きくため息をついた。遊びはここまでみたいだね。
「こんにちはー、僕、異世界からの旅人のモモです! 種族は天兎だよ。おしゃべり上手だと思う!」
「俺は月狼のツッキーだぜ! よろしくな☆ あ、もちろん、俺もしゃべれるぞ。異世界ってところの生まれらしいからな」
「あたいは丸猫のムギにゃ。よろしくにゃー」
「僕は絹銀鼠のソウタです。あの……僕の仲間がご迷惑おかけしました?」
ソウタが一番大人な挨拶をしてる気がする。遊びに走っちゃってごめんねー。でも、門衛さんのオーバーリアクション楽しかった!
「ウチは昨日も王都に来てたで。そんで、この子らは、テイムモンスターじゃなくて友だちな。ウチ、スカウトやし」
「私はタマモです。職業は体術士で、今日初めて王都に来ました! あ、モモさんたちはテイムモンスターじゃなくて、友だちです。さらに言うなら、モモさんは私が信仰してる方で――」
タマモがもふもふ教のことを説明し始めた。門衛さんは目を白黒させて、たぶん話についていけてない。タマモ、そういうところあるよねー。
「ま、待って、うん、君がその天兎のこと好きなのは十分伝わった。でも、それを聞くの、俺たちの仕事じゃないんで、勘弁して!」
門衛さんが音を上げるなんて珍しい光景を見ちゃったぞ。タマモの熱意って気圧されるもんね。僕も門衛さんの気持ちわかるー。
「……あわよくば、王都でのもふもふ教の勢力拡大ができないかと思ったんですが」
「タマモ、ステイ」
「はい!」
残念そうなタマモを反射的に制止したら、嬉しそうな声で返事をして僕をじっと見つめてきた。
ワンちゃんみたいだなぁ。キツネって犬の仲間だったかも? それならしかたないかー。
「モモ、ちょっと現実逃避してるやろ」
「タマモがもふもふ教にかける熱意がちょっと怖いんだもん」
「わかるけど、今さらやな。他人の迷惑になってないんやから受け入れた方がいいで」
ユリ、諦めたらそこで試合終了なんだよ……? いや、全然試合なんてしてないんだけど。
「現在進行系で他人の迷惑になってる気がするけどにゃ」
「ハッ……門衛さんたち、ごめんね!」
僕たちの会話についていけなくて、ぽかーんとしてる門衛さんたちに、さすがに謝る。遊びも度が過ぎれば嫌がらせになっちゃうから気をつけなきゃ。
「あ、いえ、えっと……みなさん、王都に入るんですよね?」
いろいろ気になることがある様子だったけど、門衛さんたちは職務を全うすることを優先したようだ。
「入りたいです!」
「一応身分証の確認をさせてください」
「はーい、どうぞ!」
それぞれ冒険者ギルドのカードを見せる。ユリは一度王都に入ってるから、もう身分証の確認は必要ないんだって。
「天兎のモモさん。――ん、そういえば、どこかで聞いたことがあるような……?」
「おっと、僕、有名人? あ、人じゃなかった。有名兎かな!」
僕の言葉も耳に入っていない様子で、門衛さんがうーんと唸りながら記憶を辿ってる。いったいどういう情報で記憶されてるんだろう?
「おい、なんか問題ある天兎なのか?」
「えっと……――あ、そうだ! もふもふ可愛い神アイドル!」
「は?」
思い出した、と表情を輝かせる門衛さんを、相方の人がスンッとした表情で見据える。
僕はどんな噂が門衛さんに届いたのかわかったけど、その言葉を初めて聞いた人は『コイツ頭おかしくなったのか?』って思っても不思議じゃないよね。
「歌って踊れる神アイドルの天兎って噂を聞いたんだよ! スゲー、王都に来たんだ? なぁ、ここでもライブする?」
「おい、仕事中だぞ」
同僚に注意されながらも期待に満ちた表情を崩さない潜在的ファンに、僕が伝えるべき言葉は一つだけだろう。
「もちろん、ここに僕のライブを望んでくれる人がいるならね!」
渾身のキラッとしたウインクを門衛さんにプレゼント。アイドルとして百点満点の答えになったはず。
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新たなもふもふ教の加入者ゲットかな?
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