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10章 海は広くて冒険いっぱい
389.宝物庫へゴー!
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三人で話し合った結果、今日はとりあえず宝物庫に行くことになった。というのも、ルトとリリがログインしていられる時間が、あと一時間もないことが判明したからだ。
「くそー……明日が模試じゃなけりゃ休みだったのに……」
どうやら、二人が通っている学校は明日の土曜日に模試があるらしい。大変だねー。
模試前日にゲーム三昧してるのはどうなんだろう、と思わなくもないけど、リリが「直前でジタバタしたところで結果は変わらない」とキリッとした顔で言ったから気にしないことにした。悪い結果になって、ゲーム機を取り上げられないといいね?
「まぁ、宝物庫はあまり離れてないらしいし、秘宝を見るくらいの時間はあるだろうから、それでよしとしようよ」
悔しそうに文句を呟いているルトの脚を、僕はポンポンと叩いて宥めた。
現在、宝物庫を目指して移動中。
リオさんとは「次はのんびりお茶会でもしようねー」と約束して別れたよ。お茶会ついでに面白い記録を見せてくれるらしい。楽しみ。
「そうだねー。あ、宝物庫はどっち?」
分かれ道にぶつかってすぐに問いかけるのは慣れたものだ。
リリの言葉に反応し、ぴょこんと矢印が現れる。
宝物庫への道案内は、許可が出ている人にだけ現れるらしいよ。許可がない人は、延々と宮殿を彷徨わされた後に、宮殿警備隊詰所に導かれて事情聴取されるのだとリオさんが言ってた。
この宮殿自体が、防犯システムみたいなもののようだ。
そう考えたらこの矢印さん、優秀で役立ってるよね。
つい感心の目を向けたら、それを察したように矢印さんが嬉しそうに少し桃色に色を変えた気がする。……喜んでるってことでいいんだよね?
時折矢印さんと交流(?)しつつ、順調に宮殿内を進む。
全然人と出会わないんだけど、宮殿内で働いてる人ってあまりいないのかな? 通路沿いに扉があるから、部屋の中にいるかもだけど。
人魚さんとかいないかなー、と思いながら歩いていると、不意に目の前を魚が泳いでいった。
ビックリして固まっちゃう。
「え、魚が宙を飛んでる!?」
「おー、あれなんだっけ……カクレクマノミ?」
「可愛い魚だよねー」
ルトとリリは僕と違って落ち着いてた。冷静に魚の種類について意見を交わしてる。
「なんで驚いてないの?」
「ここにあるのが空気に見えて海水なんだって、前に言ったよね?」
むぅ、と拗ねながら尋ねたら、リリがきょとんとした顔で答える。
「そういえば、そうだったね。海水なら魚が泳いでいても不思議じゃない──こともないでしょ! この世界の魚は、モンスターだよ? 宮殿にモンスターがいるのはおかしいよ!」
一旦は納得しかけたけど、思い直して訴える。
ルトが即座に「モンスターらしいモンスターは、今ここにいるけどな」と僕の耳をツンツンしながら言った。
そうだけど、そうじゃなーい! 僕は中身人間だし、プレイヤーだからいいの!
「普通に、宮殿の誰かのテイムモンスターなんじゃないの?」
再びリリがきょとんとした顔で言う。
あ、その可能性があったね。僕もたくさんテイムモンスターを連れてることがあるのに、うっかりしてたよ。
「……そっか、そっかー。君、テイムモンスターかぁ」
うんうん、と頷きながら赤い魚を眺めて呟く。その魚は、僕たちとつかず離れずの距離で前を進んでいた。たまに僕たちを振り返って確認してる気がする。
「なんか俺らを案内してるみたいじゃね?」
ルトが不思議そうに呟く。
確かにそう見えるけど、一体どこに、どういう意図があって?
首を傾げながら三人で顔を見合わせる。
「……一応、宝物庫の方に行ってるみたいだけど」
僕が呟くと、ルトも「だな」と頷く。
分かれ道に着くと、魚は僕たちに先んじて進むんだ。矢印が指す通路は魚が向かった方と同じ。だから、このまま宝物庫を目指すという方針を変える必要はなさそう。
魚が宝物庫に案内しようとしてるとしても、その理由はわからないけど。
まさか、リオさんが案内役をつけてくれたわけじゃないだろう。リオさんは「宮殿に聞けば宝物庫に行くのは簡単ですよー」って言ってたし。
「謎だねー……あ、あれ、宝物庫じゃない?」
不思議そうに魚を見ていたリリが、ふと前方に視線を向けて言う。
そこには、白い真珠で飾られた扉があった。手前には魚人族の男の人が二人。おそらく宝物庫を守る役目の人だろう。
魚はスイーッと男たちの前を泳ぐと、『早く来て』と言うように僕たちを振り向いた。男の人たちはその魚を気に留めずに、僕たちを凝視してる。魚は彼らに認められている存在らしい。
それなら、今のところ警戒しなくていっかー。
まずは僕たちに向けられてる不審そうな視線をどうにかしなくちゃ。
というわけで、パッと手を上げて挨拶してみる。
「こんちゃー」
「……あ、こんちゃー……この挨拶するって、もしかして、噂のウサギちゃん? 噂通りもふもふしてるー。ヤバ、生まれたての白海豹みたいだ!」
「噂?」
思いがけない反応をされた。
魚人さん二人が、僕を見て「おお、これがあの、もふもふ!」とか「初めて、こんちゃーって挨拶した」とか、よくわからないことを興奮気味に話してる。
なぜか僕の噂が宮殿内に広がってるみたいだね?
「どう考えてもこれ、宮殿前の門衛から話が広がってるだろ……」
ルトが呆れた感じで呟く。僕も同感です。
うっかり訂正し忘れたせいで、『こんちゃー』が陸上で一般的な挨拶だという誤解が宮殿内を駆け巡っちゃってそう!
「……ここ、宝物庫?」
どうしようかなー、と思ったけど、面倒くさくなって諸々をスルーした。ルトに「お前……」とジト目で見られたけど、気にしなーい。
「そうですよー。あ、皆さん許可持ちですね。秘宝を見に来たんです?」
予想以上に魚人さんが朗らかに尋ねてきた。
それに「うん」と答えると、「では、どうぞー」とあっさり扉が開かれる。
宝物庫って、こんなに気軽に入れていいものなんだ……?
「くそー……明日が模試じゃなけりゃ休みだったのに……」
どうやら、二人が通っている学校は明日の土曜日に模試があるらしい。大変だねー。
模試前日にゲーム三昧してるのはどうなんだろう、と思わなくもないけど、リリが「直前でジタバタしたところで結果は変わらない」とキリッとした顔で言ったから気にしないことにした。悪い結果になって、ゲーム機を取り上げられないといいね?
「まぁ、宝物庫はあまり離れてないらしいし、秘宝を見るくらいの時間はあるだろうから、それでよしとしようよ」
悔しそうに文句を呟いているルトの脚を、僕はポンポンと叩いて宥めた。
現在、宝物庫を目指して移動中。
リオさんとは「次はのんびりお茶会でもしようねー」と約束して別れたよ。お茶会ついでに面白い記録を見せてくれるらしい。楽しみ。
「そうだねー。あ、宝物庫はどっち?」
分かれ道にぶつかってすぐに問いかけるのは慣れたものだ。
リリの言葉に反応し、ぴょこんと矢印が現れる。
宝物庫への道案内は、許可が出ている人にだけ現れるらしいよ。許可がない人は、延々と宮殿を彷徨わされた後に、宮殿警備隊詰所に導かれて事情聴取されるのだとリオさんが言ってた。
この宮殿自体が、防犯システムみたいなもののようだ。
そう考えたらこの矢印さん、優秀で役立ってるよね。
つい感心の目を向けたら、それを察したように矢印さんが嬉しそうに少し桃色に色を変えた気がする。……喜んでるってことでいいんだよね?
時折矢印さんと交流(?)しつつ、順調に宮殿内を進む。
全然人と出会わないんだけど、宮殿内で働いてる人ってあまりいないのかな? 通路沿いに扉があるから、部屋の中にいるかもだけど。
人魚さんとかいないかなー、と思いながら歩いていると、不意に目の前を魚が泳いでいった。
ビックリして固まっちゃう。
「え、魚が宙を飛んでる!?」
「おー、あれなんだっけ……カクレクマノミ?」
「可愛い魚だよねー」
ルトとリリは僕と違って落ち着いてた。冷静に魚の種類について意見を交わしてる。
「なんで驚いてないの?」
「ここにあるのが空気に見えて海水なんだって、前に言ったよね?」
むぅ、と拗ねながら尋ねたら、リリがきょとんとした顔で答える。
「そういえば、そうだったね。海水なら魚が泳いでいても不思議じゃない──こともないでしょ! この世界の魚は、モンスターだよ? 宮殿にモンスターがいるのはおかしいよ!」
一旦は納得しかけたけど、思い直して訴える。
ルトが即座に「モンスターらしいモンスターは、今ここにいるけどな」と僕の耳をツンツンしながら言った。
そうだけど、そうじゃなーい! 僕は中身人間だし、プレイヤーだからいいの!
「普通に、宮殿の誰かのテイムモンスターなんじゃないの?」
再びリリがきょとんとした顔で言う。
あ、その可能性があったね。僕もたくさんテイムモンスターを連れてることがあるのに、うっかりしてたよ。
「……そっか、そっかー。君、テイムモンスターかぁ」
うんうん、と頷きながら赤い魚を眺めて呟く。その魚は、僕たちとつかず離れずの距離で前を進んでいた。たまに僕たちを振り返って確認してる気がする。
「なんか俺らを案内してるみたいじゃね?」
ルトが不思議そうに呟く。
確かにそう見えるけど、一体どこに、どういう意図があって?
首を傾げながら三人で顔を見合わせる。
「……一応、宝物庫の方に行ってるみたいだけど」
僕が呟くと、ルトも「だな」と頷く。
分かれ道に着くと、魚は僕たちに先んじて進むんだ。矢印が指す通路は魚が向かった方と同じ。だから、このまま宝物庫を目指すという方針を変える必要はなさそう。
魚が宝物庫に案内しようとしてるとしても、その理由はわからないけど。
まさか、リオさんが案内役をつけてくれたわけじゃないだろう。リオさんは「宮殿に聞けば宝物庫に行くのは簡単ですよー」って言ってたし。
「謎だねー……あ、あれ、宝物庫じゃない?」
不思議そうに魚を見ていたリリが、ふと前方に視線を向けて言う。
そこには、白い真珠で飾られた扉があった。手前には魚人族の男の人が二人。おそらく宝物庫を守る役目の人だろう。
魚はスイーッと男たちの前を泳ぐと、『早く来て』と言うように僕たちを振り向いた。男の人たちはその魚を気に留めずに、僕たちを凝視してる。魚は彼らに認められている存在らしい。
それなら、今のところ警戒しなくていっかー。
まずは僕たちに向けられてる不審そうな視線をどうにかしなくちゃ。
というわけで、パッと手を上げて挨拶してみる。
「こんちゃー」
「……あ、こんちゃー……この挨拶するって、もしかして、噂のウサギちゃん? 噂通りもふもふしてるー。ヤバ、生まれたての白海豹みたいだ!」
「噂?」
思いがけない反応をされた。
魚人さん二人が、僕を見て「おお、これがあの、もふもふ!」とか「初めて、こんちゃーって挨拶した」とか、よくわからないことを興奮気味に話してる。
なぜか僕の噂が宮殿内に広がってるみたいだね?
「どう考えてもこれ、宮殿前の門衛から話が広がってるだろ……」
ルトが呆れた感じで呟く。僕も同感です。
うっかり訂正し忘れたせいで、『こんちゃー』が陸上で一般的な挨拶だという誤解が宮殿内を駆け巡っちゃってそう!
「……ここ、宝物庫?」
どうしようかなー、と思ったけど、面倒くさくなって諸々をスルーした。ルトに「お前……」とジト目で見られたけど、気にしなーい。
「そうですよー。あ、皆さん許可持ちですね。秘宝を見に来たんです?」
予想以上に魚人さんが朗らかに尋ねてきた。
それに「うん」と答えると、「では、どうぞー」とあっさり扉が開かれる。
宝物庫って、こんなに気軽に入れていいものなんだ……?
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