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変な子だ
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「ご、ごめんなさい。ノックをずっと続けていたんですが返事がなかったので」
いつのまにか、リオン君は部屋の中に入っていて、しかもかなり私たちに近い距離にいた。
夏芽の刺すような視線は私からリオン君に移る。
私たちは一応だが、十歳以下は殴らないって決めている。もし、話しかけてきたのが大の大人の神官やメイドだったら百パー、グーパンが飛んでいただろう。
しかし、殴る代わりに夏芽はしつこいほどのメンチをリオン君相手に切っていた。
あ~あ、顔に出てる出ている。こう思ってるんだろうな。
“殴りたい、でも殴れない。殴れるものなら殴りたい。でも、殴らない。殴ってしまおうか。でも、目の前にいるのは十歳の子供。あ~くそ、面倒くさいこと決めたな。いっそ、そんな面倒くさい決まりやめてしまおうか”
みたいなことを考えているんだろうな。
感情が沸騰しかかっている夏芽に対し、私は予想外の人物が目の前に現われたことにより、イライラの毒気が抜かれてしまっていた。ちょっとの会話はしてもいいと思うほど、頭が冷静になっている。
「リオン君、一体の私たちに何の用?」
今の私たちのピリついた空気に入って来るなんて、見事というか無謀というか。夏芽が怒りのリミッターを外すとマジで手が付けられなくなるからね。ブチ切れ次第では例え十歳以下の子供が目の前にいようが関係なくなると思うし。
ていうか、よく私たちにまた会おうという気になるな。
正直、リオン君とは昨日限りでもう会うことはないだろうなと、考えていた。昨日みたいな喧嘩って私たちには日常茶飯事の出来事。大概、その喧嘩を目撃したり巻き込まれたりした人間は私らを怖がって近寄って来ないことが多い。だから、気の弱そうなリオン君も私らに関わろうとは思わないだろうなって考えていた。
そう思っていたのに私たちの喧嘩の場面を目撃してもこうして近寄ろうとするなんて正直、驚いている。
子供特有の好奇心?
それともやっぱり大人たちに私たちの相手をしろとかなんとか言われてる?
だとすれば、ご愁傷様。子供にパラハラなんて、とんだ職場だわ。
リオン君はおずおずとしながら、私たちに一歩、また一歩と近寄ってきた。
そして深く息を吸い、吐いて口をゆっくり開き始める。
「昨日は助けていただいて、ありがとうごいました」
「ん?」
「その………突然のことだったので、言いそびれていたので」
リオン君はもじもじとしながら照れくさそうに言った。
「………………助けた?」
意外な言葉が返ってきてすぐに反応できなかった。
夏芽も予想外の言葉に驚いているみたいで、ぽかんとした顔になっている。
助けた?私たちがこの子を?助けた覚えはないけど。
………………いや、客観的に見たら私らがリオン君を助けたみたいに見えるのか。
たまたまだったんだよね。
たまたま信号機を思わせる髪色の男たちを見つけて撮っていたら、たまたまそこにリオン君がいたってだけだったから。
夏芽のほうもただ、マヨネーズがない鬱憤晴らしに殴っただけだったと思う。しかも、あの時点で夏芽の中で金髪の長髪男は殴らずにはいられない人間になっていたから、尚更躊躇いがなかったんだろう。
もしかしてリオン君の目には私たちの姿が自分のピンチに颯爽と現れた、正義の「聖女」に映っているのかな?違うんだけど。
「リオン君、マジでそのお礼を言うためだけに来たの?」
「は、はい」
「へぇ」
普通、あんな喧嘩見たら怖がって近寄らないものだけど。
ぼんやりと考えていた時、リオン君はハッとした様子で私に駆け寄ってきた。なんだと思っていると、リオン君は私の右手をぎゅっと握ってきた。
「その手………!」
「え?」
「もしかして、昨日の?」
「ああ、これ?」
たぶん、リオン君は赤みの取れていない手の甲の部分を言っているんだろう。
リオン君の察しの通り、この右手の腫れは黄信号をボコ殴りにした時のもの。
リオン君は今にも泣きそうな表情で、私の手の甲を優しくさすってきた。
まさか、罪悪感とか感じちゃったりとかしているの?
殴られたほうじゃなくて、ボコボコに殴ったほうを心配とかしているの?
だとしたら、マジで変な子だなぁ。
「重い病や大きな怪我はまだ見習いの僕には治癒できませんが、腫れだけの傷なら僕でもなんとか治癒できます」
リオン君は腫れている私の右の甲に手をかざすと、呪文のような言葉を呟く。すると、かざされた手の甲が淡い光に包まれていき、ずっと感じていたヒリヒリとした痛みがスッと消えていくのを感じた。リオン君が私の右手から手をかざすと腫れと痛みが完全に取れた。
すっごいわ。まるで魔法みたい。
あ、そういえばこの世界は魔法が普通にある世界だったんだっけ。
「とりあえず、礼は言っておくよ。どうもね」
「いえ、お礼なんて言わないでください。僕のせいで負わせてしまった傷なので」
負わせてしまった傷?
やっぱり変な子だ。
「それと、もう一つ謝らなければいけないことがあって」
「何?」
「実は………………あの後、上手く兵の人たちに上手く説明できなくて。事実とは違う情報が伝わってしまったかもしれなくて」
あ~、あのことかな。
最初に因縁をつけたのは私たちだったって話かな。
「いいよいいよ。別にそれは。あんな現場見ちゃったら、動揺して上手く説明なんてできないよね」
「……………ごめんなさい」
リオン君はぺこりと頭を下げた後、私から夏芽に視線を移した。一部始終をじっと眺めていた夏芽とリオン君の視線が交じる。
いつのまにか、夏芽はリオン君を睨むのをやめている。
射貫くような視線を向けられていないとリオンも察し、少し肩の力が抜けたようだった。
「あの………もしかして昨日、お二人が市場で探していたものって、僕がその………踏みつぶしちゃったものですか?」
「………………」
夏芽の顔がピクッとひくつく。
あ~あ、なんで言っちゃうの。
どうして、自分から夏芽の機嫌を悪くさせるの。
「そうだよ。マヨネーズね」
再び機嫌を悪くした夏芽の代わりに私が答えた。
「その………マヨネーズ?というものは食べ物………ですか?」
「食べ物………というか調味料かな。卵とか酢とか塩とか、全部この世界にもありそうな材料ばかりだから市場とかにあるかなって思って行ってみたんだけど、なくてね」
「あの………それ、僕でも作れますか?」
「「え」」
またしても声が揃った。またしても予想の斜め上の言葉だったから。
いつのまにか、リオン君は部屋の中に入っていて、しかもかなり私たちに近い距離にいた。
夏芽の刺すような視線は私からリオン君に移る。
私たちは一応だが、十歳以下は殴らないって決めている。もし、話しかけてきたのが大の大人の神官やメイドだったら百パー、グーパンが飛んでいただろう。
しかし、殴る代わりに夏芽はしつこいほどのメンチをリオン君相手に切っていた。
あ~あ、顔に出てる出ている。こう思ってるんだろうな。
“殴りたい、でも殴れない。殴れるものなら殴りたい。でも、殴らない。殴ってしまおうか。でも、目の前にいるのは十歳の子供。あ~くそ、面倒くさいこと決めたな。いっそ、そんな面倒くさい決まりやめてしまおうか”
みたいなことを考えているんだろうな。
感情が沸騰しかかっている夏芽に対し、私は予想外の人物が目の前に現われたことにより、イライラの毒気が抜かれてしまっていた。ちょっとの会話はしてもいいと思うほど、頭が冷静になっている。
「リオン君、一体の私たちに何の用?」
今の私たちのピリついた空気に入って来るなんて、見事というか無謀というか。夏芽が怒りのリミッターを外すとマジで手が付けられなくなるからね。ブチ切れ次第では例え十歳以下の子供が目の前にいようが関係なくなると思うし。
ていうか、よく私たちにまた会おうという気になるな。
正直、リオン君とは昨日限りでもう会うことはないだろうなと、考えていた。昨日みたいな喧嘩って私たちには日常茶飯事の出来事。大概、その喧嘩を目撃したり巻き込まれたりした人間は私らを怖がって近寄って来ないことが多い。だから、気の弱そうなリオン君も私らに関わろうとは思わないだろうなって考えていた。
そう思っていたのに私たちの喧嘩の場面を目撃してもこうして近寄ろうとするなんて正直、驚いている。
子供特有の好奇心?
それともやっぱり大人たちに私たちの相手をしろとかなんとか言われてる?
だとすれば、ご愁傷様。子供にパラハラなんて、とんだ職場だわ。
リオン君はおずおずとしながら、私たちに一歩、また一歩と近寄ってきた。
そして深く息を吸い、吐いて口をゆっくり開き始める。
「昨日は助けていただいて、ありがとうごいました」
「ん?」
「その………突然のことだったので、言いそびれていたので」
リオン君はもじもじとしながら照れくさそうに言った。
「………………助けた?」
意外な言葉が返ってきてすぐに反応できなかった。
夏芽も予想外の言葉に驚いているみたいで、ぽかんとした顔になっている。
助けた?私たちがこの子を?助けた覚えはないけど。
………………いや、客観的に見たら私らがリオン君を助けたみたいに見えるのか。
たまたまだったんだよね。
たまたま信号機を思わせる髪色の男たちを見つけて撮っていたら、たまたまそこにリオン君がいたってだけだったから。
夏芽のほうもただ、マヨネーズがない鬱憤晴らしに殴っただけだったと思う。しかも、あの時点で夏芽の中で金髪の長髪男は殴らずにはいられない人間になっていたから、尚更躊躇いがなかったんだろう。
もしかしてリオン君の目には私たちの姿が自分のピンチに颯爽と現れた、正義の「聖女」に映っているのかな?違うんだけど。
「リオン君、マジでそのお礼を言うためだけに来たの?」
「は、はい」
「へぇ」
普通、あんな喧嘩見たら怖がって近寄らないものだけど。
ぼんやりと考えていた時、リオン君はハッとした様子で私に駆け寄ってきた。なんだと思っていると、リオン君は私の右手をぎゅっと握ってきた。
「その手………!」
「え?」
「もしかして、昨日の?」
「ああ、これ?」
たぶん、リオン君は赤みの取れていない手の甲の部分を言っているんだろう。
リオン君の察しの通り、この右手の腫れは黄信号をボコ殴りにした時のもの。
リオン君は今にも泣きそうな表情で、私の手の甲を優しくさすってきた。
まさか、罪悪感とか感じちゃったりとかしているの?
殴られたほうじゃなくて、ボコボコに殴ったほうを心配とかしているの?
だとしたら、マジで変な子だなぁ。
「重い病や大きな怪我はまだ見習いの僕には治癒できませんが、腫れだけの傷なら僕でもなんとか治癒できます」
リオン君は腫れている私の右の甲に手をかざすと、呪文のような言葉を呟く。すると、かざされた手の甲が淡い光に包まれていき、ずっと感じていたヒリヒリとした痛みがスッと消えていくのを感じた。リオン君が私の右手から手をかざすと腫れと痛みが完全に取れた。
すっごいわ。まるで魔法みたい。
あ、そういえばこの世界は魔法が普通にある世界だったんだっけ。
「とりあえず、礼は言っておくよ。どうもね」
「いえ、お礼なんて言わないでください。僕のせいで負わせてしまった傷なので」
負わせてしまった傷?
やっぱり変な子だ。
「それと、もう一つ謝らなければいけないことがあって」
「何?」
「実は………………あの後、上手く兵の人たちに上手く説明できなくて。事実とは違う情報が伝わってしまったかもしれなくて」
あ~、あのことかな。
最初に因縁をつけたのは私たちだったって話かな。
「いいよいいよ。別にそれは。あんな現場見ちゃったら、動揺して上手く説明なんてできないよね」
「……………ごめんなさい」
リオン君はぺこりと頭を下げた後、私から夏芽に視線を移した。一部始終をじっと眺めていた夏芽とリオン君の視線が交じる。
いつのまにか、夏芽はリオン君を睨むのをやめている。
射貫くような視線を向けられていないとリオンも察し、少し肩の力が抜けたようだった。
「あの………もしかして昨日、お二人が市場で探していたものって、僕がその………踏みつぶしちゃったものですか?」
「………………」
夏芽の顔がピクッとひくつく。
あ~あ、なんで言っちゃうの。
どうして、自分から夏芽の機嫌を悪くさせるの。
「そうだよ。マヨネーズね」
再び機嫌を悪くした夏芽の代わりに私が答えた。
「その………マヨネーズ?というものは食べ物………ですか?」
「食べ物………というか調味料かな。卵とか酢とか塩とか、全部この世界にもありそうな材料ばかりだから市場とかにあるかなって思って行ってみたんだけど、なくてね」
「あの………それ、僕でも作れますか?」
「「え」」
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