聖女として召喚された性悪双子は一刻も早く帰還したい

キリアイスズ

文字の大きさ
34 / 68

手作りマヨネーズだ

しおりを挟む
「そんなことより、リオン君、何か用があるんじゃないの?」

なんて、用向きの理由はだいたい想像できる。建前として一応、聞いてみる。
リオン君は手に木製の円柱形の入れ物を握り締めていた。その入れ物の中身はきっとアレだろう。

「その、マヨーズ、ですか?料理場を借りてレシピ通り作ってみたんで、持ってきました」

やっぱりね。

「マヨネーズ、ね。もう、作ったんだ………って、うおっ」

後ろにいた夏芽がまるで瞬間移動したかのように前に移動した。
速すぎて、見えなかった。ここからじゃ、顔は見えないけどきっと期待に満ちたキラッキラとした目で入れ物を見てるんだろうね。

「それ、マヨネーズ?」

「はい、味見してみてこれで合っていると思いました。とっても、美味しかったので」

リオン君は入れ物と一緒に小さな木製のスプーンを差し出した。夏芽はそれを無言で受け取り、被せてあった蓋をぱかっと開けた。私も中身を確認してみる。

「おお、すっごいちゃんとしたマヨネーズだ」

この色、この匂い、間違いない。
手作りマヨネーズだ。
夏芽はさっそくとばかりに、スプーンで入れ物に入ったマヨネーズをひとすくいして、口の中に入れた。

「!!!」

おお、見える見える。
口に入れた瞬間、ぶわぁっと咲いた花が夏芽の全身を覆っているよ。そんな錯覚を起こしてしまうほど、夏芽は嬉しそうにちゅぷちゅぷとスプーンを口に含んでいた。すでにスプーンにマヨネーズが残っていなくても、その感動を噛みしめるようにスプーンを口から離そうとしない。表情筋がほとんど動いてないように見えるが、あれはかなり喜んでいる。

とりあえず、一時的だけど夏芽の「マヨネーズがなくてイライラ問題」は解決ってことかな。

「ありがとね、リオン君。わかりにくいかもしれないけど夏芽、めちゃくちゃ喜んでるよ」

「い、いえ、そんな、お礼なんていいです。そもそもそれは僕が台無しにしてしまいましたので」

リオン君は照れくさそうに笑った。あららら、ほっぺだけじゃなくて耳まで赤くなってる。
なんだ、この可愛さは。わざとやってるんじゃないよね。顔がいいって特だ。

「その、マヨネーズ、ですか?癖になる優しい酸味をしていますね」

「おお、今度はちゃんと言えたね。そうだね、夏芽ほどじゃないけど私もけっこう好きだよ。野菜とかにけっこう合うんだよね」

「そうなんですか」

「うん、レシピ覚えたんだったら今度試してみたら?きゅうりとかじゃがいもとかが合うと思うよ」

「はい、試してみます」

にこっとリオン君は笑った。うん、やっぱり、可愛いわ。
子供の笑顔や笑い声なんてちょっと前まではうざいだけだと思っていたけど、リオン君は別格かも。

「よかったね夏芽、手作りマヨネーズは市販のものより、絶品って聞くし」

ピクッと夏芽の肩が動く。私のほうに振り向いた夏芽はすでに口からスプーンを離し、再びマヨネーズをすくっている。そのまま、口に入れるのかと思いきや、なぜがマヨネーズをすくった手が止まった。止まったまま、私をジト―とした目で見つめてくる。

普段のジト目とはちょっと違うジト目。
この目は何か言いたいことがあるけど、なかなか言えないような目だ。
それはわかるけど、その言いたいことまではわからない。
わからないから、直接聞いちゃおう。

「どしたの?双子と言えど、言ってくれないとわからな、むぐ!?」

言い終える前に夏芽にマヨネーズを掬ったスプーンをぐいっと口の中に入れられた。

「いきなり、何………って、おいしいね、これ」

油っぽくもなく酸っぱすぎでもない、まろやかな口当たり。この舌触りは完全によく知っている市販のマヨネーズだ。いや、このクリーミーな味わいは市販のものなんかでは比べ物にはならない。
すごいな、リオン君。初めてで、ここまでのものを作れるなんてある意味才能だと思うわ。
私もやみつきになりそう。還ったら、お手伝いさんに作ってもらおっかな。

口の中に広がっていたマヨネーズがなくなるまで、そう考えた。

「ていうか夏芽、いきなり何すんの」

私がそういうと、夏芽はふんと私に背を向けてしまった。
自分の意図が伝わっていなくて拗ねてしまったみたい。

「そういえば珍しいね。夏芽が自分のマヨネーズを私にくれるなんて………………あ、そゆこと?」

自分で言ってピンときた。夏芽なりの仲直りの印ってことかな。
ふぅん、私はもう、気にしていなかったことだけど夏芽は夏芽なりに気にしていたんだ。

私はふふふ、とした声を隠そうとせずに夏芽の隣に立った。

こういう夏芽の面倒くさいところも私、好きなんだよね。

「どうもね、マヨネーズ美味しかったよ」

こそっと耳打ちすると年不相応な子供っぽいむすっとした顔のまま、一歩私から距離を取った。

どうしよう。この滅多に見られない夏芽の面倒くさくてかわいい顔、写真に収めたい。
収めちゃおっかな。いやいや、それはやめておこう。
さすがの私でもそこまで空気読めない人間じゃない。

………………でも、一枚くらい。

スマホを掲げようと思った時、夏芽の顔はむすっとした顔から普段からよくしているイライラ顔にいつのまにか変わっていた。

ありゃりゃ、残念。

「………ベッドが」

ぽつりと呟く声が聞こえた。夏芽が不機嫌顔に変わった原因はベッドにあるらしい。
私もベッドを見た。

「あ~、なるほど」

「汚い」

「だね」

夏芽、王宮の中で唯一このベッドは気に入っていたからな。私もだけど。
ふかふかでとっても心地よかったベッド。そのベッドが無惨にも切り裂かれ、物が散乱している。
部屋に入った時も目にしたけど、改めて見ると汚いな。このベッドも、この部屋も。
夏芽が不機嫌になるのもわかる。

「汚いから、綺麗にしないとね。このベッドもこの部屋も」

私はにこっと笑いかけると、夏芽はまるで頷くようにはっ、と声と共に息を漏らした。

「僕も、手伝います」

後ろにいたリオン君が声をかけてきた。

「マジで?どうもね……………そこのメイドさんももちろん、手伝ってくれるよね?」

私はベランダにいるメイドたちに向けて言い放った。メイドたちは突然、自分たちに話を振られるとは思っていなかったようで、大げさなほど体を震わせた。

私と夏芽はつかつかとベランダのほうに進んだ。

「どうしたの?その反応。まさか、私たちが君らの存在を忘れる間抜けな聖女だって思っていた?」

夏芽はメイドたちに近寄り、勢いよく足ドンをするとメイドたちは声を揃えて「ひっ」と悲鳴を上げた。そういえば、コロネ令嬢大人しいな。ちょっと気になったので私はメイドたちに守られているコロネ令嬢の様子を窺った。

ずっと縮こまっているコロネ令嬢は体をずっと揺らしたまま、ぶつぶつと何か言っている。
ありゃりゃ、トラウマ植え付けちゃったかな。可哀想に。

可哀想だから、謝っておくよ、心の中で。
ごめんね。君のメイドさんたち、ちょっとの間借りるよ。

「まさか、掃除しないなんてことは言わないよね?」

「「「………………」」」

「ねぇ?」

「「「………………はい」」」

おお、ハモッたハモッた。

「じゃあ、さっそく取り掛かってくれる?私らは応援してるよ。心の中で。」

掃除してくれるって言ってくれて本当によかった。
だって、私ら掃除なんて人生で一度もやったことがないから。

「ま、そんなに長くかからないかもね。そろそろ、従者やら神官やらがここに来ると思うから。その人たちにも手伝ってもらってさ」

色々聞かれると思うけど、なんとかなるでしょ。
今日はいっぱい写真を撮った。とりあえず、掃除が終わるまで写真の整理をしよっと。



――それ以来、私たちに絡んでくる貴族は全くといっていいほどいなくなり、飛び交っていた噂も一切なくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

処理中です...