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マヌケが多くてよかった
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私たちは早速とばかりに神殿に向かっていた。
「そういえば神殿なんて初めて行くね。そういう建造物ってテレビかネットでしか見たことないや。教会はよく見かけるけど」
教会もこの世界にある。王宮に隣接した大きな教会を何回も目にした。
厳かさのある外観で、ヨーロッパを思わせるような雰囲気だった。
もちろん、私は一枚写真に収めた。
神殿はどんな建物だろう。
そもそも教会と神殿の違いって何だ。
私のイメージでは教会が礼拝する場所。神殿が儀式をする場所というイメージがなんとなくある。
ネットに載ってるかな。一回気になっちゃうと確かめてみたくなる。
「ちょっと調べて………ってだめじゃん。圏外なんだから、無理じゃん」
何回も確認してわかっていたことだった。それでも、天を仰いで嘆かずにはいられない。骨身に沁み込んでいた習慣は何日経っても無意識にやってしまう。
ああ、電波が恋しい、ネットが恋しい、SNSが恋しい。
やっぱり私の生活に潤いをもたらしてくれるのはSNSとネットだけ。この写真や動画を撮るだけの生活にもすでに飽きていた。真綿で首を絞められているような窮屈すぎる生活にはうんざりだ。出歩くたびに誰かしらの許可を取らなくちゃいけないなんて冗談じゃない。元の世界ではそんな許可、誰かに取ったことなんて一度もない。外に行きたいときは勝手に行ってたし、喧嘩したときは本能のままにしていた。
聖女なんて仰々しい呼び名も華々しい魔法もいらない。
早く、日本に還りたい。いいや、還る。
「早く還りたいね夏芽………ってまだ、食べきってなかったの?」
隣りで歩く夏芽はいまだにサンドイッチを口に咥えながらもごもごしていた。
しかも、私が話しかけていることにも気づいていないっぽい。
「ねぇ、聞いてる?早く還りたいねって話してるんだけど」
「もごもごもごもご」
聞いてないな、こりゃ。
「………美味い」
もういいや、と思った時だった。三分の一ほど残っているサンドイッチの欠片を握ったまま、夏芽はぼそりと呟いた。
「このサンドイッチ、美味い」
「サンドイッチ?そうだね、確かに美味しいサンドイッチだった」
私に話しかけているのかわからないけど、適当に相槌してみることにした。この世界の料理はどれも私たちの口に微妙に合わないものばかりだったが、リオン君からもらったサンドイッチはなかなかいける味だった。べちゃっとしてもなかったし、味もごちゃごちゃしていなかった。
「挟んでいるのはトマトとチーズとレタスとハムとあと………たぶんピクルスみたいな野菜も入っていたと思う」
「ここの料理は全部不味い」
「確かに。この世界に召喚されて食べているものといったら王宮の高級料理ばかりだけど………まぁたしかに美味しいとは言えなかったな」
作り手にもよると思うけど高級料理が美味しいと言えないのは、この世界でも同じらしい。
私たちの脳には高級料理=美味しいとはすでにインプットされていなかった。
「だから還る」
夏芽は常備しているマヨネーズが入った入れ物の蓋を開け、最後の一口のサンドイッチをマヨネーズにつけて、放り込んだ。
「ここには不愉快なものしかない。男は弱いし女はうざい。特に料理が不味くて反吐が出る。だから還る」
還りたい方向性の理由は私と微妙にズレてはいるが、還りたい意志そのものは私と同じで安心した。
「だね。いい加減、私らの自由と日常を取り戻すとしますか」
「………ん」
今の私の言葉は聞こえていた様で、夏芽はこくんと小さく頷いた。
私も夏芽もこれでも我慢ができたほうだと思う。むしろ、よく暴れなかったと褒めてもらいたい。
でも、もう私たちは我慢しないと決めた。何も言わずとも、今から行く神殿にいって何も得るものがなかったら、明日以降鬱憤晴らしのために少なくても一人は半殺しにしようと、私と夏芽の心が合わさっていた。
◇◇◇
そうこう考えているうちに私たちは神殿についた。
「おお、予想以上にでかい」
私は首を持ち上げる。さっき見た教会の2倍ほどある高さと広さだ。
神殿は外壁も柱もすべて白い石造りでできた建物だった。内陣の周囲を大きな列柱が並び、屋根が付けられているといった構造。中央部分に木製の両開きの扉が見える。
圧巻だ。私はスマホを取り出し、写真を撮った。
「あ~、ぶれちゃった………やっぱり、真正面のほうがいいな。ここからだとちょっと微妙」
「なぁ」
「何?」
「なんでこんなこそこそしなくちゃいけないんだ」
「しっ、もっと声抑えて」
夏芽の言う通り、私たちは神殿の真ん前ではなく、神殿の斜めに植栽された生け垣で人目を忍んでいる状態だった。生け垣が私たちの胸の辺りの高さなので、しゃがんだら私たちの姿を隠してくれる。
再び一枚撮ろうとひょいと生け垣の上にスマホを乗せた状態の私に対し、夏芽は不満げな表情を崩さなかった。
「仕方ないでしょ。私らは王宮内で危険人物扱いされてる双子なんだから。そんな私らをすんなり通してくれると思う?私らが還りたいって神官たちは知っているから、 私らの目的が門外不出とされている杖だってすぐに気づくはず。姿を見られたら絶対大騒ぎになるよ」
私らを恐れてか、いまだに聖女だからと特別視されているのか、それとも王宮の外にさえ出なければ問題ないと思っているのか、実はそれほど監視の目は光っていない。
改めて考えると、この王宮の人間ってけっこうなマヌケが多いな。
マヌケが多くてよかった。神殿まで足を運びたい私たちにとっては好都合。
現に意外とすんなりここまで来ることができた。
でももし、神殿のすぐそばにいる私らの姿を見られれば、さすがの奴らもすぐに察するだろう。
私たちの目的が杖にあると。口癖のように「還りたい、還りたい」って言っていた自覚あるからね。
そして次の日から部屋の中にも外にも見張りが立っているという、軟禁生活を強いられるだろうな。そんな間抜けな奴らに軟禁されないために、こうやって人目を忍ばないといけない。
唯一、私らの目的を知っている眼鏡なし神官がいるが、私ら二人がかりでかなり強めの脅しをかけておいたから、誰にも話したりはしないはず。
話さないようにきっちりとトラウマを植え付けてきた。
「そういえば神殿なんて初めて行くね。そういう建造物ってテレビかネットでしか見たことないや。教会はよく見かけるけど」
教会もこの世界にある。王宮に隣接した大きな教会を何回も目にした。
厳かさのある外観で、ヨーロッパを思わせるような雰囲気だった。
もちろん、私は一枚写真に収めた。
神殿はどんな建物だろう。
そもそも教会と神殿の違いって何だ。
私のイメージでは教会が礼拝する場所。神殿が儀式をする場所というイメージがなんとなくある。
ネットに載ってるかな。一回気になっちゃうと確かめてみたくなる。
「ちょっと調べて………ってだめじゃん。圏外なんだから、無理じゃん」
何回も確認してわかっていたことだった。それでも、天を仰いで嘆かずにはいられない。骨身に沁み込んでいた習慣は何日経っても無意識にやってしまう。
ああ、電波が恋しい、ネットが恋しい、SNSが恋しい。
やっぱり私の生活に潤いをもたらしてくれるのはSNSとネットだけ。この写真や動画を撮るだけの生活にもすでに飽きていた。真綿で首を絞められているような窮屈すぎる生活にはうんざりだ。出歩くたびに誰かしらの許可を取らなくちゃいけないなんて冗談じゃない。元の世界ではそんな許可、誰かに取ったことなんて一度もない。外に行きたいときは勝手に行ってたし、喧嘩したときは本能のままにしていた。
聖女なんて仰々しい呼び名も華々しい魔法もいらない。
早く、日本に還りたい。いいや、還る。
「早く還りたいね夏芽………ってまだ、食べきってなかったの?」
隣りで歩く夏芽はいまだにサンドイッチを口に咥えながらもごもごしていた。
しかも、私が話しかけていることにも気づいていないっぽい。
「ねぇ、聞いてる?早く還りたいねって話してるんだけど」
「もごもごもごもご」
聞いてないな、こりゃ。
「………美味い」
もういいや、と思った時だった。三分の一ほど残っているサンドイッチの欠片を握ったまま、夏芽はぼそりと呟いた。
「このサンドイッチ、美味い」
「サンドイッチ?そうだね、確かに美味しいサンドイッチだった」
私に話しかけているのかわからないけど、適当に相槌してみることにした。この世界の料理はどれも私たちの口に微妙に合わないものばかりだったが、リオン君からもらったサンドイッチはなかなかいける味だった。べちゃっとしてもなかったし、味もごちゃごちゃしていなかった。
「挟んでいるのはトマトとチーズとレタスとハムとあと………たぶんピクルスみたいな野菜も入っていたと思う」
「ここの料理は全部不味い」
「確かに。この世界に召喚されて食べているものといったら王宮の高級料理ばかりだけど………まぁたしかに美味しいとは言えなかったな」
作り手にもよると思うけど高級料理が美味しいと言えないのは、この世界でも同じらしい。
私たちの脳には高級料理=美味しいとはすでにインプットされていなかった。
「だから還る」
夏芽は常備しているマヨネーズが入った入れ物の蓋を開け、最後の一口のサンドイッチをマヨネーズにつけて、放り込んだ。
「ここには不愉快なものしかない。男は弱いし女はうざい。特に料理が不味くて反吐が出る。だから還る」
還りたい方向性の理由は私と微妙にズレてはいるが、還りたい意志そのものは私と同じで安心した。
「だね。いい加減、私らの自由と日常を取り戻すとしますか」
「………ん」
今の私の言葉は聞こえていた様で、夏芽はこくんと小さく頷いた。
私も夏芽もこれでも我慢ができたほうだと思う。むしろ、よく暴れなかったと褒めてもらいたい。
でも、もう私たちは我慢しないと決めた。何も言わずとも、今から行く神殿にいって何も得るものがなかったら、明日以降鬱憤晴らしのために少なくても一人は半殺しにしようと、私と夏芽の心が合わさっていた。
◇◇◇
そうこう考えているうちに私たちは神殿についた。
「おお、予想以上にでかい」
私は首を持ち上げる。さっき見た教会の2倍ほどある高さと広さだ。
神殿は外壁も柱もすべて白い石造りでできた建物だった。内陣の周囲を大きな列柱が並び、屋根が付けられているといった構造。中央部分に木製の両開きの扉が見える。
圧巻だ。私はスマホを取り出し、写真を撮った。
「あ~、ぶれちゃった………やっぱり、真正面のほうがいいな。ここからだとちょっと微妙」
「なぁ」
「何?」
「なんでこんなこそこそしなくちゃいけないんだ」
「しっ、もっと声抑えて」
夏芽の言う通り、私たちは神殿の真ん前ではなく、神殿の斜めに植栽された生け垣で人目を忍んでいる状態だった。生け垣が私たちの胸の辺りの高さなので、しゃがんだら私たちの姿を隠してくれる。
再び一枚撮ろうとひょいと生け垣の上にスマホを乗せた状態の私に対し、夏芽は不満げな表情を崩さなかった。
「仕方ないでしょ。私らは王宮内で危険人物扱いされてる双子なんだから。そんな私らをすんなり通してくれると思う?私らが還りたいって神官たちは知っているから、 私らの目的が門外不出とされている杖だってすぐに気づくはず。姿を見られたら絶対大騒ぎになるよ」
私らを恐れてか、いまだに聖女だからと特別視されているのか、それとも王宮の外にさえ出なければ問題ないと思っているのか、実はそれほど監視の目は光っていない。
改めて考えると、この王宮の人間ってけっこうなマヌケが多いな。
マヌケが多くてよかった。神殿まで足を運びたい私たちにとっては好都合。
現に意外とすんなりここまで来ることができた。
でももし、神殿のすぐそばにいる私らの姿を見られれば、さすがの奴らもすぐに察するだろう。
私たちの目的が杖にあると。口癖のように「還りたい、還りたい」って言っていた自覚あるからね。
そして次の日から部屋の中にも外にも見張りが立っているという、軟禁生活を強いられるだろうな。そんな間抜けな奴らに軟禁されないために、こうやって人目を忍ばないといけない。
唯一、私らの目的を知っている眼鏡なし神官がいるが、私ら二人がかりでかなり強めの脅しをかけておいたから、誰にも話したりはしないはず。
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