聖女として召喚された性悪双子は一刻も早く帰還したい

キリアイスズ

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「すっかり、忘れていた」

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「あ…………あ、あ」

大司教は一歩、また一歩と足を後ろに下げ続ける。
さてと、どうしよっかな。

「あ~、面倒くさっ」

せっかく、面白い写真を撮れていい気分だったのに、一気に気が滅入ちゃった。
私は滅入った原因となった男を見据える。

「そういえば、記憶喪失なんだよね」

大司教が気を失った写真は撮ったが、記憶喪失状態の写真は撮ったことがなかった。
というか記憶喪失の人間の写真なんて、滅多に撮れるもんじゃない。

「ある意味、貴重かも」

私は立ち上がり、気持ちを切り替えようという思いで大司教にスマホのカメラを向けた。

「ひっ」

このスマホが武器かと思ったのか、大げさほど大司教はビクつく。

「怯えなくていいよ、とりあえず一枚撮るだけだから」

へらっとした笑みを浮かべながら、シャッターボタンを押そうとした時だった。
後ろにゆっくりと下がっていた大司教が突然、大きく後ろに素っ転んだ。ゴンと盛大に床に頭を打ったかのような音がしたと思った時には、大司教は副神官長と同じように気絶してしまっていた。

「………………あれ、シャッター音に驚いた……………わけないよね、私まだ撮ってないんだから」

今度は何?足がもつれて転んだようには見えなかった。
もつれたというよりも、何かに躓いて転んだような……………。

首をかしげているとコロコロコロ、と何かがゆっくりと転がってきた。

「あれって」

私はそれをひょいっと拾い上げた。それは青くて丸い、杖に付いていた水晶玉だった。
きっと、大司教が転んだ原因はこの水晶玉に足を置いてしまったからだったんだろう。

「すっかり、忘れていた」

私たちを還してくれるかもしれない魔法の核であり、夏芽が力任せに振り下げてしまったせいで杖から取れてしまった水晶玉。それなのに、こうして目にするまで存在そのものを忘れていた。

「やっぱり何も感じない」

直接、魔法の核の水晶玉を手に持っても何かを感じたり起こったりする気配が一切ない。

「はい、夏芽」

私は杖を片手に握り締めている夏芽に水晶玉を手渡した。

「何か感じる?」

水晶玉を受け取った夏芽は軽く首を振った。

「いいや」

軽く答えると、そのままじっと水晶玉を見つめだした。

おいおい、水晶玉にメンチ切ってどうする。何も起こらないって。

「これ以上、壊しちゃだめだよ」

私はそれだけ言うとピクリともしない大司教に近づき、顔を覗き込むようにしてしゃがんだ。

「どうせ気絶するなら、写真撮らせてからにしてほしかったな」

ぼそりと呟いた後、大司教の顔をパシャリと撮った。

「つまんない顔」

召喚時に夏芽に殴られた時は、あんなに面白い顔で失神していたのに。
やっぱり、ただ目を閉じただけの男の写真なんて面白味がないな。

あ~あ、さっさとシャッターボタンを押していればよかった。でもまぁ、こうやって目撃者が気絶してくれたことは不幸中の幸いかな。

今、私の中で三つの選択肢が頭の中に浮かんでいる。

① 二人が目を覚ました時、徹底的に脅し、口止めする。
② 私たち二人がここから離れて、二人が見た私たちの姿は幻ということにさせる。
③ 口止めじゃなく、口封じ。

まったく面倒くさいな。

だいたいこういう面倒は元の世界では義父がほとんどやってくれていた。義父の人脈と金と影響力は元の世界では思いのほか、大きいから。義父がいてくれたら、数分で人間も事件も片付けてくれただろうな。でも、今の私らには金もなく義父の影響力も関係ない世界にいる。こういう始末は全部自分たちでしなくてはいけない。

ごちゃごちゃしたことを考えるの、嫌いなんだよね。
嫌いだから、全部の面倒を引き受けてくれるからあの男の養子になったのに。

なんて、嘆いていても仕方がないな。思考を戻さないと。

三つある選択肢の内、一番私たちにとって楽なのは②だろう。
杖を元の位置に戻して、私らはここをこっそりと出ればいい。
二人は今、揃って気絶している。私たちの姿を見たと後で騒がれても、私らは知らぬ存ぜぬで通せばいい。①はだめだ。大司教はともかく、さすがに今回のこと関して副神官長はちょっとやそっとの脅しに屈しないような気がするから。そして、最も面倒なのは③。私たちも人間の始末はやったことがない。人間の始末って思いのほか困難らしいから。
まぁ、③は半分冗談なんだけどね。半分は。

やっぱり、一番妥当なのは②か。
仕方がない。今日のところは出直すしかない。

まずは杖を展示ケースに戻さないと。

「夏芽、ちょっとその杖貸して………って夏芽?」

じっと水晶玉を見入るのに飽きたのか、夏芽はいつのまにか私のすぐ傍まで来ていた。
そして、杖をゴルフクラブのように握り、女神官の頭目掛けてスイングしようとしていた。

「こらこら、夏芽。二人の頭はゴルフボールじゃないよ」

「死なない程度に殴って、昏睡させる。それかこのまま寝ている内に………」

夏芽の案は、まさにさっき私が半分冗談に考えていた③だった。

「だめだめ、その案は楽そうだけど一番面倒くさい案だよ」

私は③に行く前に①②と別の選択肢が頭によぎっていたが、夏芽のほうがすぐに③に思考が行きついたみたい。

「今日のところはとりあえず、出直そう。いいね?」

「………………ん」

私がそういうと、夏芽は肩を少し揺らした後、杖を下げた。
おや、意外と素直。ちょっとごねるかと思ったけど。双子とはいえ、やっぱり心中すべてを察するのは難しい。

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