聖女として召喚された性悪双子は一刻も早く帰還したい

キリアイスズ

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この人がリオン君のお姉さんか

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私らは今、城下町の裏路地に来ていた。
ある目的のために。

「おお、映画のワンシーンみたい」

私はぽけっとした顔で、スマホで一枚撮った。

そびえ立つレンガ造りの壁が細い通路を挟み、頭上には数枚の万国旗のようなカラフルな洗濯物がそよそよとはためいている。歴史を感じさせる建物に生活感を滲ませる洗濯物が干される風景はまるで、昔見たイタリア映画のワンシーンみたいだ。

もう一枚撮ろうと腕を掲げる。

「家は?」

「あ、はい。こっちです」

急かす夏芽にリオン君は答える。

「あ、待って待って。一枚撮るから」

私はパシャッと撮ると、急いで二人を追った。

「あ、あの………誰にも告げないまま王宮から出てしまってよかったんでしょうか?やっぱり誰か一人にでも言ったほうが………」

「いまだに帰還の準備とかでバタバタしてるんだから、ちょっとの間王宮から抜けたくらい別にいいって。別にそんなに時間がかかるわけでもないし。それに今更でしょ。今から引き返せって?ていうか、馬鹿正直に『今から城下町に出ます』っ言うの?抜ける理由とか詳細とか聞かれたらどうすんの。他人に知られたくないんじゃなかった?」

「………………」

そんな叱られた子犬みたいにシュンとするなっての。
まぁ、実際責めてるんだけど。一年に一回あるかないかわからないほどの人助けをしてあげようとしてるんだから、萎えるようなこと言わないでほしい。こっちはさっさと事を済ませてさっさと戻りたいんだから。

「ここです」

薄暗い裏路地の中でリオン君は目の前にある扉を指差した。薄暗くて狭い路地の中にある、修繕がまったくさせていないぽつんと小さな、錆が所々入った扉。
いかにも貧乏人が住んでるって感じだ。

「………える」

「え?」

夏芽は何か呟いた。ちらりと夏芽の様子を窺ってると怪訝な表情で扉を見つめている。

「聞こえる、あの声が」

「え、私には何も聞こえ………ああ、そっか」

一瞬夏芽が何を言っているのわからなかったが、すぐに察した。
夏芽の耳に今何が聞こえて、なぜ夏芽にしか聞こえていないのか。

私には聞こえないのは当然か。だって私は「姉」の聖女だから。
リオン君は懐から鍵を取り出し、扉を開けた。

「姉さん、今帰ったよ」

リオン君は軽く声を上げて、部屋の中に一歩踏み出した。

「おじゃましまーす」

私たちも当然それに続く。

暗っ、狭っ。

外観からの印象で想像していたとはいえ、思わずそう思わずにはいられなかった。いまだに太陽を覆った微妙な天気とはいえ、今はまだ昼過ぎの時間帯。昼過ぎの時間帯とは思えないほど部屋の中は薄暗い。

部屋の隅にあるオイルランタンがなかったら完全な真っ暗闇になっているだろうな。
目を凝らして部屋を見回すと、小さいな窓を一つ発見した。一応、扉方向にあるけど日当たりが悪いから、意味ないな。

それに狭い。薄暗くても部屋の範囲はだいたいはわかる。
広さはギリギリ十畳ほど。こんなに狭くて暗い部屋は久しぶりだ。
まるで築五十年の安アパートみたい。部屋にあった明かりがあったおかげか、早めに目が慣れていった。おぼろげだった視界が鮮明になってく。

あれ?ワンルームだと思っていたけど扉が二つある。
もう二部屋あるんだ。たぶんどちらかがお姉さんの部屋なんだろう。

「……リオン?帰って、来たの?」

弱くて、たどたどしい女の声が右の扉の向こうから聞こえた。
お姉さんの部屋は右の部屋か。じゃあ、左の部屋がリオン君の部屋かな。
リオン君は扉を軽くノックする。

「今帰ったよ、姉さん」

リオン君は扉を開けた。扉の先の部屋はオイルランタンが二つあったため、十畳ワンルームよりかは幾分か明るかった。しかし、あくまで幾分かだ。薄暗い部屋の隅にあるベッドの上で、女性が体をゆらりと揺らしながらゆっくりと起き上がっているのが見える。しかし、この薄暗さのせいか、ここからだと表情や顔色がわからない。ただ、のっそりとした動きと起き上がる時の息遣いで健常な体ではないことだけはわかった。

この人がリオン君のお姉さんか。

「姉さん、無理に起き上がらないで」

「他に………誰か、いるの?」

「………うん」

気まずい空気が流れる。しかし、それはほんの一瞬のこと。
夏芽はそんな空気を一切意に介さず、ベッドに近づいていった。

夏芽の他人の家お構いなしな足取りにここまでずっと不安そうな顔でいたリオン君は瞬く間にぎょっとした顔つきに変わった。

「あ、あの、ちょっと」

私は夏芽が何をしようとしているのか、そして何を考えているのか理解できた。
というより、私とだいたい同じことを考えているはず。

リオン君からあらかた事情を聞いたけど、やっぱり自分の目で確かめたい。
夏芽はベッドのすぐ脇に置いてあるオイルランタンの持ち手を掴み、お姉さんの体の上に掛かっている毛布を乱暴にがばっとめくった。

「な、何を!」

お姉さんの元に駆け寄ろうとするリオン君を私を掴んだ。

「ごめんね、ちょっと私も確認したいの」

夏芽を止めるのはちょっと待ってね。夏芽は別に君のお姉さんを害しようとはしてないから。
ポン、とリオン君の肩を叩いた後、私もベッドに近づいた。

がばっと毛布をめくった夏芽は持っていたオイルランタンでお姉さんの体を照らした。
ふぅん、この鮮やかなオレンジ色の髪に萌黄色の瞳、まさしくリオン君のお姉さんだ。
年齢はだいたい二十歳前後ってところかな。

それにさすがリオン君のお姉さん。整った顔してるな。
顏半分が赤黒く変色していても、整っているのがわかるなんてある意味羨ましい。
私と夏芽はまじまじとお姉さんの顔と体を見つめる。

「ふぅん、本当にそうだった。本当に………リオン君のお姉さん瘴気に侵されてたんだ」

リオン君のお姉さんの身体の至るところの皮膚の表面がえぐいという表現が当てはまるほど、赤黒く変色していた。顔は眉間の真ん中から左頬までの皮膚が覆うように赤黒くなっていて、正常な顔の右部分の皮膚との違いがはっきりとしている。変色部分は顔だけじゃない。斑模様のように首、鎖骨、左手足にもある。パジャマで覆われた身体にもきっとあちこちにあると思う。

これがリオン君のお姉さんの噂の正体か。王宮内で広まっていたお姉さんの噂というのは「神官見習いのリオンの姉は瘴気に侵されている」というものだった。




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