聖女として召喚された性悪双子は一刻も早く帰還したい

キリアイスズ

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私の中で何かが弾けた

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その後は、トントン拍子で上手くいった。養子の手続きも周囲の根回しもあっという間。
政治家の男は正式に私らの義父となった。義父の力で私らをネグレクトしていた母親は施設送りとなり、ついで母親と付き合っていた私らに過去暴力を振るっていた男たちも逮捕された。

母親が施設に送られた以降、一回も会っていない。
マジすごいな、権力って。望んでいたこととはいえ、さすがの私も漫画やドラマのようにこれほどスムーズに事が運ぶなんて思っていなかった。

その時はいくつだったかな。たぶん、小四か小五くらいだと思う。
振り返ってみると、色々と危なかったかも。マジであの劣悪な環境のままだったら、私も夏芽も小学生で処女喪失の危機に陥っていただろうから。

すべての手続きを終えた私らは義父が所有しているマンションに引っ越した。住む場所が変わるということは、当然学校も変わる。転校先はお金持ちばかりが通う有名小学校。
転校したばかりの頃、良くも悪くもジロジロ見られていたな。
まぁ、双子は滅多にお目に掛かれないものだと思うから、多少好奇の目にさらされても仕方がない。それは仕方がないと納得していたけどその後がちょっぴり面倒でウザかった。

話がとにかく、合わない合わない。そりゃ、合うわけがない。お金持ちの苦労知らずのお坊ちゃんお嬢ちゃん連中と物心ついたころから貧困生活続けてきた双子となんて価値観も金銭感覚が違うのは当たり前。興味本位で近寄ってきたのは最初だけで、話が合わないとわかると引き波のように人が離れていった。私らにとってそっちのほうが好都合だ。人が寄って来るより離れて言ったほうが、いちいち相手にしなくていいし余計な面倒も少なくなる。

……そう思っていたのに。
やっぱりクラスの一人か二人、めざとい人間っているものだ。私らが養子だっていうこと、貧乏生活を送っていたこと、実の母親を施設送りにしたことを風の便りか何かで嗅ぎつけられた。

金持ちの情報網って一般人とはやっぱり違うんだな。マジすごいな。悪い意味で。

いつかはその事実に誰かに気づかれるだろうと思っていたけど、予想以上に早かった。
一気にクラス中に広まったな。ほとんどのクラスメイトからクスクスとした嘲笑と侮蔑の視線を向けられたっけ。また、転校前と同じ目に遭うのかなとぼんやり思う一方で自分の中で溜まりに溜まっていたのが風船のように割れる寸前にまでなっているのに気づいた。

なんで、私我慢しているんだろう。我慢なんてもうする必要ある?
今はもう、何かあった時に誰も守ってくれなかった惨めな頃とは違う。生きるために仕方なしに母親に大人しく従っていた無力な頃とは違う。
もう、明日のごはんの心配をしなくていい。お金もあるし、強力な後ろ盾だってある。
私らを今、生かしてくれているのは母親なんかじゃない。

……今?いいや、それは間違いだった。私らを生かしていたのは母親なんかじゃない。いつだって私ら自身だったじゃないか。私一人だけだったら、あの最悪な環境から抜け出そうとは思わなかったかもしれない。大人相手に取引なんて、危ない橋を渡ろうとは思わなかったかもしれない。

同じ痛みや苦しみを伴う片割れがいたから、耐えられた。一人じゃなかったからここまで頑張れた。
私らの味方は生まれた時からいつだって、お互いの存在だけだった。
この世には私と夏芽とその他の人だけ。それでいい。

したがって夏芽以外の人間を利用しようが踏みつけようが、なんとも思わないし思いたくだってない。だからもう、状況に耐えるなんてくだらないことはしなくていいんだ。

数秒の自分との対話。

私の中で何かが弾けた。弾けたと思った時には体が勝手に動き、クスクスと特にウザったらしく笑うクラスメイトの男子一人をぶっ飛ばしていた。

思わずおお、とその場に不釣り合いな声を出していたな。今まで喧嘩も取っ組み合いもしたことがないのに、思いのほか吹っ飛んだから。同時にあれ?とも思った。
だって、吹っ飛ばしたクラスメイトは一人だったはずなのに倒れている人数が二人だったから。
すぐにハッとし隣にいる夏芽を見た。夏芽は私と同じ右手を突き上げるアッパーカットのポーズを取っていた。私は可笑しくなって思わず声を出して笑ってしまった。
やっぱり、私らって双子だね。弾けるタイミングや他人の吹っ飛ばし方が変なところでシンクロする。

瞬く間にクラス中が騒然となり、担任やらが慌てふためいていた。なんでも、その吹っ飛ばした男子二人というのが学校の理事長の息子と超有名大学の教授の息子だったらしい。しばらくは学校関係者の大人たちから謝罪しろを耳にタコができるほど言われると思っていたが、吹っ飛ばした次の日面白いことが起きた。吹っ飛ばしたその男子二人が私らに謝ってきた。あれだけ、私らをせせら笑っていた男子二人が涙目になりながら、私らに頭を下げている姿に一瞬、ぽかんとした。

私はすっかり忘れていた。義父がある程度の事件をもみ消すことができるほどの権力を持つ政治家だと。ある程度の事件を権力で思いのままにできるから、私の母親は施設送りになり、私らは義父の養子になることができたんだった。

私らの義父は事件自体をもみ消す権力を持った政治家。片や、男子の二人の父親は教育機関に対してだけ権力を振るえない地位の理事長と教授。権力の力関係なんて明白。

私と夏芽の知らないところで、大人たちの何らかのやり取りがあったんだろうというのは想像がついた。どんなやり取りがされていたのかは詳しくはわからない。わからないけど典型的なガキ大将気質の男子二人がメソメソと震えている姿から察するに、親に鬼のように怒られたんだろうな、ということだけはわかった。

改めて思った。権力というものはでマジでえぐい。子供の喧嘩にすら、こうも影響があるんだから。権力というものは姿がないモンスターのようなものだ。

怖いと思った。でも、ひどいとは思わなかった。むしろ、私は義父が政治家というだけで大人たちがヘコヘコする姿が滑稽で愉快に感じた。

私たちにとって姿の見えない権力という名のモンスターは悪いものでは決してない。私たちを守ってくれるもの。このモンスターがいれば、私たちは自由に生きれる。
誰にも縛られず、虐げられず、理不尽を強いられない。

なんて、素敵で愉しくて気分のいい生活なんだろう。

私たちはその吹っ飛ばし事件をきっかけに欲望に身を任せた、自己抑制の一切ない生活に身を任せる日々を送り続けた。


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