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悪くないじゃん
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「それ、不満って言わない?」
「……そう、なんでしょうか……そうかもしれませんね。もしくは両方かもしれないです」
リオン君は力なく、自嘲気味に言った。
「僕はたぶん、ずっと欲しかったんです、変化を。この言葉にするのは難しい漠然としたものを解消してくれるような何かが起こってほしいって思っていたんです」
「ふぅん」
さっきまでは確かにリオン君と話すのが飽きたと思っていたし、マジで夏芽を起こして帰ろうとも思っていた。でも、今はそれほどつまらないとは思わない。むしろ、興味が出てきた。
「実は僕、姉さんが瘴気に侵されている間、“人に知られたら駄目だ、姉さんを守らないと”と思っていたのと同時に姉さん自身を……煩わしいとも思っていたんです」
自分を恥じているような、低い声音。
顔をいちいち見なくてもわかる。きっと眉尻が下がっている表情だろう。
「姉さんのことがバレているのかバレていないのか、人と話すときも話さない時も常に気を張っていなくてはいけなくて……ただでさえ、孤児であるというだけで周囲から少し浮き気味なのに。家でだって気が抜ける場所というわけではない。感染しないように気をつけながら、姉さんの身の回りのことを色々としなくてはいけない。そんな状態を誰にも相談できず、誰とも共感できずにいた日々………ふと、思ったことがあります。“こんな、気の休まることのない日々はいつまで続くんだろう。僕だって、羽目を外して遊んでみたい。話し相手が欲しい。友達が欲しい”って」
「あ~、それってあれでしょ?介護疲れみたいな」
「ひどい弟ですよね。姉さんの命が危ないという時に」
「ひどい?どこが?普通だと思うけど」
十歳の男の子だ。遊びたいって思うのも普通。同じ年頃の子の話し相手が欲しいって思うのも普通。友達が欲しいって思うのも普通。そして、バレるかバレるか神経使う生活に疲れて、自棄になりそうになるのも普通。ていうか、そんな八方塞がりの状況、大人だって投げ出したくなる。
まぁ、今まで我慢したものだよ。
……いや、色々と爆発寸前だったのかも。
何にしても優等生からそんな打ち明け話を聞かされるなんてね。
数分前までは思ってなかったよ。
「普通、ですかね」
そう言って力の抜けた笑みを見せた。そしてリオン君も立っているのに疲れたのか、壁に体を預けた。
「ねぇ、まだある?君の『実は……』は?なんかまだありそう」
私はスッと立ち上がり、リオン君と同じように壁に体を預けた。
不思議だ。リオン君の打ち明け話を聞いていたら、眠気がいつのまにか吹っ飛んでいた。
「一つあります」
くすりと笑うリオン君。その笑みは十歳の子供らしい、いたずらっ子のような笑い方だ。
悪くないじゃん。良い子でいようと繕おうとする笑い方なんかより、ぜんぜん良い。
「実は……お二人が聖女として、この世界に召喚された時、どきどきしたんです」
「どきどき?」
「だって、お二人ぜんぜん聖女らしくないんじゃないですか」
「ん?どゆこと?」
「さっきも言いましたけど、僕は変化が欲しかったんです。神官見習いの決まった仕事や姉さんの看病、魔力向上のための鍛錬……この繰り返しの変わらない毎日から抜け出したかった。でも、僕はそれを変える勇気や術を知らなかった。だから………その小さな願いも半分諦めてました」
繰り返しの毎日か。ある意味、私と夏芽の毎日も繰り返しだな。喧嘩や喧嘩や喧嘩や喧嘩。私の場合、その喧嘩に撮影やSNSがちょいちょい入ってるけど。
でも私は今のところ、リオン君のようにその毎日を『退屈だ』とか、『飽きた』とかは思ってない。
「聖女召喚の儀式当時もそんな不真面目な気持ちでいたんです。聖女様達が召喚されても自分の生活習慣はほぼ変わらない、僕が召喚の儀に立ち会っても役に立つことも意味だってないだろうって思っていました……それに見習いの僕なんかではきっと聖女様には近づくこともできないとも」
「……そう思っていたにも関わらずこの世界で誰よりも双子に関わる存在になりましたとさ」
リオン君はプッと噴き出す。
「本当に思っていたんです、自分の状況や環境は変わらないって。召喚された聖女様達はきっと何人もの神官に取り囲まれて、姉さんのことを相談できないだろうし例え相談できたとしても、浄化は後回しにされるだろうと………自棄になってました。あの時までは」
「あの時って……もしかして」
「はい、お二人が召喚された直後、大神官様を殴った時です」
私は殴ってないけどね。
「あの時は気づかなかったけど、あの場にリオン君いたんだよね?」
「はい、あの時は驚きました。まさか召喚された直後に大神官様が殴られるなんて考えもしませんでしたから。そう思っていたのは僕だけではなく、あの場にいた全員だと思います」
「あんまり覚えてないけど全員が全員、私らに対して不快感示していたね。懐かしい」
私は殴ってないし、夏芽もあの時は大神官だと思って殴ったわけじゃないけどね。でも、この世界の奴らは私らに殴られて当然のことをしたって今でも思うよ。
だって私ら誘拐されたんだから。むしろ、勝手な都合で誘拐されて私らが怒りを感じないとマジで神官たちは思っていたんだろうか。召喚してくれてありがとうでも言うと思っていたのか。たぶん、良い意味でも悪い意味でも召喚の儀に立ち会った奴ら全員『聖女』という存在をを同じ人間として見ていないから、何の躊躇いもなく召喚なんてものができたんだろうな。
………………私も殴っとけばよかったかな。
「大司教様は神殿に仕えるものや信仰心の高いものにとっては神様のような、そんな尊い存在です。そんな大司教様に怪我を負わせたんです。神官なら嫌悪感や疑いの目を持つのは当然のことです」
「そう……リオンもそうなの?」
「見習いとはいえ、一人前の神官を目指すのなら周囲と同じようなお二人に怒りを感じるべきなのはわかっていたんです。わかってはいても………僕はどうしてもお二人にそんな不快感を持つことができませんでした」
リオン君は壁から背中を放し、私に体の正面を向け、そして私に視線を合わせようと顔を上げた。
その表情は――。
「お二人を見た時、ものすごく心臓がどきどきしたんです。今でも覚えています。頭の中がしびれて体中に巡っている血液までが一瞬で熱くなった、初めての感覚。耳にうるさく響くくらい鼓動が早くなっているのに………おかしな言い方かもしれませんが、わくわくしたんです」
目をキラキラとさせた好奇心に満ち足りた表情だった。
それは優等生然とした年不相応なものではなく十歳児の子供特有そのものだった。
「……そう、なんでしょうか……そうかもしれませんね。もしくは両方かもしれないです」
リオン君は力なく、自嘲気味に言った。
「僕はたぶん、ずっと欲しかったんです、変化を。この言葉にするのは難しい漠然としたものを解消してくれるような何かが起こってほしいって思っていたんです」
「ふぅん」
さっきまでは確かにリオン君と話すのが飽きたと思っていたし、マジで夏芽を起こして帰ろうとも思っていた。でも、今はそれほどつまらないとは思わない。むしろ、興味が出てきた。
「実は僕、姉さんが瘴気に侵されている間、“人に知られたら駄目だ、姉さんを守らないと”と思っていたのと同時に姉さん自身を……煩わしいとも思っていたんです」
自分を恥じているような、低い声音。
顔をいちいち見なくてもわかる。きっと眉尻が下がっている表情だろう。
「姉さんのことがバレているのかバレていないのか、人と話すときも話さない時も常に気を張っていなくてはいけなくて……ただでさえ、孤児であるというだけで周囲から少し浮き気味なのに。家でだって気が抜ける場所というわけではない。感染しないように気をつけながら、姉さんの身の回りのことを色々としなくてはいけない。そんな状態を誰にも相談できず、誰とも共感できずにいた日々………ふと、思ったことがあります。“こんな、気の休まることのない日々はいつまで続くんだろう。僕だって、羽目を外して遊んでみたい。話し相手が欲しい。友達が欲しい”って」
「あ~、それってあれでしょ?介護疲れみたいな」
「ひどい弟ですよね。姉さんの命が危ないという時に」
「ひどい?どこが?普通だと思うけど」
十歳の男の子だ。遊びたいって思うのも普通。同じ年頃の子の話し相手が欲しいって思うのも普通。友達が欲しいって思うのも普通。そして、バレるかバレるか神経使う生活に疲れて、自棄になりそうになるのも普通。ていうか、そんな八方塞がりの状況、大人だって投げ出したくなる。
まぁ、今まで我慢したものだよ。
……いや、色々と爆発寸前だったのかも。
何にしても優等生からそんな打ち明け話を聞かされるなんてね。
数分前までは思ってなかったよ。
「普通、ですかね」
そう言って力の抜けた笑みを見せた。そしてリオン君も立っているのに疲れたのか、壁に体を預けた。
「ねぇ、まだある?君の『実は……』は?なんかまだありそう」
私はスッと立ち上がり、リオン君と同じように壁に体を預けた。
不思議だ。リオン君の打ち明け話を聞いていたら、眠気がいつのまにか吹っ飛んでいた。
「一つあります」
くすりと笑うリオン君。その笑みは十歳の子供らしい、いたずらっ子のような笑い方だ。
悪くないじゃん。良い子でいようと繕おうとする笑い方なんかより、ぜんぜん良い。
「実は……お二人が聖女として、この世界に召喚された時、どきどきしたんです」
「どきどき?」
「だって、お二人ぜんぜん聖女らしくないんじゃないですか」
「ん?どゆこと?」
「さっきも言いましたけど、僕は変化が欲しかったんです。神官見習いの決まった仕事や姉さんの看病、魔力向上のための鍛錬……この繰り返しの変わらない毎日から抜け出したかった。でも、僕はそれを変える勇気や術を知らなかった。だから………その小さな願いも半分諦めてました」
繰り返しの毎日か。ある意味、私と夏芽の毎日も繰り返しだな。喧嘩や喧嘩や喧嘩や喧嘩。私の場合、その喧嘩に撮影やSNSがちょいちょい入ってるけど。
でも私は今のところ、リオン君のようにその毎日を『退屈だ』とか、『飽きた』とかは思ってない。
「聖女召喚の儀式当時もそんな不真面目な気持ちでいたんです。聖女様達が召喚されても自分の生活習慣はほぼ変わらない、僕が召喚の儀に立ち会っても役に立つことも意味だってないだろうって思っていました……それに見習いの僕なんかではきっと聖女様には近づくこともできないとも」
「……そう思っていたにも関わらずこの世界で誰よりも双子に関わる存在になりましたとさ」
リオン君はプッと噴き出す。
「本当に思っていたんです、自分の状況や環境は変わらないって。召喚された聖女様達はきっと何人もの神官に取り囲まれて、姉さんのことを相談できないだろうし例え相談できたとしても、浄化は後回しにされるだろうと………自棄になってました。あの時までは」
「あの時って……もしかして」
「はい、お二人が召喚された直後、大神官様を殴った時です」
私は殴ってないけどね。
「あの時は気づかなかったけど、あの場にリオン君いたんだよね?」
「はい、あの時は驚きました。まさか召喚された直後に大神官様が殴られるなんて考えもしませんでしたから。そう思っていたのは僕だけではなく、あの場にいた全員だと思います」
「あんまり覚えてないけど全員が全員、私らに対して不快感示していたね。懐かしい」
私は殴ってないし、夏芽もあの時は大神官だと思って殴ったわけじゃないけどね。でも、この世界の奴らは私らに殴られて当然のことをしたって今でも思うよ。
だって私ら誘拐されたんだから。むしろ、勝手な都合で誘拐されて私らが怒りを感じないとマジで神官たちは思っていたんだろうか。召喚してくれてありがとうでも言うと思っていたのか。たぶん、良い意味でも悪い意味でも召喚の儀に立ち会った奴ら全員『聖女』という存在をを同じ人間として見ていないから、何の躊躇いもなく召喚なんてものができたんだろうな。
………………私も殴っとけばよかったかな。
「大司教様は神殿に仕えるものや信仰心の高いものにとっては神様のような、そんな尊い存在です。そんな大司教様に怪我を負わせたんです。神官なら嫌悪感や疑いの目を持つのは当然のことです」
「そう……リオンもそうなの?」
「見習いとはいえ、一人前の神官を目指すのなら周囲と同じようなお二人に怒りを感じるべきなのはわかっていたんです。わかってはいても………僕はどうしてもお二人にそんな不快感を持つことができませんでした」
リオン君は壁から背中を放し、私に体の正面を向け、そして私に視線を合わせようと顔を上げた。
その表情は――。
「お二人を見た時、ものすごく心臓がどきどきしたんです。今でも覚えています。頭の中がしびれて体中に巡っている血液までが一瞬で熱くなった、初めての感覚。耳にうるさく響くくらい鼓動が早くなっているのに………おかしな言い方かもしれませんが、わくわくしたんです」
目をキラキラとさせた好奇心に満ち足りた表情だった。
それは優等生然とした年不相応なものではなく十歳児の子供特有そのものだった。
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