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見直したよ、リオン君
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リオン君は早口でまくし立ててくる。
「お二人のことがすごく知りたい、もっと近くで見てみたいと思いました。同時にこんなわくわくするような感覚、もう二度と味わうことはないな、とも思いました。僕は………どうしても自分の中にある熱を捨てたくなかった。見て見ぬふりをしたくなかった。僕はどうにかしてお二人に近づかった。だから、神官や見習いの中の誰かがお二人に召喚についての説明をしなくてはいけないと聞いて、チャンスだと思いました。僕は自分からその役割をやりたいと言いました」
「じゃあ、リオン君は大人たちに押し付けられて私らの部屋に来たんじゃなく、自分からその役を買って出たってこと?」
「はい、幸運にも僕以外誰もその役をやりたいと言う神官も見習いもいませんでしたので」
だいたいの人間が私らに対しての第一印象は『嫌悪』と『恐怖』だが、ごくたまに『好奇心』で近寄ってくる人間もいる。ただし、その好奇心に恐怖も絶対大なり小なりくっついているものだ。完全な好奇心で近寄ってくる人間が経験上、極めて少ない。その少数派にリオン君は入ってしまっているようだ。この目は恐怖心なんてあるかどうかわからないほど、好奇心という欲求が完全に上回っている目だ。
なんか、ちょっぴりリオン君に同情してしまう。想像はしていたけど、マジで娯楽という娯楽が今までなかったんだな。いや、お利口さんにずっと過ごしていたからこそ、私らみたいな存在に刺激を求めたとも言えるのかもね。
でも、すっきりした。なんでリオンは私らに対して妙に好意的だったのか、ずっと疑問だったんだよね。元からリオン君は私らに対してご大層な理想を夢見ていたわけではなかった。リオン君は私らを聖女にふさわしい清廉潔白な双子だと思い込んでいたから懐いていたんではなく、好奇心と冒険心にただ付き従っていたからだった。
納得した。そういう理由ならしっくりくるし、悪くない。綺麗事丸出しの価値観や理想ではない理由は私らにとっては気が楽だし、好感も持てる。
それに面白いじゃん、リオン君。夏芽はともかく、この私ですらリオン君の刺激への欲求という本心を一切見抜けなかった。マジで私らを純粋に慕ってくれているのかなと思っていた。すっかり、騙されたよ。まさか、折り目正しさの姿勢の裏にそんな思惑が隠されていたなんて、リオン君からの打ち明け話がなかったら、きっと気づかなかった。ただ顔だけが可愛いつまんない優等生だと思っていたけど、こういう意外性な一面を覗けてとても興味深く思う。
見直したよ、リオン君。やるじゃん。最後の最後にこの私を愉快な気分にさせるなんて。
「で、どうだった?私らがここに来て四日間だったっけ?実際こうやって話してみての感想は?」
「あっという間の四日間でした。お二人の突拍子のない行動はいつも僕の予想の斜め上でした。驚いたり、緊張したり……少し怖い思いもしたことはありましたが、やっぱり僕はお二人のこと嫌いにはなれません」
「……」
リオン君は私から視線を外さない。さっきまでしゃべっていたリオン君の表情は無邪気そのものだった。でも、今私に視線を高く上げているリオンの表情にはその子供特有の無邪気さは感じられなかった。真剣に、穏やかに、落ち着きを孕んだ顔つきをしながら、まっすぐ私を見ている。
なんだろう。この感じ。
何もされていないのに、むずかゆい。
それに、なんだろう………言葉にできないな。
なんか……なんか……あんまりそんな目で見てほしくない。
「お二人はこの国の人たちにとっては『異世界から聖女様』です。召喚される前も、そして今でも……きっとお二人が異世界に帰還した後でもそれはきっと変わらないと思います。実は………召喚される前から今日まで、僕にとっても『異世界の聖女様』でした」
「……最後の『実は』かな」
私らは所謂、上野のパンダみたいなものだったんだろう。大多数が群がる興味の対象。
動物園を思い出す。似ているかもね。だって、動物園に来日する客は動物の気持ちを顧みることはないから。至れり尽くせりの世話や褒めたたえたりすれば、満足していると勝手に思い込む。
この世界の貴族、魔法使い、神官、そしてリオン君も聖女に対するイメージの良し悪し関係なく、自分らとは違う生きものみたいな認識だったんだろうな。
でも、リオン君とそれ以外の奴らと私らに対する認識の差が今でははっきりしている。
奴らの認識はきっとこうだろう。大人しいパンダを可愛がるつもりが、そのパンダに予想だにしていなかった牙や爪があった。しかも、性格は大人しいとはかけ離れたもので、鋭い爪や牙で無差別に切り裂くほど凶暴で獰猛。でも、パンダは希少価値の高い動物だから追い出すことも殺処分することもできない。だから、金も手間もかからない方法で手なずける方法を考えないといけない。手なずけることがどうしても無理だったら、別のパンダと交換すればいい。
だいたい、こんな感じだろう。
まぁ、奴らの気持ちもわからなくもないけどね。誰だって懐かない性格が凶暴のパンダなんて、飼いたくない。大人しくてかわいいパンダと交換できる方法があるのなら、そっちの選択をするだろう。
対してリオン君の認識はきっと、こうだ。リオン君にとって暴れまくるパンダはきっと戦隊ものに出てくるような『怪獣』みたいに見えていたんだろう。正義感溢れたヒーローより攻撃性と過激性を兼ね揃えた怪獣に好奇心をくすぐられる。リオン君くらいの年頃の男の子が、そういうものに本能的に惹かれることはそう珍しくもない。ただ、リオン君は同じ年頃の子よりもちょっと……いや、かなりストレスをため込んでいる子だ。そのストレスを発散させるために、無意識下に好奇心と共にカタルシスも私たちに感じていたんじゃないかな。
カタルシス。以前、テレビで聞いた単語。
心の奥にしまっていた感情が何かしらのきっかけで解放され、気持ちが晴れること。元々は『悲劇が観客の心を浄化する効果』を差したことが由来らしい。
そのなにかしらは人それぞれだがリオン君の場合、『すべてを破壊する聖女二人の鑑賞』だったと思う。怪獣映画を見るような感覚だったんじゃないかな。すべてを救う聖女よりもすべてを破壊する聖女が、リオン君のカタルシスを引き起こしたということか。
奴らの私らに対する認識は反感。リオン君は好感。差がはっきりとしているが、私たちにとって人間扱いされていない時点でさほど変わらない。リオン君自身、それをはっきりと自覚しているのかはわからないけど。
そんなリオン君が、最後の最後で見たことがないような面持ちで私を見てくる。
「お二人のことがすごく知りたい、もっと近くで見てみたいと思いました。同時にこんなわくわくするような感覚、もう二度と味わうことはないな、とも思いました。僕は………どうしても自分の中にある熱を捨てたくなかった。見て見ぬふりをしたくなかった。僕はどうにかしてお二人に近づかった。だから、神官や見習いの中の誰かがお二人に召喚についての説明をしなくてはいけないと聞いて、チャンスだと思いました。僕は自分からその役割をやりたいと言いました」
「じゃあ、リオン君は大人たちに押し付けられて私らの部屋に来たんじゃなく、自分からその役を買って出たってこと?」
「はい、幸運にも僕以外誰もその役をやりたいと言う神官も見習いもいませんでしたので」
だいたいの人間が私らに対しての第一印象は『嫌悪』と『恐怖』だが、ごくたまに『好奇心』で近寄ってくる人間もいる。ただし、その好奇心に恐怖も絶対大なり小なりくっついているものだ。完全な好奇心で近寄ってくる人間が経験上、極めて少ない。その少数派にリオン君は入ってしまっているようだ。この目は恐怖心なんてあるかどうかわからないほど、好奇心という欲求が完全に上回っている目だ。
なんか、ちょっぴりリオン君に同情してしまう。想像はしていたけど、マジで娯楽という娯楽が今までなかったんだな。いや、お利口さんにずっと過ごしていたからこそ、私らみたいな存在に刺激を求めたとも言えるのかもね。
でも、すっきりした。なんでリオンは私らに対して妙に好意的だったのか、ずっと疑問だったんだよね。元からリオン君は私らに対してご大層な理想を夢見ていたわけではなかった。リオン君は私らを聖女にふさわしい清廉潔白な双子だと思い込んでいたから懐いていたんではなく、好奇心と冒険心にただ付き従っていたからだった。
納得した。そういう理由ならしっくりくるし、悪くない。綺麗事丸出しの価値観や理想ではない理由は私らにとっては気が楽だし、好感も持てる。
それに面白いじゃん、リオン君。夏芽はともかく、この私ですらリオン君の刺激への欲求という本心を一切見抜けなかった。マジで私らを純粋に慕ってくれているのかなと思っていた。すっかり、騙されたよ。まさか、折り目正しさの姿勢の裏にそんな思惑が隠されていたなんて、リオン君からの打ち明け話がなかったら、きっと気づかなかった。ただ顔だけが可愛いつまんない優等生だと思っていたけど、こういう意外性な一面を覗けてとても興味深く思う。
見直したよ、リオン君。やるじゃん。最後の最後にこの私を愉快な気分にさせるなんて。
「で、どうだった?私らがここに来て四日間だったっけ?実際こうやって話してみての感想は?」
「あっという間の四日間でした。お二人の突拍子のない行動はいつも僕の予想の斜め上でした。驚いたり、緊張したり……少し怖い思いもしたことはありましたが、やっぱり僕はお二人のこと嫌いにはなれません」
「……」
リオン君は私から視線を外さない。さっきまでしゃべっていたリオン君の表情は無邪気そのものだった。でも、今私に視線を高く上げているリオンの表情にはその子供特有の無邪気さは感じられなかった。真剣に、穏やかに、落ち着きを孕んだ顔つきをしながら、まっすぐ私を見ている。
なんだろう。この感じ。
何もされていないのに、むずかゆい。
それに、なんだろう………言葉にできないな。
なんか……なんか……あんまりそんな目で見てほしくない。
「お二人はこの国の人たちにとっては『異世界から聖女様』です。召喚される前も、そして今でも……きっとお二人が異世界に帰還した後でもそれはきっと変わらないと思います。実は………召喚される前から今日まで、僕にとっても『異世界の聖女様』でした」
「……最後の『実は』かな」
私らは所謂、上野のパンダみたいなものだったんだろう。大多数が群がる興味の対象。
動物園を思い出す。似ているかもね。だって、動物園に来日する客は動物の気持ちを顧みることはないから。至れり尽くせりの世話や褒めたたえたりすれば、満足していると勝手に思い込む。
この世界の貴族、魔法使い、神官、そしてリオン君も聖女に対するイメージの良し悪し関係なく、自分らとは違う生きものみたいな認識だったんだろうな。
でも、リオン君とそれ以外の奴らと私らに対する認識の差が今でははっきりしている。
奴らの認識はきっとこうだろう。大人しいパンダを可愛がるつもりが、そのパンダに予想だにしていなかった牙や爪があった。しかも、性格は大人しいとはかけ離れたもので、鋭い爪や牙で無差別に切り裂くほど凶暴で獰猛。でも、パンダは希少価値の高い動物だから追い出すことも殺処分することもできない。だから、金も手間もかからない方法で手なずける方法を考えないといけない。手なずけることがどうしても無理だったら、別のパンダと交換すればいい。
だいたい、こんな感じだろう。
まぁ、奴らの気持ちもわからなくもないけどね。誰だって懐かない性格が凶暴のパンダなんて、飼いたくない。大人しくてかわいいパンダと交換できる方法があるのなら、そっちの選択をするだろう。
対してリオン君の認識はきっと、こうだ。リオン君にとって暴れまくるパンダはきっと戦隊ものに出てくるような『怪獣』みたいに見えていたんだろう。正義感溢れたヒーローより攻撃性と過激性を兼ね揃えた怪獣に好奇心をくすぐられる。リオン君くらいの年頃の男の子が、そういうものに本能的に惹かれることはそう珍しくもない。ただ、リオン君は同じ年頃の子よりもちょっと……いや、かなりストレスをため込んでいる子だ。そのストレスを発散させるために、無意識下に好奇心と共にカタルシスも私たちに感じていたんじゃないかな。
カタルシス。以前、テレビで聞いた単語。
心の奥にしまっていた感情が何かしらのきっかけで解放され、気持ちが晴れること。元々は『悲劇が観客の心を浄化する効果』を差したことが由来らしい。
そのなにかしらは人それぞれだがリオン君の場合、『すべてを破壊する聖女二人の鑑賞』だったと思う。怪獣映画を見るような感覚だったんじゃないかな。すべてを救う聖女よりもすべてを破壊する聖女が、リオン君のカタルシスを引き起こしたということか。
奴らの私らに対する認識は反感。リオン君は好感。差がはっきりとしているが、私たちにとって人間扱いされていない時点でさほど変わらない。リオン君自身、それをはっきりと自覚しているのかはわからないけど。
そんなリオン君が、最後の最後で見たことがないような面持ちで私を見てくる。
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